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 へっへっへ…優奈様のところで2回目のカウンタを踏んだ時に、嬉しがってリクした私に、書いて下さったお話です。
 もうしっかりとコーチったら尽くしてますね〜(喜)。
 ウチのは尽くすというより、女王に仕える下僕と化しているので、こんな風に師匠として面倒をみるコーチは素敵でカッコいいです。
 天化ちゃんったら可愛く甘えちゃってもう!
 いや〜ほんにかわええのう…(涎垂らし中←やめんか!)。
神崎優奈様のコメントです(だからここまで入れるなっての←極悪人)

カウンタ7300を踏まれた南穂さんのリクで「天化に尽くすコーチ」でした。
尽くすと言えば病気。病気といえば風邪…と単純思考で天化を風邪っ子に
してしまいましたが、よく見たらあまり尽くしてない…?
ちなみにこのお話の天化ちゃんは初☆ディープちゅうってことで。
余計熱があがってしまいそうなカンジですが気にしないでください☆
風邪をひかない仙人と
夏風邪をひく少年道士
風邪なんて本当に久しぶりだと思う。
そんなことを考えながら、天化はぼんやりと天井を見上げた。

幼い頃は慣れない仙界の空気や修行に順応出来ず、幾度か寝込んだことはあったが成長期にもなると そんなことは
 
殆どなくなり、病気なんて程遠い生活を送っていたのだ。

そのせいで風邪の症状がどんなものだったかなんてすっかり忘れてしまっていたが、先日運悪く足を滑らせて池に落
 
ちてしまい、気温も崑崙にしては珍しく低い日であったために記憶の隅にしか残っていなかった風邪というものを再度身
 
をもって知ることとなった。

自分の運の悪さとすぐに身体を温めなかった不甲斐なさを呪いながら、天化は寝返りを打つ。

修行ができないばかりか部屋から出ることすら禁止されてしまった現状況は、退屈で仕方がない。

実際に身体は楽になってきているが、一日中寝台に横たわっているのは意外と苦痛なものだ。

これなら食事抜きと言われるほうがまだマシだなんて考えながらもう一度寝返りを打つと、ちょうど扉を開けて、中へと
 
入ってきた道徳が視界の端に映った。

「天化、起きてるか?」

おさえた声とともに近付いてくる道徳への返事の代わりに、布団から顔を出してみせる。

正視した道徳の手には、食事の代わりなのか様々な果物が持たれていた。

「まだ熱があるな…」

起きていることを確認すると、道徳は額に手を当て心配そうな顔を見せる。

自分の体温との差のせいか、その手はひどく冷たく感じた。

「なにか食べれそうか?」

そう訊く道徳の声は修行中の彼からは考えられないほど心配そうなものだった。

あまり食欲はなかったが気遣いが嬉しくて桃を指差すと、器用な手が柔らかい皮を剥いてくれた。

甘い香りを一瞬にして起き上がって漂わせるそれを起き上がって受け取ろうとすると、すかさず手で止められ寝台へと
 
押し戻される。
 
「なに…」

「いいから寝てろ」

ぶっきらぼうに告げながら、小さく切られた果実をひとつ手にとる。

そんな道徳の様子を目で追っていると、薄い色をしている桃が目の前まで運ばれてきた。

「口開けて」

言われるままに口を開くと冷たい桃が放り込まれる。

ちょうど食べやすい大きさだったそれをゆっくり飲み込みながら、天化は続きをねだって道徳の顔を見上げた。

「まだ食べれるか?」

「うん。ちょうだい」

身体がだるいのと気力がないのとで言葉少なに返事を返して、雛のように口を開く。

するとすぐに次の桃が口の中へと運ばれてきた。

押し込むでもなくやんわりと与えられた果実を満足するまでおさめると、今度は汚れてしまった口の周りを濡れた布で
 
拭われた。まさに至れり尽せりである。

普段は滅多に道徳に甘えることなんてできないが、こうして自分のために道徳が動いてくれるのは照れくさい反面、妙
 
に嬉しい。せっかくの機会なんだからと思う存分甘えてみようかとすら考えてしまう。

しかし人生とはそんなに良いことづくめではないのだ。

「熱冷ましに薬丹も飲まないとな」

言われた台詞に天化の顔がひきつった。

幼い頃に風邪をひいたときも飲んだ薬丹は、苦くてまずくて大嫌いだった記憶がある。

そのうえいつまでも口の中に味が残るという、とんでもない代物だったのだ。

これが怪我ででもあったならば、わざわざ水に溶かして飲まずとも傷口に摺り込めばいいのである。

その場合は染みることもない最高の傷薬だが、風邪となればそうはいかない。

直接飲まなければ効果は得られない、最低の薬と化すのだ。

「苦いのいやさ…」

無駄だとわかりつつも上目遣いに言ってみるが、道徳の反応は渋いものだった。

「良薬口に苦し。文句言わずに飲め」

ハッキリと言い切る道徳の手元には、既に薬丹を砕いて水に溶いたものがある。

手回しのよさに思わず感心しながらも、お世辞にもおいしそうとは言えないそれを眺めながら天化は眉を顰めた。
 
「…絶対飲まなきゃダメさ?」

「早く治りたいならな」

言外に飲めと告げられ、大きな溜め息をついてしまう。

こんな風に寝台から起き上がれない状態なんて一刻も早く脱したいところだが、手渡されたものを飲むにはかなりの勇
 
気がいる。

表現しがたい色をしているその液体は、どろっとしていて見るからにまずそうで、とても素直に飲む 気にはなれなかった。

「やっぱイヤさ…」

「そんなの口に入れてしまえば一瞬だろ」
 
「その一瞬がイヤなんさ!」

往生際悪く首を振ると道徳は不敵な顔で口の端を吊り上げた。

その表情に天化は咄嗟に警戒心を働かせた。

彼がこういった顔をするときは、大概ろくでもないことを考えついたときなのだ。

下手に逆らわないほうが得策かもしれない。

「どうしても飲めないっていうなら飲ませてやってもいいけど?」

「…自分で飲むさ」

「遠慮しなくても良いのに」

笑いながら言われたが、これはまるで脅しである。

くだらないことの大好きな道徳のことだ、どうせよからぬことを考えているのだろう。

病人相手になんてやつだなどと思いながらも、天化は仕方なく薬を流し込んだ。

その途端、口の中に一気に苦味が広がる。

「まずっ…」 覚悟はしていたけれど、やはり相当なものだった。

あまりの味に言葉すら出てこなくなり、両手で口許を抑えると道徳にその手を外されてしまう。

かと思うと、急に手を寝台に押し付けられ有無を言わさず唇を塞がれた。

いきなりの展開に眼を閉じることすらできず、ただ驚いていると今度は遠慮なく温かい舌が口内へと 入り込んでくる。

「ん、ふっ……?」

怯えて奥に逃げ込んだ舌を追うようにして道徳の舌が口腔を探る。

開いたままになっていた口の端からは、含みきれなかった唾液が伝い落ちていた。

「んーっ!……はっ、はぁっ…」

漸く解放された頃にはすっかり息も上がってしまっていて、それがなんだか悔しかった。

それをよそに、当の道徳はケロッとした顔で顎を伝う雫を拭っていく。

「ホントに苦いな…」

「こっ、コーチッ!今の…」

「ああ、口直し」

ぺろっと舌を出して何事もなかったかのように道徳は言う。

そのせいでひとり真っ赤になりながら、天化は頭まで布団を被ってしまった。

「なに隠れてんの」

「コーチのバカッ!もう嫌いさ!」

八つ当たりの如く枕を投げつけて大声で怒鳴ると、道徳は降参とばかりに両手を挙げて緊張感のない声でハイハイ
 
なんて適当な返事をしてくる。

「それだけ怒鳴る元気があるなら大丈夫だな。じゃあ俺は部屋に戻るから、なにかあったら呼べよ」

「えっ…」

「なに?俺のことなんか嫌いなんだろ?」

ニヤニヤ笑ってきいてくる道徳は、きっと自分の気持ちなんてお見通しなのだろう。

退屈なだけじゃなく、ひとりでいるのが淋しいなんて思ってることもしっかりわかっているはずだ。

それなのにわざとらしく部屋を出て行こうとするなんて、まるで子供の嫌がらせだ。

しかし十数年間も同じ洞府で暮らしてきたのは伊達ではない。

子供の嫌がらせだろうがなんだろうが、道徳は一度言い出せば自分から折れることなど滅多にないと いうことも知っ
 
ている。どれほど不条理で、納得のいかないことでもこちらが百歩ほど譲ってやらなければならないのだ。

今更ながらとんでもない師匠に弟子入りしてしまったものだと思う。

「…手握っててくれたら、許してやるさ」

精一杯の譲歩で掛布から右手を出すと、道徳は少しだけ目を丸くしていたようだ。

それでもすぐに微笑んで自分よりひとまわり大きな掌できちんと握り返してくれた。

その手がさっきと違って温かく感じて、もう少しだけ甘えてみる。

「俺っちが寝るまで離したらイヤさ」

「お前が眠っても、こうしててやるよ」
「そんなことしたらコーチが風邪ひいちゃうさ」

「そうなったらお前が看病するように」

なんだかよくわからない理屈だが、道徳は朝までこのままでいてくれる気らしい。

そこまでしなくても眠るまで傍にいてくれるだけで充分なのだが、嬉しくないはずはないので素直に頷いて目を閉じる。

あれだけ眠ったあとではもう眠くなんてないと思っていたのに、道徳の手から伝わってくる温かさに安堵したせいか、
 
天化はあっさりと眠りに引き込まれていった。
 
本当に目が覚めるまで手を繋いでいてくれるだろうかなんて考えながら。