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 枝千波様から頂いたお話です。
 私としては、とても可愛らしいお話で大好きです。道徳と天化が初々しくって凄くいい感じ(頬染)。
 それに賈氏ママがいい味を出してますよね〜。私はこの人が凄く好きなんですよ。芯の強さとかね。
 太乙もいい味を出してました。やっぱりこんな感じの太乙っていいよな〜と改めて思いましたね(笑)。
 だって私の書く太乙ときたら…(ガックシ)。
 私に話を下さる方は皆さん文章がしっかりしていて、いつも脱帽しております。爪の垢をくれ〜!(←無茶言うな)
 枝様、可愛くて素敵なお話をありがとうございました。
黄天化が清虚道徳真君のところへ弟子入りして1年。 
天化は6歳になっていた。
 
徐々に基礎体力、仙力、剣技も順調に伸び、このまま行くと、いずれ立派な仙人になれるだろう。
 
そんなある日。
 
                ○
「こーち、元気ないさ?」
 
天化が訊ねる。天化は道徳のことを「こーち」と呼ぶ。
 
道徳がスポーツ好きであるために、いつのまにか、今まで教えてきた弟子達からそう呼ばれるようになった。
 
道徳自身も、その呼ばれ方が気に入っている。「師父」などと呼ばれるのは、肩がこるのだ。
 
スポーツ好きで、いつも笑顔をたやさず、マイペース。
 
そんな師匠が難しい顔をしているので、天化は不思議に思った。
 
「ん?別に・・・」
 
道徳が答える。ただ考え事をしていただけだから。
 
来たるべき「封神計画」のために、天化にどういうトレーニングをしたらいいか、とか。
 
今、天化に使わせている宝貝「莫邪の宝剣」では心許ないから、バージョン2を造らなければ、とか。
 
道徳は宝貝を造るのはあまり得意ではなかったが、天化の仙力やその波長などを1番知っているのは師たる自分だ。
 
こればかりは、友人の宝貝オタク、太乙真人に任せる訳にはいかない。
 
――天化の命を、守るために。
 
「こーち、じゃあ元気の出るおまじないしてあげるさ!」
 
天化が明るく言って、とことこと道徳に近づいてくる。んしょ、と掛け声をかけて、岩に座り込んでいる道徳のひざに乗って。
 
――唇に、キス。
 
「――!?」
 
一瞬何が起こったのかわからなくて、道徳はあっけにとられた。
 
「元気出たさ、こーち?」
 
言われて、やっと何をされたのか認識する。
 
心臓がばくばくいって、顔が赤くなった。
 
「出なかったさ?」
とっさに反応が返せない道徳に、ひざの上の天化がさびしそうに言う。
 
はっ、と気づいて道徳は、
 
「いや、すごく元気出たよ!ありがとうな、天化」
 
天化の頭をぽんぽんと軽く叩いてやる。
 
「へへっ」
 
嬉しそうな天化。
 
――きっと、天化の家族間では、普通のことだったんだ、うん。
 
落ちつけ、道徳!
 
「じゃあ、今日はいつものトレーニングに、ちょっと加えてやってみようか」
 
何気ないふうをよそおって、天化に言う。
 
「えー、おれっち、剣やりたいさ」
 
「もう少し、基礎体力をつけないと、仙力を安定して出せないからね。戦ってる最中に、莫邪の刀身が消えたら困るだろう?」
 
「うん・・・わかったさ」
 
もっともらしいことを言ったけど。
 
事実は、少し違う。
 
道徳は、こんな動揺している状態で剣技をやるのに、自信がなかったのだ。
 
下手をすれば手元が狂って、天化にケガをさせてしまいかねない。
 
――修行不足、なんだろうなあ・・・。
 
                ○
道徳と天化は一緒に寝ている。何せ、天化はまだ6才なのだ。両親が恋しくて仕方のない時もあるだろうから。
 
「こーち、おやすみなさいさ」
 
礼儀正しくそう言って、天化はすぐにすうすう寝息をたて始めた。
 
道徳のトレーニングがハードなものだから、当然なのだが。
 
しかし、封神計画まで、後10年余り。早く強くしてやらなければ、天化の魂魄が封神されてしまいかねない。
 
眠る天化の肩までふとんをかぶせてやっていた道徳の目に、天化の口元が目に入る。
 
昼間のことが脳裏をかすめて。
 
道徳は赤くなった。
 
(気のせい、気のせい) 
自分に言い聞かせて、天化と一緒のふとんに入る。
 
でも、天化がころんと寝返りをうつたびに、その口元が目に入って・・・。
 
「・・・修行、してこよう」
 
不埒な妄想を絶ち切るために。
 
オレも功夫が足りないなあ・・・何年修行してるんだか。
 
ぶつぶつ言いながら、外へ出ていく。
 
――まったく。これじゃ、崑崙十二仙なんて名のれないよな・・・。
 
                ○
朝、天化が起きると、自分の隣は空っぽだった。
 
いつもなら、道徳が起こしてくれて、一緒に朝ご飯の用意をするのだ。
 
すると、扉がするりと開いて。
 
「あ、天化おはよう。朝ご飯できてるよ」
 
すっかりいつものジャージを着て、首には汗ふき用のタオルがかかっている。
 
「おはようございますさ。こーち、もうトレーニングしてきたさ?」
 
「うん」
 
軽いしぐさでうなづく道徳。
 
「太乙さんが、こーちのこと、スポーツばかっていうはずさ・・・」
 
「何言ってんだかな、あいつも・・・。無我の境地になれるのは、トレーニングが1番なんだよ。走る瞑想ってのもあるし。
 
今日は青峰山全力1万周に挑戦してみたんだ」
 
「すごいさ、こーち!」
 
道徳は、天化のトレーニングに付き合ってやるだけではなく、ちゃんと自分用のメニューもこなしている。それも、すごくハードなものを。
 
しかし、青峰山全力1万周は初耳だった。
 
天化は1年かけてやっと3周、それもゆっくりで、一緒に走ってくれる道徳の励ましを受けながら、なのに。
 
「おれっちも、もっとがんばるさ!」
 
そう言う天化の頭を、道徳がぽんぽんと軽く叩いてくれる。そのしぐさが大好きで嬉しくて、天化は満面の笑顔になる。
 
だから、気づかなかった。
 
道徳の瞳の色が翳ったのを。
 
                ○
それから毎日、道徳の早朝?トレーニングは続いた。
 
しかも、ますますハードになっていく。
 
天化のトレーニングにもちゃんと付き合ってくれるので、最初は何とも思わなかった天化だが、さすがにおかしいな、と思い始めた頃。
 
事件が、起こった。
 
                ○
「やっほー、遊びに来たよー」
 
空から明るい声が降ってくる。道徳と同じ十二仙で親しい友人の、太乙真人だ。
 
「たいいつさん!!」
 
ところが、返ってきたのは、天化の泣きそうな・・・いや、泣きじゃくっている声だった。
 
太乙は慌てて黄巾力士を降りた。
 
天化が大粒の涙をぼろぼろこぼしている。
 
「ど、どうしたの天化くん」
 
道徳は一体何してるんだ?
 
道徳が天化を『親ばか』、と言われそうなぐらい可愛がっているのを、知っている太乙は、首を傾げる。
 
だから、次の天化の台詞に仰天した。
 
「こーちが、こーちがたおれて、目をさましてくれないさ・・・」
 
道徳があ!?
 
あの頑丈さだけでは十二仙中トップであろう道徳が倒れるって・・・。
 
「とにかく、道徳のところへ行かなくちゃね。いつ倒れたの?」
 
「今さっき・・・」
 
ぐすぐす泣いている天化をなぐさめながら、太乙は急いだ。
 
                ○
2人で、苦労して家の中に道徳を運び込んで、太乙は言った。
 
「雲中子がいればよかったんだけど、これたぶん過労だよ・・・」
 
「かろうってなにさ?」
 
とりあえず涙だけは止まった天化が訊き返してくる。
 
「えーとねえ・・・疲れすぎ、だね」
 
こんなことは初めてではない。道徳は悩み出すと、果てしなくハードな筋トレに励むくせがあるのだ。
 
今度は何を考えたんだか・・・。
 
「ねえ、天化くん、近頃道徳に何か変わったことなかった?」
 
                ○
「青峰山全力10万周!?」
 
さすがに太乙も絶句した。
 
私だったら、1周もできないよなあ・・・。
 
そんなことを考えて、問題はそこじゃないことに気づいた。
 
「いつからそんなことを始めたの?」
 
「10日ぐらい前・・・から」
 
「じゃあ10日前に、何かなかった?」
 
天化はしばしうんうん考えて、
 
「元気の出るおまじない、してあげたさ・・・」
 
それか?原因は。でもどんな?
 
「口にちゅうするさ・・・」
 
――それでか。
 
太乙はがっくり脱力した。
 
ばかだねえ、きっと不埒な妄想、だとでも思ったんだよ・・・。
 
仕方がないけど。道徳はスポーツしか目に入ってないから、そういうことにはうといからなあ・・・。
 
「こーち、だいじょうぶさ?」
 
天化が心配そうに訊いてくる。
 
「大丈夫、大丈夫。きっとおまじないが効き過ぎて、元気がありあまっちゃったんだよ。寝かせておけば、すぐ元気になるから」
 
「ほんとさ・・・?」
 
うんうん、と太乙がうなづいて見せると、天化はぱっと笑顔を見せて、それからすぐにうつむいた。
 
『おまじないが効きすぎた』と、言ったからだろう。
 
でも本当にそうなのだし、弁解は道徳がするのが筋だろう、と思って、太乙はそれ以上余計なことは言わないことにした。
 
                ○
――ええと、トレーニングをしてたら、ぐらっときて・・・・・・!?
 
「天化!?」
 
がばりと起きあがる。そして初めて道徳は、自分が寝床の中にいることを知った。
 
側で、天化が泣きそうな顔をしている。
 
「天化・・・」
 
「こーち・・・ごめんさ・・・」
 
天化の緑色の瞳から、また大粒の涙がこぼれだす。
 
「おれっちがおまじないをやったから、こーちが元気が出すぎてたおれたって、たいいつさんが言ってたさ・・・」
 
「ち、違うよ天化」
 
道徳は焦る。悪いのは、修行の足りないオレで・・・。
 
「あ、起きたんだ道徳」
 
その時、話題の太乙が、扉からひょっこり顔を出した。
 
「太乙・・・!」
 
どうやら事実を知られたらしい、と言うのと、天化にそんなことを言うな!というので、道徳の声が自然と大きくなる。
 
「変なことを天化に吹き込むなよ!!」
 
「だってー、きみがあんまり鈍いからさあ・・・あ、天化くん、お粥の火加減見てきてくれる?」
 
「はいさ!」
 
天化の声は元気がいいが、まだ表情は暗い。
 
扉がぱたりと閉まってから、太乙は道徳のわきに座り込んだ。
 
「あのなあ、お前・・・」
 
道徳が言いかけるのをさえぎって、太乙が、
 
「それは『恋』だね」
 
びしっ、と言った。
 
「こっ・・・」
 
道徳は絶句。ぐるぐるする頭をどうにかまとめて、
 
「だって、天化はまだ6才だぞ?それに・・・あれはただの『おまじない』で、きっと家族みんなにやってたんだろうし・・・」
 
かろうじて反論したが、次の太乙の台詞にまた絶句した。
 
「きっかけはどうあれ、天化くんの魂に魅かれたんでしょ?それともそれも認められない?」
 
「う・・・」
 
天化の魂魄は、まれに見る輝かしい光を放っていた。それが嬉しくて、太乙に自慢したことが何回かある。でも、それとこれとは・・・。
 
「いいかげん、認めちゃいなよ。それともまた無茶やって倒れる気?天化くん、悲しむだろうねえ・・・」
 
「た、太乙っ」
 
と、扉がぱたりと開いて、
 
「お粥できたさ!」
 
天化が入ってきた。
 
「じゃあ、私は帰るから」
 
太乙が立ち上がる。
 
「ええ、たいいつさん、もう帰るさ?」
 
「うん、道徳に言いたいことは言ったしね。あ、そういえば道徳が、天化くんとふたりきりで話したいって言ってたし」
 
――太乙〜。
 
「じゃあね、天化くん。道徳ってばかだから、ちゃんと言わないとわからないからねー、疑問に思ったことがあったら、徹底的に訊くんだよー」
 
「太乙・・・」
 
・・・この状況で何を話せと?
 
道徳は、頭を抱えたい気分になった。
 
                ○
「お粥おいしいさ?」
 
「うん。天化が作ってくれたし」
 
「ひかげんみただけさ」
 
「それでもおいしいよ」
 
道徳が危惧していた割りに、会話は穏やかなものになった。
 
久しぶりに落ちついて天化の顔を見ると、やっぱり愛しくて・・・。
 
――恋、なのかなあ・・・。
 
と、また天化がうつむいた。道徳が難しい顔をしたのを、誤解したらしい。
 
道徳は慌てる。
 
「あ、あのな天化、オレが無茶なトレーニングやったの、絶対天化のせいじゃないからな!ちょっと考え事してたら煮詰まっちゃって、
 
気分転換しようと思っただけだから!!」
 
「ほんとさ?」
 
「うん、ほんと。大体天化がせっかくしてくれたおまじないで、悪いことが起こるわけないじゃないか・・・」
 
「よかったさ・・・」
 
天化がにっこり笑う。久しぶりに見た笑顔。そこまで心配させていたのかと思うと、道徳は申し訳なさでいっぱいになる。
 
「じゃあ、今こーち元気ないから、またおまじないしてあげるさ」
 
「どこで習ったんだい?その『おまじない』」
 
「母様が教えてくれたさ」
 
                ○
天化がまだ実家にいた頃。
 
父と母が抱き合って、キスをしていた。もちろん、小さかった天化には、何をしているかわからない。
 
――何してるさ?
 
無邪気に訊いた天化に、父はおろおろしたらしいが、母が笑顔でこう言ったそうだ。かすかにほおを染めて。
 
「これはね、元気が出るおまじないなの」
 
「でもね、自分が1番大好きだと思っている人にしか、効かないのよ」
 
                ○
「い、1番大好き・・・?」
 
道徳は焦る。天化が自分を1番好きだと言ってくれるのは、きっと親代わりだからだ。天化にとっては、恋じゃない。
 
――それなのに、オレがこの『おまじない』をしてもらって、いいのだろうか。
 
ところが次の天化の爆弾発言に、また言葉が出なくなった。
 
「このおまじないやったの、こーちが初めてなんさ。父様や母様も大好きだけど、1番大好きになったのはこーちさ」
 
・・・・・・。
 
「で、でも」
 
道徳はかろうじて言葉を絞り出す。
 
「オレより『1番大好き』な人ができたら、どうするんだい?」
 
天化はちょっと考えたがすぐに、
 
「そしたら、その時かんがえるさ!」
 
満面の笑顔。
 
子供らしい素直な言葉に、道徳も思わず笑いがこぼれた。
 
「じゃあ、やってもらおうかな・・・『おまじない』」
 
今は、1番。それでいい。
 
ただ、将来天化の恋人になるであろう人に、申し訳なさを感じる。
 
それと、
 
「じゃあ、するさ」
 
軽いキス。唇に。
 
「ありがとう。元気でたよ」
 
「ほんとさ?」
 
「うん、もう大丈夫」
 
天化が、本当のキスの意味を知ってから。
 
後悔、しなければいいのだけれど・・・。
 
                ○
その後、いろいろあって。
 
全てが終わり、道徳と天化が『神』になった後でも。
 
天化が後悔したことは、1度もなかったという。
 

            Fin