初めて書いたWEB拍手の話でしたー。
この当時のWEB拍手は字数の制限が今よりもありまして、あんまり長い話が書けなくてどう書こうか迷いました。
今あるのは大幅に字数が多いのですが、それでも「大丈夫か?エラーにならないか?」とドキドキしながら書いています(笑)。
実際、字数制限がなかったらいくらでもだらだらと長ったらしくなるので、短く纏められるにこしたことはないんでしょうが…。文章力がないこともありまして、簡潔にできないです(オイ)。
今後精進していきたいですね〜。
WEB拍手をして下さる方、遊びに来て下さる方、いつも読んで下さり、本当にありがとうございます!
スタンディングオベーション(ヒカ碁・地上の星)
「あ……塔矢…オレ、もう」
舌ったらずなヒカルの甘い声に、アキラは人目を憚るように小声で窘める。
「我慢して、進藤」
「無理だ…って…んあ」
肩に頭をもたせかけて微かに潤んだ瞳で見上げられると、アキラとしても少し困った。
ここには人が大勢居て衆目の監視がある。
「ほら…ちゃんとしないと…」
「ダメ…うぅん…」
赤く色づいた唇から悩ましげな吐息が零れ、アキラの首筋を撫で上げる。金色と黒の髪が肩口にかかり、ヒカルの身体の
重みが不意に増した。そこに、ぱちぱちぱちぱち……、とまばらな拍手が木霊しやがてホール全体に広がっていく。
「ブラボー!」
ホールを埋め尽くした人々の中にはスタンディングオベーションを行い、演奏者に対して最高級の賛辞をおくる者も多く居た。
そんな周囲の喧騒に紛れて、アキラは横ですっかり寝とぼけているヒカルを怒鳴りつけている。
「寝るなと言っただろうが!キミはクラシックもまともに聴けないのか!?」
「だって〜ねみーんだもん」
しかしヒカルは大きな欠伸を一つして、少しも悪びれずに拗ねたように頬を膨らませる。そんなヒカルの可愛い仕草に一瞬
怒鳴ったことも忘れて惚けてしまいそうになるアキラだったが、自分を落ち着かせるように深呼吸を一つして口を開いた。
「そうか。じゃあここでたっぷり寝たから、今夜は一晩中付き合って貰おうか?」
「いいぜ、おまえこそ根をあげるなよ」
あっさりとヒカルは頷き、アキラのネクタイを掴んで引き寄せると、挑戦的な笑みを浮かべて瞳を覗き込む。
「望むところだ。ああ、それは勿論アレをだよね?」
(進藤とめくるめく愛の営みを一晩中…)
ヒカルに応えて力強く頷きながら、アキラは下心を完璧に隠して貴公子のような上品な笑みを浮かべて尋ねた。
きっと誰にも、アキラが頭の中であれこれヨコシマな妄想を抱いているとは、想像もつくまい。
ヨコシマとはつまり邪と書く。イカガワシイという意味で、決して縦縞のユニフォームなどに使われる模様のことではない。
そんな事は誰も説明しなくても分かるものだが、天然ボケをかますアキラの眼の前の人物に恐らく通じないだろう。
「ああ、アレね。そうアレ」
(アレって何?やっぱ囲碁だよなぁ??)
ヒカルは例にもれず、アキラのスケベ心満載な思考など理解できずに曖昧に頷く。彼の考えは至極まともに、生涯のライバ
ル様と囲碁をすることがまず脳裏に描かれているようだった。
その後に付随するモノに関しては、天然なヒカルの想像の範疇をこえている。
碁の後に手を出される時点になるまで、きっと彼は気付くまい。
「アンコールも終わったし帰ろうか」
二人があれこれ小声で話している間にアンコール曲も終わってしまい、人々が次々に席を立ち始める。アキラもヒカルを促し、
さりげなく手を取って出口に並んで向かう。
その仕草は愛しい女王に礼を尽くして傅く王子のように優雅で、気品に溢れている。
ヒカルはというと、アキラの仕草に気付いた風もなく鷹揚に手を差し伸べて歩き、無意識とはいえ実に女王然としていた。
二人にとっては、あくまでも手を繋いで僅かな温もりを共有する甘い一時だったりするのだが。
「うん。けどマジすっげーよく眠れたぜ、塔矢。クラシックコンサート最高!」
ヒカルはアキラの手を握り返して頷くと、満足そうににっこりと屈託なく笑った。コンサートを一切聴かずに寝て通した反省の色
などこれっぽちもなく、それどころか今後も眠る気満々な雰囲気である。
次にコンサートに来た時も、クラシック音楽はヒカルの子守唄になるに違いない。
リラックスしてストレス解消をする方向としては決して間違ってはいないものの、芸術を鑑賞するにしては些か不謹慎だ。
「ふざけるな!」
これにはアキラからお決まりの雷が落ちたのは言うまでもあるまい。
END 2008.3.30改稿