COOL(ヒカルの碁)COOL(ヒカルの碁)COOL(ヒカルの碁)COOL(ヒカルの碁)COOL(ヒカルの碁)
 この話はTreasureシリーズとしては、WEB拍手公開二話目だったと思います。一話目は裏にUPしている「Anniversary」ではなかったかな……?かなり記憶が曖昧ですが。
 何にせよ、パラレルものは全くWEBで書いていなかったこともありまして、認知度が甚だ低いのではないかと。
 基本的にこのシリーズはシリアス系で、バカ話的な要素は低いんですよね。女装があったりもしますし、たまに笑いをとるような場面もあるんですが、基本はシリアス…の筈(苦笑)。
 今回はバカ話ですね。社が絡んでくると話の雰囲気がぐっと明るくなるので、こんな扱いでも私は社が大好きなんです〜。
 Treasureシリーズの本編はWEBでも連載していきたいです。
 WEB拍手をして下さる方、遊びに来て下さる方、いつも読んで下さり、本当にありがとうございます!

人魚の声(ヒカ碁・Treasure)

 社清春が塔矢アキラからの緊急の電話で呼び出されたのは、昨日のことだった。 
(アイツにしてはエライあせっとったな〜)
 
 それもただ慌てているだけでなく、口調も話し方も普段と全く違っていた。一人称はボクではなく、オレだったし、話し言葉もいつも以
 
上 に乱暴ではすっぱだった。まるでアキラの恋人、進藤ヒカルの口調が伝染したように感じたものである。
 
 首を傾げつつ、社は日本から遠く離れた南の島にやってきた。昨日の電話ではスイスに居た筈なのに、電話の直後にこの休暇用の
 
島に移動したそうだ。彼らにしてはこういった行動は非常に珍しい。急遽スイスを離れなければならない理由でもあったのだろうか?
 
 心に疑問符の山を築きながら、社は友人の家の呼び鈴を鳴らした。
 
「おーい、オレや、社やで」
 
「ああ、待っていたよ。よく来てくれたね」
 
 答えた声はヒカルなのに、何故か口調はアキラという声に出迎えられ、扉を開けた人物を見て社の眼は文字通り点になった。自分の
 
目の前に居る人物は紛れもなく塔矢アキラその人である。
 
「…入って」
 
 だが入るように促す声は確かにヒカルだ。思いっきり不審者を見る目つきでマジマジと見詰めてしまう。
 
 どう考えてもおかしい。おかし過ぎる。
 
 アキラは説明を求めている社の眼を無視して深い溜息を吐くと、友人を伴ってリビングに移動した。
 
 そこにはヒカルがお気に入りのソファに胡坐をかいて果物を食べている。その姿は普段通りのヒカルと何ら変わりない。
 
 だがしかし…。
 
「よう、社。早かったじゃねぇか」
 
 姿はヒカルなのに、声はどう聞いてもアキラだった。思わず後ろを振り返ってアキラを見ると、彼は無言のままソファを手振りで示す。
 
 それに合わせるようにヒカルが喋った。アキラの声で。
 
「座れよ」
 
 アキラの身振りに合わせたお陰でまるでアキラが喋ったように見えるが、彼は全く口を開いていない。口調は完全にヒカルのそれで、
 
声は確かにアキラだった。出来の悪い腹話術のようですらある。思わず生唾を飲み込んで、化物を見るような眼で二人の顔を見比べ
 
た。考えたくはないが、これはもしかして、もしかすると……。
 
「声が入れ替わったんだ」
 
 社の思考を見抜いたように、アキラがヒカルの横に腰を下ろしながら答える。
 
 ただし、入れ替わったという発言通りにヒカルの少し高めの声で。
 
「入れ替わったって…何でやねん」
 
 ぐったりとソファに座り込み、社はうんざりしたように尋ねた。
 
 何だって、こいつらは妙な現象を引き起こす遺跡を引き当てたり、超常じみた事件に巻き込まれる確率がこうも高いのだろう。普通
 
の人間なら一生に一度経験できるかどうか分からない奇異な事象を、彼らはこの百年ほどの間に何度経験しているか分からない。
 
 アキラとヒカルに出会ってからというもの、社もいわゆる超常現象というおまけオプションつきの遺跡に入ったり、奇妙な事件に一緒
 
に付き合う破目になっている。一緒に行動する限り芋蔓式に巻き込まれるのは仕方なく、自分も彼らを放っておけずに付き合うのだか
 
ら当然とはいえ、些か食傷気味だった。
 
 そういった二人との付き合いのお陰で、イロイロとアヤシイ遺跡に入っておかしなアイテムや怖いアイテムを見てきたこともあり、そ
 
こそこ免疫のできた社は多少のことでは驚かない。けれど、今回のこれは久々にびっくり仰天だった。
 
 はっきりきっぱり、見ていても聞いていてもとんでもなく気色悪い。
 
 二人の様子を見たこれだけで疲れてしまった。正直どうしてなんて理由も聞きたくない。だがここまで来たからには聞くしかない。 
 本心では回れ右をして帰ってしまいたいくらいだが、この二人は巻き添えにした社を開放する気など毛頭あるまい。 
 きっとこき使うだけ使うに決まっている。社の様子など頓着せずに、二人はごそごそと荷物の中からサファイアのような大きな青い宝
 
石を額に冠した、人魚を象った石像を持ち出してきた。
 
「この間入った遺跡で、盗掘団から奪い返したものなんだが…原因はこれらしい」
 
 アキラの説明を聞くだけで、社は頭が痛くなりそうだった。ややこしい事情がありそうだと踏んだのではなく、声の違和感が余りにも強
 
すぎたのである。思わず二人に背中を向け、手振りだけで先を促した。こうすれば入れ替わった声のことをそんなに気にしなくて済む。
 
 アキラの声で話すヒカルと、ヒカルの声で話すアキラの姿を見ているだけで、頭が変になりそうだった。
 
「人魚姫の話は知ってるよね?」
 
「ああ、王子様にふられて泡になるっちゅうアレやな」
 
 社は頷いた。ヒカルの声で口調がアキラというのは姿が見えなくてもどうもおかしいが、まだ姿を見ていないだけマシに思える。
 
 密かに社は自分判断力の素晴らしさにささやかながら悦に入る。
 
「最後はそうなるが、あの話には魔女と取引する場面があるだろう?」
 
「確か………取引で声を失くしたんやったな?」
 
 違和感を覚えつつアキラに答えたが、ふと首を傾げた。この二人は声を失くしてはいない、声が入れ替わっているだけなのである。
 
 物語と辻褄が合わないように思えた。
 
「それも話の一つとしてあるが、別の設定もある。汚い声の魔女と、人魚の美しい声とを入れ替えるというものだ」
 
「つまり、おまえらが見つけたのはその声を入れ替えるアイテムやったわけやな」
 
「そういうこと」
 
 軽い口調のアキラの声で同意され、思わず脱力する。やっぱりこの二人の声が反対になっているのは、姿が見えなくても嫌なものだ
 
った。どうも心臓によろしくない。 
「どうやら、これはすぐ傍に居る者の声を入れ替えるらしいんだ。入れ替わった者には効力はない。ボク達が盗掘団から手に入れた時
 
には、彼らの声は殆ど入れ替わっていたようでね…お互いに自分の声を返せと争っていたし」
 
「ほんで、オレは何をしたらええんや?」
 
「すまないが、これを元の場所に戻してきて欲しいんだ。台座には石像に填められた石の力を無効化する力が働いているみたいでね、
 
そこにさえ置いておけば、この像は害がない」
 
「おまえらが自分で置きに行ったらええやんか」
 
「声が入れ替わったままだと遺跡に入れねぇんだよ」
 
「何とか入ろうとしたけどダメだった。盗掘団もそれで余計にもめていたらしくてね」
 
「これが傍にあったらいつまでもオレ達の声が入れ替わったままになるんだよ。元の場所に戻せば、オレ達の声も戻るはずなんだ」
 
 矢継ぎ早に事情を話す二人に、社は背中を向けたまま渋った。正直言って、そんなアヤシイ物体を持って移動するなんて冗談では
 
ない。下手をしたら自分の声もどこかの誰かと入れ替わってしまうかもしれないのだ。
 
「けどな〜、それやとオレかて声が何かと入れ替わるかもしれへんやん」
 
「遺跡に書かれた文字によると、声の入れ替えは誰とも喋らなければ大丈夫だそうだ。入れ替わった声も、像を元の場所に戻せば数
 
日で通常に戻るらしい」
 
 喋らなければ大丈夫だといとも簡単に言ってくれるが、それはそれで難しいと思うのだが。
 
「いややなぁ…遺跡ってまた変なおどろおどろしい場所とちゃうんかい。しかもオレ一人で入るんやろ?余計やな感じや」
 
「社、おまえオレと塔矢の声がずっと入れ替わったままでもいいのかよ!友達甲斐のねぇやつだな」
 
 憤慨するヒカルの気持ちも分からないわけではないが、やはり気が進まないものは進まない。社は昔から、お化け屋敷などの類は
 
大の苦手なのだ。この二人が居るならまだしも、薄気味悪い遺跡に一人で入るなんて真っ平ゴメンである。
 
「協力してくれないか、社。ボクと進藤は恋人同士だから当然夜の生活もあるのに、このままだとどうも…」
 
「いや、気にするとこそこやないし」
 
 アキラのとんちきな台詞に思わずツッコミを入れてしまう社だった。だが、アキラの言葉でふと余計なことを想像してしまう。
 
 今のこの状態のまま二人がアンナコトやソンナコトをすると…アキラの声でヒカルが喘ぎ、ヒカルの声でアキラがあれこれと言葉攻
 
めをするという事態になるわけで…。
 
『あ…あん!塔矢ぁ…もっとぉ』
 
『もっとって何を?ねぇ…ここはどうして欲しいの?』
 
『や…イジワ…ル』
 
『キミが可愛いからだよ、進藤』
 
 こんなイカガワシイ閨の会話が、ヒカルはアキラの声で、アキラはヒカルの声ですることになるのだ。
 
 同じ姿で中身が入れ替わるのではなく声だけというのが、余計に不気味さを煽る情景である。
 
(うげっ!気色悪!むっちゃえげつな〜っ!!)
 
 恐ろしい。考えるだけでも恐ろしく不気味な光景だった。
 
「エライもん想像してもうた…」
 
 顔面を蒼白にして冷汗を垂らしながら頭を抱えて唸る社を眺め、訝しげに二人は顔を見合わせる。当事者だけに、他人の眼からだ
 
とどれだけ違和感があるのか分からないらしい。
 
「よっしゃ!オレも男や!おまえらの頼みを聞いたろうやないか!」
 
 先ほどとは一転して胸を叩いて太鼓判を押す社に、二人は益々不思議そうだったが、友人の好意は素直に受け入れる。
 
 下手につついて機嫌を損ねられて、遺跡へのお使いを拒否されるわけにはいかない。
 
 声を戻すのは彼らにとって重要なことなのだから。
 
 こうして社は教えられた遺跡へ向かい、託された人魚の石像を持って短い旅に出たのだった。
 

 意気揚々と出て行った社を見送ってから数日後、ヒカルは彼に大事なことを教えるのを忘れたことを思い出した。
 
「塔矢、あの遺跡の罠がまたリセットされてること社に言ってねぇぞ」
 
 声こそアキラでも、言葉遣いはヒカルのぞんざいさであるのが何とも奇妙だが致し方ない。
 
 しかし既に一週間近くこの状態でいると、彼らは現状に慣れつつあった。
 
「もう遅いよ、進藤。日程的に社は既に遺跡に入っている」
 
 ヒカルの声で話したアキラの言葉通り、社はその頃遺跡の罠にお約束通りに引っかかっていた。
 
「ギャー!落ちる!死ぬー!死んでまう!!」
 
 ある時は落とし穴に落ちかけて、串刺しにされそうになり…。
 
「いぃ〜やぁ〜やぁ〜っ!やぁ〜めぇ〜てぇ〜んかぁ〜!」
 
 ある時は円形の巨大な石に轢かれそうになり…。
 
「ひぃぃっ!助けて!」
 
 またある時は動く甲冑に追い掛け回され…。
 
「もういややぁ…帰りたい。おかん、おとん…オレもうすぐそっち行くわー」
 
 更にある時は遺跡に巣食う毒虫の大群に襲われるといった、生死の境を彷徨う大冒険を繰り広げていたのだった。
 
「ま、大丈夫だろ」
 
「そうだな」
 
 遺跡で奮闘している社の気も知らずに、二人は何の心配もせずにあっさりとそれだけで終わらせた。
 
 さすがは天然オレ様体質の女王様と、天然オレ様体質の王子様の最強で最凶のコンビである。
 

 そして更に数日後、ボロボロな状態で社は南国の島に報告の為に訪れた。
 
 取り合えず、二人から渡された遺跡の地図を頼りに、所定の位置に石像は戻すことができたので、よしとする。
 
 だがしかし、罠があったことを教えて貰っていなかった恨みはたんまりとあった。遺跡は盗掘者の侵入を防ぐ為に、一定時間が経つ
 
と罠が全てリセットされて元に戻るようになっていたのである。社が遺跡に訪れた時、罠の類はそれはもう情け容赦なく牙を剥き、何度
 
三途の川の向こう岸を見たか分からない。命の瀬戸際という言葉を身をもって実感した。
 
 そんな悲惨な目に遭ったリベンジのチャンスとばかりに、社は二人の家にずかずかと入り込み、ノックもそこそこにドアを蹴破るような
 
勢いで開ける。だがしかし、そこで彼はとてつもなく後悔する羽目に陥ったのだった。
 
 真昼間であるにも関わらず、アキラとヒカルは今まさにオタノシミの真っ最中であったからである。
 
 タオルケットが二人の身体にかかっていたお陰で細部までは見えなかったが、どうやら踏み込んだ瞬間が丁度クライマックスに行こ
 
うとしているところだったらしい。ヒカルは恍惚とした表情から一変して瞳に猛獣のような剣呑な光を宿し、アキラは頬に艶やかな黒髪
 
を貼り付けた精悍な顔を凶悪に変貌させ、眦を吊り上げた般若の様相で睨みつけると、二人は同時に言い放った。
 
「あ?何だよ」
 
「何か用か?」
 
 この場合嬉しいというべきかどうなのか分からないが、彼らの声はちゃんと元に戻っていた。
 
「イイエ、ナンデモゴザイマセン」
 
 ヒカルとアキラの剣幕にすごすご社は引き下がる。
 
 さっきまでの勢いは既に沈静するどころか逆行して沈下しているに違いない。
 
「だったらあっち行け」
 
「失せろ」
 
 それが苦労して戻ってきた友達に対する言い草でっか?っていうか人に難題押し付けて自分らは何やってんねん?こっちに何か一
 
言あるべきやありまへんの?と、社としてもあれこれ言いたいことはあったが、どれも二人には完全に無視されると分かりきっていた。
 
 天然オレ様体質の女王様と王子様は、どこまでも自分勝手で傲慢なのである。
 
 ただ、はっきりと言えることは、通常に戻った二人にそれぞれの声で凄まれた迫力は、遺跡の罠なんか比べものにならないくらい怖
 
かったということだった。こんな事は今更認識したい事実ではない。
 
(元通りの方が百万倍迫力あるやん…放っといた方が良かったわ…)
 
 今更涙に暮れても遅いが、思わずにいれない社であった。
 
「神様の…神様のイジワルー!!」
 
 彼の絶叫に答えてくれる神様は居なかった。だがしかし、無慈悲に答えて下さる女王様はいらっしゃった。
 
「うっせぇぞ!おらぁ!」
 
 寝室の扉を壊しそうな勢いで投げつけられた枕に顔面を強打され、社の意識は暗転した。ノックアウトされた社は、バカップルが満足
 
して寝室から出てくるまで無情にもそのまま放置されたのであった。
 
 社清春の今後に幸あれ…合掌(笑)。
 

                                                            END      2008.6.13  改稿