WhitedayUWhitedayUWhitedayUWhitedayUWhitedayU   COOL(ヒカルの碁)COOL(ヒカルの碁)COOL(ヒカルの碁)COOL(ヒカルの碁)COOL(ヒカルの碁)
 「Repeat(完売済)」という本に書き下ろしたヒカル卒業式後の話です。この本はサイト再録集として出しました。
 再録内容が『夏の風景写真』から始まって『雪の華』まで入っていることもありまして、書き下ろしはどうしても春の話を書きたかったんですよね。そこで卒業式ネタにしたという…(安直)。
 この話ではアキラさんが髪を縛るシーンと、ヒカルがアキラさんの膝に座るというシーンを入れたかったんです。
 特に入れたかったのは、第二ボタンを渡すところですね。
 こういうネタは大抵の方が書(描)かれているとは思うのですが、お約束で一度書きたいネタだったので(笑)。
 『夏の風景写真』のおまけで、津川と中村からの電話でアキラさんが話している「凄く嬉しいお返し」とはこれのことだったりします。
 こんなところでネタバレさせてどうするんだ、自分(笑)。
「ほら」 
 ヒカルオススメのラーメンがテーブルに来ると、アキラの目の前にゴムの輪が差し出された。両端に飴色の丸い飾りの付いた、
 
女の子がよく使う類のものである。
 
何度もヒカルとラーメン屋に足を運んでいるうちに、いつからかヒカルはアキラに食べる前にはコレを渡すようになった。
 
 最初はただの輪ゴムだったのだが、誰に入れ知恵されたのやら、髪が傷むという理由で飾りのついたものに変わった。飾りつき
 
のゴム輪には抵抗があったが、自分の髪型だと確かにラーメンが食べづらいような気もするので、結局いつも使っている。
 
 アキラとしても、この髪は男としてはたしてどうなのだろうと感じるところも、ないわけではない。
 
 ヒカルと一緒に食べるラーメンが食べ辛いという理由ではなく、ちょっとした気分転換に髪型を変えようかと思ったことはこれまで
 
に幾度かあった。けれど、その度に何故か周囲から大変な不評を買って、実現したことはない。最近ではわざわざ変えなくてもい
 
いかと、半ば達観した心境である。
 
 素直にヒカルからゴムの輪を受け取ると、アキラは慣れた仕草で髪を縛ってラーメンを食べ始める。
 
 アキラを王子様と憧れる女性ファンが見たら、恐らく卒倒しそうになるほど驚くに違いない。塔矢アキラとラーメンという取り合わ
 
せは、基本的に思い浮かべられる情景ではないからだ。だが意外にも、アキラが髪を縛ってラーメンを啜る姿はとんでもなく違和
 
感を覚えるほどひどいものではなかった。
 
 スーツの上着を椅子にかけて食べる彼の様子は、例えるなら若手ビジネスマンが手軽に食事を摂っている、という感じになる。
 
 『くたびれたサラリーマンの親父が適当に食べている図』ではなく、『時間に追われる優秀な若手が早く食べられて気楽に楽しめ、
 
栄養も摂取できるもので済ませている図』にしか見えないのだ。
 
 この辺りは、アキラが元から持っている貴公子然とした気品のなせる業かもしれない。
 
 彼が食べていると、ただのラーメンがどこかの高級中華専門店の作った特選麺料理のように見えてくるのだから不思議だ。ヒカ
 
ルの場合はラーメン好きなラーメン通少年という印象そのままであるが。実際、好きが高じてヒカルは結構なラーメン通であった。
 
 來酒家の主人は碁好きでヒカルとアキラのことも知っており、以前にサインを頼まれて二人はしたことがある。
 
 二人ともこれといってサインなど決めていないから、ただ名前を書くだけのものでも求められると恥ずかしい。
 
 倉田のようにサインをあっさりできるようにはなれそうにない気がする。この店にはヒカルとアキラだけでなく多くの棋士が訪れて
 
いることもあり、壁にかかったサイン色紙の中には、倉田は勿論のことタイトルホルダーも含めて見知った棋士の名が並んでいた。
 
 そんな中に自分達の名まであるというのは、どことなく気恥ずかしいものがある。ヒカルは囲碁を覚える前から來酒家に通ってい
 
たが、まさか自分の名が飾られることになるとは、考えもしなかった。そもそも、この店に飾ってあるサイン色紙の三分の二以上が
 
囲碁棋士だとは、プロになるまで気付きもしなったのだから。
 
「塔矢、キムチ食う?」
 
 ヒカルに差し出されたメニューに書かれた韓国の定番漬物の写真を眺め、アキラは首を横に振った。アキラは辛いものが苦手と
 
いうわけでもないが、余りキムチは好きではない。余り関係ないが、何故ラーメン屋にキムチはつきものなのだろうかと不思議だ。
 
 ヒカルはアキラの反応にキムチは注文せずに、デザートにマンゴープリンを頼む。
 
 あれだけ食べてまだ食べるのかと、ヒカルを知らない人間なら思うに違いない。
 
 何せラーメンだけでなく餃子にシュウマイ、春巻、小籠包、チャーハンなども注文し、その殆どがヒカルのお腹に収まった。
 
 この店はラーメンだけが目玉でなく、他の点心なども手作りで中華専門店並に高い完成度を誇る上に美味しい。値段もリーズナ
 
ブルでお手頃だ。舌の肥えたアキラも、ここの料理は好きだった。美味しければ食が進むのも当然で、その上細いくせに大飯喰ら
 
いのヒカルに付き合って食べていると、どうしてもつられていつもより摂取する量も多くなる。
 
 夕食が終わる頃には、ベルトを一つ緩めなければきつい程だった。ヒカルは制服だというのに、まるでそんな素振りもないのだか
 
ら驚きを通り越して呆れるしかない。痩せの大食いをヒカルは見事に地でいっている。
 
「ごちそーさまでした」
 
「どういたしまして」
 
 満足そうに腹を擦るヒカルに笑いかけながら会計を済ませて店を出ると、夜もかなり更けてきていた。いくら仕事も持っているとは
 
いっても中学生の二人である。碁会所に寄ったりする時間は既になかった。夕方くらいなら公園に行って話すこともできるのだが、
 
夜も九時を回ってしまってはそういうわけにもいかない。お互いに何も決めなくても、このまま帰路につかねばならないことは察して
 
いる。だからだろうか、まるで別れを惜しむように歩みはゆっくりだった。
 
「今日の対局もだけど、緒方先生との一局も惜しかったな。今度検討しようぜ」
 
「そうだね。…キミと森下先生との対局の内容も中々に見応えがありそうだったよ」
 
「棋譜、見たんだ」
 
 ヒカルはどことなくバツが悪そうに俯いて立ち止まる。アキラもまたその場で足を止め、ヒカルを振り返った。
 
「…のまれたな」
 
 叱責するでもなく、怒るわけでもない、静かな口調でありのまま事実を告げた言葉に、ヒカルは俯いたまま唇を噛む。
 
「ボクもキミも経験が浅いひよっこ棋士だ、棋士の本当の怖さを知っているわけじゃない。キミにしろボクにしろ、見知った相手に対
 
して甘えを残したままでは、まだまだだということなんだろうね」
 
「オレはともかくとして、おまえもかよ」
 
 吐息を交えて喋った内容に弾かれるように顔を上げると、アキラは微かに自嘲を交えた笑みを零した。
 
「ボクも甘えがあったから負けたんだ。緒方さんのことを知っているつもりでも、棋士としての緒方さんを知らなかった。勝負の場で
 
の、経験の差というものをしっかりと教えて頂いたよ」
 
 冗談めかした声で話したアキラだが、悔しさは相当なものだったのだろう。瞳に宿る炯々とした輝きに、彼が次に緒方と戦う時に雪
 
辱を晴らすつもりであることがすぐに読み取れる。ヒカルも相当なものだが、アキラも大概負けず嫌いだ。
 
 それを言うなら、棋士は皆そうかもしれないが。
 
「…緒方先生が『おまえはオレより下だ』って言ったアレだろ?」
 
 アキラと緒方との一戦での盤外のやり取りは、ここ最近では有名な話である。
 
「キミまでそんな事知ってるのか?」
 
 当事者の一人であるアキラは驚いたように眼を丸くして、くすくす笑っているヒカルを見つめた。
 
「色々と噂になってたから。あれだけ言われて、おまえよく我慢できたよな」
 
 ヒカルとは認識が少しばかり違う。アキラは我慢などする必要はなかったのだ。あの場で緒方を追い詰め、負けた碁であっても自
 
分の力を上げたという自負を抱ける内容であったからこそ、アキラは何も言葉を返さなかった。上に対しての確かな手応えは緒方や
 
他の高段棋士との手合いで掴み始めている。
 
「それだけ緒方さんは余裕を持てなかったという表れだからね、言い返す必要なんてないよ」
 
 言外に次は勝つという強い意志を滲ませたアキラは、天に駆け上る昇竜の化身のようだった。地上を走る虎に、天への道を作る役
 
目を負うかのごとく、彼は常にヒカルの少し前を行く。何故ならアキラが進めば、ヒカルは必ず追走し併走するのだから。
 
 佐為の意志を継ぎ、彼の碁を継承したからこそ、ヒカルはアキラと共に進み続ける。アキラとならば、きっと神の一手へと近付ける。
 
 いや、アキラでなければならないのだ。その為ならば、どんな高段の棋士が相手でも怯んで尻込みなどしていられない。
 
 例え負けたとしても、それすらもバネにして更に高みへと昇るのだ。
 
「喰らい付いていくしかねぇか」
 
「ボクもキミもね」
 
 虎と竜は互いの牙を磨き合うに笑うと、再びゆっくりとした歩調で歩き出す。まるで次の獲物に狙いを定めるように。
 
 囲碁の手合いや北斗杯についてなど、他愛のない話をしながらでも進めばそれぞれの自宅に帰る距離に近づくのは明白だ。
 
 次にまた会えると分かっていても、離れがたいのは変わらない。一昨年の夏に夏祭りの待ち合わせをした公園の傍まで来たところ
 
で、ヒカルとアキラは同時に立ち止まった。
 
 ここからは別方向に帰るとお互いに理解していたからか、そのタイミングは奇妙なほど一致している。
 
「そういやおまえ、卒業式は?」
 
 ヒカルは今日が卒業式だったが、アキラは私立だから日程は違うかもしれない。同じ歳なのだから、アキラも今年卒業だ。
 
 最近塔矢家経営の碁会所に行っていないヒカルは、市河達とアキラとの会話を知らなかった。
 
「今日だったけど、手合だから出席してないんだ。明日卒業証書を貰いに行くつもりだよ」
 
「何かさあ…そういうの寂しくねぇ?」
 
 卒業式にも出席せず、一人で証書だけを取りに行くなんて、ヒカルの感覚では何だか侘しさすら感じてしまう。
 
 校長室などで、アキラが一人だけで卒業証書を渡されるという情景を思い浮かべると、いたたまれないような気分だった。
 
「学生生活から離れるのは少し寂しいね。でも卒業証書を受け取りに行くのは平気だよ」
 
 むしろ清々しいような表情で飄々と答えるアキラを眺めて、小さく肩を竦める。
 
(…こいつってこういうとこホント淡白だよな)
 
 ヒカルは内心呆れるやら苦笑するやらだったが、敢えて何も言わずに頷くだけに留めておいた。卒業式は形式的なものでもあるし、 
無理に出席する必要がないといえばない。アキラはヒカルよりも一年早くプロになっているだけでなく部活動の期間も短い。
 
 手合いも勝ち進んでいたから忙しいのも当然で、休みがちでもあっただろう。
 
 学校に対しての愛着はあっても、学生と仕事ならば仕事を優先するのも仕方がないのかもしれない。
 
 アキラは既に、棋士としての道を歩いているのだから。とはいえ、ヒカルが考えたほどにアキラの卒業は寂しいものではなかった。
 
 翌日卒業証書を受け取りに行った校長室には、自主的に集まった友人やクラスメイト、アキラに憧れていた後輩や女子が集まり、
 
ささやかながらも盛大な卒業式となったのである。証書だけを手に帰る筈が、プレゼントなどを貰ったりして結局とんでもなく大荷物
 
になり、友人二人を動員して持って帰る羽目になったのだった。
 
 下級生や女子には別れを惜しんで号泣され、お祭好きのクラスメイトにはこれからは誰がクラス対抗リレーのアンカーをするんだ
 
と詰め寄られ、友人には中国語の家庭教師をするように無理矢理約束させられた。静かな卒業になる筈が、思いがけず賑やかなも
 
のになったのだが、それはまた後日の話である。
 
 高く昇った月が、二人の影を落としている。仄かな街灯の光から外れた場所であるからか、月の輝きをより鮮明に感じられた。
 
 アキラの艶やかな髪は、例えほの暗い夜道であっても僅かな光にも反応するように綺麗だった。アキラは闇の中でも鮮明な存在
 
感がある。吸い寄せられるようにアキラに視線を縫いとめられてしまう。すると、彼は小さく首を傾げて瞳を瞬かせた。
 
「進藤?」
 
 訝しげなアキラの声に、ヒカルは唐突に大切なことを思い出す。一緒に帰ることにしたのもこれが目的だったのだ。
 
 今日でなければ、アキラに渡す意味がない。
 
「オレさ、今日卒業式だったんだ」
 
「うん…卒業おめでとう」
 
 アキラはにこりと柔らかく微笑むと、嬉しそうに祝辞を述べてきた。知っていたからこそ、ヒカルの卒業祝いを兼ねて奢ってくれたの
 
かもしれない。尤も、丁度一ヶ月前のこともあるから、他の意味合いも入っているかもしれないが。卒業式があったと言っているのに、
 
アキラは何の反応も示さない。気付いてないのか、それとも知らないのか、或いは冷静な振りをしているだけか。
 
 恐らく卒業式だと知らされても結びつかないで気付いていないのだろう、アキラはあれで意外と天然で鈍いところがある。
 
(そこがこいつらしいんだけどな…)
 
 小さく笑って月明かりの中に佇むアキラをちらりと見やり、ヒカルは照れ臭さもあってぶっきらぼうに言った。
 
「卒業だから、これやるよ」
 
 制服から第二ボタンを引きちぎり、無造作に指先で弾く。金色の丸ボタンは月の青白い光の中でキラキラと反射しながら、咄嗟に
 
受け止めようと開いたアキラの手の中に吸い込まれていった。
 
「………!」
 
 アキラは驚いて声もなく立ち尽くした。今日は、これで何度驚いたのか数えられない気がする。激しく脈打つ心臓の鼓動と頬が熱く
 
なっていくのを感じながら、恐る恐る両掌を開いた。眼に入るのは、さっきまでヒカルの制服についていた金色の第二ボタンである。
 
 キラキラと輝くそのボタンを信じられない思いで見つめ、我知らず生唾を飲み込んだ。卒業の時に第二ボタンを渡す相手、或いは
 
渡して貰える相手は、その人物にとって特別な存在なのである。好意を抱くという恋愛感情を含めた意味で。
 
 ヒカルに渡して貰えるまで考えもしなかった。というより、アキラが好意を寄せていると彼が気付いていたとは思わなかった。何より
 
も驚いたのは、ヒカルが嫌悪を抱くこともなく、普段通りに接してくれていたことである。それがひどく嬉しくて、感動すら覚えた。
 
 アキラの気持ちにヒカルが気付いたきっかけは、バレンタインデーかもしれない。アキラは市河に渡されたヒカル用の義理チョコと
 
一緒に、自分からのチョコも紙袋に入れて渡したからだ。さすがに自分からだとは言えなくて、何も言わずに渡したのだが、その時
 
の様子は自分でも挙動不審だった自覚がある。
 
 そしてヒカルからの答えが、これなのだ。金色の第二ボタンは、ヒカルの言葉にしない想いそのものなのである。
 
 アキラも自分の想いを言葉にしてヒカルに伝えていない。ヒカルもまた、アキラに対する返事を言葉にして伝えていない。
 
 アキラが伝えていないから、ヒカルも金色のボタンによって応えてきたのだ。アキラに対する想いを。
 
 たった一つの金ボタンには、それだけの沢山の想いが凝縮されていた。
 
 大切そうに両の手でボタンを握り締め、アキラは顔を真っ赤にして酸欠の金魚のように口をぱくぱくさせる。
 
 ヒカルはアキラの言葉を待っている。先に自らの気持ちをチョコに託して渡したのはアキラだ。だからこそ、言葉にするのもアキラ
 
が先である。囲碁で黒番をとったようなもので、それは今更変えることができるものではなかった。
 
「あ、ああ…あの…その…あの…」
 
 首筋まで完熟トマトのように赤くなって、金ボタンを握ったままアキラは何とか口を動かすが、ちゃんとした言葉にならない。
 
 日頃のはっきりとした物言いはどこへやら、忙しなく目線を彷徨わせて意味のない連体詞の連続使用をしているだけだった。
 
 たった一言を告げるだけなのに、それすらもできずにしどろもどろに喋るだけになる。ヒカルも頬を赤く染め、アキラから少し眼を逸
 
らして俯き加減に大人しく待っていた。二人ともが眼を合わせることがないまま、時間は刻一刻と過ぎていく。
 
「…その…あの…あ…あり……ありがとう…」
 
 散々に苦心惨憺して、か細い声でアキラがやっと告げられたのは、それだけだった。
 
 ヒカルは一瞬拍子抜けしたように唖然としたが、すぐ口元に微苦笑を浮かべる。
 
(…ったく…しょうがねぇな)
 
 アキラは視線を逸らしていて、ヒカルの表情の変化に少しも気付いていない。恋愛に不器用で奥手なアキラにしては、多少的外れ
 
ながらも礼を言っただけでも随分と頑張った方だ。それ以上を望むのは酷というものだ。これからでもきっと機会はあるに違いない。
 
「おう、ありがたく受け取っとけよ。…じゃあな、また今度打とうぜ」
 
 軽い口調で応じて背を向けると、ヒカルはひらひらと手を振って自宅に向かう道を歩きだした。
 
「う、うん」
 
 金ボタンを握り締めたまま何度も頷くアキラを振り返り、悪戯っぽく笑いかける。
 
「次は礼以外にしろよな」
 
「…善処する」
 
 ちょっと拗ねたような顔で答えたアキラに明るく笑って、今度こそヒカルは家路についた。
 
 返事はなくても、アキラのあの表情と眼が、何よりも雄弁にヒカルへの想いを語っている。恐らく本人も気付いていなかっただろう。
 
 必死になって言葉を紡いで礼を述べたあの時、幸せに蕩けそうな綺麗な微笑を浮かべていたことを。
 
 だから無理をして告げなくても構わない。言葉は欲しいけれど、今はまだ『その時』ではないのだろう。
 
 でも『その時』がくれば自然に上手く収まる、ヒカルにはそんな予感があった。
 
 だから今度はヒカルが待とう。アキラがずっと待ってくれていたように、ヒカルが今度は待つ番だ。
 
 アキラがヒカルに想いを告げるのは、この日から半年近く経ってからのことである。
 

                                                                      2005.3.21/2007.5.5