お食事中だった方、また食事の後で気分が悪くなられた方、本当に申し訳ございません。平にお詫びいたします(平伏)。
この話は私の実体験が元になってます(ゲロゲロ…)。
さてこの「不快な物語」ですが、実は私が初めてまともに書いたお話と呼べるものです(笑)。その当時高校生。学校等が忙しくなり、この後から同人を始めるまでの間、小説はまるで書いていません。
時間とかに余裕ができ(けど今現在は時間無/笑)、その上煩悩にまで火がついて、初めて書いたのが道天です。
道天での初の話は弓月さんの「DOKOITU」に掲載させて頂いております。一応改稿したし、少しはマシになったのかな?
この話も今回載せるにあたって改稿はしましたが、まるで進歩しとらん所が情けないです。何よりもアホみたいなのが、昔から私はこんな変な話しか書いてなかったってことですね。ガク。
とても不気味な話ではありますが、今は亡き父との思い出のエピソードの一つでもあります。家族の間では未だに語り草ですね(笑)。
世の中にはできるならば経験したくない、何とも恐ろしく不快な出来事が起こるものなのです。そして、これから話すお話は、
わたくしが三つか四つかという、まだ幼い少女の頃の体験でございます。
忘れもしない…あの運命の日、母は昼食に豚汁とおかずを作って父に言付け、用事で出かけてしまいました。その為珍しく父が
家におったのでございます。
そして待ちに待ったお昼時、わたくし達兄弟は、昼食は今か今かと待ち侘びておりました。とうとう空腹に耐え切れず、わたくしは
父のいる台所へと足を踏み入れたのです。
嗚呼……部屋に充満した味噌汁、もとい豚汁の香りにわたくしは立ち眩みをおこしそうでした。
父は母が豚汁に蓋をしていなかった事に、一人文句を呟いておりました。
わたくしは父の傍に寄って豚汁を見ると、中には何やら黒いものが浮いております。それが何なのかわたくしには分からず、黒い
ものに指をさしてこう尋ねてみたのでございます。
「お父はん、これ何や?」
父はちらりと豚汁を見て、
「ああ、若布やろ」
と簡単に答えたのです。確かにそう言われてみると若布に見えます。わたくしは父の言葉に何の疑いも疑問も持たず、納得して
その場を立ち去り、兄の居る居間へと戻ったのでございました。
しばらく待っておりますと、おかずと御飯、御漬物、そして豚汁を盆にのせて父がやって参りました。わたくし達は父を手伝って卓
袱台に昼食を並べ、いよいよ食事が始まったのでございます。
兄はおかずを食べ、わたくしは御飯とお漬物をたべておりました。
そしてそろそろ豚汁を食べようかと椀を手に持ち、何の気なしに黒いものを箸で摘んで取り出してみたのでございます。
中から出てきたものは、若布とは名ばかりの恐ろしく異様な物体でございました。わたくしは驚きの余り茫然自失の体で言葉す
らも失い、その場に凍り付いてしまったのです。しかしそのまま固まったままでいるわけには参りません。
わたくしは、とにかく父にこの物体の事を知らせようと、父へと視線を移したのでございます。
運命とは、運命とは、なんと皮肉なものなのでしょう。
父に知らせようとしたわたくしの眼に映ったものは、世にも恐ろしい父の姿だったのでございます。
この頃になって兄も異変に気がつき、父の方へ顔を向けて眼を見張りました。一瞬声を失い、恐る恐る口を開いてこう申しました。
「……お父はん…口に銜えてるの、ゴキブリやで……!」
嗚呼、おぞましや。恐ろしいことに、父はゴキブリを口に入れてしまっていたのでございます!
わたくしが箸で摘んでいたものも、ゴキブリでございました。固まった状態のまま、わたくしが椀の中にボトリとゴキブリを落として
しまったと同時に、父も醜悪なあの物体を吐き出しておりました。
父は即座に豚汁を流しに捨て、わたくしは半泣きになりながら必死になって箸を洗ったのでございます。
結局その日は誰も残りの昼食を食べようとは致しませんでした。口にものを入れることすら恐ろしかったのです。
豚汁に何故あのような物体が入っていたのかは、おおよその予想はついております。恐らくは、鍋に蓋が無かったからなのでござ
いましょう。それで中に……いやはや、本当に考えるだけで恐ろしゅうございます……。
夕方になって母が帰ってくるとわたくしは余裕を少し取り戻し、父にふと訊いてみたのでございます。
「お父はん、アレ、どんな味やったん?」
すると父はにたりと笑って、このように答えたのでした。
「あ、アレな。甘かったわ」
これにて、この話はお終いでございます。
何でも、ゴキブリというものは、本当に甘いそうですよ……。
2002.3.10/2006.10.3