ねっとりとした粘液が指に絡まり、それが更に潤滑油の役割を果たして、より一層奥へと引き込んでいくようだった。内部に差し入
れられた指が増やされ、広げるような動きを行う。感じる部分を擦り上げられる度にあられもなく嬌声が部屋の中に響き、濡れた音が
耳を打った。
「ふぁん………ダメ……も…」
「我慢しないで一回楽になっといた方がいいぞ……ほら」
爪先をビクビクと震わせ、髪を力なく掴んでくる天化の仕草に、道徳は限界を察して最後を促す。
日頃は聞けない高い声を放って背を若木のように反らし、一瞬身体を強張らせた後天化はすぐに弛緩した。くたりとシーツに沈み込ん
だ少女の額に口付け、道徳は耳元に囁きを吹き入れる。
「……どうする?続きはやめとくか……?」
天化は重そうに瞼を開き、道徳をしっかりと見据えて首を横に振った。その瞳に宿った強い意志に応えるように道徳はそっと口付け、
ベッドを降りて服を脱ぎ捨てる。ぎしりとベッドの軋む音に天化は視線を上げ、間近にある道徳の顔に自ら唇を寄せて瀬に腕を回した。
腰が痺れていくような深い酩酊感のある接吻に、自然と身体から緊張が解けてゆく。
膝を立て足を広げさせて腰を抱え上げると、口唇を触れ合わせながら驚かせないように自身を押し当て、道徳は先端を潜り込ませる。
いくら指で慣らされたとはいえ、初めての経験だ。受け入れた質量に肉体がついていかず、声すら出せずに天化は喉を反らして拒む
ように力を込めてしまう。
道徳は一旦動きを止めて、天化の意識を紛らわせるように若く張りのある胸に手を伸ばした。優しく突起を擦り捏ね上げてやれば、
微かに甘い声を洩らして身体から力が抜ける。その隙に再び自身を進めると、微かな堅い感触に触れた。吐息を零してしがみついてく
る天化の項に口付けながら、道徳は低く囁いた。
「……俺はお前だけのものだよ、天化。愛してる」
応えて腕に力を込めてくる天化に口付け、それを合図にしたかのように一息に自身を押し進めた。天化は痛みに悲鳴を上げかけたが、
それすらも道徳の口唇に吸い込まれる。受け入れた衝撃に小刻みに震える背中を撫でる腕の優しさを感じて、ほっと息をつくと自然と
身体から強張りが解けた。それに呼応して道徳が深く入り込み、存在を主張するように突き立てられる。瞬間、ぞくりと背筋を何かが
走り抜け、天化はぶるりと身震いした。痛みよりも奥から湧き上がってくる鮮烈な感覚に熱い息を吐く。
「コ、コーチ……へ…ん……なん…か……」
「……痛いんだな。すぐよくするから勘弁な」
中にある彼が返事と同時にずくりと動いて、天化は堪え切れずに身を再び震わせる。違うのだと言おうとしても、せり上がってくる
快感に喘ぎを零すだけだった。まさか初めてで自分がこんなにも悦楽を感じ、道徳を求めてしまうとは夢にも思わなかった。余りにも
淫らな身体がどうしようもない程恥ずかしい。
道徳はそれに気付いているのかいないのか、知らぬ顔をして内部を探ってくる。天化が反応を返す部分に触れると容赦なく腰を進め
て、突き上げ擦り上げる。幾度かそれを繰り返して、掻き回すように動かしてやると、自身を呑み込んでいる秘部が甘く戦慄いた。
「…はあ……あぅ…ん」
天化は快楽を追い求め、無意識のうちに自ら道徳の腰を挟み込む。予想以上の感度のよさに道徳は微笑み、口付けを落としながら細
い足首を掴んで片足を肩にかけさせ、緩やかに突き上げ始めた。
先刻から何も考えずに天化の肉体を蹂躙していた訳ではない。どうしてやれば一番悦ぶのかを見付ける為だった。初めての時から悦楽
を覚え込んでおけば、行為に対する恐怖心や嫌悪といったものを感じ難くなる。
感度のよい天化は実によく反応を返す。道徳はすんなりどうすればよいのか見つける事ができた。
最初はもどかしく感じられていた感覚が、道徳が動き始めるとゆっくりと形になり始め、深い悦楽へと形成されていく。天化は背を
反らし、道徳に伸ばした手に力を込めてより一層縋りついた。自分でも気付かないうちに彼の動きに合わせて腰を揺らしてしまう。
恥ずかしくて堪らないのに、唇からは押さえることの出来ない声が吐息と共に零れ出た。
「くぁ!…う……ふ……コーチ」
最奥を貫かれると身体中に甘い痺れが駆け巡る。道徳の逞しい腕と肩にかけられた足は彼が腰を進めるごとに揺れ、同時に熱が上昇
してゆく。唇や首筋、鎖骨に口付けを受けても応える余裕すらない。
腕の中で跳ねる少女は、どんな女よりも美しく艶やかな色香を放っていた。身体からは甘い体臭が立ち上り、もっと傍に近づいて抱
き締めたくなって、のめり込まずにはいられなくなってしまう。
「……ふう……」
耳元で微かに聞こえた吐息に、天化は瞳を見開いた。眼だけを動かして道徳を見ると、彼は僅かに息を乱して眉を寄せて瞳を閉じて
いた。道徳は大人で余裕で何一つ面に出さないものだと思っていたのに、ちゃんと天化と同じように感じてくれている。
それがひどく嬉しくて、天化は道徳に口唇を合わせた。すると道徳の双眸がうっすらと開き、応えるように舌を絡めてくる。互いの
想いを伝えるかのように深く唇を重ね合った。
二人の動きが激しくなるに従ってベッドの軋む音が聞こえてくる。濡れた音と乱れた息遣いが薄暗い部屋を満たしていた。互いを深
く求め合う心がより一層強い快楽を生み出しているようだった。律動が繰り返される度に天化の唇からは高い声が零れ、内部を穿つ道
徳を導き締め付けるように収縮する。今までのどんな悦楽よりもそれは堪らないほどに気持ちいい。
道徳は内から湧き上がる愛しさを刻み込むように、天化の最奥に何度も自身を突き挿れる。
「―――っ!……」
激しさを増した抽挿に意識が集中し、熱い滴りを感じた瞬間、天化は声にならない嬌声を上げて達した。
背中に立てられた爪から力がなくなり、道徳は大きく息を吐き添えられている天化の腕を外して、負担をかけないよう自身を引き出
した。少女の内股に名残る鮮やかな赤に痛ましげに眉を顰め、優しく額に口付ける。かなりの強敵と試合をした時よりも疲労している
自分に驚きながら、自失している天化を抱き寄せる。すると天化が微かに身じろいて、胸に甘えるように頭を押し付けてきた。
互いの体温を確かめるように、道徳は天化をしっかりと抱き締め続けた。
こういう朝は、やはり味噌汁がいい道徳は考えている。取り立てて理由は何もないのだが、味噌汁を作って食べさせてやりたいと思
うのだ。今まで自分がこうして起きて、誰かの為に食事を作ったことなどない。これまでの相手だと、コトが済めばさっさと家に帰っ
たし、そもそも自分のベッドでそういった事をしたことすらなかった。
やはり天化は特別なのだ。素直でいながら強情で、気が強いのに可愛くて、そんな天化が何よりも大切で愛しい。誰かをこんなにも
愛しいと思ったことは一度もない。天化が最初で最後の相手になることは道徳の中では確定事項である。
若芽と豆腐の味噌汁に卵焼き、その合間に鮭の切り身を焼いた。鼻歌混じりにほうれん草を茹でておひたしを作る。皿の上に盛り付
けて、後は漬物でも用意すれば朝食は出来上がりだった。
カーテンから差し込む光を感じながら、ベッドの中で天化はまだまどろんでいた。さっき道徳が朝食を作ると言って階下に降りた時
は一応起きていたが、身体がだるくて抜け出せずにいる。道徳はベッドを出る時に額に一つキスをくれ、ゆっくり寝てていいと囁いて
くれたこともあり、その言葉に甘えさせて貰った。
開け放されたドアからは味噌汁のいい匂いが漂ってきている。空腹感を感じさせるその匂いにつられるように、天化はもそもそと起
き上がった。のたのたベッドを降りて大きく伸びをする。身体はだるいが痛みはない。今朝もすこぶる快調だ。
道徳のパジャマは大きくて、ゆったりとしていて着心地が良かった。袖は随分折らねばならないが、襟元は広くて天化には丁度いい。
難点を指摘するなら、裾が膝よりも長くてスカートのようになってしまう為、足元がスースーすることだった。ズボンは道徳が穿い
ているから仕方ないことではあるのだが。階段を慎重に降りて台所に入ると、道徳が丁度盛り付けを終えたところだった。
「おはよ、コーチ」
「おはよう天化」
ちゅっと音を立てて口付け合ったりすると何だか妙に照れ臭い。
「大丈夫か?身体の方は」
「平気さ。ちょっちだりーけど大したこたねぇよ。それよか腹へったさ」
はいはいと返事をしながら笑って、道徳は味噌汁をつけてやった。いただきますと二人して手を合わせ、味噌汁に手を伸ばす。気だ
るさの残った身体には、程よい塩分があって栄養満点の味噌汁はとても美味しかった。
「なあコーチ。普通はこういった時ってさ、俺っちがごはんとか作るんじゃねぇのさ?女だし」
「何古くさい事言ってんだか。女だから御三どんなんて時代遅れだよ。それに天化が作ったって食えるメシは絶対できっこないしな。
適材適所って言葉があるだろ?」
「そりゃまそうだけどさ……」
的を射た言葉に天化は一応頷きはしたがやはり不満ではある。初めて恋人と一夜を共にした朝ですらこうなのだ。何だか道徳と立場
が逆転しているようで変な感じがする。
道徳はそんな天化の様子を横目で見て、お茶を煎れた湯呑を出してやりながら苦笑した。これまでも行いからして、天化が女らしく
御三どんができるタマである筈がない。そこら辺の『女』という枠に収まっていないところや、そこに不思議と色気のあるところなど
も、全てをひっくるめた天化の魅力に自分は夢中なのだ。勿論そんな事をはっきり言ったことはないけれど。
微笑を口元に湛えて、道徳は天化の少し拗ねた顔を覗き込み、優しく問いかけた。
「なあ天化。男は何の為に生まれてくると思う?」
「……う〜ん…………分かんねぇさ………」
天化は首を捻って考え込んでいたが、答えを出せずに困った顔をする。
道徳はそれに一つ頷いて勿体つけた仕草で少女に近付き、耳元に秘密を打ち明けるように囁いた。
「……男はね、好きな女に尽くす為に生まれるんだよ」
だから俺がこうするのは当り前ってこと、そう言って自信たっぷりの笑顔で天化の唇に口づけた。首まで真っ赤になって俯いた天化
の頬を挟んで、分かったかい?と声を出す代わりに瞳を合わせれば、ふわりと嬉しそうに破顔する。
それに応えて笑いかけながら、おかわりを尋ねてやると、天化は元気よく御椀を差し出した。
味噌汁を温め直してくれる背中を眺めて、天化は幸せな気分に浸る。きっとまだ顔も首も赤いだろうがそんな事は気にもならなかっ
た。道徳とこうして過ごせるだけで嬉しくて堪らない。
「あのさコーチ」
「うん?ほれ出来たぞ」
道徳は温まった味噌汁のたっぷりと入った椀を差し出してくる。それを受け取って天化は無邪気に言った。
「俺っち、コーチの作ってくれた味噌汁、これからもずっと食べたいさ」
瞬間瞳を大きく瞠り、道徳は天化をマジマジと見詰めた。天化はその視線に気付いた風もなく美味しそうに味噌汁を啜っている。
(これは分かっていってないな)
今のはどう考えてみてもプロポーズの言葉である。本人も気付いていない無意識の求婚。
6歳も年下の恋人に、告白に続いてプロポーズも先を越された男は、悪戯っぽい微笑を浮かべながらその言葉を受けた。
「これからもずっと作るさ。何せ俺は天化に尽くす為に生まれてきたんだからな」
The End 2000.10.10