Be AliveⅣBe AliveⅣBe AliveⅣBe AliveⅣBe AliveⅣ   Be AliveⅥBe AliveⅥBe AliveⅥBe AliveⅥBe AliveⅥ

 ベッドに腰掛けて適当に音楽を流して雑誌を繰っていたが、どうにもこうにも落ち着かない。掌に汗をかいていて、指先も微妙に震え 
てページをめくることもままならなかった。
自分がどうしようもない程緊張しているのが手に取るように分かる。どんな大会に出ても強 
敵と戦う時にも、試験の時だって緊張はしなかった。雑誌の頁すらめくれないなんて信じられない。
 
 結局我慢できずに雑誌を持って部屋を出ようと扉に手をかける――と同時にノブが消えた。正確にはノブが消えたのではなくドアが引 
かれたのである。そう錯覚する程冷静さを無くしていたのだ。
 
「風呂上がったさ。お先に」 
 道徳は返事も出来ずに天化の姿を見詰めた。生乾きの髪からは仄かにシャンプーの香りが漂ってくる。着替えに渡した服は小さめだっ 
たのか、
Tシャツの胸元は下着をつけていない分余計に先端がはっきり見えていた。さすがに眼のやり場に困って俯き、そうしてから天 
化にしては珍しくスカートを穿いていることに初めて気付く。
自分が用意したのに、すっかり忘れてしまっていた。 
 道を開けて天化を通し、照れ隠しにすれ違い様雑誌を少女の頭の上にぽんと置いて、前を見たまま告げる。
 
「俺も風呂に入ってくるよ」 
「………うん…」 
 返事を待たずに階段を降り、服を脱ぎ捨てて冷たいシャワーを浴びた。 
(……ったく……女を抱くのは初めてじゃないってのに………) 
 初めての時でもこんなに緊張なんてしなかった。きっと相手が天化だからだ。何よりも大切で愛しい天化だからこそ、自分はこれ程ま 
でに動揺し、彼女を欲するのだ。
誰かを欲しいなんて、天化と出会うまで思ったことなんてない。それまで付き合ってきた相手は、身体 
の欲望を吐き出させてくれれば十分だった。それが天化を意識しだすとがらりと変わったのだ。
 
 どんな女に誘われてもする気は湧かず、ポルノ雑誌を眺めても何とも感じない。禁欲生活は長い。 
 付合い始めてBまでいっても、相手は子供だからとその先は我慢した。他の女のように軽はずみに抱く事を自分自身が一番許せなくて、 
結局いつもそこで止めてしまう。それとは相反して天化は快楽に慣れ反応を返し可愛い声をあげるようになっていった。
 
 最後の選択権は男にではなく女にあるのは当然だ。天化の方から誘ってくれた事にむしろほっとしている自分に、道徳は気付いていた。 

 雑誌を読んでいても少しも頭に入ってこない。考えるのは道徳のことばかりだった。 
 天化は雑誌を閉じてサイドテーブルに置き、部屋を見回した。CDコンポと本棚、ベッド以外は何もない簡素な部屋である。道徳の仕事 
部屋には出入口も兼ねて出入りしていたが、この寝室にはそう何度も入っていない。
ビデオやテレビを見るのは下の居間だったし、音楽 
を聴く時も大抵
CDラジカセで済んでいた。ここでは音楽も一緒に聴いたけれど、道徳の腕と体温を一番近くに感じる事をする方が多い。 
 初めてキスをしたのは居間で、Bはこのベッドで初めてした。最初はくすぐったくて、笑いそうになるのを堪えるのに必死で、結局道 
徳も笑いだして色気もへったくれもなかったものだ。それから半年ほど経ってもう一度した時は、今度は身体が変になったように感じて 
泣きそうになった。すぐに止めてくれた道徳は優しかったけれど、天化としては少し寂しくもあった。 

 だんだん慣れてくるに従って、恐怖心よりも道徳の腕の暖かさと広い胸に安心できて、身体の反応にも自然な事だと少しは受け入れら 
れるようになった。それでも道徳は決して最後まではしない。
自分に選択権を与えることをずるいと思ったけれど、女という立場だと相 
手が選ばせないことも多いと聞きもしたので、道徳の思いやりは理解できたし信頼もできる。 

 蝉玉に言われなくても、天化は今夜するつもりでいたのだ。 
 Cについて尋ねられた時は、自分の決心を読まれたような気がして、かなり焦ったが。 
 身体が妙に熱く、手を当てた頬の火照り具合で、自分でも顔が真っ赤になっていることが分かる。こんな顔を見られるのが嫌で部屋の 
電気を消し、サイドテーブルに置かれたスタンドを点けた。
 
(心臓の音がうるさいさ……) 
 暗い部屋の中だと自分の心音がやけに大きく聞こえる。胸を押さえてみても、当然のことながら収まる筈がない。胸元がきついからだ 
けでなく、きっと緊張しているせいだ。
何となく下を見ると胸の形がTシャツに浮き出しているのに気付いた。恥ずかしくて落着かない 
気分を紛らわせるように立ち上がろうとしたが、ロングスカートに足が取られてつんのめりかける。 

 こんな足首まであるようなスカートなんて今まで一度も穿いたことがない。スカート自体を制服以外では穿かないのだ。風呂場から階 
段を昇る時は、緊張で足がもたつくのに加えて裾を踏みかけて転げ落ちそうになり、たくし上げなければならなかった。我ながらバカみ 
たいだが、そのことを思い出すと笑えてしまう。 

「ごめん、遅くなった」 
 声をかけられて振り向くと、首に掛けたタオルで髪をガシガシ拭きながら道徳が近づいてきた。上半身は裸でジーンズを穿いただけの 
ラフな格好で、引き締まった広い胸板や無駄なく筋肉のついた背中に瞳を奪われる。先程よりも鼓動が早くなり、顔が更に熱くなった。 

 慌てて眼を逸らして俯いた天化の様子に道徳は片眉を上げ、さりげなく後ろに回って背後から抱きしめる。そうすると天化は安心した 
のか身体を預けてきた。そのままベッドに腰を降ろすと、背中をもたせかけてくる。
 
 小さな子供にするように頭をよしよしと撫でてやり、後頭部や頬や額にそっと口付けてやった。天化はくすぐったそうに首を竦めなが 
らも、笑って振り返り、道徳の唇に掠めるように接吻する。
 
「コーチ…。コーチが俺っちのもんだってちゃんと確かめさせて」 
「前から俺はお前だけのものだけどな。でも天化が確認してくれるのは嬉しいよ」 
 微かに潤んだ瞳で見詰めてくる天化に、道徳は優しい大人の笑みを浮かべて強く抱き締めた。 

 サイドテーブルに置いたスタンドの光量も低い為、室内はかなり薄暗い。雨戸を締め切り、カーテンも閉じているお陰で外の音は何一 
つ聞こえなかった。
道徳の腕が服の上から身体を愛撫するように移動してくる。項に触れる唇が優しい感じがした。 
「う……ん…」
 Tシャツの上から胸の突起を探られて無意識のうちに腕にしがみつく。全体を捏ねるように掌に包み、硬く尖って主張する先を指で挟 
みこんで手を動かすと、天化の足が微かに開いたり閉じたりし始めた。長いスカートに隠されていても、もどかしげに内股を震わせてい 
ることぐらい道徳には手に取るように分かる。 

 唇から零れる吐息がやけに熱くて、天化は身体を捻るように動かした。道徳の手や唇が触れる場所から熱が広がっていくようで、頭の 
中が真っ白になり、自分でもどうすればいいのか分からない。 

 細い腰が見え隠れするTシャツの裾から手を潜り込ませて柔らかな肌をそっと揉みしだいてやりながら、返してくる反応を楽しんだ。 
 すっかり身体の力が抜けてしまうと、天化をベッドに寝かしつける。上半身を覆っていた服を取り払い、片手で胸を包むようにして触 
れ唇を寄せて舐め上げた。 

「……はぁ……あ…っ」 
 舌の上で転がすように愛撫を繰り返すと、大きく身震いして鼻にかかった甘い声を上げて身体を丸める。この声を聞くだけで道徳は熱 
くなり、もっと聞きたいという思いに駆られて触れずにいられなくなってしまう。 

 スカートのファスナーを下ろして床に落とし、下着の間に指を滑り込ませる。指で襞を分けて探ってみれば、そこはもう濡れ始めてい 
た。それに満足げに笑うと、天化が焦って僅かに広げていた足を閉じようとする。それを軽くいなして、耳たぶを甘噛みしてやると動き 
を止めて見上げてきた。 

「こういう事は前にしてるだろ?大丈夫だから力を抜いて……」 
 頼りないその瞳を覗き込んで、安心させるように唇を何度も啄ばんだ。天化は息を吐き、道徳の背中に腕を伸ばして微かに汗ばんだ肌 
に手を置く。こうして彼に触れていると不思議と不安と恐怖が薄れていくのだ。首筋や胸元に接吻を受けて瞳を閉じ、身体を辿ってゆく 
唇と指だけを感じる。 

「あ…コーチ……。跡はあんまり付けないで…欲しいさ。月曜日体育あるから………」 
「……了解」 
 鎖骨に口付けようとしたところで釘を刺され不満に思った代わりに胸の突起を口に含んでやった。 
「や……あん……」 
 下着をあっさり脱がして、そこを弄ると濡れた音が室内に響く。羞恥に頬を染めて閉じた瞼に口付け、震える足を広げて体を割り込ま 
せる。唇でゆっくりと臍から下腹を辿り、内股に接吻した。 

 天化の隠された部分に舌を這わせながら、内からしとどに濡れたそこに指を入れる。 
「くぅ!…あ…あぁ……コーチィ」 
 ビクリと跳ねる身体をやんわりと押さえ付け、抜き差しを繰り返した。道徳に擦られる度にそこがどんどん熱くなって、時折悪戯をし 
かけるように突かれると声も我慢できずに出してしまう。 

 知らず溢れた涙がこめかみを伝ってシーツに幾つものしみを作る。道徳にこういったことをされるのも天化は初めてではなかった。彼 
の指に嬲られて達したことも一度や二度ではない。そこまでしておいて、彼は最後まで進もうとはしなかったのだ。 

 身体が快感に慣れてくるに従って、より深い快楽を求めるようになるのは当然だ。いつも決定打を与えられることなく慣れさせられた 
肉体は、気が付くとこれだけでは満足できなくなっていた。