個人誌デビュー1周年記念本『HEY!』に掲載した話です。この話は玉麒麟と貞○道徳を書きたくて書きました(笑)。
 広夢さんのお誕生日用に書き下ろした話でもあります。
 本にした時よりも、HP用に書き直した話の方が玉麒麟の性格が悪くなってるので、玉麒麟好きな方に申し訳ない気が…(汗)。
 何で虎に変身するかといいますと、私が虎大好きだからです!西洋の百獣の王が獅子なら、東洋ではやっぱり虎でしょう!
 関西弁で喋るのは、某漫画からの影響です(笑)。
 題名は昔話「三枚の御札」をもじったものです(意味ねぇ)。
 私は心密かに玉麒麟を飼いたいと思ってます(オイ)。
三色のバンダナU三色のバンダナU三色のバンダナU三色のバンダナU三色のバンダナU   CoolCoolCoolCoolCool
 それから数分後、悪戦苦闘の末にやっとのことで静寂の訪れた広場で、一人と一匹は青褪めた顔で土に埋まった黄巾力士を見詰め 
ていた。黄巾力士はうつ伏せ状態で寝転がり、人間に例えると腹部にあたる個所が土の中に閉ざされている。半分以上が地面に隠れ
 
ているその更に下の部分を想像して、彼らの顔色はどうしようもなく悪くなった。
 
「うわぁぁぁぁぁっ!!死んださ!絶対死んださ!!」
 
「落ち着くんや天化!このまま埋めて逃げたら完全犯罪成立や!!全然OKやでっ!!」
 
 瞳に大粒の涙を溜め、恐慌をきたして泣き叫ぶ天化に、玉麒麟は恐ろしいことを握り拳で力説する。
 
 霊獣として騎乗する相手のことを心配する気がないのだろうか。道徳が日頃霊獣に何と思われているか分かる言動である。非常事態
 
で混乱しているという理由は、この発言の言い訳になりそうもない。
 
 ともかくどうしようかと、彼らは倒れたままの黄巾力士を眺め、途方にくれたように溜息をついた。
 
「いくらあの道徳はんでも、ミンチとか潰れたトマト状態では復活無理やしなぁ…。やっぱりここは逃げるが勝ちやろ」
 
 食事中には決して考えたくないようなことを平然と口に出し、冷静に分析する玉麒麟の傍で、天化は泣き出しそうになる。
 
「ひぃっく…うぇ…コーチィ…」
 
「しゃあないって!今更生き返れ言うてもあかんしな」
 
 元気付けるように天化の肩に手をぽんと置いて、完全に開き直った体で玉麒麟は黄巾力士に手を合わせた。
 
「ま、骨でも拾ぉたったら成仏しよるやろ」
 
 玉麒麟の場合、発想自体がとんでもないが、今更ジタバタしても仕方ないのも確かである。天化自身何の対処も思い浮かばず、泣い
 
て右往左往して大騒ぎすることしかできないのだ。
 
 道徳を救い出すことを諦めきれないが諦めることにして、邸に一旦戻ろうとする玉麒麟の後に着いていこうとした。
 
 その時であった。これが聞こえたのは。
 
「………か…ってに……こ〜ろ〜す〜な〜っ!!」
 
 土を抉り出す音と共に、地の底から響くような陰気な声が辺りにこだましたのである。
 
 突如響いた気味の悪い声に、天化と玉麒麟の背中に悪寒が走る。恐る恐る後ろを振り返り、二人は思わずじりっと後退さった。
 
 なんと、黄巾力士の下から手が這い出てきているのだ。決して今見ている光景を信じたくはなかったが、だが現実に黄巾力士の下から
 
は土にまみれた手がじりじりと出てきている。
 
 この恐ろしい現状から逃げ出したいのに、足が地に生えたようにびくともせず、金縛りにあったように動けない。
 
 墓場からゾンビがでてくる姿をそれは彷彿させた。土色に染まった指先が僅かなとっかかりを探り、それに触れると地中から身体を少
 
しずつ押し出してくる。ずるずると這うように黄巾力士の下から姿を現した。
 
 ゆらりとそれは立ち上がったものの、丁度影になっていることと俯いていることとで、顔は全く分からない。真昼の明るい太陽の下にあ
 
るだけに、二人の恐怖は煽られる。こちらに向ってゾンビが一歩を踏み出した瞬間、玉麒麟と天化は悲鳴を上げた。
 
「ひぃぃぃぃぃぃー!サダ子や!サダ子やーっ!!」
 
「ギャァァー!お化けさ〜!!」
 
 土をバタバタと叩き落としながらずかずかと足早に近付いて、腰を抜かして脅える二人にゾンビは怒鳴り返してくる。
 
「誰がサダ子だ!ボケ霊獣!!天化!お前も師匠を化物呼ばわりするんじゃないよっ!!」
 
 この声は紛れもなく生きた人間のもので、天化にも玉麒麟にも聞き慣れた響きの持ち主だった。ブツブツと文句を言いながら、汚れた
 
みすぼらしい男は彼らを金色がかった瞳でじろりと睨みつけてくる。その瞬間、玉麒麟は胸を撫で下ろして大きく息を吐き、天化は大きな
 
瞳に零れんばかりの涙を溢れさせた。
 
 そう、清虚道徳真君は泥だらけになりつつも見事地の底(?)から生還を果たしたのである。
 
 莫邪の宝剣の宝剣を手に持っていることから察するに、これで穴を掘って外に出てきたようだ。術を使えば一気に外に出れたものを、
 
わざわざ穴を掘って出てくるところが結構間抜けかも知れない。生還第一声でその点はもう隠しようもないが。
 
 道徳の無事な姿に安堵の余り瞳を潤ませ、天化はとうとうしゃくり上げ始めた。莫邪をしまうと、泣き出した天化を安心させるように気障
 
に歯をキラめかせて道徳は笑いかけた。
 
「フッ………さすがは天化だ。この私に血を流させた弟子は、お前が初めてだよ……」
 
 それを聞いた玉麒麟は余りのアホ臭さに、眉間に縦皺をよせて呆れた様子で首を振った。
 
「ドタマかち割られて血ィだらだら流しとったら、カッコつけても無駄やんか……」
 
 余計なことは言わぬべし。間髪入れずに道徳はくるりと振り返ると、報復とばかりに玉麒麟の服で汚れた手を拭った。新品同様だった
 
服が泥でべったりと汚れ、霊獣は眼を剥く。
 
「何すんねん!ほんっっっっっまに子供っぽいやっちゃなぁ!もう……」
 
 真実を指摘しただけなのに、不当な扱いを受けて文句をがなり立てた。だが、誰も聞いてはいない。
 
 天化は玉麒麟の声も耳に入っていない様子で道徳に縋り付いて泣いているし、道徳は道徳で、離れまいとしがみ付く天化の髪を撫で
 
て、落ち着かせるように背中をぽんぽん叩いてやっている。
 
 二人とも不幸な霊獣のことなど忘れ果てたように(実際忘れているのだが)、互いの存在を確かめ合っていた。
 
「勝手に人を殺すんじゃないよ。仮にも仙人であるというのに、この程度でくたばっていたら大恥だ」
 
「……ホントに大丈夫さ?師父を押し潰しちゃってごめんさ……」
 
「心配をかけてしまったね。だが安心しなさい。藤リ○ー版、小説版、その他諸々良いとこ取りをした複合体である私は不死身だよ」
 
「師父が無事で良かったさ。師父が居なくなったら、俺っち、俺っち……ふぇ……」
 
「きちんと居るだろう?さあ、涙を拭いて。天化を残したりしないよ、私は……」
 
「師父………」
 
「……天化………」
 
 先刻と同じように自分達の世界を作って見詰め合う二人に、玉麒麟はもう話しかけることすら嫌になる。すっかりいじけて、わての一張
 
羅が泥まみれや…と悲しげに一人ごちることしかできなかった。
 
 小説版では爺で誘拐犯だとか、道徳の存在自体が犯罪(内容が妖しくなる原因)だとか、真実は良いとこ取りではなくただの御都合主
 
義の塊だとか、言ってしまったらお終いなツッコミを筆者の代わりに代弁する気にすらならない。どうせ何を言ったところで、黙殺されるか
 
不遜な笑みで一蹴されるか、どのみち無視されるに違いないのだから。
 
 アンタら好きにしときぃな、と投げ遣りな気分で玉麒麟が思い始めた頃、やっと彼らは身体を離した。
 
 道徳が手拭で血を拭き取ると、頭に傷など跡形も残っていない。やはり洞主の打たれ強さは半端でないようだ。続いて懐から修行中は
 
いつも身につけるバンダナを取り出し、天化や玉麒麟にもかけた術を施し頭にはめる。
 
「最初からこうしておけば良かったんだよねぇ。今後はいつも身につけることにしよう」
 
 今回の出来事は余程堪えたらしく、道徳は神妙な面持ちで誰に言うともなく呟いて、バンダナの具合を確かめる。
 
 天化は道徳と玉麒麟を見上げてお揃いだとはしゃいでいるが、彼らは一度下敷きになっているだけに、子供のように無邪気に笑うこと
 
はできなかった。かなり強烈な体験だったのだろう。
 
 その後、天化が黄巾力士を格納庫に入れたり、出したり、飛んだりなどの操縦を完璧にこなせるようになるまで2年以上かかった。
 
 この期間は、紫陽洞の洞主と霊獣にとっては努力と忍耐に満ちた日々で、いつもならあっという間に過ぎる時が恐ろしく長い時間のよう
 
に感じられたそうだ。というのも、哀れなヒキガエルのように黄巾力士に押し潰される経験はもう二度と御免だ,と彼らが心底思っていても、
 
後で何度も同様の目に遭うこととなったからである。
 
 洗濯物を干していると塀を壊して突進してきたり、テラスで食事を並べていると落ちてきたり、と予測不可能な事態に巻き込まれること
 
が多かった。他にも、収穫寸前の畑に突っ込んで作物が台無しになったこともあった。
 
 来客中の離れに不時着して、道徳の友人の12仙達が下敷きになったり、なんてもことあったりした。
 
 被害は洞府の中のみに留まらず、黄巾力士を使った初めてのお使いに太乙真人の所に行かせると、彼のラボが全壊したこともある。
 
『……随分風通しのいいお庭になったね…』
 
 上手に被害を免れ続けた穏やかな笑顔を絶やさない友人が訪ねてきて、穴だらけになった塀を眺め、誉め言葉にもならない台詞を呟
 
くと、道徳はお茶を啜って何一つ言わずにただ頷いただけだったという。
 
 最初に大きな風穴を開けられた時点で、道徳は諦めることにしたのだ。穴の開いた塀も、全壊してしまった洞門も、事故を起こさなくな
 
るまで決して修理を行おうとはしなかった。彼がやっと修繕する気になった時、天化は14歳になっていた。
 
 物事にきっかけというものがあるとしたら、天化が黄巾力士の操縦をするようになったのも、ちょっとしたことからだ。
 
 道徳と天化のバンダナもまた然り、である。
 
 かくして、紫陽洞の師弟と霊獣は、それぞれ青、白、黄、のバンダナを着用する週間が定着した。
 
 追記すると、天化と玉麒麟が怪談話に弱くなったのも、実はこの頃からだったりするらしい。
 

                                                                  2000.2.24/2001.5.28