仄かにぬくいシーツの上に横たわり、日の匂いと一緒に丸ごと抱き締められる。柔らかな布団の感触が気持ちよくて、知らず
頬をすり寄せる。布団からは、暖かな日向の香りがした。アキラが前もって干していたのだろうか。
徐々に酩酊してくる思考を繋ぎ止めるようにぼんやりと考えていると、まるでそれを非難するようにシャツの裾から手が潜り込
み、突起を軽く摘まれた。電流のように背筋を走った感覚に、途端に腰が跳ねる。
最初の頃はこんな風に身体が反応するとは思わなかった。アキラに口付けられただけで、息が上がるなんて考えもしなかっ
た。身体を繋げると、快楽と同時に一体感を味わえることも知らなかった。男女が子孫を残す為に行う行為を男同士でしたとこ
ろで、残るのは虚しさだけかもしれないと思っていたのに。
身体全体が触れ合うことで、繋がることで、もっと相手を愛しく感じるのだと、初めて肌を重ねた夜に知った。
こうして身を重ねる行為には、性別が違っていようと同じであろうと変わらないと、想いさえあれば全く関係ないのだと。
「う…んぁ」
触れてくる掌が熱い。体温が低そうに思えるアキラの手は、内に潜む情熱を表すように熱かった。
それとも、自分に触れるときだけがこんなにも熱いのだろうか。
着込んでいたジャージのジッパーを下げられ、あっさりと身体から取り払われた。その手つきがほんの一月にも満たない間に
妙に慣れた感じになって、何だか癪だ。ちょっとムッとしている間に、今度はシャツも脱がされてしまう。
空調のきいた室内では、肌に何も身につけていないと、少し肌寒く感じることもある。だがそれも少しの間だけで、すぐに内側か
らの熱にうかされるように、反対に熱く感じるようになるのだ。
唇が首筋に何度も落ち、身体を辿るように触れてくる。それに応えるように、無意識にアキラに向かって手が伸びた。背中に腕
を回して彼の温もりを確かめる。手と腕に感じるのは綿の手触り。アキラがまだ着ているパジャマがひどく邪魔に思えて、布を引
っ張った。もっとアキラを感じたい。直接その温もりに包まれたい。彼の存在をより近く、より強く、確かめたい。
一方的にされているだけなのは嫌で、ヒカルはアキラに手を伸ばし、パジャマのボタンを外していく。その間も、アキラが触れて
くる動きは少しも止まらない。やはりといおうか、この一月ほどの期間に、彼は随分と行為に慣れてきたようだ。
「…ふ…あ……ん」
舌で胸元を舐め上げられ、ふるりと震える。じんわりとした熱が一箇所に集まりだしているのが、自分でもよく分かる。
直接そこに触れられたりしなくても、胸元や首筋などにアキラを感じるだけで身体は高められるのだから不思議だ。相手が自
分にとって特別で大切だから、こんな風にあっさりと全てを明け渡せるのだろうか。
熱い手が肌を撫でる。唇が触れ合う。寛げたパジャマに腕を入れて、直接アキラの背に腕を回すと、とてもほっとする。
すべすべとして、気持ちがいい。そして何よりも温かい。触れていると、心臓の脈動が掌をつたって伝わってくる。色白なアキラ
の肌は夜目にも鮮やかで、微かに差し込んでくる月明かりに照らされてぼんやりと浮かび上がっているようだった。
唇を重ねながら、アキラが邪魔だと言わんばかりにパジャマを脱ぎ捨てる。何事も丁寧で几帳面なアキラにしては乱暴な仕草
のようだが、ヒカルにとってはいつものことだ。アキラは行動の端々に時折妙に男臭いものがあってこれもその一つに過ぎない。
時折微かな痺れるような痛みを感じる。目立たないところにアキラが所有の跡を残しているのだろう。
独占欲の塊のようなアキラのことだ、もっと目立つ場所に残して、ヒカルは自分のものだと他者に知らせたいと思っているかも
しれない。それとも、見えにくい場所につけることで、自分のものだと満足を感じているのだろうか。
何故なら、自分にしか分からないところに跡をつけ、ヒカルの身体を開く度に自分だけが目に出来る。他人にヒカルが触れられ
ていない証拠を簡単に手に入れられるだけでなく、ヒカルがアキラだけに全てを晒していると分かりやすく証明されるからだ。
どちらにしても、アキラの独占欲と愛情からくる思いである。ヒカルにとってはアキラの想いは何よりも心地よく嬉しいものだ。
束縛されることは嫌ではない。不快にも思わない。だがそれを許せるのはアキラだけだ。
他の誰かに同じことをされれば、ヒカルはその相手を獰猛な虎の牙で激しく攻撃するだろう。心の面でも肉体の面でも。
ヒカルは見た目とは予想外に腕っ節は強く、気も強い。本来、男にあっさりと組み敷かれるようなことはない。細い身体に見合
わない程に膂力もあるのだ。実際、アキラもヒカルに一度腹部に拳を入れられ、その威力は身をもって体験させられている。
けれど、こうしてアキラに押し倒されるという状況になっても、ヒカルが本気で抵抗したことは一度もなかった。羞恥で腕を突っ
ぱねたり、従順に受け入れるのが癪で、恥ずかしくて、言葉の上では抗ってみせても、アキラを拒絶することだけはない。
アキラの求めてくる腕を、そのままとるか自ら引き寄せるか、どちらかの選択しかヒカルはするつもりはなかったから。
こうして触れて、自分を繋ぐ相手がアキラだから受け入れられるのだ。
優しく、それでいて情熱的に触れてくるアキラを素直に受け入れながら、ヒカルは甘い息をうっとりと吐いた。
「進藤……」
促すように耳元に囁かれ、彼が何を意図しているのか分かってヒカルは耳まで真っ赤になる。おずおずとだが背中を上げると、
アキラの手がジャージのズボンにかけられる。
アキラに脱がされるのも恥ずかしくて堪らないが、自分でしようにも身体に力が入らないのだから仕方ない。そう言い聞かせて
も、やはり恥ずかしいものは変わらない。最初に脱いでから布団に入ればいいのかもしれないが、それはそれで、彼とするのが
目的のような感じで羞恥を煽られる。
火照った顔のままで抗議するように上目遣いにヒカルが見上げてくると、拗ねた唇に深く重ねた。キスに弱いヒカルは程なく口
付けに夢中になってアキラの首にしがみついてくる。すると自然に少し腰が浮き、下着も剥ぎ取りやすくなる。
これは誰に教えられたわけでもない。アキラがヒカルとの行為を重ねるうちに自然と覚えたことだ。
ヒカルの肌を感じながら身体の線を掌で辿り、そっとヒカル自身に触れる。そこは既に半分頭を持ち上げ始めていた。
「……ん!」
ビクリと細い腰が揺れ、ヒカルの足が僅かに開く。そこに身体を素早く割り込ませて閉じられないようにし、唇で肌の柔らかさを
堪能しながら下肢へとゆっくりと移動していった。
「ああっ!……は…あん」
全体を揉むように掌を動かして愛撫してやると、ヒカルが押さえきれない嬌声を零す。唇から赤い舌をちらつかせ、肌の色が鮮
やかな桜色に染まっていく様は何ともいえず扇情的だ。
この姿を見ているだけで、ヒカルと一つになりたくて我慢がきかなくなりそうだ。理性を振り絞って自分を押しとどめ、金色の前
髪を揺らして乱れた呼吸を繰り返す少年の背中を擦ってやり、新たな快楽を与えるべく下肢に顔を埋める。
「う…あぅ…、やめ…」
ヒカルは中々この行為に慣れることができないらしく、いつもこれをすると泣きそうな顔をする。初めてした時もひどく恥ずかしが
り、とても可愛らしかった。確かに男の自分にされるのに慣れろというのも酷な話でもある。だがヒカルはこれをされること自体は
嫌がったことはないし、快楽も感じているようなので、今更やめるつもりもないが。
アキラはヒカル自身に触れることにも、口腔で愛撫することにも、躊躇を覚えたことは一度もない。ましてや嫌悪感を抱いたこと
など全くない。触れてヒカルが感じる、その反応を引き出せるという事実が、アキラにとってはぞくぞくするような悦びでもある。
もっと触れたい、もっとヒカルの反応を見たいと、底なしのように求めてしまう。
それはヒカルと打つ囲碁の手合いにも似ている。ヒカルの一手に応え、またヒカルも応える。深い深遠に共に下り、或いは遥か
なる高みへと昇っていく。ヒカルの反応を引き出し応え、互いに高めあうという点は本当によく似ている。
違うところは、その手に負けじと自分も打ち、勝負の世界で新たな道を切り開こうとするのと、肉体の欲望と快楽に直結するか
だ。アキラにとっては、どちらにしろヒカルは手放せる相手ではない。
ただ、ヒカルが男の自分とこうした行為をすることを、厭ってはいないかと躊躇ったことは何度もあった。
特に初めて身体を重ねたあの夜は、アキラが初めてであっただけでなくヒカルも初めてでもあったので、随分とぎこちなく互い
の肌を合わせた。終わってからは本当に審判の時を待つ気分でいたものだ。ヒカルと二度と触れ合えず、話もできず、碁も打て
なくなってしまったらどうしようかと、不安で一杯だった。
ヒカルが震える腕で抱き締めてくれなかったら、あの場から逃げ出してしまったかもしれない。自分らしくない行動かもしれない
が、それだけヒカルを失うことに恐怖を覚えたのだ。
二度とヒカルを失いたくないからこそ、アキラは怖かった。ヒカルから拒絶の言葉を直接聞くことを。
アキラにとっては嬉しいことに、ヒカルは一切そんな台詞は言わずに、強く抱き締めて口付けてきてくれた。
翌朝には随分と無茶な注文をつけられた挙句に、ヒカルの我侭に散々付き合わされる羽目になったが、そんなものは幸せな事
実に比べれば些細なことでしかない。ヒカルがこれからもずっと傍に居てくれると暗に示してくれたのだから。
いつもそう。抱き締めたヒカルは温かく、心臓は鼓動を刻んでいて、そこに生きて存在しているのだと何よりも実感できる。
ただ、ただ、愛しい。それだけだ。ヒカルの有り様全てが愛しくて堪らない。
肌を重ねたことで、アキラはより一層ヒカルへの想いを深くした。傍に居る毎に、碁を打つ度に、身を合わせれば合わせるほど、
愛しさは募っていく。果てなどどこにもないように。
だからこそ、ヒカルとの行為に疑問や躊躇いを感じるなど愚問だった。
うっすらと汗をかいた足を広げさせ、口に含んだヒカルの幹に舌を這わせては舐め上げる。
「あ…ぅ……ん」
反応を窺うと、恥ずかしそうにしていてもヒカルは甘い吐息を零し、指を髪に絡ませて細い腰を揺らめかせていた。
ヒカルに快楽を感じさせるにはどうすればいい?焦らすには?悦ばせるには?痛みを感じさせないようにするには?
ほんの一月にも満たない期間でも、アキラは肌を重ねるごとに反応の一つ一つを細かく観察し、データを集め、研究に研究を
重ねてきた。ヒカルの負担を減らすためにも、それは必要なことだった。
好きな相手に痛みを感じさせたい筈がない。アキラはヒカルを傷つけるなど考えるのも嫌だった。
囲碁の手合いで、生きるか死ぬか、勝つか負けるかのせめぎ合いする時でも、ヒカルを傷つけることなど考えない。勝負の場
ではヒカルはアキラにとって最大最強の好敵手であり、一番の理解者でもあるからだ。どんな場合においても、ヒカルはアキラ
にとっては一番大切な人なのだ。
今後もヒカルと共に歩むには、アキラ自身にとってもヒカルの身体の負担を減らすのは最優先の事項である。
それはアキラの心の安定にも繋がる。ヒカルに辛い思いをさせたと考えるだけで、アキラにも精神的に負荷がかかるのだ。
何よりも大事で、愛しい相手を苦しめることは、自分自身の身を引き裂かれるよりも辛い。
だからこそ、アキラは今夜は特に気合を入れて挑む決意をしているのである。折角のヒカルの誕生日だ。痛みなんて微塵も感
じさせるわけにはいかない。こういう行為は感じあい互いに高めあってこそなのだ。
舌に仄かな苦味が広がり、ヒカルの声もだんだん高くなってきている。そろそろ限界なのだろう。
「と、や…お願……」
ヒカルが涙で潤んだ瞳で懇願してくる。アキラはうっすらと微笑み、根元をしめて先端を優しく甘噛みしてやった。
「ひあっ!……あ…な……んで」
アキラの口腔に出すのだけは勘弁させて欲しいと思うのだが、欲望を吐き出したい気持ちはある。それだけに、いつもこの瞬間
は待ち遠しいようで、来ないで欲しいとも思うのだ。
だがいつもとは違い、ぞくりと背筋を走った快感に眉根を寄せて大きく身体を震わせたが、密かに期待したものは来なかった。
アキラによってせき止められているからだ。この期に及んで、アキラがわざとヒカルを押さえたに違いない。
もどかしい感覚に、ヒカルはアキラを見つめる。アキラも同じ男なのだから、こんな中途半端な状態がいかに辛いか分かって
いる筈だ。だがアキラはにこりと笑っただけで、手を更に奥へと忍ばせる。
「…ふ…うぁ……」
ヒカルの問うような眼差しには敢えて応えず、根元を掴んだまま潤滑剤をつけた指を奥まった部分にそっと這わせた。
既に先走りで濡れてはいるが、まだまだこれから解さなくてはならない。今夜は重々念入りにするつもりだった。