CROWNは、さる小説にあった記述から思い浮かんだ話でした。
作中にも登場する『世界の王』です。善でも悪でもなく、この世界に神と悪魔を作り出した真の創造主。
上記のような内容のことが小説の中にありまして、そんな真の創造主をヒカルにしたらどうだろう?という発想から生まれたのが、CROWNです。
パラレルものは自分が好きな設定で書けるのが楽しいんですが、当初話を出した時は小心者な私は読む方の反応にビビリまくりでした(笑)。
Treasureシリーズにしても、どれも設定が突拍子もないですからね!
幸いにも受け入れて頂けたので、本当に嬉しかったですね〜。
この話は本来ヒカ碁のオンリーに出すつもりでいたんですが、丁度父が亡くなった時期と重なりまして、発行が数カ月延びてしまいました。
私としてはその分書き足りなかった部分だとかを補足できて、むしろ発行が延びて良かった面もありましたけどねぇ……(←外道)。
表紙は100BOXのジンライ様が描いて下さりました。いやぁ、本当に素晴らしい表紙で、当初拝見して無茶苦茶感動しましたね!
素晴らしい表紙はこちらからどうぞ!
ジンライ様のお蔭で続編を書いたと言っても過言ではないです。
この話の続きは『百華仙帝』になるのですが、ちょっとエロが増すので多分裏に置くことにすると思います(笑)。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!
エピローグ
薄ぼんやりとした光が灯る会議室のような場所で、緒方と芦原は大幹部に報告を終えて座っていた。
『クラウン』との会話を最後に意識を失った後、気がついたら何故か薔薇十字団本部に設えられた一室に居たのである。
芦原や他にもあの国に居たスタッフも同様で、緒方は驚くよりもこの扱いを奇異に思った。何故なら、『クラウン』の眷属の力をもってすれば、彼らを長距離
運ぶなど造作もない。
問題は命を奪わなかったことと、場所が本部という点だ。
本来なら敵対する相手の所に無傷で届けるなど有り得ない。
ヒカルは本当に、アキラが悲しむから自分や芦原を殺さずにいて、傷一つつけることなく本部に帰したのだろうか?
だとしたら、アキラは彼の言葉通り殺されていないかもしれない。
疑問は確かにあったが、それでも取り敢えず身支度を整え、朝食をとって落ち着いたところで、大幹部から召集がかかった。
こうして緒方は今、大幹部達を前に報告を終えたところだった。
「今後『クラウン』に関わることは絶対禁止事項とする旨が、先程決まった。一族を倒すことに専念し、決して近づいてはならない」
大幹部の一人がゆったりとした口調で話し、同意するように全員が頷いた。昨夜の出来事を報告したにも関わらず動こうとしない大幹部達に、緒方は腹立た
しげに半ば食ってかかるように反駁する。
「ならば生贄の件はどうすると?」
いくらヒカルが自然の化身だからといって、アキラの犠牲の上に自分達の平和が成り立つなど、後味が悪いことこの上ない。
それでは本当に、アキラは自分達の差し出した生贄になる。
「塔矢アキラは死んでいない。彼は日本に早晩帰される」
「姿もこれまで通り見えるだろう。君達はいつもの任務をこなせばいい。『クラウン』に構わずにな」
「それはどういう…」
アキラが生きているという言葉に安堵を覚えたものの、実物を見るまでは安心できないと言い聞かせながら、緒方は疑問を口にしかけた。だが、別の大幹部
がそれを無視して喋りだす。
「……『クラウン』の怒りはこの世界の怒り、我らはその掌の上に居る芥に過ぎないということだ。実際に『クラウン』の姿を目の当たりにした君が分からない筈
がないだろう?」
「『クラウン』はまさしく『世界の王』なのだよ」
この世に神と悪魔を作り出した真の創造主。
善でも悪でもない、完璧に中立な傍観者。
そして最も残酷で利己的な支配者。
気紛れ一つで、世界を滅ぼしまた新しい世界を創りあげる。
「今回の件で逆鱗に触れずに済んだことを感謝するべきだ。いや、人類は本来なら百四十年前、或いはもっと以前に滅ぼされていたかもしれん。我々がこうし
て生きていられるのは、偏に創始者が遺した財産によるものだ」
「彼が傍に居る限り『クラウン』は世界を滅ぼしはすまい」
「それこそ我々がこの世を去った後も」
だから余計な心配をする必要はないと、有無を言わせぬ雰囲気で言外に告げられ、緒方は渋々頷くしかなかった。
心に多くの疑問と蟠りを残したまま。
「う……ん…」
眩しい朝の光に、アキラはぼんやりと瞳を開ける。
腕の中には優しい温もり。視線を下ろすと、ヒカルがすうすうと寝息を立てていた。周囲を見回せば、アキラにとって見慣れた室内の風景が広がっている。
不思議だった。今までの自分が生まれ変わったように新鮮な印象を受ける。
それだけではない。断片的ではあるが、遠い過去の記憶が幾つも蘇えって自然に同化してくる。
最初にヒカルと出会った自分、人間の姿をしながら人の命を喰らう恐ろしい存在と戦った自分、あの遺跡でヒカルと愛し合った自分。
どれもアキラの中に完全に納まって補完され、一体化していた。
昨日まではそれに奇妙な違和感があったのに、あんな事があったからだろうか、すんなりと受け入れることができた。
しかし、それによってアキラに昨夜の記憶が喚起される。
ヒカルと湖の傍で寛いでいると、突然緒方が現れて――。
遺跡の一室でヒカルと一緒に居たところまでは覚えている。その後のことはさっぱり思い出せない。
あれからヒカルはどうしたのだろう?そして緒方は?
様々な疑問が浮上する中、ヒカルの寝顔を凝然と見詰める。
そんな中、まるでアキラの視線を感じたように、ヒカルは眠たげに眼を擦りながら起き上がった。
「おはよー塔矢」
「おはよう、進藤」
律儀に挨拶を返したところで、心に浮かんだ疑念が晴れるわけがない。アキラは躊躇しながら言葉を紡いだ。
「あの……進藤、昨夜の――」
アキラが言い終わる前に、ヒカルはベッドを身軽に下りて、身支度を整えつつ口を開く。
「緒方さん達には帰って貰った。それよりもお前、日本に戻る時期がきてるんじゃねぇの?そろそろ準備しなきゃな」
「ボクは戻らないよ」
ヒカルと離れ離れになるくらいなら、日本に帰る気などない。
はっきり言い切ったアキラに、ヒカルはおどけた風に眼を見開く。
「オレも一緒に行くのに?学校にも転入するつもりなんだぜ?」
それこそ寝耳に水という台詞を聞いて、アキラは寝起き姿のままであんぐりと口を開き、茫然とした。
この世界の化身であり、ある意味『神』とも呼べるかもしれない存在が、普通に学校に通うなんて聞いたこともない。
まさしく世界初であるに違いない。
一体どうしてヒカルがそんな決断を下したのか、アキラにはまるで分からなかった。何より意外だったのは、奈瀬やあかりがヒカルのとんでもない我侭を許
したことだ。これには感心せずにはいられない。
ただ確かなのは、ヒカルと一緒に居られるのなら、これからの生活はもっと幸せだろうということだけだ。
彼と共に居られるのなら、どんな場所でも自分には楽園だから。
羽田空港に降り立ったアキラを迎えに来た緒方は、隣にヒカルの姿があるのに驚きで声も出なかった。
運転手役を買って出た芦原も、ぽかんとしたまま動けない。あの時見えなかったアキラの姿が確かに見えるだけでなく、『クラウン』までもが日本にくっつい
て来るとは思いもしなかった。
初めて、大幹部達の意味深な台詞に合点がいった。つまり、護衛を続けつつ『クラウン』の動向も見張れということなのだ。
空港でヒカルを紹介された塔矢夫妻は、ほんの数分話しただけですっかり彼の魅力の虜となり、二人の仲を公認しかねない雰囲気だ。
夫妻はどこかで分かっているのかもしれない。アキラがヒカルに会いに行くためにかの国に通っていたことを。
これからのことを思うと、少なからず貧乏くじを引いた気分になる緒方だったが、アキラが無事に戻り幸せな笑顔を振りまいているので一応はよしとする。
ヒカルがアキラの元に来たことで他の一族がどう出てくるかは分からないのが、不安材料だが。
一つ希望があるとするなら、アキラが一族に最も恐れられた最強の戦士であった創始者の生まれ変わりという点だ。だとすると、遠からず自らの力に目
覚める時がくる――可能性もある。
けれど謎はまだ残っている。あの時ヒカルがアキラに何をしたのかということである。
「ずっと一緒に居られるようにしただけだよ」
再会を喜び合う親子を横目で見ながら喫煙ブースで煙草を吸っていた緒方は、唐突な言葉に危うくむせかけた。
「進藤…どういうことだ?」
「言ったまんま。緒方さんはオレのこと知ってるだろ?」
にこりと笑った笑顔に邪気はない。だが意味を理解した途端に、愛らしい少年の姿をした彼が真に何者であるかを思い出した。
そして天啓のように、一つの答えが自らに訪れた。
選ばれし者は、最初から『世界の王』の為だけの存在だったのだ。
遥かな時を経て『彼』と出会ったその時から――この為に。
世界が果てる日はもしかしたら、永遠に来ないのかもしれない。
全てのモノに自らを護る本能がある。
この世界が滅びを恐れて自らを護る為にはどうするか?
滅びを選択させないように抑制させる存在を創ればいい。創造主の心を奪うほど魅力的な誘惑者を。
永い時をかけてその目的を、この世界は果たしたのだ。
もう一人の『世界の王』を創りだすことによって。
2006.1.3/2011.10.17改稿








