3594HitをGetされた、土方 瑞稀様のリクエストです。
リク内容は「道徳とちび天化の一日の過ごし方」でした。
何だかリク内容から大きく外れたアヤシゲな話になってしまい、申し訳ない気持ちで一杯です。
もうちょっと和気藹々とした可愛い話にしたかったんですけど…。
天化は生意気そうで、こまっしゃくれたガキになってしまいましたし、道徳は近所の変態親父みたいになってしまいました(←殺)。
ここを書く時、どんな話の内容だったかすっかり忘れてしまい、読み直しをする間抜けっぷりを晒した自分に乾杯!(苦笑)
この話は一話目をUPした前後からウィルス感染、右手首捻挫、パソ破壊と様々なハプニングに見舞われた思い出深い一作です(笑)。
いつもより早めの夕食を終え、道徳が天化とのんびり話をしながら洗濯物を畳んでいると、外ではいつのまにか雨が降り出していた。
「たま…あめなのにお外でだいじょうぶなんかな……」
窓からしとしとと振り続ける雨を見詰め、天化は霊穴に行ってしまった玉麒麟のことを心配げに呟く。
「霊穴の中には屋根がついているものもあるからきっと大丈夫だよ。この雨は夜半にはあがるし、あいつはこんな家よりも外の方が好き
だからね」
洗濯物を箪笥にしまいながら言う道徳は、天化から見ると余りにもあっさりとした態度に過ぎるようだった。自分はいつも道徳と一緒に
寝て傍に居るけれど、玉麒麟は反対に独りぼっちで寝ている。きっと寂しいだろうと思うのだ。
しかし道徳はそうは思っていないらしい。むしろ一人で居させたほうがいいと考えているようだ。
天化の不満を敏感に感じ取って、道徳は苦笑を零す。子供からみると玉麒麟は孤独に思えるかもしれないが、実際のところあの霊獣
はそんな事は微塵も感じていない。
むしろ、夜ぐらいは一人でのんびりしたいと考えているだろう。霊獣というからには、例え人の姿をとっていてもやはり人間ではない。玉
麒麟の感覚は幼い人間である天化にはとても理解できるものではないのだ。
道徳は永年に渡って付き合ってきているだけに、玉麒麟が昼間にしか顔を出さないことは十分納得できる。霊獣はペットというわけで
はない。主人の傍に居て喜ぶのではなく、騎乗を許した相手と共に各地を駆け回り、戦うことを喜びとする。いわば対等の仲間のような
ものだ。玉麒麟をペットと同じ扱いにすることは、彼に対して失礼極まりない行為なのである。
「さて、そろそろお風呂に行こうか」
食休みも兼ねた洗濯物の片づけが全て完了してしまえば、もう後は寝るだけだ。特に天化の就寝時間は早い。
よく周りからはもっと夜更かししても大丈夫だと言われるが、道徳からするとこれでも遅いとすら思うのだ。過保護だとか甘やかし過ぎ
だとも指摘される。しかし、他の十二仙の天化への甘さに比べれば、自分など十分厳しい部類に入るだろう。
事あるごとに『天化た~ん。じーじと遊びまちょうね~』とか、一体幾つのつもりだとツッコミたくなる歳のくせに『お兄ちゃんと一緒にお菓
子食べようね』だとか、『おじたんとお散歩しよう、そうしよう』などと赤ちゃん言葉を交えて天化を誘う姿には、仙人としての威厳もへったく
れも有はしない。そこに居るのはただの子供好きの馬鹿集団である。
特に筆頭は元始天尊で、玉虚宮で大人しく碁でもうっていれば良いものを、暇を見つけてきては『じーじの宝貝の威力をみせてやろう
ぞ』などとのたまって、自分に攻撃を繰り出しては天化の気を引こうとするのだ。
いくら手加減しているとはいえ、盤古幡を使われた時にはさすがに身の危険を感じ、思わず莫邪を繰り出して重力波を両断したもの
だから、『人の見せ場を奪いおって!』と後で散々怒られてしまった。とはいえ、そんな事をされて青峰山を潰される訳にはいかないし、
いくらなんでも子供の気を引く為だけに山を一つ消滅させるような危険な真似は止めて欲しいと思う。
お陰で嫌がらせのように、今度は御前試合を命じられてほとほと参っているのだ。
実際、天化はその時の道徳の勇姿にすっかり夢中になっていたものだから、余計に怒りを買って目の敵にされていたのだが、道徳
はその点についてはまったく気がついていなかったりする。
道徳は内心溜息をつきながら寝巻きを用意し、風呂と聞いただけで機嫌が直った天化を手招いて風呂場に向かった。
広い屋敷を移動すると、入口にまるで銭湯のような暖簾のかけてある浴場に着く。この大浴場は源泉である露天風呂と繋がっており、
客用離れにも湯を送っている。よって紫陽洞の風呂は全て温泉だ。露天風呂は屋根が一部につけてある為、雨や雨や雪の日でも使用
は可能だが、今日のところは止めにしておくことにした。
天化は慣れない手つきで服を脱いで脱衣籠に入れ、師匠の後に続いて風呂場についていった。
頭をちゃんと洗えないので天化の髪を洗ってやり、身体は自分で洗いはさせたものの、耳の後ろだとかができていないようなので洗い
直しをする。人心地ついたところで二人で湯に浸かった。
背が低い天化が下手に入ろうものなら溺れてしまう深さだ。道徳の膝の上にちょこんと座って、やっと肩まで浸かる状態になる。
道徳の厚い胸に背を持たせかけ、天化は四肢をゆったりと伸ばして満足げに瞳を細めた。溺れないようさえいげなく天化の身体を支
える道徳の腕は力強く、日頃着込んでいる道服からは想像もつかないほど引き締まっている。
そうしょっちゅうではないが、時によっては道徳は天化が退屈しないよう、様々な方法を使って風呂の中で遊んでくれたりする。今日は
空気を含ませた手拭を色々な形にする遊びだ。
空気を孕んだまま湯に手拭を潜らせて絞ると、大きな泡を吹いて萎み、同時に天化の眼の前の湯が大きく跳ねる。今度は空気を入れ
たまま球形にして水面に浮かばせ、少年の顔を悪戯っぽく笑って覗き込んだ。
「ほら、アンマンみたいだね」
「ホントさ、あんまんさ」
「じゃあ、明日のおやつはアンマンにしようか」
「うん!あんまんがいい!」
道徳のお手製アンマンはとにかく美味しい。嬉しくなって見上げた道徳の顔は、普段よりも大人びていた。
バンダナを外している前髪は水気を含んでしっとりと濡れ、額にかかって影を落としている。
襟足の髪が項にはり付き、意外と細い首の線を強調していた。一見すると優男な感もする道徳なのだが、修行や様々なところで見る
師匠の姿は幼い天化から見ても格好いいと思った。別にlこれがどうという訳ではないが、大人になったら道徳のように剣が似合う、格
好良い男になりたいt憧れているのだ。
それに道徳が使う不可思議な術も使えるようになりたい。莫邪の宝剣を何もない空間から呼び出して使ったり、巨大な火球を呪文の
詠唱によって作り出すといった、人間には決してできないことを平然とやってのける師のように、自分もそんな風に超常的な力を使えた
らどんなに凄いだろう。そしてそれは、努力次第で天化にも実現可能なものなのだ。
「そろそろあがろうか。天化」
天化の頬が上気してきたのを見て取り、道徳はのぼせる前にと少年の身体をそのまま抱き上げて浴槽から出す。天化がもう少し浸
かっていたそうにしているのは分かっていたが、これ以上はよくないだろうと判断した。
脱衣所で髪から水気をとってやり、寝巻きを着せて天化の手を引いて居室に戻る。寒い雪の日だと、天化が湯冷めしないようにする
為に、抱いたまま廊下を渡ることもあった。過保護だとは思うのだが、地上の寒さとは比べものにならないほど青峰山は冷える。
今の季節でさえ、昼間は暖かくても、夜になるとかなりの冷え込みなのだ。
部屋に入るとすぐに天化を寝台に寝かしつけ、自分も横になった。道徳がこうして寝転がらないと天化はいつまでも寝ようとしない。
師匠に付き合って起きていようと、眠い目を擦って自分も寝まいとするのである。
幼い弟子にまでそんな気遣いをさせる訳にはいかない。だから道徳はいつもこうして、天化が眠るまで一旦横になることにしている。
「こーち、おはなしよんで」
道徳が傍に来ると、天化は早速枕元に置いてあった絵本を見せて催促してきた。そんな弟子を可愛く思いながら道徳は天化を引き
寄せ、絵本を開いて天化にも見えるようにして肘をつくと、耳元におどけた口調で尋ねてみる。
「昨夜はどこまで読んだかな?天化は覚えているかい」
「あのね、ぶたさんがおうちつくるとこ」
「はいはい、じゃあここから読むね」
張りがあって豊かに響く声でありながらも、柔らかな声が物語を着実に読み進めていく。
最初はわくわくして一生懸命に聞いていた天化だったが、道徳が頁を一枚めくる毎に瞼を何度もしばたかせるようになり、欠伸をか
み殺し始めた。恐らく途中からは話の内容を理解することも、聞くこともできずにいるようになったに違いない。
しかし道徳は止めようとはせず、ゆったりとした口調で天化の眠りを誘うように、低く甘やかな声で読み続けた。
やがて少年の瞼が完全に塞がれ、規則正しく穏やかな寝息が静かな部屋に小さく響き始める。
そこで道徳は初めて本を閉じ、近くにあった卓に置いて身を起こした。触れていた温かみが失せて少年は微かに眉を顰めたが、額
に道徳が口付けると嬉しげに頬を緩めて身体を赤子のように丸める。
道徳は寝台を下りて机に向かうと、昼間していた書類を片付け、他の書簡にも眼を通して筆を走らせた。そうして幾つかの書類を纏
めて終わらせてしまい、箱の中に入れて封を施した。これで明日は天化の相手をほぼ一日中できるようになる筈である。遊びながら
の修行も。そろそろ次の段階へ進まねばならないのだ。
少しでも強いものになってもらいたい。どんな逆境にも耐えられる、精神力と身体を持った者に。
眠る弟子の顔を見詰めて道徳はそう願いながらも、きっとこの子なら大丈夫だと、奇妙な確信をも抱いていた。
微かに笑みを浮かべて頬を撫でてやり、明かりを消して天化の隣に潜り込む。
「おやすみ天化。よい夢を」
自分の胸に擦り寄ってくる少年の頬に口付けを落とし、小さな身体を抱きしめて瞳を閉じる。
きっと明日は晴れるから、天化ははしゃいで今日の分も走り回るだろう。
元気な笑顔が何よりもこの子らしい。明るい太陽が天化には一番似合うのだから。
2002.2.22