COOL(ヒカルの碁)COOL(ヒカルの碁)COOL(ヒカルの碁)COOL(ヒカルの碁)COOL(ヒカルの碁)   塔矢アキラ日記U塔矢アキラ日記U塔矢アキラ日記U塔矢アキラ日記U塔矢アキラ日記U

○月×日(第2局)

今日ボクは碁会所で進藤ヒカルという子と碁を打った。…自分でも信じられない、2目差で負けてしまった。
自分でもよく分からないのに強いと言っていたあの言葉…あれはその通りの実力だということなんだろうか?
それなのに、碁石を持つ手つきはまるで初心者だった。本当に碁石を数える程しか触った事がないような…。
しかも、まるで誰かに言われるままに打ってるみたいにも見えた…。でも彼は確かに一人だったし。
それに…何か不思議な感じがした。視線を…遥かな高みからボクを見下ろしながら、慈しむような視線を…何かの気配を…。何だか優しい感じがしたような…アレは一体…?
でも実際、そんな事普通ならある訳ない。進藤は一人だったんだから。
しかし…あの石の筋、流れ、定石の型は古い印象だけど相当な実力者だとしか思えない。けれど、進藤は「今まで一度も対局したことがない」と話していた、と市川さんが教えてくれた。
一度も対局したことがないなんて…それなのにボクに指導碁をするなんて有り得ないよ。
ボクは周囲の影響で、少し慢心していたのかもしれない。これからも、もっと碁の勉強をしなくちゃ。
あの子は一体何者なんだろう?進藤ヒカル…ボクと同じ小学六年生…。
不思議な予感がする。もしかしたら進藤ヒカルは、ボクの生涯のライバルになるかもしれない。
如何にも碁とは無縁そうな印象の、小柄で元気なかわいい子だったけど、もう一度対局できるだろうか?



○月◇日(第3局〜6局)

お父さん…お父さん…ボクは一体どうすればいいんでしょう?ボクの眼の前に、大きな壁が立ちはだかっているんです。進藤ヒカルという大きな壁が…。いずれプロになろうと、切磋琢磨しているというのに。
ボクが彼に負けたあの一局は、自分の油断が招いたものだと思い込もうとしていました。でもそれは違ったんです。彼の実力は本物で、とてつもなく大きな壁となって立ちはだかっているんです。
あの暴言が許せなくて挑んだけれど、まさかあんな風に負けてしまうだなんて…。
でもいま考えてみると、彼が言った言葉は、棋士として勉強をまるでした事がない者が話すことで、碁のことも何も知らない小学生なら冗談のように軽く思うことでもあったようにも、感じるんです。
だって…コミもニギリも知らない様子だった上、碁石をいつも掴んでいる手ですらなかった。
一体彼は何者なのか、ボクにはもう分からない。でもボクが負けたことは確かな事実なんだ……。


○月□日(第10局〜12局)

………美しい一局だった…本当に。今思い出しても胸が震えるような感動すら覚える。
あの一手一手の石の流れ、盤上で築かれる宇宙の息吹…彼の対局者でなかった自分が残念でならない。 サイズの合わない大きな詰襟を着ている彼は本当に小柄で、まるで制服に埋もれているようで可愛かった。
今日海王中学に行くと、偶然にも進藤ヒカルの対局を見ることができた。 お父さんの恩師である校長先生に囲碁部に入るように誘われたけれど、ボクは入るつもりはない。それよりも進藤ヒカルと打ちたい。
そういえばお父さんも彼と打ったと緒方さんから聞いたけど、彼は数手だけでその場から姿を消したらしい。
今日の一局は素晴らしかった。僕は心底彼と打ちたい。ボクは彼の実力を誰よりも知っているのだから。
進藤ヒカルの対局者はボクだけがなりたい。そう思うのはわがままなんだろうか。


◇月○日(第13局)

葉瀬中に進藤を碁会所に誘いに行った。そこでボクは進藤にボクとは打たないと告げられた。
ボクとは打たないだと!ふざけるな!
何の為にあんな所まで行ったと思うんだ!?偏に君と打ちたいがためじゃないか!
学校の生徒が存在を知らないような部で、しかも部室もなくて理科室という囲碁部で、キミほどの人が満足できる筈がない!キミが満足できる相手はボクだけだ!…ってダメだ…日記にこんな事を書くなんて。もっと冷静にならなきゃ。そりゃ義務教育課程では、どうしても部活には入らないと行けない学校だってあるけれど。
でもボクは…誰と対局しても進藤のことばかり考えてしまう。進藤の事を思わない日はないんだ。
こうなったら、進藤が対局せざるを得ない状況を作るまで。ボクは海王中囲碁部に入る。進藤と打つ為に。


◇月△日(第14局)

海王中囲碁部に入部の手続きを済ませ、部活動に参加した。
伊先生と打った時に進藤の話が出て、進藤に勝てるのはボクだけだと仰った。勿論ボクもそのつもりだ。
ボク以外の誰が進藤と打つことができるというのだろう?そんなの天の真理だ。
囲碁部の女生徒に指導碁をしたけれど、それよりもやはり進藤と打ちたい。


□月◇日(第15局〜16局)

昨日お父さんが四つ目のタイトルを獲得した。いつかボクもお父さんのように囲碁界を引っ張っていける棋士にならなくては。その為には進藤の存在が欠かせないような気がする。
海王中の囲碁部に入ったけど、考えるのは進藤との対局のことばかり。
次にキミと対局するまでに、ボクはどれだけ強くなれるだろう。神の一手に近づけるだろうか。
そういえば今日何人か囲碁部の人と対局したな。誰だったっけ?名前全然覚えてないや。


□月△日(第17局〜18局)

俗に言うイジメというやつをボクは体験したが、結果的には反対に相手を追い詰めてしまったようだ。
だが、目隠し碁ぐらいでうろたえていてはボクもまだまだだ。日高先輩に面倒をかけたりもしたし。
進藤と対局するためにはどんなことだってする。囲碁部にいるぐらいなんでもない。
けれどこれだけは言える。進藤ヒカルと対局できるのはボクしかいないと!
不遜でも、自惚れでもない。進藤と互角に対峙できるのはこのボクだけなんだ!


△月×日(第23局)

進藤と対局できれば、囲碁部をやめると伊先生に告げた。進藤が三将ならば、ボクも三将でなければ意味がない。ボクは進藤との戦いだけを思ってこの部に入ったのだから。
例えこの大会だけでもいい。進藤と再び合間見えることができるなら。彼と一手を追求できるなら。
けれど、この大会が終わったら、ボクはどうすれば進藤と対局できるだろう。考えておかなければ。


△月◇日(第23局)

進藤…以前のキミに神の一手を見たとすら思ったのに……。あれは一体なんなんだ!ふざけるな!
以前の老練な打ち回しも、冷静で適切な石の流れもない。一体どうしたというんだ。
あんな碁と向かい合うためにボクは今まで鍛錬してきたわけではない!
…でも不可解なこともあった。対局を始めて少しの間は以前の彼だった。それが急に崩れてしまった。
11の8…あの一手から。でも不思議とその一手にボクは惹かれている。今までよりももっと気になってしまう。
進藤の見せた11の8は強く心に残って頭から離れない。印象深く異彩を放つ一手だった。
だがその後の打ちまわしは最悪の一語に尽きる。これじゃまるで初心者の碁じゃないか!
彼は出会った時の言葉どおり初心者で、碁石すらまともに持ったことがなかったのか?
全くの初心者があれから実力をつけてきたのだとしたら、見事な成長だろうけど、答えにはならない。
あの時ボクが見たのはただの幻影?これが進藤の真の実力?だったらボクは何を追い求めていたのか…?
それなのに、それなのに……ボクはまだ進藤のことを考えている。進藤のことばかり思ってる。
きっとボクは以前よりも彼と打ちたいと思っている。あんな初心者の進藤に失望した筈なのに…?
進藤に逢いたくて堪らない。以前以上に強いこの思いは、どういうわけか膨れるばかりだ。
とにかく進藤の事はもう忘れよう。寄り道だったんだ。…そう、寄り道だったんだ……。


×月○日(第31局)

棋院に外来でプロ試験予選に行った。進藤の事はもう忘れると決めたのに、どうしても考えてしまう。
寄り道…本当に寄り道だったんだろうか?進藤とのあの一局は避けては通れない通過点だったのではなかったのかと、時折思ってしまう。…ダメだ、考えちゃ。ボクはプロの道を真っ直ぐに進むんだ。進藤など目もくれずに。
そういえばボクと同年代の院生の二人が、ネットで強い人のことを話していた。何かひっかかるな。


△月□日(第33局〜34局)

……まさか…進藤?そうなのか?……最初の数手は確かにあの時のもの…ボクが一刀両断にされた…。
まるでボクであるか確かめるように全く同じ手で…いや違う!進藤のはずがない!
最初の数手になど定石通り同じになることなんてある。
現にすぐに別の手を打ってきたじゃないか!
でも…ボクが気付いたと感付いてわざと打ったとしたら?そんな事どうしてする必要があるんだ?
必要なんてないじゃないか。そうだ、あれは進藤じゃない。進藤のはずがないんだ。
アマチュア囲碁カップになんて行くんじゃなかった。会場の雰囲気の異様さに足を踏み入れたりしなければよかった。折角進藤の事を忘れようとしていたのに。ボクに進藤を思い出させるように、あんな事があるだなんて。
あのsaiというネット棋士は子供かもしれないという。緒方さんは進藤かも知れないと考えているようだが、見込み違いだ。進藤の実力は大会でよく分かった。あれが進藤の持つ力で、それ以上でもそれ以下でもない。
saiとは次の日曜日に再戦することになった。プロ試験本戦の初日だが、そんな事どうでもいい。
とにかくsaiのことが気になる。どことなく進藤の気配を感じる棋士…まさかね、正体は打ってみれば分かる。