初期の頃に書いた話で、地上の星では二話目にあたる話です。ヒカルにとって佐為が宿っていた碁盤をアキラに見せるのは、一つの区切りというか一種の通過儀礼のようなものになるような気がして、書いた記憶があります。
Refrainにて再録するにあたり、色々と加筆修正はしましたが、サイト連載する際にも微妙に修正したりしています。
ヒカ碁でまともな?Hシーンを書いたのもこの話が二回目くらいでしょうか?
正直、私はこういうシーンを書くのはどちらかというと、苦手だったりします。書くこと自体は嫌いではないんですが、どうも文章力が追いつかないんですよね〜。
ヒカ碁を書いて何年にもなりますが、未だに苦手観が拭えないです。
実のところ、どのジャンルの話でもそうなんですけどね(笑)。
でも、某友人にはそういうシーンになると私の文章がウキウキと踊っているということでした(爆笑)。どんだけHシーン書くの好きやねん!って話ですね〜。
確かに好きです、ええ!大好きですとも!(どどん!!)
だからこそ、余計に理想と現実のギャップで苦手意識が募ります。
私の理想のHシーンは「色っぽく扇情的、直接表現を使わずぼかしつつ、想像力を掻きたて、それでいて下品でない文章」というものです。
どう足掻いても無理でんがな!と高過ぎるハードルに毎回吐血してます(笑)。
「んぁ…は…ぅ」
キスをすると、頬にかかるアキラの髪がくすぐったい。何だかそれが彼としているという安心感に繋がって、嫌ではなかった。アキラはこれでも結構
キスが上手い方だとヒカルは思う。彼以外としたことはないが、いつも夢中になってしまうのだ。だからキスは好き。
彼と肌を合わせていると、すぐにどんな気持ちなのかが分かる。怒っているのか、泣いているのか、喜んでいるのか。囲碁の手合のように伝わって
きて分かりやすい。アキラの碁は力強く、一見すると物腰柔らかな普段の彼と繋がらないようにも感じるが、実際のところアキラの本質を映し出す鏡
のようなものだ。強情に強行にわが道を貫き、強引に勝ちを引き寄せるアキラの碁は、打ちに潜む激しい気性が現れている。
ヒカルはアキラと肌を重ねなくても、身体をくっつけているだけで十分満足する。しかし、アキラはそうはいかないのだ。攻めの碁を打つ彼らしく、ヒ
カルの内部にまで侵食しないと気が済まないらしい。
最近、アキラとこの行為をしていると、堪らないくらい気持ちよくされることが増えてきて、途中から自分でも何が何だかわからなくなることがある。
特に最後の方になるに従って、身体の熱さとせり上がってくる感覚についていけず、何を口走っているのか、どんな声を出しているのか記憶にない
こともしばしばだ。焦らしたり、強引にしたりと、色々と試しているらしく、囲碁以外でも研究熱心なアキラには根を上げそうだ。
言いだしっぺは自分とはいえ、ちょっと早まったかもしれないと反省しきりだ。
(痛みを感じないように技術向上しろ、なんて言うんじゃなかったぜ……)
例えに囲碁を持ち出したのも、アキラが向上心を持つきっかけになっている原因に違いない。
院生試験→若獅子戦→プロ予選→プロ試験本戦→初段→の順番で徐々に痛みがなくなり、初段で痛みが全くないことにしようと考えたのは、我な
がら名案だと思ったのに。初めてアキラとした時、している最中は痛みを感じる余裕もなかったが、一夜明けてからの翌朝がひどく辛くて、ついつい
あんな事を言ってしまった自分の迂闊さを呪いたい。
でも、あの日の翌朝は本当に激痛に苛まれた上に腰もしんどくて、アキラに勉強して貰ってでもその辛さから逃れたかったのだ。
(この勢いだと…将来はタイトルホルダーかな?……こいつのことだから、絶対に八冠全制覇狙ってるよな)
肌の敏感な部分をまさぐる男の顔を見上げて、ヒカルは熱い吐息を零しながらぼんやりと考える。お陰で痛みを感じなくなったのは有り難いのだが、
全タイトル制覇なんてことになったら自分はどうなるのだろう。
有言も無言ももれなく実行のアキラなら確実にやりかねないだけに、空恐ろしいものがある。しかも、相手はヒカル限定ときたものだ。
(囲碁でタイトル狙えよ。……バカ………)
だが現実問題として、確かに目標の一つとしてタイトルは欲しい。自分の生活だって安定するし、地位というものは利用できる。アキラとの関係でも、
タイトルホルダーであったなら、ばれた時に排斥される可能性も少しは低くなる。無冠のただの棋士なら無理矢理引き離そうとしたり別れさせようとし
たり、排除しようともするかもしれないが、冠があるとそう簡単にはいかない。
タイトルホルダーというだけで人気は一気に高くなるし、そうなると扱いも大きく違う。
常に何か一つのタイトル――ヒカルの場合はできたら本因坊位などのタイトルを保持しておけば、文句をそうそう言わせたりしない。江戸時代からの
風習で、碁界ではこういう関係についてそれなりに甘いといっても、誰もがそうとは限らないのだ。
もしもの時のためにも、タイトルは必要だ。できれば強力なスポンサーのような後ろ盾もあったら尚いい。
ヒカルは何があっても、アキラをなくすわけにはいかないのだから。
ヒカルは無邪気で天然な性格だが、現代っ子で現実主義なところもあるだけでなく、意外に計算高くて強かな一面も要している。その点、アキラは囲
碁に関しては純朴過ぎる面があり、頭脳は優秀でも世間ずれしていないところがある。計画性はあっても、計算高くはないのだ。
尤もアキラなら、タイトルは必ず獲得するだろうから余計な心配をする必要もないが。
「進藤……」
軽い音を立ててキスをされ、アキラがヒカルの砂色の瞳を覗き込んできた。
「何考えてたの?」
「…うん?………おまえは将来どのタイトル獲るかなって…」
「獲れるかどうかも分からないのに?」
「おまえなら絶対に獲るよ。例えば名人とかさ」
柔らかな口付けを幾つも受けながら、ヒカルはうっとりと眼を細めて答える。
「ご期待には添えたいね。でも、今はこっちに集中して、進藤」
「アキラはヒカルの耳朶に甘く囁き、反応し始めている中心に手を這わせた。
「あ!…や……ぁ、と…や」
「嫌じゃないくせに」
喉の奥で低く笑い、ヒカルのすんなりとした足を広げさせ、下肢に舌を這わせていく。
膝を立ててアキラの頭を抱え込むような格好が、もっと快楽を強請っているようで堪らなく恥ずかしい。薄手の布団の下で蠢く二人の様子はひどく
淫猥で、日頃の雰囲気をまるで感じさせない。歳若い彼らが同性同士で猥雑な行為に没頭しているなど、誰にも想像できないだろう。
「うぁ……く……」
ヒカルは金と黒の髪を揺らして頭を左右に振り、無意識に与えられる感覚を逃すように足の爪先を立てた。アキラがそこを舌で触れ、形の良い唇
で愛撫を施しているのが見なくても分かってしまう。
女性にされたこともないj行為を、同性のアキラにされているのが、いつまで経っても慣れられない。
清廉潔白な外見のアキラがヒカルにこんな事をしているのだ。それだけでなく、彼はヒカルを組み敷いて快感に喘がせ、なかせてもいる。
アキラはヒカルの中心から零れる雫の助けを借りて、自身を受け入れる箇所を念入りに解していく。
「…あ、やぁ……ん!塔矢…ぁ…」
自宅だと潤滑剤を用意してあるので、少しはスムーズに運ぶのだが、ヒカルの部屋にはそんな物はない。
解すにしてもヒカル自身の先走りなどを利用するしか他に方法がないのだ。元々から女性のようにアキラを受け入れる器官ではない分、受身の
ヒカルの負担は大きい。独占欲の強いアキラは、本音では潤滑剤すら使うのが嫌になる時もある。自分とヒカル以外の存在が間に入るのが我慢な
らなくなるのだ。ヒカルの安全を考えて使用しているが、将来的には時には使わないで済むようになりたいからこそ、技術的にも向上せねばならな
いと思う。丹念にじっくりと広げ、甘い吐息を紅い唇から零し、どこか虚脱した表情をしているうちにうつ伏せにすると、背中からしっかりと抱き締め
て自身を少しずつ埋め込んでいく。
「ひぅ……う、あ…………あっ!」
「大丈夫だから…力を抜いて……進藤」
やはり潤滑剤を使わないときついのか、ヒカルは瞳から涙を溢れさせてシーツを手繰り寄せ、苦しげに息をついていた。
そんなヒカルを落ち着かせるように背中に口付けを落としながら、ヒカル自身にも手を伸ばす。
「……やめ……ぅ…ん」
ヒカルの呼吸が苦しげなものから少しずつ艶を帯び、冷汗が浮かんで白くなっていた滑らかな背筋が桜色に染まり始める。口元に拳を当てて甘い
吐息を零すヒカルの頬は赤く染まり、瞳も潤んでいた。アキラは背中から覆い被さるようにしてヒカルを抱き締めながら、ゆるゆると腰を進めた。
「あん!ふぁ…あ…くぅ」
「……痛くない……?」
「う…あぅ…!……いた…く………ない」
アキラの動きに翻弄され、絶え間ない喘ぎの中から素直に頷く。
それでもアキラはヒカルへの攻めをしばらく緩めずにおいて、再度確認するように尋ねる。
「……本当に?」
今のヒカルには、アキラを気遣う余裕すらない。紛れもなく感じたままに告げた言葉だったのだろう。
問いにこくこくと子供のように何度も頷く頬に愛しげに口付けを落とし、アキラはもう一度ヒカルを強く抱き締め、不意に動きを止めて自身を引き抜いた。
「…あ…?くぅん!……やだぁ…塔矢…!?」
熱くて、蕩けそうに深い快楽の波に攫われかけたのに、それを中途半端な状態でとめられ、もどかしてく堪らない。もっと強い刺激を覚えてしまってい
る身体には、ひどく物足りなかった。自分でも浅ましいと分かっていても、アキラに問うような責めるような眼を向けてしまう。
アキラは潤んだ瞳で訝しそうに振り返って、睨んできたヒカルを宥めるように髪を梳き、そっと唇を重ねた。
「進藤の顔が見たいんだ。少し我慢して……」
細い腰を掴んで身体を仰向けの体勢に入れ替えると、再び自身を驚かさないようにゆっくりと挿入した。
「好きだよ、進藤」
「……うん……」
カーテンの隙間から入る光に前髪を輝かせてヒカルは頷き、アキラの背に腕を回して瞼を閉じた。後背からの行為で進めて慣らしたので、今度はすん
なりとアキラを受け入れ、ヒカルの呼吸も落ち着いている。
再び腰を進めて最奥を打ちつけ、緩やかな動きから徐々に激しいものへと変化させていった。
いつもヒカルは綺麗で可愛いが、こういった行為の最中にしか見せない姿が幾つもある。
欲情に潤んだ砂色の瞳、赤い舌を覗かせる色付いた唇、アキラを求める高い声、ほんのりと上気した白い肌。
それらすらも一部で、肌を重ねるたびにヒカルはアキラに違う姿を見せてくれる。
だから溺れる。離せなくなる。もっと、もっと、欲しいと、貪欲に求めてしまう。
綺麗なヒカル。どんなものにも穢されない、侵されない、神の愛し子。ヒカルに触れられるのは、囲碁においてもこの行為においても、アキラだけに許
された特権だ。二度と手離せない。ヒカルを喪ったら、アキラはきっと壊れてしまう。
アキラにとってヒカルはかけがえのない存在だった。失えば根本から崩れるほどに。
「……あっ…あ!」
ヒカルの腕が背中を彷徨い、潤んだ瞳がアキラを映し、揺すられる動きに従って涙が頬を伝っていく。
汗ばんだアキラの背筋を青白い月光が照らし、いつのまにか床に落ちた布団に二人の陰影を刻む。
「ひぁぁ!あぅ……く…ぁ…」
ほっそりとした足を大きく広げ、爪先は空を所在なくもどかしげに掻き、紅い唇は悲鳴じみた高い嬌声を上げた。無意識にアキラに合わせて身体を揺
らめかせ、白い脹脛を腰に絡めてくる。もっと欲しいというねだるような甘い仕草は、ヒカルが感じ入っている証拠だ。
それに伴って内部の収縮も淫猥に変化し、アキラをどんどん追い詰めていく。
「く……」
僅かに眉を顰めて耐えたアキラは、何度も自分を呼んで縋りついてくるヒカルの姿に満足気な微笑を浮かべて、口唇を触れ合わせながら動きをより
激しくしていく。
「―――――――っ!!」
一際高い嬌声をアキラの咥内に迸らせ、同時に内部を満たす熱を感じたヒカルは、四肢の力をしどけなく抜いた。
今日は休みで良かったと、目覚めた時にヒカルは思った。何せ滅多に見れないものを見ているからだ。
カーテン越しに入る明け方の光は僅かだが、すぐ傍にある顔を観察するには十分な明るさである。
塔矢アキラの寝顔を見られるだなんて、そうそうある筈がない。こういった行為をした翌朝は、いつも決まってヒカルよりも先にアキラが起きている。
眼が覚めてすぐ、間近にアキラの顔があるのだ。誰でもちょっとは驚くだろう。こうして寝ている姿を見ると、いつも鋭い光を宿した切れ長の黒い瞳が
伏せられているだけで、随分印象が違うように感じた。男っぽくなったと思う容姿も、眼を伏せると十分美人で通る。
その気で女装すれば、さぞや似合うに違いあるまい。ヒカルもその気でなくても見事に化けられるのだが、本人に少しも自覚はなかった。
誰にも渡すものかというように、自分をしっかりと抱き締めて眠るアキラを見詰めて、ヒカルは小さく笑う。
アキラの頬にかかる黒髪そっと払ってやると、瞼が微かに震え、ヒカルが惹かれる清々しい強い光を宿した黒い瞳がゆっくりと開かれた。
間近に居るヒカルをしばし茫然と眺めて眼を瞬かせている。いつもなら先に起きてヒカルの寝顔を鑑賞するのに、反対に自分の寝顔を鑑賞されてい
たことにも、半覚醒の状態では理解できていないらしい。
そんなアキラを悪戯が成功した子供の笑みを湛え、ヒカルは覗き込む」
「おはよ、塔矢」
「……おはよう、進藤」
アキラは寝起きであっても律儀に答えて、ヒカルを腕に抱き締めて安心したように息をついていた。
「おまえ今日仕事は?」
「うん……ないよ」
まだ眠いのだろう。声は掠れて、甘えるような響きを含んでいる。
「マジで?」
「……疑うの?」
半分寝ているくせに、いけしゃあしゃあと尋ねるアキラをしげしげと眺める。この男は、ヒカルとの二人きりの時間を満喫するために、仕事の一つや
二つキャンセルしかねない。その程度のことは平然とする面も持ち合わせているし、前科もあるものだから、疑うもへったくれもありはしないのだ。
アキラは本当に、こういう部分では子供のようである。だだを捏ねて、ヒカルと一緒に居たいと態度で示す。
「疑うわけじゃねぇけど、おまえ前科たあるからなぁ…」
「仕事に関しては………大丈夫。……キミと会うと前もって分かっている時は、必ず次の日は空けるように…、スケジュールを調整しているから……。
ボクだって…身体を休めたい時はあるからね……」
夢現で切れ切れであっても、理路整然と答えるあたりさすがだが、それだけに信憑性のある台詞だ。にっこりと笑った邪気のない笑顔を見るにつ
け、棋院の事務職員の哀れな泣きっ面が眼の前に浮かぶようだった。
「……あっそ」
「それよりも……もう少し寝ないか…?まだ明け方頃だろう」
アキラの言う通り、起きるにはまだ早い時間だった。朝の光はまだ弱く、部屋も薄暗い。
「そうだな」
ヒカルが頷くと、限界だったのかアキラはすぐに瞳を閉じて微かな寝息を立て始めた。
あどけない寝顔を眺め、ヒカルは綺麗に澄んだ微笑を浮かべると、アキラの胸に頬を摺り寄せて瞼を閉じる。
独占欲と執着心の固まりのような男だが、その実ヒカルへの愛情は比類ない。それがとても心地いい。
自分だけを見詰めている瞳は、ヒカルにとっては何物にも換えられないものだ。
今なら認められる。どれだけ佐為が大切であっても、ヒカルはアキラを追ってしまうだろう。
何度同じことを繰り返しても、ヒカルは必ずアキラを追う。佐為を喪うことが分かっていても。
それが罪だというのなら、何度でも同じ罪を犯す。業であるなら、その業を背負うまで。何故なら過去へは戻れない。全ての経験をひっくるめてここ
に居るのがヒカルだ。
終りのない道を進むのに、共に歩く存在がここに居る。終わりなどない、とアキラが語ったように。
佐為の碁を受け継ぎ未来へと繋ぐのが、ヒカルなのだから。
繋がり続ける未来へと――。
2004.4.21 脱稿/2007.4.22 改稿/2012.5.5 再改稿








