私の子天化話第一弾です。丁度12仙が封神された頃に思いついた話で、天化のきぐるみと12仙が書きたくて書いた話ですね(笑)。
 それと今回打ち直して気がついたのは、私は強い師匠の姿も書きたかったんだなぁ…と分かりました。その反面、玉鼎&楊ゼンファンの方には悪いなぁと思いつつ、ついつい崩してしまう私です(笑)。
 随分昔の原稿なので、全面的に手を加えています(汗)。
 この話を載せた本「ちょこっとLove」は超小部数発行でして、広夢さんが表紙を描いてくれた1刷目は10部に満たなかったかと…。2刷目は身内用に作ったので、私が字だけで表紙を作りました。
 この話には続きがありまして、一部に伏線もはられています。
 どう続いていくかは今後UPしていくうちに分かるかと…多分(オイ)。
崑崙山脈一週旅行X崑崙山脈一週旅行X崑崙山脈一週旅行X崑崙山脈一週旅行X崑崙山脈一週旅行X   CoolCoolCoolCoolCool
「師父、師父。昨日のえんかい、俺っちも出たかったさ」 
 肩口から頭を覗かせて不満を言う弟子に、道徳は冗談じゃないという風に首を振る。
 
「あれは悪い大人の見本みたいなものだから、止めておいて丁度いいの。お前には宴会なんてまだまだ早いよ」
 
「ちぇっ!ケチくせぇ…。師父以上に悪いおとなのみほんなんてねぇと思うけどな……」
 
 修行以外で見せる道徳の子供じみた悪戯(悪行)を見、反面教師として育っている天化の実感の篭もった台詞を師匠は聞き逃さな
 
かった。にっこり笑って振り返り、天化の頬をぐいーっと引っ張って猫なで声で問いかける。
 
「生意気言う可愛いお口は…このお口かな〜?うーん?……明日は休練日にしようと思ったけど…やめちゃおっかな〜」
 
「どうもひゅみまひぇんでひた。コーチィ……」
 
 こういう子供っぽい行動こそ反面教師にせねばなるまい、と心底思う弟子であった。
 
「全く…口ばっかり達者になるんだからねぇ。私みたいに穏やかで優しく、家事労働が得意で術も武術も高水準、尚且つ顔も良い。
 
その上洞府も邸も広く地位も高い、と世間一般で評判の師匠をいつも虐げるんだから……」
 
 自分でそこまで言うか、とは天化は突っ込まなかった。その分性格の悪さと悪戯好きで子供じみたところでおつりが出る、とも言わ
 
ずにおいた。道徳が自分自身の事を、今言った通りに感じていないことぐらい知っていたからである。
 
 本人が語ったように世間一般の評価を述べただけだ。彼の上辺だけを見た世間一般の、ではあるが。
 
 道徳は客観的で冷徹に自分自身の能力を批評できる人物だ。自信は持っていても決して奢ることはない。だがそういった態度が
 
不遜で傲慢に見える上に、元々の態度が居丈高なところがある。だが童顔な顔と穏やかで爽やかな笑みで大抵の相手はそこまで
 
気がつくことはない。ある意味見事な処世術だ。そして彼をよく知る者は嘆かわしげに嘆息する。中身と外見は大違いだと。
 
 彼の一番の理解者である天化は道徳に手を引かれてとことこあるきながら、他者の評価を鋭く訂正する。
 
「顔は正装か礼服じゃなきゃカッコよくねぇさ。そりゃ、師父の正装姿しか見たこたねぇ人にはそう見えるんだろうけど。いつもの師父
 
はボーっとしててボケボケさね。カッコよく見えるのは修行のときぐらいのもんさ。カッコよく見てほしけりゃ、毎日礼服にすれば?」
 
「なんとも失敬な弟子だね。これでも子供の頃は両親に似て超絶美形とうたわれたのに。将来は大陸一の美男間違いなしってねぇ。
 
正装は動きやすくても汚す訳にいかないし、かといって毎日礼服は嫌だなぁ。肩が凝って仕方がないよ」
 
「正装と礼服なんてなにもちがわないさ」
 
 天化は道徳が特別な会議や宴の時に着込むずるずると長ったらしい長衣を思い浮かべて言うが、道徳は違うと否定した。
 
「正装は正式な場所で着る服。だから新年の挨拶だとか、御前試合の時に着るんだよ。礼服は結婚式とか宴とか会議に着るの。
 
それに私の実家では正装は戦装束だから、動きやすくて軽い素材で武器とかも中に隠せるようになってるけど、礼服はしゃちほこば
 
った式典とかで着る服だし機能性においては正装には遠く及ばないよ」
 
 そういえば、天化が5、6歳頃に道徳は正装を着て御前試合に臨んだことがある。12仙の洞府は持ち回りで何年かに一度御前試合
 
をしているそうだが、たまたま天化が幼いこともあって、道徳が代わりに出場したのだ。弟子の天化から見ても、あの時の道徳は強く
 
凛々しく格好良く、女仙達が黄色い声で応援していたのも無理はないと思う。あの後しばらく洞府には女仙が何かと理由をつけてや
 
ってきていたが、次第に人数が減り、最近ではめっきり姿を見なくなった。昔からたまに遊びに来る竜吉公主を除いて。
 
「ふ〜ん」
 
「あっ!疑わしそうな返事!やな感じ〜」
 
 彼に憧れて洞府にやって来ていた女仙がいたら卒倒しそうな喋り方だが、道徳と天化の会話はいつもこんなおどけた雰囲気だ。
 
「俺っちっうたがってなんかないもん!そりゃ、師父が育てばぜっせいのびなんしまちがいなしだと思われてたなんて、うたがうどころ
 
か最初っからムリな話だって分かってるし、もしほんとうでも赤ちゃん時代の自慢だってよそうつくさ」
 
 頬をぷくっと膨らませて一生懸命弁明するのだが、内容はかなり辛辣である。
 
「ああ…そう……」
 
 道徳は天化が悪気がないと理解しているだけに、複雑な表情で頷くことしかできなかった。赤ん坊の頃によく言われたことだと当て
 
られたのも、結構ショックを受けたりもしているのも否めない。
 
「この間、『疑り深くなるのはジジイの証拠だ』って太乙さんが言ってたさ。師父は見かけは若いくせになかみはやっぱジジイさね」
 
「……ほっといてくれ……」
 
 道徳自身最近爺臭くなっているという自覚があるだけに、やさぐれた態度でボソリと呟く。
 
「そんな事より早くぎょっきょきゅうにいくさ!あと少しだってのに、なんでここに来るんさ」
 
 あっさり『そんな事』で片付けられて道徳は内心溜息をつき、小さな弟子を見下ろした。だが天化の言い分は至極もっともで、彼らは
 
断崖絶壁の淵に立ち、ゴールである玉虚宮を遥か下に臨んでいる。しかも一般のコースを外れている為人っ子一人いなかった。
 
 ここからほぼ真下の状況を見ると、玉虚宮を目指す仙人や道士達の人だかりが動いている。その様子はまるで、蟻の大群が引っ越
 
しているようだった。浮遊石から浮遊石へと飛び移る動きも実によく見える。
 
 先頭集団はもうすぐゴールより5つ手前の浮遊石に飛び移ろうとしているところだ。
 
「師父、ここにいたらゆうしょうできねぇさ!早くいこうぜ」
 
 焦って腕を引っ張る天化を道徳は困りが顔で見詰め、腰をかがめて目線を合わせると、宥めるように笑いかける。
 
「優勝したら目立つじゃないか。私は目立つのは嫌なんだよ。誰かがゴールしてから行こう、ね?」
 
「い・や・さ!俺っちはひょうしょう台に立ちたいんさ!」
 
「うんもう、我儘だなぁ…天化は」
 
 大仰に肩を竦めて、首を左右に振る道徳をじろりと睨み上げ、天化はきっぱりと言い切った。
 
「ワガママはどっちさ!とにかく、ゆうしょうできなかったら師父とは一生口きかないかんねっ!!」
 
「ひ……ひどい…。師匠のささやかな望みも踏み躙るだなんて……・なんて無情で薄情な弟子なんだ」
 
 掌で顔を覆ってしくしくと泣いてみせる師匠の悪あがきを、天化は一瞥しただけで看破する。伊達に4年近くも弟子はやっていない。
 
「泣きまねしたってむださ!さあ、早くいくさね!」
 
 道徳は大人気なくもチッと小さく舌を鳴らす。誤魔化すのならもう少しマシな手は思いつかないのだろうか。
「へぇへぇ分かりましたよ。行けばいいんでしょ、行けば。全く…師匠使いの荒い弟子だ……」
 
 グチグチ文句を言いながら溜息を吐いて立ち上がり、軽く伸びをすると不貞腐れた仕草で頷いた。どこまでも子供っぽい男である。
 
 天化においで、と囁いて少年の小さな肢体をもう一度背負い、腰に手を当てて微かに不遜な笑みを浮かべて玉虚宮を見下ろした。
 
 その顔はこの男的に何か面白い思いつきをした時のもので、天化は非常に嫌な予感を覚える。どのみちここからではどんなに急い
 
でも先頭集団は追い越せない。道を下っていくだけでも人が多くて困難だし、何よりも遠い。
 
 この上戦いながらではとても無理だ、と天化は諦め気分である。対して道徳は天化の気持ちを知ってか知らずか悠然とした体だ。
 
「では、可愛い弟子の為に頑張ると致しますか」
 
 首をコキコキと動かしたりして軽く準備体操をすると、道へ向ってのんびりと走って行く。慌てたのは天化である。ただでさえ間に合
 
いそうにないのに、こんなにとろくさく走られたのではどうしようもない。
 
「師父!もっと早く!なにしてるんさっ!!」
 
「こらこら、年寄りを急かすんじゃないよ。慌てずともちゃんと表彰台の一番高い所に登らせてあげるから」
 
 背中でぎゃあぎゃあ騒ぐ弟子に余裕綽々な笑みを向け、道徳は回れ右をした。その視線の先には切り立った崖から臨む、崑崙の
 
総本山の山頂が見える。足踏みをして状態を確かめ、何故か崖に向って道徳は走り出した。最初はゆっくりと、だんだん速度を速め
 
て、最後は余りの速さに天化は眼を剥いた。普通に掴まっていてはきっと飛ばされていただろう。肉球で張り付いていたから振り落と
 
されずに済んだのだ。だが、それより何より彼が走っている方向が問題だった。これは紛れもなく自殺行為である。
 
「師父!目の前崖っ!崖さっ!!」
 
「う〜んそうだねぇ。大丈夫任せなさい。ちゃあんと降りられるから。しっかり掴まっておいで」
 
 そう応えた直後、道徳は崖を蹴って大きく跳躍し青空の中に見を躍らせる。風を切る音が一瞬なくなったかと思うと、次に奇妙な浮
 
遊感に天化は襲われた。胃の辺りがこそばゆくなるような、心臓が締め付けられるような、あの独特の感覚だ。
 
 一方その頃下では、斬仙剣の一閃で玉鼎が数人の仙人を倒したところであった。
 
「フッ…また…つまらぬ物を斬ってしまった……」
 
 さるキャラの台詞をそのままぱくった言葉と同時に、仙人達の衣服はバラバラになり、紋章も玉鼎の手の中へと収まる。
 
 彼は現在先頭グループのトップをきり、楊ゼン、太乙と共に玉虚宮を目指しているところだった。尤も、高所恐怖症の太乙は九竜
 
神火罩の中に隠れ、声だけで応援していたが。金霞洞の師弟を彼をここまで一緒に連れて(運んで)来たのである。
 
 3人は後続より浮遊石1つ分先に進んでおり、着々と終点に向っていた。そして、後浮遊石を3つ越せばゴールの玉虚宮に辿り着
 
くというところで、上空から怪音と共に何かが降ってきた。その怪音の源は天化であった。道徳の肩口に掴まった天化の悲鳴がだ
 
んだん近づき、耳をつんざく大音響となるのにさして時間はかからなかった。
 
 その数秒前、道徳が崖から飛び降りて程なく、
 
「ひいぃぃぃいぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜っ!!」
 
 小さな身体からここまで声が出るのかと感心したくなるほど凄まじい天化の絶叫を聞きながら、道徳はごく端的に乾燥を洩らす。
 
「きっと絹を引き裂く悲鳴って、こういうのをいうんだろうなぁー」
 
 勉強になったな、などとお気楽にほざいて玉虚宮の一つ手間にある浮遊石に音もなく着地した。あれほどの高さから降り立った
 
にも関わらず、バランス一つ崩さず実に上手く衝撃を吸収し、受け流している。
 
 審査員がいたら、誰もが迷わず10.00の札を上げたに違いない。それほど見事な着地であった。
 
 道徳はくるりと振り返ると、呆気にとられている玉鼎、太乙、楊ゼンに向ってにっこり笑いかけ、
 
「申し訳ないけど、お先に」
 
 と、少しも申し訳なさそうに告げてさっさと前を走っていった。
 
 我に返った楊ゼンが慌てて追いかけようとすると、玉鼎は素早く彼の足を引っ掛けて倒し、脅すように囁いた。
 
「楊ゼン…お前は昨夜と同じように私と太乙も見捨てて、よもや一人だけ先に進むつもりじゃないだろうね?」
 
 心中では、道中で散々嫌味を言っておいて、まだ根に持ってたんですかとツッコミを入れながら、楊ゼンは曖昧に返答する。
 
「いや…その…。できればやっぱり優勝したいものでして…」
 
「黙らっしゃい!優勝よりも太乙だ!高所恐怖症で、九竜神火罩の中で震えている可哀想な私の友人をお前は見捨てるのか?」
 
「……で、でも…師匠がお傍についているじゃないですか」
 
「私一人でこの重い九竜神火罩を運べと?年寄りを酷使するとは、なんて冷たい子に育ってしまったんだ。太乙…済まない。君と
 
入賞の喜びを分かち合いたかったのに…。無情な弟子のお陰でそれも無理そうだよ……」
 
「大丈夫だよ、玉鼎。私が頑張って外に出て走ればいいんだから…。楊ゼンを責めないでやっておくれよ」
 
 九竜神火罩に向って哀れっぽく語りかける玉鼎の言葉に、わざとらしく太乙の声が重なって、楊ゼンは頬を僅かに震わせた。周
 
囲の仙人や道士までもが同情の視線を二人に向けている。ここまで自分を悪者にするか?と一言お聞きしたくなるほどだ。
 
「太乙…君はなんて優しいんだ……不肖の弟子をそこまで思ってくれるだなんて…。楊ゼン聞いたかい?お前はこんなにも優しい
 
太乙を見捨てて、優勝の為に前に進むのかな?」
 
「分かりました!分かりましたよ!……一緒に喜んで運ばせて頂きますよ…」
 
 いくら一人で運べないからって、僕を巻き込まないで下さい。と本心では言いたかった。しかし彼は長年の付き合いから年上をた
 
てることを学んでいるので、諦めて涙を呑んで頷いたのだった。それによろしいと大きく頭を縦に振り、玉鼎は楊ゼンと共に九竜神
 
火罩を運び始める。こんなお荷物を抱えながらも、先頭に位置付けられていたのは並々ならぬ力量があってのことである。
 
 大名の駕籠を運ぶ人足のようにえっさほいさと運びつつ、彼らは玉虚宮に向って最後の巻き返しをはかった。
 

 道徳は玉虚宮の大広間に入ると後続が来ないかどうか後ろの確認をして、天化を背中から降ろした。幸いにも誰もまだ来ていな
 
い。彼は天化の背を押してゴールまでの数メートルの距離を先に立って走らせ、自分はゆっくり後について行く。
 
 天化の後姿がテープを切ると、道徳も一歩遅れてゴールラインを割ったのだった。
 

 後日の表彰式を兼ねた結果発表で、天化は優勝、2位は楊ゼン、3位は玉鼎と発表され、道徳は天化との約束を見事果たしてみ
 
せたのであった。表彰台の1番上に立てた天化は大変ご満悦で、優勝トロフィーの重さによろめきながらも大喜びでいた。道徳はと
 
いうと、表彰台には立たず、かといって入賞を逃した訳でもない7位で至極満足そうだ。
 
 実は発表前、運営委員会では散々物議を醸していた。何故なら若干7歳の天化が楊ゼンを上回る紋章を集められるはずがない
 
からだ。ゴールは問題ないが、師匠の獲得した数をも遥かに上回る紋章の量には誰もが釈然とせず、道徳は密かに呼び出されて
 
事の真偽を問いただされた。彼は正直に自分が奪った紋章を天化に渡したことを認めたが、それにはこう理由をつけた。
 
『集めた紋章は邪魔になりますので、弟子のきぐるみに専用回収ポケットを作ってそこに入れていたのです。かなり遅れてましたの
 
で、ゴールするまで預けていたことを失念しておりました』
 
 真偽のほどは分からないものの、『弟子に自分の集めた紋章を預けてはならない』という決まりもないため、ゴール前に回収しな
 
かった道徳のミスと運営委員会は結論付けた。本来は道徳の優勝ではないかとの意見もあったが却下され、天化の初めての一泊
 
二日の旅行戦は輝かしい『優勝』の二文字で飾られたのだった。
 
 結論まで喧々囂々と言い争っていた関係者が強引に納得させられたのは、次は弟子のみの力で優勝させます、と宣言した道徳
 
の迫力に気圧されたのもある。最終決断を下した元始に、天化のきぐるみ写真を渡して丸め込んでいたのも否定できない事実だが。
 
 洞府ごとの優勝は金霞洞、2位は白鶴洞、3位に紫陽洞となった。思いがけない総合3位で嫌々ながら洞主として表彰台に立った
 
道徳に本来ならお祝いの為に女仙が頬に口付けるところ、天化がそのお株を奪うという一幕があり、周囲の笑顔を誘った。
 
 一つ付け加えると、道徳はこの後しばらく天化のきぐるみ作りにはまっていたそうである。
 
 十年後、道徳の言葉通り天化は自分自身の力で優勝を飾ったが、非協力的で目立ち嫌いな師匠のお陰で洞府優勝は逃したの
 
だった。現在天化は、次回への闘志を密かに燃やしているという。
 
 師匠にやる気さえあれば、総合優勝も決して夢ではないだろう。尤も、やる気を起こせれば……の話であるが…。
 

                                                                 1999.9.15/2001.5.4