息を乱して呼吸すらままならない背中を優しく擦ってやり、汗で額に張り付いた髪を掻き上げる。唇を落として顔を覗き込むと、涙
に潤んだ瞳とぶつかり合う。重そうな瞼に接吻し、口唇を触れ合わせたらクスリと笑った。
「……何か……しょっぱいさ…」
「俺には甘いけどね。天化の味がする」
途端に先刻からの道徳の行為を思い出し、天化は赤い顔を更に赤くする。言い返してやりたいのは山々だが何一つ見つからず、まごま
ごしている内に愛撫が再開されて我慢しきれない嬌声が溢れた。
指に絡まるぬるりとした感触に道徳はほくそ笑み、指をもっと増やして奥へと差し入れ、内部を広げるように動かした。天化は焦ら
しながら慣らすと特に悦ぶ傾向がある。こうして内側をたっぷり愛撫してやると、受け入れたとき何とも色っぽい表情を見せるのだ。
その後の感度も格段に高まり、達する反応の良さは更にいい。
道徳は逸る気持ちを押さえて指を時間をかけて抜き差しし、内股やふくらはぎに唇を寄せた。
寝乱れてローブは天化の下ですっかり皺になってしまってる。天化にはそれを気にする余裕は勿論なかった。熱くて苦しくて、もっ
と決定的な刺激が欲しいのに、今の自分が感じている渇きを何とかしてくれるのは道徳なのに、それを彼は中々してくれないのだ。
「コ、コーチ……も……」
限界を訴える天化の甘い声に、道徳はそっと指を引き抜いた。まるでそれを拒むように締め付けてくる感触にそそられる。自分を求
める天化に応えてもっと触れたくて、抱き締めたくて堪らない。天化の膝裏を掴んで大きく足を広げさせ、濡れそぼりひくついている
秘所に自身を押し当てると、負担をかけないよう優しく挿入していく。
「はあ……くぅ……」
「天化…愛してる。大丈夫、力を抜いて息を吐いて……」
唇を触れ合わせながら柔らかな白い肌を掌で包んで揉みしだき、初めての時と同様に身体を強張らせた天化を安心させるように囁い
た。大きく息を吐いて全身の緊張を解いて道徳の首に腕を回す。
それは二人の間の暗黙の了解であり合図だった。
道徳が再び天化の内部を進み、最奥に存在を主張するように突き立てる。瞬間、ぞくりと背筋を甘い感覚が走り抜け、天化は身を震
わせた。緩やかな動きで抜き差しを繰り返されると、湧き上がってくる鮮烈な感覚に熱い息を吐いて、もっと深い快感が欲しくなる。
「あ……あぅ……もっと…」
感じる所を擦り上げ掻き回すように浅く緩く動かしてやると、自身を呑み込んでいる秘部が甘く戦慄き、天化が物足りないのだと首
を振って訴えてきた。強い悦楽を知っている身体にはこの動きはもどかしいだけなのだ。
道徳は薄い笑みを口元に浮かべ、天化の膝裏を持ち上げて腕にかけ、上体を僅かに倒した。熱い塊が進んでくる快感に、天化は眉を
寄せて大きく身震いする。
ほっそりとした腰を掴んで最奥を突き上げると、喉を晒し押さえきれない声が広い部屋に響いた。
「コーチ……あ!…ふぅ」
甘い痺れが道徳を受け入れている部分から全身へと広がってゆく。堅い筋肉に覆われた胸に顔をすり寄せ、道徳に口付けをねだった。
応えて落ちてくる接吻に身体の奥が更に熱くなる。
意識せずとも道徳に合わせて腰を揺らし、彼をもっと感じようと締め付けてしまう。恥ずかしくて堪らないのに、声はとめどめもな
く喉から出て、湿った音が耳を打つ。それすらも熱を押し上げる材料にしかならない。
激しい律動に従って天化は背を反らし、より一層腰を押し付けてくる。感じる最奥を何度も貫き、しがみ付いてくる天化を強く抱き
締め自身を放った。
同時に天化は一際高い嬌声を上げて内部をきつく搾り取るように収縮させる。自分を内側から満たしてくれる感覚に、天化はうっと
りと瞼を閉じた。
波の音が聞こえた。寄せては返す寄せては返す、その繰り返しを感じながら天化は薄目を開けた。
暖かい腕にしっかりと抱き留められたまま、広い胸に頭を押し付けてその鼓動に耳をすます。波と同じように一定のリズムを繰り返
すそれは生命の証であった。先刻抱き合っていたときは、互いの乱れた息遣いと行為に夢中になっていて気付かなかったが、波の音は
穏やかでとても心地いい。
「……起きたのか…?」
天化の身じろきが伝わったのか、道徳が身体の向きを変えて顔を覗き込んでくる。
「うん。俺っちどれぐらい寝てた?」
「十五、六分ってとこだな。そろそろ起こしてシャワー浴びようと思ってた」
髪を掻き上げてくる手の暖かさに眼を細め、道徳の身体にぐりぐりと頭を押し付けた。
「俺っちシャワーじゃなくてジャグジーに入りたいさ。……あ、でも俺っちのローブ……」
「下のシャワールームにもバスローブはあるぞ。替えはそっちを使うといい」
二人の行為の下敷きになってしまった皺くちゃのローブが椅子に掛けられているのが眼に入り、どことなく不安げな声を出す。道徳
は苦笑を零して起き上がり、天化の腕を引いて起こしてやった。
素裸のままなので抵抗する天化をあっさりいなし、ローブを羽織ると軽々と抱き上げて下に降りる。月明かりを頼りにジャグジーのス
イッチを入れ、天化を円形のプールの中に入れた。
「コーチは入んねぇの?」
道徳が踵を返して戻ろうとすると、一人だと嫌なのかすぐに呼び止めてくる。そんな姿が可愛くて、道徳は殊の外優しい笑顔で額に
キスを一つ落とし、髪をくしゃくしゃと撫でてやった。
「天化の分のバスローブを取って来るんだよ」
着替えがないと困るだろう?と言外に囁いて、ドアの奥へ姿を消した。天化はしばしドアを見詰めていたが、戻ってこないのに業を
煮やし、ジャグジーの泡増やして身体を大きく伸ばす。
こうやって寛いでいると本当に気持ちいい。波と南国特有の大きな葉が風に揺れて擦れる音以外何一つ聞こえず、照明は月と星の光
のみ。本当に静かで日々の喧騒を忘れることができた。
ドアの開く音がし、芝生を踏みしめて道徳が戻ってくるのを確認すると、じっと彼を見詰めた。
「何だ、男が服脱ぐのを見て楽しいか?」
「楽しいさ。コーチの背中って色っぽいから」
背を向けて腰までローブを落としたところで、余りに視線が気になり振り返って嫌味を言うが、天化にはまるで効果がない。道徳は
頬を僅かにひきつらせ、正面を向いてわざと脱いでやった。
月明かりに無駄なく引き締まった体躯が現れたが、天化のすぐ傍で見えたのはしなやかな筋肉に覆われた四肢ではなく、つい先程ま
で自らが受け入れていた器官だった。
「げぇーっ!!何てもん見せるさ!」
「こんな夜中にうるさいぞ、近所迷惑だ。……入れないだろうが、そこ開けろって」
天化の抗議も無視し、道徳はジャグジーに入って身体をゆったりと伸ばす。そうすると途端に内部が狭くなった。如何にもぎゅうぎ
ゅう詰という感じで、天化は隅の方に追いやられてしまう。しかも道徳は泡の出口を塞いでしまい、少しもジャグジーらしくない。
「コーチのバカ!こんなんじゃジャグジーじゃねぇさ」
「一緒に入れって言ったのは天化だろ。……ハイハイ分かりましたよ、女王陛下」
睨み付けてくる天化の子供っぽさにに笑いながら、道徳はおどけた仕草で肩を竦めて泡の上から退いた。すると天化が早速のように
泡の上を陣取るが、体重差のせいか、浮き上がってくる泡の力に押されて流されてしまう。
何度か挑戦するもののすぐに流され、しばらくすると飽きてしまったのか、道徳の背中に温もりを求めるようにくっついてきた。水
の中で天化をおんぶするような格好になってしまい、何となく変な気分である。
天化はそのまま道徳を引っ張るようにして淵にもたれ、上空にぽっかりと浮く月を見上げる。
「なあ……明日はどうするさ?」
「よそのビーチに出るついでに買物かな。残り三日あるし、明日はのんびりしても構わないけど」
道徳の腰に足を絡めて腕で水を掻き、間近にある頬に頭をすり寄せる。他愛もない話をしながらふと下を見ると、絡み付いてくる天
化の足の艶かしさに眼を奪われた。意識しだすと背中に当たる柔らかな感触も気になりだして、頭の中で数学の問題と化学式を思い浮
かべてすぐ様やり過ごす。
「俺っち他のとこ行ってみたい!椰子の実ジュースも飲んでみたいさ」
こんな事を言われてしまうと、少し助平な方向に向きかけた思考も瞬く間修正されてしまう。
「ホント色気より食い気だな、天化は」
背に触れる体温を心地よく感じながら、道徳は声を殺して笑った。ジャグジーの水は夜中ということもあり、温度が低くてひんやりと
している。天化と一緒にいると互いの体温で暖め合えて丁度いい。
「コーチは昼間俺っちを守れなくて悔しかったさ?」
ぼんやりしていると不意打ちのように問い掛けられ、道徳は質問についていけずに口篭もる。最近天化はこういう駆け引きも覚えて
きて、答えに詰まることもしばしばだった。天化が相手だとどうしても正直に話してしまうので、道徳としては困ってしまう。この真
っ直ぐな瞳の前では嘘も誤魔化しもできない。
「………悔しかったよ……当然だろ。男は好きな女に尽くす為に生まれてくるって前に言ったよな?なら守るのも当然だ。俺はお前に
惚れてるんだからな」
改めてこんな台詞を言うと照れてしまって、ついつい口調もぶっきらぼうになる。
天化にはそれが分かるのか、道徳の項や背中を軽く啄ばみ、愛しげにしっかりと抱きついてきた。
「コーチ……大好き。俺っちずっとこうしてたいさ……」
「ああ……俺もだ。日本に帰ってからも、また一緒にどっかに行こうな」
少し首を動かして振り返ると、天化が身体を摺り寄せて唇を重ねてくる。触れ合っただけの口付けを交わし、二人揃って振ってきそ
うな星空を見上げた。彼らの住む町にはこんなに美しい星空はないけれど、それでも空はどこかに繋がっている。これからもずっと一
緒に居たい。お互いを守りあえるように。
旅行はまだ三日もある。日本に帰るまで存分に楽しもう。帰ってからも笑いあって一緒に人生を楽しもう。
The End 2000.11.21/2001.7.28