馬鹿話ですみません。何だか塔矢夫妻もいっちゃった人達になってしまいました(汗)。塔矢夫妻ファンの方、申し訳ありません。
ギャグということで、笑って許してやって下さいませ。
この話を書くきっかけになったのは「夏の風景写真」と本「Get Over」でのアキラさんが、余りはじけないキャラということからでした。双方共にヒカルに対して積極的になりきれてないところが、もどかしくて(笑)。
その反動から、いっちゃったアキラさんを書きたくなり、ヒカルともラブラブバカップルだと、私が楽しいということで…ああなりました(苦笑)。
既にできあがってると気楽で、私も達観できるんですよね。
ギャグで軽いから多少下品にしてもOK!ということで(オイ)。
次回もこの調子でバカップルを書いていきたいです(笑)。
「あの〜緒方先生…やなくて副司令。オレも一緒って変やありません?オレ関西棋院の所属なんやけど」
社はアキラの隣の席に座ると、控えめに挙手して尋ねた。これは最初からず〜っと疑問に思っていたことである。
「世界の平和を守るのに、所属なんてものにとらわれるのは狭量だぞ。実際韓国支部と中国支部も作る予定らしいしな。
総司令と司令はその為に日本を空けておられるのだ」
副司令という立場だと現場にかり出されることもないので、緒方はいたって気楽に構えているようだ。むしろ、これから
進出してくるであろう若手棋士の弱みを握って苛められると、手薬煉を引いて機会を窺っていそうにすらみえる。
「そういうことだから、関西棋院所属でも気にせず、地球の平和のために戦え」
緒方はニヤリと意地悪く笑って、有無を言わせぬ口調で命令する。社は視線を泳がせながら、不承不承頷くことにした。
ここに呼び出さた時点で眼をつけられている、という事実に対する諦めもある。「うんざり」という気分すらも遠のく情けな
い心境から眼を逸らすように、社は詰碁集を開いて黙々と読んでいるアキラに話しかけた。
「中国韓国は若い奴多いから、こんなもんを作るのにも環境はマシやろ。日本は爺ばっかで若いもんがオレらしかおらん
から、白羽の矢がたったんちゃうやろか。どない思う?塔矢」
余計なことを言ってはいけない。緒方副司令(笑)は自分も若手の中に入っているつもりなのだから。しかし幸いにも、彼
の耳には届かなかったようだ。下手に聞かれたら後で何を言われるか分かったものではない。
「どうなんだろう……。どのみち選ばれたことを喜べないのは確かだけど」
すぐに答えたところをみると、アキラは詰碁に殆ど集中できていなかったのだろう。それを裏付けるようにそっと溜息を吐
いて、アキラは本を閉じた。こんな事になるなら、ヒカル共々今日の対局は他の日にして貰えば良かったと、今更ながら思
ってしまう。だがいつかは捕まって、隊員に加えられているに違いない。そう思うと、もうどっちでもよかった。
「さてと、では君達に他のメンバーを紹介しよう。まず隊長の芦原、副隊長の冴木君だ」
「やあ、よろしく!」
「ははは…皆ご苦労様〜」
元気一杯に手を振る芦原とは対照的に、冴木は乾いた笑いを浮かべてそれぞれ緒方の両脇に座る。
彼らと向かい合うように三列に並べられた席では、若手棋士達が居心地悪そうに腰を下ろしていた。
まず一列目には伊角と和谷、二列目はヒカル、アキラ、社、三列目は本田、越智、門脇、といった具合である。誰も席の
配置や場所について文句は言わなかったが、そもそもこんな事に巻き込まれた時点で、運命の悪戯に翻弄されるヒロイン
の心境を彼らは味わっていた。この際男であるという事実は目を閉じておいてもらいたい。
これからの人生が笑いものになるのが、確定しているのかと思うと涙すら覚える。
(もう誰が司令でも構わないから、早く終わって……)
いい加減疲れてきて、彼らはすっかりなげやりな気分に陥っていた。とにかくここから一刻も早く出て行って、平凡な日常
生活に戻りたい。それだけが唯一の希望だった。
「では全員席にも着いたことだし、司令と総司令に回線を繋ぐか」
やれやれと呟きながら緒方は正面モニターに椅子を向ける。それと同時に大きな画面に二人の人物が映った。
「…お、お父さん、お母さん!」
上擦った声で叫んだのはアキラである。滅多に感情が声にこもらないというのに、この時ばかりは違った。傍目からみて
も、彼の声には動揺が大きく響いているのが分かる。それだけ驚いている証拠だろう。
『いやあね、アキラさん。今は私のことは総司令と呼んでくれなきゃ』
『そうだぞアキラ…いや塔矢ブラック。私は今、父ではなく司令なのだからな』
アキラの耳には両親というか総司令と司令の声は全く届いていなかった。余りのショックに、すっかり茫然自失の体に陥
っている。日頃ヒカルに関してはどんなに奇異な行動をとっていても平気なのに、さすがに身内の行動に関しては許容でき
ないことがあるらしい。だが確かにこれは冗談にしてもきつ過ぎる。誰でも驚くに違いない。
(哀れだな)
(可哀相に…)
(こればっかりは同情するぜ…)
全員、塔矢夫妻が現れた瞬間に、アキラに憐れみのこもった同情の視線を向けた。しかしその裏には、自分達の親兄弟
が関わっていなくて良かった、という安堵も含まれていた。皆さん中々に現金である。
それにしても夫妻はすっかり乗り気でまさにノリノリだ。自分達の役柄が楽しくて仕方ないというのが、画面を通しても伝
わってくる。息子の受けた衝撃なんぞこれっぽっちも構っちゃいやしない。それがより一層アキラには哀れである。
『では全員揃っているようだし、簡単に説明しよう。君たちの任務は、悪の秘密結社から地球と囲碁界を守ることだ。あちら
にも色々都合があって、まだ秘密結社の方の準備が整っていないんだが、近々知らせが行くと思う。因みに戦法は囲碁だ
から、遠慮せずにどんどん戦ってくれ』
(何で囲碁で地球の平和を守るのかな?それにここはいつどうやって作ったのかすごく不思議なんだけど)
(秘密結社の準備ができてないって……すげー変だよなぁ。そんなんでいいのか?)
(空手とか柔道で戦えって言われても、困るのは困るんやけど……最初から当てにされてへんみたいでつまらんな)
(戦法が囲碁かよ!?ぜってー地味過ぎ!)
伊角、和谷、社、ヒカルの前線部隊は心の中で司令の言葉に複雑な気分で感想をもらした。5人目のアキラはというと、
司令こと塔矢行洋の言葉も右から左になっている。
「お父さん…お母さん…あなた方はボクに進藤との愛の一手で地球を救えとでも?確かにボクは進藤を愛してます。あんな
ことやそんなことも布団の中でしちゃってます。護身術に合気道も多少習いましたから、そこそこ戦えるとも思います。でも
だからといって、囲碁棋士が正義の味方なんて…。でも囲碁では敵に負けたりしません。ええ、絶対に!愛する進藤を守る
ためなら、敵を一刀両断にしてみせますとも!……囲碁で。そうだ!自分を高める為にも、今日は家に帰ったらまず進藤と
一局打って、それからお風呂に……どうせなら一緒に入ることにしよう。いつも恥ずかしがって蹴り出されるからな…キミの
身体に残ったボクの愛の印を確かめさせてもらうよ…ふふ」
アキラは未だに固まったまま、ぶつぶつとおかしなことを呟いている。どうやら現実逃避をしているらしいが、かなりアブナ
イ台詞のオンパレードだ。彼の奇妙な独白が誰にも聞こえていないことを祈るのみである。聞きたくないのに聞くことになれ
ば、己の不幸を呪う羽目に陥るのは確実なだけに、周囲の人々は耳栓が絶対必須アイテムだ。
これさえ用意しておけば、心の平安を保つ一番の近道になるだろう。ところが越智は悲しいことに耳栓を用意していなかっ
た。お陰でアキラの妄想の塊ともいえる独白を聞いてしまい、頭を抱えて机に突っ伏しそうになる。が、気力を振り絞って踏
み止まり、顔色を青ざめさせたまま、「はい!はい!」と子供のように手を上げるヒカルに縋るような眼を向けた。
(進藤…お前隣だろ!っていうか気付けよ!こいつの独り言をやめさせろっ!おい!)
だがしかし、天然ヒカルはアキラのアヤシイ台詞のことなどまるで気付いていない。哀れ越智。
『何かな?進藤君』
『あらあなた、進藤君は進藤イエローですわよ』
ライバルも見事なシカトっぷりだが、肝心の親も息子のことは完全無視である。3分経てば立ち直ると知っているだけあっ
て、さすがに強い。それにしても3分で復活とは、まるでカップラーメンのような男だ。
『そうだったな……で?何かね』
「塔矢司令、総司令。オレの色ってなんで黄色なんですか〜?」
(まだそんな事に拘ってたのか!?ガキだな)
確かに不満があるなら総司令と司令に言えとはいったが、まさか本気で理由を尋ねるとは思わず、緒方ですら呆れてし
まう。何もそんなつまらないことにいつまでも執着せずともよいものを。
「だって黄色ってずっこけキャラの色だし、塔矢は黒で格好いいんだもん。何でですか?」
『色に関しては明子が決めたことでな…私には答えられん。明子、どうなんだ?』
『黄色にしたのは、進藤君が光や太陽、虎のイメージだからよ。名前もヒカルだし、髪の感じとかが虎のような印象だし。伊
角君は水のイメージで青、和谷君は木とか草のイメージで緑、社君は炎のイメージで赤ね。アキラさんは闇や月、龍のイ
メージから黒になったの。前に囲碁雑誌でアキラさんを龍、進藤君を虎で囲碁界の龍虎って書かれていたし』
「虎か〜だったら格好いいし、いっか!」
(うふふ……それに黄色は人気者で可愛いキャラのカラーなのよ。かのポ○モンのピカチ○ウのように…だってピカチ○ウ
は強くて可愛い最高のマスコットキャラだもの!この戦隊においては黄色こそ進藤君に相応しいわ!)
単純に格好いいということで納得するヒカルを尻目に、明子はまるで違った事を考えていた。そもそも、本当に虎のイメ
ージから黄色を選んだのかどうかすら、とてつもなくアヤシイ。
『今回はあくまでも顔見せということだし、これぐらいにしておこうか。これからは毎週一度ここに集まって会合を開く事にし
てくれ。誰か、他に何か質問はあるかな?』
「す、すんません塔矢先生…やのうて司令。オレはもしかして関西から通うんでっか?」
毎週会合と聞いて、社は半泣きのような声を出して挙手した。いくらなんでも毎週通うなんて、お金がもたない。それ以前
に学生でもある社にはそんな時間もない。無理難題を言われても困るのだ。
『社君はテレビ電話で出席してくれればいい。関西棋院に既に用意してあるから。手合の日は学校を休んで棋院にいるだ
ろう?君は遠方だしまだ学生だ。都合がつく限り出席してくれればいいから』
「はあ…それでええんやったら…」
それなら無理をして出席しなくてもいいかもしれない、と淡い希望を抱いた彼らに、明子はコロコロと品良く笑いながらも
しっかりとどぎつい釘を刺す。
『でもね、大した理由もなく3回連続で会合を休んだりしたら、ペナルティで手合料は5回分カットになるから、なるべく出席
するようにしてね?4回連続になったら10回分カットよ』
(……鬼だ!鬼だよこの人!)
プロになりたての棋士には、1回の手合料すらとっても有り難く大切なものである。それを5回もカットされるなんてとんで
もない話だ。3回連続で休まないようにする為にも、なるべくこまめに出席せねばならなくなるに違いない。
そもそもなんで棋院が支給する手合料まで左右させる事ができるのか…実に不思議だ。
一体どんな方法で圧力をかけたのだろうか?恐るべし塔矢明子。
『その代わり、秘密結社が送り込む敵に勝利する度に特別ボーナスが支給される。頑張りたまえ』
恥をかく上にただ働きだったら泣くに泣けないが、特別ボーナスが出るならまだ気分的にはマシである。
『残念ながら我々は会合には出席できないが、副司令の緒方君が居るから問題はないだろう。アキラ、お父さんとお母さん
はもうしばらく中国に居るから、お留守番頼んだよ〜』
『アキラさん、碁ばっかりしてないでちゃんと御飯も食べるのよ?』
(司令と総司令から急に親に戻らないで下さい…)
3分経ったのですっかり立ち直ったアキラは、分かりました、といつものように返事をしつつもどっと疲れを覚えた。自分の
両親が外見に反して好奇心旺盛で意外にノリがいいということを、すっかり忘れていたのは失敗だった。父が引退してから
囲碁界のしがらみを抜けたせいか、益々パワーアップしている。まさかこんな事を企んでいるとは思いもしなかった。
『では今回の通信はこれで終わろう。君達の健闘を祈っているよ、囲碁戦隊棋士レンジャーの諸君』
プツッと大画面に現れていた夫妻の顔が消えた後も、彼らは動く事はなかった。その場の空気は完全に凍りつき、極寒の
ブリザードが唸りをあげて吹き荒れているかのように、空気だけが音もなくざわめいていた。
アキラにとって両親はとても尊敬のできる人達だ。母は幼い頃から優しくていい母親であるし、父は棋士として尊敬し目標
にもなっている人物で、彼にとっては常に自慢の両親である。今まで育ててくれた恩も感じているし、家族として好きだし、棋
士として敬愛もしている。だがしかし、こればっかりは思わずにはいられない。
父にも母にも申し訳ないが、どうしてもある言葉が胸に去来するのだ。
そんなアキラと同様に、その場にいた棋士達も同じような思いを抱いていた。
過去に五冠という偉業を達成し、神の一手に最も近いとされる人物と、彼を支えてきたその妻。引退こそしたものの、今で
も塔矢行洋は囲碁界のトップ棋士である。そんな人物が名づけてくれたものに対してこんな感想を抱くのは、何とも不遜で
おこがましいとは思う。しかしこればっかりは無理だ。絶対に百人が聞いたら百人とも同じ感想を持つだろう。
『囲碁戦隊棋士レンジャー』というチーム名を初めて聞いた瞬間、彼らが胸のうちで思わず叫んでしまった一言。
――ダサッ! (「ダセー!」「ダッサー!」などその他活用含む)
かくして、チームメイト全員が、戦隊名もコードネームもダサ過ぎる、と確信する正義の味方(戦士)が誕生した。
その名も囲碁戦隊棋士レンジャー!
はっきり言って、このチーム名はネーミングセンスゼロである。本当にダサい。しかも敵もまだいなかったりする。
こんなことでいいのか囲碁戦隊棋士レンジャー!本当にマジでダサいぞ戦隊名!
君達の明日はどっちだ!?(笑)
2003.5.30