CoolCoolCoolCoolCool   Versus-UVersus-UVersus-UVersus-UVersus-U
 何でもない存外ありふれた日常から、事件や戦いというものは始まるものである。 
 よく晴れたいつもの午後、いつもの場所。それは騒動というものを呼び寄せるのに格好の道具とも言えるかも知れない。
 

「隙ありさ!師父!」
 
 のんびりと洞門へ向かう師の背中に、黄天化は鋭い突きを繰り出した。いつでもどこでも隙があれば攻撃してもいい、と聞かされた上で行う
 
攻撃には、微塵の迷いも遠慮もない。しかし、道徳はその動きを見越していたように振り返り、木刀の先端を楽々と捕まえた。
 
 押しても引いても木刀はびくともしない。焦る余り足を踏ん張って力一杯引くと、道徳に足払いをかけられ、石畳にしたたかに尻餅をついた。
 
「いってぇーさ!師父の意地悪!」
 
「意地悪も何もないだろう。たかだか剣の動きを止められたぐらいで、隙をみせたお前が未熟なんだ。後で青峰山千周しなさいね」
 
「それこそ意地悪さね!」
 
「ヒンズースクワット5千回、腕立て伏せ5千回、腹筋5千回も付け加えたいようだねぇ。お前は修行熱心な偉い子だから」
 
 にっこり笑顔で恐ろしい脅しをかけてくる師匠に、天化は顔色を一気に青褪めさせる。
 
「……青峰山千周してくるさ……いいえ、させて下さい」
 
「遠慮せずに、他のもしていいんだよ?」
 
「いいえ、お師匠様。心の底から辞退させて頂きます」
 
 滅多に使わない言葉を使ってまでして断るぐらい、遠慮したい内容だった。朝から既にそれだけこなしてヘトヘトなのに加えて、もう一度だな
 
んて絶対に死んでしまう。いや、死なないまでも夕食は喉を通らないに決まっている。
 
 久々に剣術の修行ができるというのに、筋トレで残る半日を潰すのだけは避けねばならないのだ。
 
 余りに必死な様子の天化に笑い出したくなるのを堪えて、それは残念、と道徳はわざとしかめっ面を作ってみせる。
 
 自分がからかわれているのだと気付いて、天化は少し膨れっ面になったが、不満を口にだけは出さなかった。いくら恋人という関係になった
 
といっても、修行中は道徳が厳しい師匠であることには変わりない。余計な事を言えば、先刻のように怖い罰が待っている。
 
「では、青峰山千周だね。私も付き合ってあげるよ」
 
 悪戯っぽい笑顔でクスクス笑いながら、道徳は天化の頭を小さな子供にするようにぽんぽんと叩いてやる。17歳にもなって子供扱いされる
 
のは少し腹も立つが、こうして触れられると嬉しくて、天化は擽ったそうに微かに首を竦めて微笑んだ。
 
 連れ立っていつも修行する広場に下りる階段を歩きつつ、ぼんやりと道徳の背中を見詰めて息を吐く。
 
 この師匠は何千年も生きている仙人に見えないほど精神年齢が低く感じる時と、信じ難い悠久の時を過ごした人知を越えた存在に感じる時
 
とのギャップに差が有り過ぎる。さっきのような悪戯っぽい笑顔にも幾つもの種類があって、子供みたいなもの、相手の神経を逆撫でするもの、
 
弟子に親近感を持たせるものなど実に様々だ。他にも褥を共にした時は、ひどく色っぽくて挑発的なものまである。思い出してしまい、慌てて
 
頭を振って脳裏から追い出した。これから修行だというのに、余計なことに気をとられてはいけない、と一人頷く。
 
 再び道徳の笑顔を思い浮かべて、振り返ってみる。
 
 悪戯が成功した時は子供みたいに無邪気な笑顔だ。ある時など、天化の部屋の扉の前だけにワックスをたっぷり塗り、部屋を出たところで滑
 
って転んだ瞬間を、道徳が張り込んでしっかり写真に収めていたこともあった。子供の頃から何かにつけてからかわれ、悪戯をされていただけ
 
にこんな単純な手に引っかかった自分が悔しくて、天化も後日庭に落とし穴を掘ってリベンジしてやった。勿論その瞬間を捉えた写真もある。
 
 それにまた道徳がやり返すといった具合で、この二人は修行以外では、子供同士が遊ぶように悪戯の応酬をしあっていたりするのだ。
 
 そんな訳で、紫陽洞の庭や畠や果樹園に他人が下手に足を踏み入れると、彼らが作った罠(互いへの悪戯の仕掛け)に掛かって散々な目に
 
遭うのが相場である。知らず知らずのうちに、紫陽洞の防備は完璧になっているのであった。
 
 さっきからかわれたことを思い出してムッとしたものの、そういえば次は修行だと思考を転換する。修行中も筋トレの時の笑顔は、爽やかでしか
 
も恐ろしく上機嫌だ。やはりスポーツは最高にいい!とポ○リを持って歯をきらめかせて笑うなどザラである。
 
 だがこの笑顔が、剣術などの実戦に即した修行になると一変する。背筋を冷たくするような鋭さの中に挑戦的で自信に満ちたものが見え隠れ
 
し、戦いを喜び、命の遣り取りそのものを楽しむ戦士のそれへと変貌するのだ。
 
 また、昨夜のように自分の肌をくまなくまさぐり、快楽を紡ぎだす時には優しく甘い大人の笑みを浮かべる。天化を夢中にさせて、底のない悦
 
楽与えて夢中にさせるのである。こういった関係に至ってから数ヶ月経つも、余りにも掴み所がなく分かり難い道徳だが、天化にはそこが魅力
 
だ。彼と互いに肌を重ねる毎に理解も深められる筈だし、それだけ愛情の交歓も行える訳で………。
 
 そこで我に返り、恥ずかしくて余計な事をまたまた考え始めていた自分に慌てて、天化はポカポカ頭を叩いた。
 
「……天化。お前さっきから何をしているんだい?」
 
 さすがに弟子の様子をおかしいと感じたのか、道徳は少し不安げに声をかけてきた。無理はあるまい。一人で楽しげにクスクス笑っていたか
 
と思うと急に真っ赤になって頭を振り、今度は嬉しそうな笑顔から恥ずかしそうに赤面して自分の頭を叩いているのだ。
 
 はたから見るとかなりの奇行である。道徳でなくともこれは様子がおかしいと思うに違いない。
 
 見られていたことに動揺して、天化は赤い顔を更に紅に染めて適当に話を逸らそうと懸命に考えた。道徳には結構、年寄りくさく気難しくてう
 
るさいところもある。あんな事を考えていたことがばれたら、即効おしおきだ。過去の弟子達は、自分が修行以外の余計な事を考えていた時、
 
道徳に対してどう誤魔化していたのだろうか。今度来た人に尋ねようと、何度か足を運んでくる元弟子達を思い浮かべる。
 
 とにかく今は自力で煙に巻いてしまうしかない。
 
「あ、あ、あ、あのさ、えっと……コ、師父が育てたお弟子さんの中で、か、変わった人って居たさ?」
 
「変わった人?さっきのお前の行動も十分に変わっていた気もするけどねぇ。ふーむ、仙人になる奴は皆どこか変わってた気がするかな?下
 
界に戻った者もかなり紙一重だったよ」
 
「お……俺っちも変わってるさ?」
 
「いや、お前は物凄くまともだよ。何で仙人界に来たのか不思議なぐらい。でもさっきは何だか……」
 
「んじゃさ!と、特に変わった人ってやっぱり居たさ!?」
 
 話を戻されないように勢いよく遮って、道徳の言葉に被せるようにわざと大きな声で尋ねた。
 
「特に変わった奴…というより、覚えておきたくない奴なら居るけどね……」
 
 道徳はそう言って、思い出したくもない忌まわしい過去を思い出した。あの時味わったショックは、決して忘れられるものではない。
 
 何せ、サハラ砂漠に極寒のブリザードが吹き荒れる最中、何故か真夏の太陽が照り付け、同時にオーロラが優雅に舞い、砂の上を西洋の
 
騎士がラクダに乗って闊歩するという、異様な風景がそのまま眼の前に現れたと錯覚する程の衝撃だったのだ。
 
 思い出した途端に道徳はひどく不快な気分に陥った。とにかく青峰山を千周でも1万週でも全速力で走って、一時凌ぎでもいいから忘れて
 
しまいたい。そうでもしないとストレス解消に暴れだしたくなりそうだった。
 
 いつも修行する広場に向って歩を進める道徳の顔が急に不機嫌になり、天化は焦る。かといってここで質問してより一層機嫌が悪くなった
 
りしたら、とばっちりを喰らうのは天化なのだ。さて、どうしようと考えながら無言のまま道徳の後を着いて階段を下りていると、道徳がピタリと
 
足を止めた。それに気付かないで足を踏み出してしまい、天化は師の背中に鼻の頭をぶつける。
 
 痛みに顔を上げて、いきなり止まんじゃねぇさ!と文句を言おうとしたのも束の間、広場の真ん中が眼に入って茫然とした。
 
 そこには家が建っていた。こじんまりとした中々に洒落た家で、いかにも女性が憧れそうな雰囲気の家である。
 
 確か昨日修行した時はこんな物は無かった筈なのに、豊臣秀吉の一夜城のように一夜開けると新築一戸建てが建っている。何とも奇妙な
 
光景だ。天化も道徳同様広場にちょこんとある家を眺める。
 
 道徳が足を止めた理由はこれだろう。見上げて顔を覗き込んでみると、道徳は呆れたように大きく息を吐いて眉を嫌悪に歪めた。一体何が
 
そんなに嫌なのか天化にはさっぱり分からないが、師は確かに何かを感じているらしい。
 
「師父?どうしたんさ?」
 
「…………」
 
 天化の問いにも答えず、道徳は無言のまま回れ右を行った。そして日頃とはまるで違う強い力で手を引いて、途中であるにも関わらず、階
 
段を駆け上ろうとする。
 
 後ろを見ると地獄にでも引きずり込まれるとでも思っているかのように、何があっても振り返らないという決然たる意思を滲ませて。
 
「お久しぶりですわ。清虚道徳真君様」
 
 2、3段登ったところで、突然、銀鈴を振るような美しい女性の声がした。無視して上がって行く道徳に腕を引かれながら天化が振り返ると、声
 
をそのまま姿にしたような仙女が広場に立っていた。見事な黒髪が風に煽られてなびき、透き通るような白い肌と相まって実に美しい。
 
 道徳の友人の一人である竜吉公主に比べればかなり見劣りするかも知れないが、それでも十分美人の範疇に入る。
 
 魅力的な笑顔をこちらに向けているものの、道徳は彼女の存在自体を認めていないかのように歩き去ろうとする。道徳に引きずられて天化も
 
数段登ったが、彼は女性に挨拶をされて無視するような失礼な少年ではなかった。
 
 女心はてんで全く分かっていないが、天化は基本的に女性には優しいのである。道徳の手の温もりを惜しみつつ、とにかくここは師の代わり
 
に挨拶をするつもりで美人の仙女の元へ走り寄り、にっこりと笑顔で返礼した。
 
「こんにちは。師匠の非礼をお許し下さい。俺っちは黄天化っていうさ」
 
「まあ、しっかりした新弟子さんだこと。私は果林、よろしくね。…確か貴方、先日のサバイバル旅行で優勝した子じゃなくて?」
 
 コロコロと笑って名乗りながら微笑みかける仙女は、問いかける口調とは裏腹にはっきり確信を持った声で尋ねてくる。
 
 またも元始の思いつきで10年ぶりに行われた『崑崙山脈一周旅行』で、17歳という若さで2度目の優勝を飾った少年道士の噂は果林の耳に
 
も入っていた。しかし何よりも果林にとって活目すべき点は、「道徳の現在の弟子」という立場であったのだが。
 
 天化は照れたように笑って、こくりと果林の問いに頷いた。二人はにこやかに談笑しながらも、どこかお互いを探るように言葉を投げ合う。
 
 道徳は離れたところで少し待っていたが、手を解いたまま一向に戻って来ない天化に業を煮やし、二人の傍に仕方なし近づくことにした。本
 
当はアイツの傍になど一歩だって近寄りたくなかったが、可愛い天化におかしな真似をされたくなくて、仕方なし階段を下りる。
 
 やっと目的の人物が下りてきて、小躍りしたくなるような気持ちを抑えて天化との話を一旦打ち切り、果林は道徳に向き直り礼をとった。
 
「道徳真君様、御機嫌麗しゅう。元弟子の果林でごさいます」
 
「お前の顔を見て麗しくなくなった。それに私はお前みたいな弟子をとった覚えもないな」
 
 挨拶すら冷酷に打ち消し、切り捨てるような冷たい声音にも果林は全く動揺しない。こんな対応は慣れっこだし、それどころか悪態にしろ声
 
をかけてもらった事すら数百年ぶりなので、嬉しさに天にも昇る心地であった。対して天化は、女性には無条件に優しく、かなりのフェミニスト
 
の道徳が投げつけた言葉に、不審げに眉を寄せる。
 
「まあ、ひどいこと。でもお声を久しぶりに聞かせて頂きましたわ」
 
――貴様なんぞに声を聞かせるぐらいなら、アメーバかミジンコに聞かせる方がまだマシだ!この歩く核汚染物め!!
 
 嫌悪にピクピクと唇を引きつらせ、内心凄まじい毒舌を吐き捨てながらも、現弟子の手前精一杯穏やかな口調で道徳は命じた。
 
「それよりもさっさとアレを撤去しろ。修行の邪魔になる。もう一つ、早く消えろ、貴様も目障りだ」
 
 家を指差して厳然と言いつけると、用は済んだとばかりに踵を返す。そんな道徳に天化は反発を覚えた。こんなの少しも道徳らしくない。
 
 道徳は例えどんなに嫌いな相手でも、ここまであから様に相手を切り捨てる口調で話したり、嫌悪を表したりしない筈なのだ。帰るよ、と道
 
徳に引っ張られても天化はその場を動こうとはしなかった。
 
「俺っち、もう少し果林さんと話すさ。師父だけ先に帰れば?」
 
 素っ気なく言うと、道徳は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。天化がここに居るというなら、道徳とて動く訳にはいかない。本心は早く邸に
 
戻りたくて堪らなかったが、天化が果林の正体を知らないのだから、と自分自身に言い聞かせて諦めることにする。
 
 何よりも可愛くて愛しい天化に、こいつの変な性癖を移されたりしては困る。いざとなれば自分が守ってやらねばならないのだ。
 
 たかだか女仙相手にえらく大袈裟な事を考えて、道徳は一人納得している。その傍で天化と果林の会話は続いていた。
 
「お姉さんが師父の弟子だったって本当さ?」
 
「本当よ。とても厳しい方だったけど、教え方が上手くて、修行以外ではとてもお優しくて素敵だったわぁ…」
 
 昇仙した男弟子に会ったことがあっても、女の弟子には一度も会ったことがない。そもそも道徳が女の弟子をとったことがあったとすら知ら
 
なかった。珍しさも手伝って、天化は好奇心を抑えきれずに訊いている。果林も天化の質問に昔を思い出してうっとりと眼を細めて応えていた。
 
 話の合間に、果林からねっとりとした含みのある笑顔で嫣然と微笑みかけられて、道徳は怖気に震える。天化を連れて一刻も早くこの場を
 
離れたくて堪らなかった。いや、今すぐにでも!
 
 悪寒と必死になって戦いつつ、頭の中で宝貝の数式や、化学反応を思い浮かべて少しでも冷静になろうと努力する。
 
「ところで今回の『崑崙山脈一周旅行』で、貴方、洞府入賞した道徳真君様の頬にキスしてたわよねぇ」
 
 かなり刺の篭もった果林の台詞にも、天化は全く気づかずに破顔したまま頷き、何の他意もなく爆弾発言をかましてみせた。
 
「そりゃそうさ。だって師父は俺っちのだかんな。頬にキスなんて毎日してるさ」
 
 道徳に秘めたる思いを持つ仙女を全員敵に回すような台詞を、さらりと告げて明るく笑う。あまりにさりげなく言われてしまい、果林もついつい
 
納得し頷いてしまう程であった。
 
「あら〜そうなの〜。オホホホホ………?」
 
 涼やかに笑ってふと我に返り、もう一度反芻して考えてみる。
 
――え?…毎日…キス?……頬にキス?……毎日頬にキスですって〜!?………このクソガキ〜!!
 
 意味を理解した途端、仙女の身体からメラメラと嫉妬の炎が燃え上がる。実際はこの程度で済むどころか、あんな事やそんな事、とてもでは
 
ないけれど書けない事、までしてしまっているのだが、わざわざ知らせて火に油を注ぐ必要もあるまい。
 
「ちょっと!道徳真君様と毎日キスしてるって本当なの!?」
 
 鬼のような形相で問い質され、さすがの天化も豹変ぶりには驚いたものの、果林の想いに気付いて瞳を眇める。
 
 天化は飄々とした態度とは裏腹に、実のところ恐ろしく嫉妬深い一面も持っている。道徳を自分のものだと豪語するだけあって、他の存在を
 
見る余裕など決して与えようとはしない。それだけでなく、自分以外に道徳に恋愛感情を向ける輩も許さないのだ。だが道徳はそういった部分
 
も可愛いと耽溺しており、益々増長するばかりである。
 
 誰かに止めて欲しくとも、この熱々二人組に余計な口出しをできる存在はこの世界のどこにもいないのだから、もうどうしようもない。
 
 恋敵と認識したからには、女であろうと天化は容赦しない。恋愛には男も女も関係ないのだ。道徳に恋情を寄せる者、即ちそれらは全て天化
 
の敵である。敵には情けは無用とばかりに、天化は態度を180度変えて自慢げに大きく頷いた。
 
「毎日額とかにもしてるさね。師父からもして貰ってるし。な?師父?」
 
 わざと道徳に擦り寄って、果林に見せつけるように道徳の頬にチュッと音を立てて口付ける。道徳は苦笑したものの、天化の額にお返しの接
 
吻を落とした。こんな風に相手をからかうことは、道徳が最も好むことだ。
 
「キィィィィィィィー!!なんてことするのっ!!道徳真君様はあたくしの旦那様になるのよ〜!!?」
 
――勝手に決めるな。……なって堪るか、そんなもん
 
 天化の邪魔をしない為に、口にこそ出さなかったものの道徳は心の中で冷たく言い捨てた。血管が浮くほど拳を握り締め、これ以上何かあっ
 
たら本当にブチ切れて爆発しそうになる自分自身を必死に宥める。
 
「師父は俺っちのもんさ!誰が何と言おうと俺っちがそう決めたさ!あーたにゃ指一本触れさせねぇ!!」 
 ヒステリックに喚く果林に向けて天化は対抗意識を燃やしてきっぱり言い切る。 
「許せないわ!子供のクセに生意気な!!」
 
「それはこっちの台詞さ。例え女だろうと師父に近付く奴ぁ許さねぇぜ!」
 
 二人の間にはバチバチと火花が散り、焼き芋でも焼けそうなほど燃え上がっていた。
 
――…傍観に徹したら結構面白いかも……
 
 一触即発の空気を見に纏った二人を天化から少し下がった位置で眺め、半分面白がりながら道徳はことの成り行きを見守ることにした。