Versus-TVersus-TVersus-TVersus-TVersus-T   CoolCoolCoolCoolCool
 沖田(向滝)初の個人誌『ちょこっとLove』に載せた話の改稿版です。
 とにかく直しまくりました!そのお陰で、道徳と天化の性格が更に悪くなった気がします…気のせいじゃないか(苦笑)。
 個人誌に載せた時は天化の格好良さを前面に出そうと思ったんですが、玉砕したので、今回は何も考えずに書きました(オイ)。
 それにしてもこの話は恐ろしくキワモノですね。特に道徳の非道振りが凄まじい。改稿して更にヒドイことしてます(最悪)。
 この話を読んで私がオカマさん嫌いだと思われるかも知れませんが、嫌いじゃないです。綺麗なオカマさんはむしろ好きです(笑)。
 ただウチの道徳が異常に嫌ってるってだけなんですね(他人事)。
 実は…この『VS』はシリーズです。つまり続きが……(滝汗)。

 例え傍観者に徹しても、道徳は勿論、全面的に天化の味方である。世界で一番天化が可愛く愛しいのだから、毛嫌いしている果林の味方を 
する筈がない。重ねて書くが、女性に対してここまで冷たい態度をとる道徳は非常に珍しい。彼は女性に対しては常に優しく、紳士的な態度を
 
決して崩さないのだ。余りに優しすぎて、相手の方が好意を持たれていると勘違いしてしまう程である。
 
「そこまで言うからには勝負よ!仙人にもなっていない道士風情が、あたくしに勝てるかしらね!?」
 
 果林は整った顔が般若に見えるほど殺伐とさせて勝負を挑んだ。本人の言う通り道士風情、しかもまだ17歳の少年相手にそこまでムキに
 
なるとは、何とも情けない仙女である。師匠の顔をじっくり見たいものだ。
 
「フフン。イイ男ってのは不死身さね」
 
 売られた喧嘩を買うのは男として当然。天化は煙草に火をつけて不敵に笑いながら受けて立った。その姿は、敵と対峙して不遜な笑みを浮
 
かべる師匠と合い通じるものがある。やはり弟子は師匠の背を見て育つものらしい。
 
 天化の言葉に果林はピクリと頬を引きつらせる。何ともこしゃくで腹の立つガキだ。この自信に満ちた態度が更に自分の神経を逆撫でする。
 
「忠告しておくけど、あたくしの宝貝作りの腕は道徳真君様譲りよ。覚悟なさい」
 
 豊かな胸を反らして自慢たらしげな口調で果林は言った。崑崙に来て十数年程度の道士が宝貝の作り方など教わっている筈がないと分か
 
ってのことである。これは明らかに自慢をして、天化を挑発しているのだ。
 
 案の定天化は挑発にかなりムカッとしているらしく、振り向いて背後に控えている道徳に文句をがなりたてている。
 
「師父!俺っちまだ宝貝の作り方なんて教わってねぇ!教えるさ〜!」
 
「お前には千年早い。時期がきたら手取り足取りちゃんと教えてあげるよ」
 
 やや呆れた顔で道徳は応えた。この程度の挑発にのっているようでは、まだまだである。非常にこの先が心配だと彼は大きく溜息をついた。
 
 果林はというと、手取り足取りと聞いて何を想像し勘違いしたのか、眦を吊り上げて天化を睨み据える。そしておもむろにバズーカ砲のような
 
宝貝を取り出し、天化に脅しをかけるように近くの岩に向って撃ってみせた。
 
 弾は浮遊石にぶつかると凄まじい炸裂音と共に炎を吹き上げ、砕かれた岩の破片なのか、小石がパラパラと広場に降り注ぐ。煙が風に流さ
 
れた後に見えたのは、粉々に粉砕された無数の石がその場に固まって浮いているというものだった。
 
 確かに破壊力という点については、かなりの威力ではあるらしい。
 
「鼻タレ道士ちゃん?あたくしの爆裂砲の威力はどうかしら?!」
 
 妖艶な笑みを湛えて、果林はどうだとばかりに天化を眺める。
 
 だがしかし、少年は小馬鹿にした薄笑いを口元に滲ませ、紫煙を吐いていた。煙草を足で揉み消し、人差し指をちょいちょいと動かして、かか
 
ってこいと挑発してくる。
 
 これを見た果林が怒らない筈がない。頬を引きつらせて構え直し、今度は天化に向ってピタリと照準を合わせた。因みに天化の後ろには道徳
 
も居る訳だが、今の彼女には道徳の存在よりも邪魔な天化を消すことが最優先事項で、元師匠の安否を気遣う余裕は無かった。
 
 どのみち心配されても彼には迷惑なだけである。道徳にはこの程度の攻撃など眼を閉じていても避けられるほど幼稚なものなのだから。
 
 それを表すかのように、道徳は天化の真後ろで緊張感の欠片も無いような欠伸をして、肩を爺くさい仕草でとんとんと叩いていた。
 
「跡形も残らないようにしてあげるわ!」
 
 果林はヒステリックな声で喚くと同時に、何十発もの弾を標的の天化に向けて乱射する。
 
 天化は避けようともしなかった。それどころか正面を見据えたまま、傍観者を決め込んでいる道徳に手を差し出して一言鋭く叫ぶ。
 
「師父っ!バット!!」
 
「ヘイッ!!」
 
 江戸前寿司の親父のような返事をして道徳がバットを渡すと、間を置かずに天化は振り子打法で砲弾を全て打ち返した。
 
「おお〜スゴイ!お見事、天化!」
 
 暢気に手を叩く道徳はお気楽だ。バットや宝貝をどこから出したのか?という読者のツッコミは無視させて頂き、御想像にお任せしよう。
 
 天化はバットで肩を叩きながら勝利を確信した不敵な笑みを口元に浮かべ、果林はショックの余り茫然とその場に立ち尽くす。何せ自分でも
 
馬鹿にしたガキ道士に打ち返されただけでもキツイのに、しかもただのバットとなるとやはり衝撃は隠せない。
 
 果林にとっては不幸なことに、のんびりショックに浸る暇は無かった。…というのも、折角一晩かけて建てた新築一戸建てに、天化が打った
 
砲弾が一つ残らず、完璧に直撃してしまったからである。
 
 浮遊石を砕いた時とは比べ物にもならないぐらい、ド派手な音と閃光をまいて可愛らしい家は爆発した。
 
 皮肉にも彼女の言葉通り跡形も残ることは無く、一瞬にしてただの黒焦げの廃墟と化したのだった。
 
「いやぁぁぁぁ!あたくしと道徳真君様の愛のスウィートホームがぁぁ〜!」
 
「ナイス!天化!さすが私の弟子だ!」
 
 悲壮で悲痛だが滑稽な悲鳴をあげる果林をよそに、道徳はさも嬉しそうに指をパチンと鳴らして笑う。この姿に、果林はバットで一発ガツンと
 
叩かれた気分だった。
 
「あれまぁ、まさかあっちに飛ぶとは思わなかったさ」
 
 天化は額に手をかざしてバットに寄りかかり、明るくごめんと謝った。悪気の無い顔だが、果たして真意はどこにあったのであろうか。
 
「アンタ!わざとやったわね!!正直にお言い!!」
 
 誰でもそう思うことは確かだ。果林は道徳に冷たくあしらわれた恨みも込めて、天化の胸倉を掴んで強く揺さぶる。
 
「わざとじゃないってば。あれはただの不幸な事故さね」
 
 明後日の方向を見て、天化は唇の端を吊り上げヘッと小馬鹿にしたようにと笑った。この態度では、台詞の信憑性は皆無に等しい。
 
 天化にばかり眼を向けている果林は、自分の背後に音も無近寄る不審な影に気付かず、尚も文句をまくしたてようと口を開いた。その瞬間、
 
踵落しが後頭部に決まる。非道にも不意打ちな上に、遠慮もへったくれもない一撃であった。これが元師匠のすることであろうか。
 
「ゲフゥッ!!」
 
 恐ろしい一撃をくらい、非芸術的なうめきと共にくずおれた仙女にかけた声は、これまた冷たいものだった。
 
「貴様.、私の天化に乱暴な真似をするな」
 
 攻撃をしてからこういう台詞を言う方が問題であろう。そのくせ、つい先ほどまで胸倉を掴まれていた天化には、優しく『大丈夫だったかい?』
 
と尋ねてよしよし可哀想にと頭を撫でてやるのだから凄い。完全に果林のことは眼中無しである。ここまで扱いが変わるか?清虚道徳真君。
 
 さすがの天化も、今の道徳の仕打ちには我が眼を疑った。いくらなんでも踵落しはないだろう……。とてもではないが女性に対する行いでは
 
なかった。眼の前にいるこの男が本当に自分の師匠なのか、半ば唖然としながらも疑惑の念を抱きたくなるほどである。
 
 道徳に非道に扱われた悲しみからか、地面に突っ伏して泣く果林の様子に天化はやり過ぎたかとバツの悪い気分で見下ろした。
 
 対照的に道徳は果林のことはどうでもいいという態度丸出しで、長居は無用とばかりに立ち去ろうとする。その道徳の腰に、果林は身も世も
 
無い風情で取り縋った。それはもうしっかりと、絶対に離すものかという意思が窺える程に。
 
「あ、あたくしのどこが気に入らないって言うの!?こんなガキよりずっと綺麗だし、根性悪じゃないし、才能だってあるわ!!誰よりも、貴方の
 
事を愛しているのよ〜っ!!」
 
 この時、道徳が感じたものをなんと表現するべきだろうか。例えるなら、背中におぞましく気味の悪い虫がぞわぞわと這い回るような、胃から
 
5千年前に食べた食物がせり上がってくるような、そんな何とも形容し難い気色悪さを体感したのである。
 
 誰でも経験できるものではないだろう。勿論したくもないが。
 
 背筋を走る悪寒と同時に道徳の全身に鳥肌が立つ。少し近付かれただけで嫌なのに、布越しに触れられてるとなるともう我慢の限界だった。
 
「わ……わ、私に触れるな!近寄るなーっ!!!」
 
 上擦った怒声と共に果林を振り払い、手頃な間合いができると同時に、道徳はこともあろうに女性の顔を拳で殴り飛ばした。
 
「グハァッ!」
 
 地面に叩きつけられ、衝撃に数m転がった果林は、昏倒しているのかピクリとも動かない。道徳の弟子は頑丈さが売りとはいえ、女性に対して
 
この仕打ちはむご過ぎる。ましてや顔は女の命だ。それを殴るとは、天化の知る師匠には信じ難い暴挙であった。
 
「コッ…コーチ!女の人になんてことするさ!俺っち師父を見損なったさね!!」
 
 男としての正義感で詰め寄ってくる天化に、道徳は僅かに金色がかった瞳で睨みつけ、荒げた声のまま怒鳴り返す。
 
「アレが女だと!?よく見ろ!あいつは正真正銘男だ!!私は御釜なんぞ大っっっっっっっっっっっっっっ嫌いだっ!!!」
 
 道徳が指差す通り後ろを振り返ると、長い黒髪のカツラを被り直している果林が居た。その上胸パットがずれて片方の胸がへこみ、一つは背
 
中にいびつな瘤のように膨れていた。
 
「ぎぃぇぇぇぇー!嫌過ぎるさ!!」
 
 思わず天化は頬に手を当てて絶叫する。道徳に幼い頃から育てられた為か、天化も師匠同様に御釜嫌いだった。無理もあるまい。『御釜は
 
地獄の悪鬼で、この世界に害を成す害虫なんだよ』などと偏ったことを教えられていれば当然である。
 
 天化が果林は御釜だと知った瞬間の心象風景は、ピ○ソとダ○の絵画にヘタクソな子供の落書きを加えたようなものだったらしい。つまり、そ
 
れ程の精神的ダメージを食らわされたのだ。天化がこれ程ショッキングな思いをしたのは、後にも先にもこの時だけだったという。
 
 仙人として送り出した弟子が久々に訪ねてきたら、大嫌いな御釜に変化していた上に愛の告白までされてしまった、道徳が過去に受けた衝撃
 
に比べればまだ可愛いものかも知れない。彼が果林に徹底的に冷たかったのは、男でありこの世で最も嫌う御釜であったからなのだ。
 
 未だに怒りに息を乱して、首筋にまでびっちりと鳥肌が立ち、道徳は握りこんだ拳をわなわなと小刻みに震わせている。道徳がここまで感情を
 
高ぶらせるのは、ある意味非常に珍しいことだった。一歩間違えれば青峰山が消滅しかねないのが問題だが。
 
「あ…あたくしは、貴方の為にあの醜い姿から蝶のように生まれ変わったのに……」
 
 純情可憐な乙女が祈りを捧げるようなポーズを決め、カツラも胸パットも直して体裁を整え、瞳をうるうると潤ませても、御釜という事実だけで
 
全てが台無しである。いくら美しくても、『女性』でなければ道徳と天化の同情心は動かないのだ。
 
 果林が自分に浸ってポロリと落とした写真を、天化は何気なく拾って硬直した。昇仙記念と銘打たれたその写真には道徳、元始と一緒に、生
 
まれたのが哀れとしか言いようのない醜男の姿が写っている。そうこの醜い男が本来の果林の姿であり、現在の容姿は、弟子もとらずに仙人
 
修行もさぼって何千年もエステに通った賜物だったのだ。
 
 天化は写真と果林とを見比べ、口をぱくぱく動かしてただただ茫然とする。道徳に眼を移すと、今や完全に彼の黒い瞳は金色がかっていた。
 
 まさに獲物を狩る肉食獣の瞳に変化したそれは、道徳の感情が極端に高まっている証拠だった。この場合は殺意の方が適切か。
 
 嫌悪と憤怒で切れる寸前。いや、天化はブツッという師匠の理性の糸が切れる音を聞いた気がした。
 
 刹那、天化の身体が恐怖に小刻みに震える程の殺気を滲ませ、道徳は片腕を上げ掌を太陽に向ける。低く唱えられる真言に応えるように、
 
天に向いた掌の上に漆黒の渦が巻き始め、渦は球体へと程なく変化した。
 
 それは明るい太陽の真下にあるにも関わらず、光そのものを吸収しているように影すら窺うことができない。
 
 天化にはさっぱり分からない術でも、ある程度は知識のある果林はこの球体を見た瞬間に青褪めた。一般的な単独属性の上級術など話しに
 
ならず、2つの属性を持つ複合術、3つ以上合わせた混合術などの高度な術より、遥かに威力が高く危険な術の筈だ。
 
 まさかこんな術を使うとは果林は思ってもみなかった。これを当てられたら、魂魄すら消滅してしまうのである。
 
 恐怖に声すら出せず、ただひたすら哀願を訴えてくる瞳をも一蹴して道徳は術を完成させ攻撃を仕掛けた。
 
「私に触れたら殺すと、以前通告したな。それを実行させて貰おう。光も届かぬ闇に吸い込まれてしまうがいい」
 
 術名を時空暗黒洞と名付けられたこの技は、人工的に重力を歪めた小型のブラックホールだ。後に楊ゼンが手に入れる宝貝六魂幡と性質的
 
にかなり似た術なのである。威力は宝貝に劣るが、それでも恐ろしい破壊力を秘めている。
 
 そのまま立っていればまず命は無い。果林は咄嗟に地に伏せてそれをやり過ごした。漆黒の球体は果林の背中数センチを掠め、元一戸建て
 
を地面ごと抉り取って消滅する。後には、隕石でも落ちたような半円球の巨大な陥没が残されただけであった。
 
 本気で殺意を持っていたら、あの程度の威力で済ませてなどやらない。もっと巨大なものを繰り出すか、同じ大きさでも吸引力を上げたものに
 
する。半径数百m以内に居た者全てを呑み込むぐらいのものは、その気になれば作ることもできるのだ。
 
 個人的な気の高ぶりで余計な殺傷をするのは愚か者のすることである。道徳とてその辺の分別は弁えているつもりだ。
 
 一応のところ恫喝で済む範囲内で収めるだけの理性は働く。何よりも、今はどうあれ昔は育てた弟子であることには変わりない
 
 道徳は腰が抜けたままでいる果林を通常の漆黒に戻った瞳でジロリと睨み据えると、低い声で通告する。
 
「破門したとはいえ、元弟子だ。今回は大目にみてやる。ああなりなくなかったら二度と来るな」
 
 顎をしゃくって巨大な陥没を指し、果林の返事も聞かずに余りのことに放心している天化を連れて邸へと足早に道徳は歩き去ったのだった。
 

 無人の広場に一人残された果林は、のろのろと立ち上がった。堅く作った拳に決然たる意思を込め、道徳が居るであろう邸の方向を見詰める。
 
「あたくし……諦めなくってよ。……絶対に!!」
 
 好かれた者にとっては不幸なことに、御釜とはしぶとく諦めの悪い生き物なのである。
 

                                                                     1999.12.29/2001.5.19