VersusU-UVersusU-UVersusU-UVersusU-UVersusU-U   CoolCoolCoolCoolCool
 あのキワモノ話「VS!」の続きです。春日野さんが漫画化して下さった話でもあります(汗)。
 結構直しましたね〜(笑)。そのお陰か、春日野さんのお話と違うところが色々出来てしまいました(オイ)。でもまあ、漫画と小説はまるで表現が違うので、良しとしましょう!(原作者の自覚なし)
 冒頭から登場する竜綺は、WS版とPS版のオリジナル主人公です。一般的には呂雄なんですが、私がゲームをした時に『竜綺』だったのでこの名前を使っています。やっぱり愛着があるので(苦笑)。
 読者の方に石を投げられてもいいから、Vも書きたいと密かに思っちゃったりしています(やめろよ)。
 小説はこんなつまらないキワモノ話ですが、春日野さんの漫画はとても可愛くて素晴らしいですよ!お勧めで〜す。
 ヴェールが宙を舞い、果林は地面に砂埃を立てて叩きつけられた。昔紫陽洞で修行をして並の仙人よりも打たれ強い果林ですら、 
跳ねられた衝撃にすぐには立ち直れない。その上ウェディングドレスはすっかり土に塗れて迷彩柄が付き、完璧に化粧を施した顔も
 
くずれて、戦場に立つ兵士のようになってしまっている。
 
 道徳も同様に弾き飛ばされて近くの川へ落下し、流されていた。ここまでされてもまだ起きないとはかなり堂のいった術(怨念)とい
 
えよう。さすがは七百年もかけただけのことはある。
 
 素早い動きで天化はゴヂラの背中から川に飛び込み、道徳を岸まで引き上げる。ぐったりとしている道徳の姿に今にも泣きそうな
 
顔でと抱き締めて頬をすり寄せた。果林への見せつけともとれる行動である。
 
「師父!しっかりするさっ!!」
 
 道徳の頬を軽く叩いても何の反応も返さない。また殴ってやりたくなる衝動を押さえて、天化は膝に抱いた道徳の唇に果林にされた
 
お返しとばかりに接吻する。深く合わさった口唇に果林は愕然とする、がそれも束の間、すぐ様眼を剥いて喚き散らした。
 
「………!このクソガキ!何てことするのよ!道徳真君様の眼が覚めちゃうじゃないのっ!!」
 
「ふむふむ、なるほど。呪いの解除は、誓いの口付けでするつもりであったのか……」
 
「御伽話に出てくる目覚めのキスが人工呼吸だなんて。メルヘンっちゅうかロマンがかんじられねぇよな〜」
 
 太公望は納得したように一人頷き、竜綺は腕を組んでどこか間の抜けた感想を述べている。素の姿に戻った楊ゼンは道徳の意識
 
が無かったことを神に感謝し、やはり日頃の行いが良いからだと一人悦に浸っていた。
 
「……うん………ふぁ……師父」
 
 その間も道徳と天化は濃密な口付けを交わし続けている。全身に広がってくる甘い痺れに身体が蕩けそうで、天化が寝巻に縋りつ
 
くと、応えるように道徳の腕が上がり天化の細い腰を引き寄せた。接吻に夢中になって道徳に抱きついている天化には周りが見えて
 
いないらしい。更に角度を変えて2ラウンド目に突入というところで、太公望が制止する。
 
「ええ加減にせんかっ!!」
 
 太公望はスパパーン!とハリセンで一気に二人の頭をはたき、まだ続けるつもりならもう一発殴ってやろうと構えながら睨み据えた。
 
「……ああ、おはよう太公望」
 
 赤面した少年が慌ててぱっと離れると、悪びれた風もなく道徳は立ち上がる。
 
 水に濡れた寝巻が気持ち悪いのか、胸元をはだけてさっと腕を抜いて堅く絞る。普段の服装だと想像もつかないような、細身だが引
 
き締まった肉体に一同の視線が集まった。道徳はそれに臆した風も無く皺だらけになった夜着にもう一度腕を通す。その間天化と果
 
林は道徳の体躯にボーっと見惚れっぱなしだった。
 
 続いて道徳は、頬を赤らめて思わぬ役得にうっとりしている果林に自ら近付き、軽く頭を叩いて笑いかけてやる。その仕草に傍観者
 
は全員岩のように固まった。
 
(……晴天の霹靂!!天変地異の前触れ!?)
 
 御釜が傍に近付いただけで悪寒に震え、少し触れられただけで強力な術や技で攻撃をしかける道徳が。昇仙した弟子が『御釜にな
 
った』という理由だけで破門にしたあの道徳が。自ら触れてしかも笑顔まで見せてしまっているという事実に、太公望達の姿は驚愕の
 
余りシュールレアリズム化する。とっても芸術的(?)だ。
 
 いつもの道徳(師弟/師父)じゃない!!という思いが、声の変わりに彼らの顔には有り有りと刻まれていた。まるでム○クの『叫び』
 
を4人全員でやっているかのようである。
 
 果林はというと、道徳がこんな風に笑いかけてくれたことも、頭を撫でてくれたことも昔紫陽洞で修行をしていた頃以来で、嬉しさと感
 
激で魂が抜けそうになっている。そんな果林のことを知ってか知らずか、道徳は優しく声をかけてきた。
 
「果林、お前がここまでするほど慕ってくれるのは嬉しいが、私はやはり天化が一番大切だ。お前を元弟子としか見れないことを許して
 
欲しい。色々と辛く当たってしまったが、それも元師匠として、一つの事に囚われず、もっと広い視野を持ってもらいたいと願ったからこ
 
そだ。元弟子とならいつでも遊びにきなさい」
 
 信じ難いことに、どこから聞いても師匠が弟子を心配し、案じている台詞に他ならない。日頃の道徳なら、天化に対して言うのは当り
 
前でも、これを果林に向って話すことは絶対に有り得ないのだ。
 
 澱みなく、思いやりに満ちた微笑を湛えながらそう言った道徳の姿を、太公望と天化は胡散臭げに懐疑的な視線を込めて眺めた。
 
 反対に楊ゼンと竜綺は、薄気味悪いほどまともな言葉に素直に感嘆し、感動すらしている。
 
 道徳の様子を観察していた太公望は、何か異常に気付いたのか、天化を招き寄せて何事かを耳打ちした。しばしその言葉に聞き入
 
っていた少年は合点がいった風情でポンと手を打つと、幸せに溶けかかっている果林を無視して道徳に声をかけた。
 
「師父ちょっくらこっち向くさ」
 
「なんだい天化!やっぱり川で泳ぐには海パンが一番だな!」
 
 先程とは一転して爽やかな笑顔で歯をキラめかせ、『スポーツ!!』という背景を背負い、道徳は元気一杯に振り向く。
 
 この反応に天化と太公望を除く全員がビクリと身体を竦め、口を開けてぽかんとする。事態についていけずに唖然としたまま眼を白
 
黒するばかりだ。何せさっきとは別の人間がそこにいるようなのである。
 
 嘆かわしげに大きく息を吐くと、天化は道徳の眼前に両手を広げ、猫騙しの要領でパンと叩いた。
 
 束の間の沈黙の末、何度も眼をしばたいてキョロキョロと周りを見る師匠の顔を覗き込む。
 
「眼は覚めたかい?コーチー?」
 
「………天化。何で私はこんな所にいるんだ?寝巻きは濡れてるし、昨夜津波でもあったのか?」
 
 恐ろしく的外れなことを言って、道徳はしきりに首を傾げる。
 
「…ふぅ…師叔の言った通りさ。寝惚けてたさね、師父」
 
「……?寝惚けるって?何が」
 
「分かんないんなら別にいいさ……」
 
 呆れて肩を竦める天化を眺めても何のことやらさっぱり分からず、突き刺さってくる胡乱げな視線に初めて気がついてそちらに頭を
 
巡らせた。珍しい物でも見るような遠慮のない眼に益々疑問が増したが、とりあえず声をかけてみることにする。
 
「太公望、竜綺、楊ゼン……ここで何をしてるんだい?」
 
「やはりな。お主また寝惚けておったろう。道理で言動が妖しい筈だ」
 
 同じようなことを天化に続いて太公望にまで言われて、道徳はきょとんとした。おかしな夢を見たことは見たが、自分は確かに洞府の
 
寝台に寝ていた筈なのである。それが起きてみると何故か修行広場に居て、寝巻は勿論髪までもがびっしょり濡れていたのだ。何が
 
起こったのか知りたいのはこっちの方だった。
 
 濡れた髪を掻き上げて竜綺と楊ゼンと見ると、自分を差し置いて納得したようにうんうんと頷いているし、道徳は何だか一人取り残さ
 
れたような気分を味わっていた。
 
 楊ゼンと竜綺が納得したのは、『清虚道徳真君は寝惚けると正当な意見を述べたり、別人のような行動をとったりする奇妙な性癖が
 
ある』とそれぞれの師匠から注意を促されていたことを思い出したからだ。彼が妙に理屈にかなったことを尤もらしく述べている時は要
 
注意だと聞かされていたことも、天化が言うまで完全に失念していた。
 
 特に楊ゼンは、玉鼎が12仙会議から帰って来る度に道徳の性癖の愚痴を聞かされているというのに、実際に目の当たりにしてかなり
 
度肝を抜かれ、理解して納得するまでに竜綺より時間がかかった程である。
 
 大体からして眼もばっちり開いていたし、喋っている声も起きている時と大差ないぐらいしっかりしていた。思い返せばどこか視線が
 
虚ろだった気もしないではないが、余程彼のことを分かっていないと区別はつくまい。今更ながら太公望の眼力に感嘆し、天化の度胸
 
に驚愕する楊ゼンだった。
 
 それにしても日常の行動がおよそ仙人らしくなく、子供っぽくどうしようもない男だというのに、寝惚けると正常な行動をとるとはどうい
 
うことなのだろう。
 
「残念だったさね、果林さん。師父はあの時寝惚けてたから、何を言ったか覚えてねぇと思うさ」
 
 自信に満ちた顔で言う天化の口調は、被告が心神喪失状態であった為に無罪を主張します、と述べる弁護人のようだ。
 
 道徳は果林と聞くと同時に嫌そうに肩眉を吊り上げ、剣呑な眼をじろりと向けた。先刻とはうって変わった冷たい態度に、果林はただ
 
ただ悄然とする。折角元弟子として出入りを許されたと思ったら、結局現状は何一つ変わらなかったのである。むしろ悪くなったかも知
 
れない。天国から地獄に突き落とされたようなもので、当然といえよう。
 
 そんな果林を慰めるように、道徳に聞こえないよう声を潜めて、竜綺は勤めて優しく話しかけてやった。
 
「まあ、そう落ち込みなさんな。道徳は本心じゃあんたのことを認めてんだよ」
 
「……とてもそうは思えませんわ………」
 
「大丈夫だって。……でなきゃ寝惚けてあんな事言う訳ないぜ。きっとあいつの本音が出たんだよ」
 
 本音で様々な行動をとるのかどうかは別らしい。そこを突っ込まれると彼の意見は霧散することになる。だが、それに気付くことなく
 
果林は勇気付けられたようだ。
 
「竜綺様ってお優しい方ですのね。あたくし、道徳真君様以外にときめきを覚えた殿方は初めて……」
 
「あ…いや…その…俺は当然のことを言ったまでだから……気にしないでくれよ、うん。……頼むからさ……」
 
 恥ずかしげに身をくねらせる果林から、竜綺は弁解をしながら僅かに後ずさった。背中をぞわりと何かが走り抜け、あくまでも可愛
 
い女の子が好みの彼は恐怖に慄く。こういったことに免疫がないだけに、道徳から乗換えられたらどうしようと冷汗をだらだら流しつ
 
つ、救いを求めるように太公望と楊ゼンに目配せを必死にした。
 
「それにしても道徳はイイ男だのう?髪を掻き上げる仕草なんぞ中々に色気があったぞ。のう?楊ゼン」
 
「そうですね。僕なんてまだまだですよ、師叔」
 
 竜綺のどうにかしてくれ!という視線に苦笑を零して、太公望はさりげなく果林の好きそうな話題を振って楊ゼンに同意を求めた。
 
太公望の意思を汲み取って楊ゼンも話を合わせると、果林はその時の情景を思い出したのか、頬を染めてうっとりしている。
 
「サ、サンキュー師叔、楊ゼン。助かったぜ〜」
 
 この先の人生を薔薇色で過ごすか妖しいドドメ色で過ごすかの瀬戸際だったのだ。二人の背後に隠れるようにして感激もひとしお
 
に竜綺は礼を言い、御釜に余計なことは今後は言うまいと心に誓ったのだった。
 
「なぁなぁコーチィ。もうお昼さ、俺っち腹減ったさ〜」
 
 真上に上った太陽に気付き、天化が道徳の濡れた寝巻きの袂を引っ張って甘えた仕草で擦り寄ると、道徳は蕩けるような笑みを浮
 
かべて愛弟子の頭を優しく撫でている。
 
「よしよし。着替えを済ませてすぐに作ってあげるよ」
 
「俺っちお昼は山掛け蕎麦がいいさ!」
 
「山掛け蕎麦だろうと、麦飯とろろ丼だろうと何でも任せなさい。腕によりをかけて作るよ」
 
「本当さ?師父大好き!」
 
 外野を差し置いて、すっかりいつもの調子で紫陽洞の師弟はいちゃついていた。太公望達は呆れ返ってさっきとは別の意味でその
 
場を立ち去りたくなった。
 
 道徳は殊のほか天化に優しく接してやってから、一転して果林には冷徹な顔を向ける。だが太公望と楊ゼンの言葉で再び道徳へ
 
の愛を燃やしている果林には、『なんてワイルドで素敵でカッコイイの』としか思えない表情であった。眼が合っただけで心臓が早鐘を
 
打ち、果林はほんのりと赤みを増した頬を押さえて恥ずかしげに視線を逸らす。
 
 この瞬間、道徳の背筋にはぞわりと悪寒が走るとと同時に鳥肌が立った。
 
「……では招かざる客には早々に退散して頂こうか。さっさと失せろ!」
 
 不機嫌な声と共に道徳が指を鳴らした瞬間小型の竜巻が巻き起こり、果林を何処かへと攫っていった。空にキラリと光る星と、あ〜
 
れ〜という声をだけを残して。
 
「それにしても夢見が悪いことこの上なかったよ。サンドバックにされてタコ殴りにされて、治ったと思うとナメクジが頬を這い回るし。挙
 
句の果てには大地震に遭遇して津波に呑み込まれたりなんてねぇ。一体何だったんだ?あの夢は」
 
 果林を追い遣って安心したのか、道徳は天化と太公望達に夢の内容を聞かせて不思議そうに首を捻る。天化も楊ゼンも思い当たる
 
フシがあるだけに、なるべくその話題から離れて欲しかった。何せ、夢の内容は道徳が体感したものが僅かに変異しただけのものなの
 
である。例えばサンドバックは天化が殴ったことを現しているし、地震は楊ゼンが蹴り飛ばした衝撃のこと、津波は川に投げ出されたこ
 
とだ。因みにナメクジの件は果林に『ほっぺちゅう』をされた時のものだろう。
 
 下手に詮索されると一体何が起こったのか完全にばれてしまう。それだけは避けねばならない。二人が内心ビクビクしているとは露
 
知らず、道徳はあっさりとその話題のことはどうでもいいように弟子と友人を食事に誘い、屋敷へと足を向けた。
 
「まあいっか。とにかく邪魔者は居なくなったし、食事にしようか。そちらの御三方もどうぞ」
 
 喋りながら歩き始めた道徳は2、3歩でぴたりと足を止める。師匠の背中を天化は怪訝そうに見上げ、ふと眼に入った光景にひくひく
 
と頬を引きつらせてこそこそと後退し始めた。天化と同様に食事と聞いて喜んで道徳の後ろに着いて行こうとした瞬間、太公望、竜綺、
 
楊ゼンの顔色も一気に青褪める。
 
 今の今まで道徳が広場に背を向けて立っていたのが、屋敷に戻ろうと振り返った為に何が起こったのか殆どばれてしまったのも同
 
然なのである。何せ屋敷へと続く階段の前に広がる修行広場は、ゴヂラの残した足跡でそれはもう凄まじい惨状となっていたのだ。
 
 他はまだ大丈夫でも、少なくともここまでひどい修行広場の状況に道徳が黙っている筈がない。
 
 天化と一緒になって逃げ出そうとした彼らを、道徳は不気味なほどに優しい猫なで声で制止をかけてくる。
 
「御客人と優秀な弟子の天化君、ちょっと待ちなさい」
 
 一瞬にしてかけられた不動の術でその場から動けなくなり、天化も他の3人も冷水を浴びせられたようにびっしょりと濡れた背中を感
 
じながら、この期に及んで誤魔化すように引きつった笑顔を道徳に向けた。
 
 道徳もにっこりと僅かに金色がかった瞳を細めて獰猛な笑みを返し、ゆったり彼らの耳に染み込ませるように言葉を続けた。
 
「食事の後は、楊ゼンの変化でボコボコになったグラウンドの整備と人為的な地震で壊れた家具の修理や掃除を手伝って貰おうかね。
 
ちゃんと終わるまで君達を我が洞府で歓待させて頂こう。それから天化、お前には悪さをしたオシオキもあるからね、覚悟しておいた方
 
がいい。師匠の顔を殴るとは中々いい度胸だ」
 
 丁寧な言葉に多分に含まれる刺が突き刺さり、楊ゼンは心底こんな日に来るんじゃなかったと後悔する。一方太公望と竜綺はこいつ
 
途中から起きてたんじゃないのか?と胡乱げな視線を送った。
 
 そして天化は、この歳になって尻百叩きかい、と嘆息した。どうせならもっと色っぽいオシオキの方がいいと思う辺り、当事者で騒ぎの
 
元凶の一人でありながら全く懲りていない。
 
 その頃竜巻に飛ばされたもう一人の元凶は無人島の断崖絶壁で夕日に向かい、誓いも新たにガッツポーズを決めていたのだった。
 

                                                      2000.5.14/2001.6.9