どんよりと曇った、光のない草原の中は、希望の光が射さない暗黒世界のように見える。アキラは周囲の暗さに押し潰されそうになる心を支えながら、
ヒカルの姿を捜し求めていた。アキラにとってヒカルは希望の光であり、心のよすがであった。
 ヒカルという支えを失えば、今のアキラは根底から崩れていく。この先の人生を彼は廃人として過ごすことになるだろう。
 それほどアキラは追い詰められていた。
 平和な世界であれば、こうも精神的にも肉体的にも極限まで追いやられることもなく、自分自身を立ち直らせることができたに違いない。
 しかし今は、状況が著しく変わっている。多くの人々から人間性は失われ、侵略者に命を狙われ続ける日々だ。
 どれだけ頑強な精神力の持ち主であったとしても、追い詰められないとはけっして言い切れない。
 ましてやヒカルもアキラも社も、十六歳の子供だ。大人顔負けの気概や負けん気で耐えていても、限界はくるものだ。
 アキラはこれまで何とか持ちこたえてきた分だけ、ヒカルが傍に居ないというだけで相当参っている。
 ヒカルを探して方々を駆け回り、小高い丘陵に登って、丘と丘とに挟まれて小さな谷あいになっている場所を見下ろした。アキラはそこに、戦闘機械
が立っているのを見つけて素早く身を隠す。
 奴らが居たことについては不思議ではない。触手の長さからすれば妥当な位置で、むしろ予想より遠かったほどだ。
 彩を追いかけていたヒカルは、きっとこの近くにいるに違いない。
 アキラは立ち上がらずに周囲を見回し、軍用ジープを見つけて素早く後ろに隠れ、戦闘機械の様子を観察した。
 どうやら今は動きを止めているらしい。触手があちらこちらに伸びて、何人もの人を捕まえてきているのが遠目からでも見える。
 どうやら、あの機械に人間を収容する何かがとりつけてあるようだ。
 頭のすぐ下に、最初にアキラが目撃した戦闘機械にはなかった、籠のようなものがついている。恐らくあれに違いない。
 冷静に観察を行っていたアキラだったが、集中を乱すように不愉快な汽笛が響き、改めて戦闘機械を見やった。
 機械はゆっくりと動き出している。そして奴らが向かうその先に、小柄な少年が走っている姿が見えた――ヒカルである。
(進藤!?)
 普段の貴公子然とした立ち居振る舞いとは裏腹に、アキラは跳ね起きた。自分の姿が見つかることもお構いなしに立ち上がる。
 ヒカルの傍に行こうと走りかけ、不意に立ち止まった。軍用ジープを振り返ると、視界の隅に過ぎった存在を改めて見やる。
 躊躇は一瞬だった。アキラはそれを丸ごと掴み、今度こそヒカルの元へ向かうために丘を駆け下りた。
 戦闘機械からするすると伸びた触手が蠢きながらヒカルを追う。
「進藤っ!」
 丘の中腹からヒカルに呼びかけると、こちらを振り返ってきた。
「塔矢!」
 立ち止まらないままヒカルは返事をするが、声はかなり切羽詰っている。胸元に彩を大事そうに抱えて、必死にヒカルは走り続ける。
 丘陵を下っているうちに機械はアキラを追い抜き、触手を使って着実にヒカルを捕まえようとしていた。
 アキラは咄嗟に持っていたものを一つ掴むと、映画でしていたようにピンを引き抜き、戦闘機械に向かって投げつける。
 囲碁ばかりをしているといっても、アキラの体育の成績は悪くなかった。投槍などの投擲競技でもそこそこの成績を収めている。
 狙い違わず彼の投げた手榴弾は戦闘機械の足の辺りで爆発した。
 少しでも足止めすることができればというアキラの願いも虚しく、それでも機械は足を止めない。憎たらしいほど平然と歩いている。
 そして確実にヒカルに近づき、ついに触手で彼を捕らえた。
「進藤!進藤ーっ!!」
 殆ど悲鳴のような声を上げて、アキラは斜面を転げるような勢いで駆け下りる。ヒカルは彩を抱いたまま宙吊りにされていた。
「塔矢ぁ!」
 捕まえられたヒカルは荷物のように籠に入れられながらアキラを呼び、黒髪を乱して必死に走ってくる彼を見下ろした。
 腕を伸ばしても届かない、遠く離れてしまった彼に向かってそれでも手を伸ばす。
 アキラはヒカルを呼びながら、心で必死に懇願していた。
 ヒカルを奪わないでくれと。自分の大切な、何よりも愛しいヒカルを、自分の元から離さないでと。
 ヒカルの居ない世界では生きていけない。アキラにとってヒカルは全てなのだ。生きていくための全てである。
 人間が呼吸をするために空気が必要なように、アキラにはヒカルが必要だ。ヒカルが居なければ、アキラは生きられない。
 これまでのヒカルとの思い出が、幾つも脳裏に過ぎる。
 中学二年の夏、一緒に図書館で勉強した。二人はあの頃からゆっくりとだが近づき始め、アキラはヒカルの様々な面を知ることになった。
 夏祭りでは、ヒカルの浴衣姿の愛らしさに心を奪われた。
 そして一年後の夏祭りに告白し、初めて結ばれた。それから二人はライバルや友人だけではなく、新たな関係を築き始めたのである。
 そしてそれを象徴するように、大事な碁盤を見せてくれたヒカルが流した美しい涙を、アキラは忘れていない。
 彼と共に歩むと、共に生きると誓ったことを、違えるつもりもない。アキラにとってヒカルは、かけがえのない唯一愛する人なのだから。
「やめてくれ!頼むから!進藤ぉっ!」
 恥も外聞もなくアキラは絶叫した。泣こうが喚こうが、どれだけ見苦しかろうとも構わない。ヒカルが生きていてくれるのなら、自分の命など惜しくなか
った。そんなアキラの切なる願いを無視するように、触手は容赦なく今度は彼を捕まえる。殺されるかもしれないと、身体中に緊張が走った。
 ヒカルを救えるのはアキラだけなのに、ここで殺されると元も子もない。最悪の想像に反して、触手はアキラを捕まえただけだった。
 アキラの身体を軽々と持ち上げて運ぶと、そのまま抵抗する間もなく籠に野菜か果物のように詰め込まれる。
 ぞんざいに籠に放り込まれたアキラの傍に、ヒカルが不安定な足場をものともせず、走り寄って抱きついてきた。
「塔矢…塔矢……!」
「…進藤……」
 ヒカルを抱き締めながら起き上がり、アキラは柔らかな頬に愛しげに頬をすり寄せる。再び彼を抱き締められる幸福に浸りながら。
 捕まったのは確かにまずい事態であるが、ヒカルと一緒に居られること自体がアキラにとっては希望となる。
これから必要なのは、何とかしてここから脱出することだった。
「大丈夫か、塔矢。怪我はあらへんか?」
「ああ」
 彩を腕に抱いて声をかけると、アキラはヒカルの髪を撫でながら頷いた。離れまいとするようにしがみついたままで、ヒカルは動こうとしない。アキラ
を奴らに奪われるという不安が拭えないのだろう。アキラも触手に捕まった時は、このまま殺されるのではないかという不安で、背中に悪寒が走った。
 ヒカルもきっとアキラと同じような想いを抱いたに違いない。
「塔矢ぁ…」
 首元に腕を巻くヒカルの背中を、アキラは優しく擦って落ち着かせた。そうしていると、アキラの心も次第に安定していく。
 しかしその平安は長くは続かなかった。あの汽笛のような音が響き、籠に居た全員が思わず耳を塞いだ。
 離れた位置で聞くのと間近で聞くのとでは音量の差は歴然である。
 その直後、壁に微かな変化が訪れた。籠がとりつけてある上部の壁が生物のようにうねうねと蠢き、穴のような開口部が作り出される。それを見た人々
は恐怖に慄き、我先にと籠の端へと寄った。開口部らしきものの真下は、不自然な空間が出来上がる。
 奴らにとってこの汽笛はどんな意味をしているのかは不明だが、恐らく互いの意思疎通も兼ねて、食用に物を取り込むために作り出す開口部を開け
る時などに、必要なのかもしれない。何も知らない三人は人々の様子を見て茫然と座っていたが、迷彩服を着た男に腕を引かれて端に寄せられる。
「あの開口部から奴らは餌を中に引っ張り込むのさ」
「その餌が私たちなのよ」
 別の中年男性の言葉を受けて老婦人が弱々しい声で告げ、肩を震わせて嗚咽を零した。男性は無言のまま項垂れ、頭を左右に振る。
 いつ自分が引き込まれるのか分からないからこそ、誰もが明日は我が身と知っての絶望感が籠には満ちていた。
 もがれた野菜もこんな絶望感に浸っているのかどうかは分からないが、人間ではなく餌としての扱いを受けている人々にとって、これほど陰鬱で希望
のない状況は例をみないに違いない。アキラはかける声もなくヒカルを抱き締めていたが、開口部が開いて触手が降りてきたのに警戒を強めた。
 異性人は彼らの様子をどこかで観察しているのか、人間のいる場所に向かって触手はするすると迷いなく動く。それは躊躇もなく真っ直ぐに、アキラ達
へと近づいてきた。触手の意図は明確で、はっきりとヒカルを目指している。その証拠に、ヒカルだけを一歩横にずらせば触手も同様に動き、元に戻せば
同じ方向に向く。わかりやす過ぎる思考だった。どうやら彼らには、人間同士が行う駆け引きのようなものはないらしかった。
 ヒカルを狙う理由は、恐らく触手の『眼』を破壊したことで、危険因子として判断したからだろう。侵略者達の明快な意識を察したアキラは、触手がヒカル
を捕まえる直前に彼を突き飛ばした。一瞬目標を見失った触手は、そのままアキラの身体を捕まえ、開口部へと引き入れようとする。
 社が掴まえようと手を伸ばしたが、一瞬遅く手は空を切り、彼の身体は開口部へと持ち上げられた。
 アキラもあっさりと諦めるわけもなく、すぐ眼の前まで迫ってきた開口部に腕を突っ張って抵抗する。だが触手の力は思いのほか強い。
 まず頭がめり込み、更に肩、腰と徐々に中へ引き込まれていく。
「塔矢!やだっ!」
 アキラによって弾き飛ばされたヒカルは起き上がり、後を追おうとするが、既に彼は手の届かない場所まで上げられ、足だけがかろうじて見える状態
だった。ついさっきまであった負けん気も、何もかもが急速に萎み、絶望がヒカルの胸に満ちる。アキラが傍に居ないというだけで、ヒカルの心は再び萎縮
しようとしていた。今にも泣き出しそうに瞳が潤みだす。太股から下しか見えなくなったアキラの両足を見上げ、その場にへたりこんだ。
――ヒカルっ!
 諦めて泣き崩れようとするヒカルに、懐かしい彼の人の声が脳裏に響いた。甘い手を打ってヒカルを叱りつけた時のように。
 それは偶然だったのか。懐かしい声がヒカルを叱咤激励するように脳裏に響いたと同時に、彩は社の腕の中からふわりと飛び降りると、ヒカルに喝を
入れるように頬を小さな前脚で叩いたのだ。
 ヒカルはぽかんとしたままそこに座り込んでいる。何が起こったのか理解できていないように。
 彩は彼の膝から再び社の傍に戻り、ちょこんと座って様子を見守る。
(何やってんだ…オレ)
 ふと頭に浮かんだのは疑問というよりも、自分に対する叱咤だった。アキラを助けられるのは自分しかいない。ヒカルがするべきことなのに、何を諦めよう
としているのか。他の誰にも変われない。代わって貰うつもりもない。譲る気もない。アキラを助けるのはヒカルだ。
 諦めてはならない、絶対に。
 どれだけ不利な状況でも、必ず活路は見出せるのだから。
 自分の命を賭してでも、アキラを救う。救ってみせる。ヒカルは瞼をゆっくりと閉じ、拳を力強く握ると眼を見開いた。
 眠れる虎が、この時再び覚醒の時を迎えた。
 茫然と中空を見据えているヒカルはそこに何を見出すのか。
 社は固唾を呑んで見守っていた。すると不意に彼の瞳に、対局中のような超新星のごとき強い輝きが宿った。
 ヒカルは徐にすっくと立ち上がると、くるりと社を振り返る。
「社、オレを今すぐ肩車しろ」
「へ?」
 茫然としている社に、ヒカルはこれまでとは打って変わった様相でぴしゃりと言い放った。籠を震わせるような大喝で。
「早くしろよ!塔矢を助けるんだぜっ!」
「お、おう!」
 社が慌てて傍に走り寄ってくると、彩が心得たように社の胸にくっつき、服の中に潜り込む。ヒカルはアキラが持ってきていたベルトのようなものを拾うと、
社に預けてから彼の肩に足をかける。足場の悪い中で立ち上がろうとする社を、ヒカルの声に触発されたように人々が次々に支えた。
 アキラはもう足首くらいまで開口部に飲み込まれている。社が立ち上がっても、ヒカルの背では届かない。
「悪い、社」
 ヒカルは意を決すると一言に謝り、手を頭について足を肩に載せかえる。土足で肩に乗られても社は文句を言わない代わりに、預けられた手榴弾のベルト
をヒカルに手渡した。
「サンキュ」
 礼を言いながら肩にベルトをかけ、ヒカルはゆっくりと立ち上がり、アキラの足首を掴んで更に上へとするすると上っていく。
 それに従い、アキラの身体も開口部から徐々に下がってきた。腰近くまでアキラが下りてくると、社は身体を伸ばして彼の足を捉まえた。
 人間の意図を理解した触手は力を強め、アキラを再び開口部へと引き入れ始める。老婦人も中年男性も、多くの人が社の身体にしがみつき、必死に引き
とめようと踏ん張った。
 触手と人間の奇妙な綱引きが行われる中、ヒカルはアキラの身体をよじ登り、開口部にまで到達する。
(オレも諦めない、おまえと一緒に生きるんだ。絶対に!)
 一つ上るごとに決意を固め、ヒカルは開口部の中に自ら身体を押し入れた。内部には訳の分からない器具のようなものがあり、それらがアキラに近づこう
としているところだった。身体が上と下とでひっぱられて痛いのか、アキラは顔を僅かに歪めている。それもきっともうすぐ終わらせられる。
 アキラはヒカルが上ってきたことに気づいて驚いたものの、砂色の瞳に宿る力に全てを悟り、ヒカルを後押しするように押し上げた。
 ヒカルは持っていた手榴弾のピンを全て抜いて内部に投げ入れると、アキラを引っ張って下ろしながら開口部から社に号令をかける。
「社、引けーっ!」
 号令で全員の力で社の、アキラの身体が引っ張られ、彼らは一気に開口部から引き出された。触手もかかってきた荷重に耐えきれず、アキラにからみつ
いたまま引きずり出される。
「伏せろ!」
 だが安心してほっとする間もなく、迷彩服の男が叫ぶ。手榴弾を内部に投げ込んだことを知っているからこその、判断だった。
 人々に混じって三人も籠の端によって伏せると、開口部が大きく膨らみ、中で次々に爆発が起こる。ぴったりと閉じられた開口部は外へ熱を漏らさなかった
代わりに、内部で甚大な被害を及ぼしたらしい。戦闘機械は数歩歩いて揺らぎ、そのまま丘に横倒しになって倒れた。
 草と砂埃を立てて倒れた機械の中から、異形の生物が羊水のような液と一緒にずるりと這い出す。肥大した頭に瞳孔のない大きな瞳、小さな鼻、唇はほと
んどなくのっぺりとした顔だった。手足には必要最低限の筋肉しかついておらず枯れ枝のようで、胴体も細い。
 生物は一、二度と呼吸を繰り返した後、急速に瞳の色が白く濁り、数秒と経たずに絶命した。
 生物の死と同時に、戦闘機械も活動能力が消えたように銀色の輝きを失いはじめ、灰色にゆっくりと色を塗り替えていった。
 一方、籠に閉じ込められた人々は、四苦八苦しながらも檻の外へ出て行く。幸いにも籠は機械の下敷きにならず、倒れると同時に木に引っかかり、その後
丘の柔らかい草地に落ちたお陰で、大したダメージが伝わることはなかったのである。
 暗かった夜が明けようとしていた。希望の光と共に。

 三人は草原での一件が一段落すると、ペンションに戻って荷物を纏めて外に出た。一階と二階部分が瓦礫となっている家に白々と明ける夜が光をもたらし、
崩れた石材に座る三人を照らす。光の中でもたらされた光景を見て、彼らは感嘆の吐息を零した。
 ここに丸一日以上居たのに、どんな場所だったのか、これまで少しも気づかずにいた。戦闘があったり、機械に襲われたり、暗くて気づかなかったりであった
とはいえ、勿体無いことをしたと思う。
 彼らはゆっくりと群青から白、黄、赤、鮮やかな青へと次々にグラデーションを変える空を見つめ、日本で最も有名な山に見惚れた。
 雄大な大自然の息吹を感じながら。
 これほどの惨劇があっても、富士山は美しく、朝日の中で輝いていた。ヒカルは立ち上がると大きく伸びをして山を見上げる。
 新幹線に乗るときに富士山を見る時とは、また印象が違う。生きているという実感が、それをもたらすのだろうか。
 視線を感じてアキラへ眼を移すと、彼はうっすらと微笑んでヒカルの横に立つと、肩を抱き寄せてきた。
「おまえな…社が見てるぞ」
 ヒカルの苦言に、アキラは苦笑を零す。ついこの間までは、社が居ようが居まいがアキラにスキンシップを求めてきたというのに、随分と変わったものだ。
 しかしこれが本来のヒカルだった。アキラが知っている、誰よりも輝く光を持つヒカルである。
「今更社は気にしないよ」
 悪びれた風もなく答えるアキラにヒカルは呆れた顔をしてみせたものの、ここ数日間の自分の行動の記憶もあるだけに、無理からぬことだとも思う。今更
隠したところでどうにもならない。ヒカルは何せ、布一枚隔てたところでアキラとの行為にも及んだのだ。
 あの時の自分の精神状態では無理からぬこととはいっても、後で思い出すと恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
 よくアキラが嫌がらずに、ヒカルを抱いたものだと思う。社もまた、二人のことを知りながら、何も言わずに静かに見守ってくれていたのにも、感謝している。
 少なくとも、あの時アキラと肌を重ねたのは必要だったからこそである。アキラが直接的にヒカルに愛情を示したことも、ヒカルが立ち直る一つのきっかけ
になっているのは間違いない。
 ヒカルはその選択を後悔していないし、アキラも後悔していないだろう。二人にとって必然だったのだ、あの行為も。
 ここ数日間の記憶を振り返ると、ヒカルはアキラの愛情がどれほど自分に向けられているのか、改めて認識できた気がする。
 きっと今後は、アキラはどこであってもヒカルと手を繋ぐだろうし、ヒカルに対する愛情を一切隠すことがなくなるに違いない。
 今まででも十分隠していないと思うが、他人の前で一切取り繕わず、本気で隠さなくなるのとは、大きな違いである。
 開き直ってしまってもいいと思っても、やはりそれは難しい。ヒカルの内心の溜息を知ってか知らずか、社は暢気なものだった。
「お二人さん、待ってんねんけど」
 茶々を入れるように言葉で二人に割り込み、振り返ってきたアキラに一睨みされ、おどけた仕草で肩をひょいと竦める。
「へえへえ、後ろ向いときますわ」
 社が彩を抱いて背中を向けると、アキラは今度こそヒカルを抱き寄せてゆっくりと唇を重ねた。
「例え何があっても、キミを離さない」
「オレもおまえとは離れない」
 誓いの言葉を返し、ヒカルは自らアキラに唇を寄せる。
 昇ってきた朝日が、危機を乗り越えて絆を深めた二人に祝福を与えるように光を降り注いでいた。



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