口付けはひどく甘くて、あっという間に理性は蒸発した。
舌を絡ませて深く口腔を味わっているうちに、ヒカルからは力が抜けてアキラの身体にただ横たわるようになる。
さっきまで積極的に求めていたというのに、少しの口付けだけですっかりアキラに主導権を明け渡し、されるがままになっている。
アキラは素早くヒカルと体勢を入れ替えると、口付けを首筋や耳朶へと移していく。唇が触れるたびに、ピクリと小さく震える感じ
やすい身体が堪らなく愛しい。
自分でも不思議なほど、アキラには次をどうすればいいのか分かっていた。
どこに唇を寄せればヒカルが感じるのか、どの辺りを撫でれば甘い声が聞こえるのか、何となくだが察せられる。
ついさっきまでうろたえて自分を持て余していたことが嘘のようだ。無意識に手や唇が動いて、ヒカルの肌を辿っていく。
まるで何度もヒカルと肌を重ねたことがあるかのように、本能と無意識の部分で理解することができた。
そして、アキラが愛撫を施した部分は、必ずと言っていいほど、ヒカルは顕著に反応を返した。それが嬉しくて、ヒカルの身体から
反応を引き出すことに没頭してしまう。
潤んだ瞳で甘い吐息を零し、アキラを呼ぶ。
可愛くて堪らなかった。まるで全てを知り尽くしているように思える身体なのに、すればするほど新しい発見がある。
もっと感じて欲しい、もっと甘い声を聞かせて欲しい、もっと自分を求めて欲しい。欲望は留まることがない。
淡く色付いた突起を含み、舌で転がす。指先で摘んで、優しく押し潰すようにしながら捏ねると、ヒカルは激しく頭を振った。
「あっ!…や……ぁん」
金色の前髪が揺れ、月光に反射して鮮やかに輝く。感じ入るヒカルの美しさに、アキラはうっとりと瞳を細めた。
次はどうすればヒカルは悦ぶだろう。どんな風に愛せばこの身体はアキラに甘い反応を見せてくれるのだろう。
触れれば触れるほど、溺れていく。――自覚はあった。
一度でも手を伸ばせば、二度と離れられないということは。
「はぅ…ふ、あ…とうやぁ」
呼びかける声に応えて頬にキスを落とすと、ひどく安心したように微笑む。その無垢な笑顔を見られるだけでも幸せなのに、自分
はもっと深いところでも繋がりたいと思ってしまう。
底なしのように、どこまでも貪欲に欲しくなるのだ。
口付けを下肢に移して、幾つもの花弁を散らす。ヒカルに刻んだアキラの所有の印は、真っ白な肌に咲いた深紅の薔薇のようだ
った。ヒカル自身を口に含んで舌を絡ませることにも、少しも躊躇は覚えない。
同性の身体を組み敷き、その象徴とも言えるものに触れているのに嫌悪は全く感じなかった。
反対にそこもヒカルの一部だと思うと、愛しさすら覚えて念入りに触れてしまう。同じ男であるからこそ、そこを弄られればどれほ
どの快感を得られるのか分かっているから。
ヒカルが泣き出してしまうほど、たっぷりと可愛がる。簡単には絶頂に導かず、焦らして高めて一つになる時まで許さない。
アキラは蜜を零し始めたヒカル自身の雫を、自分を受け入れる健気な場所に塗り込み、丹念に解し始めた。
今夜初めてアキラを受け入れるヒカルに、負担をなるべくかけないように、痛みを軽減できるようにゆっくりと慣らす。
「う……くぅ……」
やはりヒカルのそこは硬くて、指すらも中々受け入れられない。
異物感に涙を零すヒカルには可哀想な真似をしていると分かっていても、自分を押さえることはできなかった。
少しずつヒカルが慣れてくると、指を増やして広げていく。
数本の指をバラバラに動かしながら、口腔に含んだヒカルを舌先で舐め上げ、中で感じるところを爪弾いた。
「ひ…あぁ!」
弓なりに背を反らして大きく身体を震わせ、ヒカルは悲鳴じみた嬌声を上げる。
ビクビクと足先が痙攣し、乱れた吐息がアキラの耳にも届いた。
指をゆるやかに引き抜いてヒカルの髪をかき上げ、額に優しく口付ける。ヒカルは淡く微笑んで、アキラの背に腕を回した。
耳朶に愛を囁きながら、ほっそりとした足を広げて自身を押し当てる。少しでもアキラを受け入れようと、ヒカルは力を抜いて瞳
を閉じた。それに応えて先端をゆるりと潜り込ませる。
腰を進めれば進めるほど、ヒカルの表情は苦しげになっていく。
解したといっても本来受け入れる器官ではないそこにアキラを呑み込むのは相当な負担なのだろう。初めての痛みに涙を零し、
泣き出したヒカルを宥めながら、少しずつ埋め込んでいった。
幼子のようにすすり泣いて、アキラに取り縋るヒカルに愛しさは溢れんばかりに留め止めもなく胸に広がる。
「進藤…愛してるよ」
耳に囁いた言葉に、ヒカルは何度も頷いて涙でくぐもった声で必死にアキラに応え、訴えていた。
愛していると、二度と自分をおいて行かないで欲しいと。
「お願い…もうオレを独りにしないで…アキラ」
初めて呼ばれた名前に、嬉しさと同時に切なさが胸を打った。
どれほど悲しい想いをしてきたのか、おいて行かれる辛さに涙したのか、ずしりとくる重みに思わず腕が伸びていた。
しっかりとヒカルを抱き締め、涙で濡れた頬に唇を寄せて、安心させるように髪を梳く。
「大丈夫……ボクはキミをおいては行かない。ずっと、ずっと傍に居る。キミだけを愛しているよ、ヒカル」
アキラがしっかりと頷いてみせると、ヒカルは無邪気で無防備な、幸福を体現したような華やかで綺麗に微笑んだ。
その笑顔が、ヒカルの心からの喜びを自分に伝えていた。
無防備で無垢な表情には、嘘偽りなどどこにもない。
アキラの肌の温もりに頬を摺り寄せ、喜びの涙を流して口付ける。
微かに塩味のする唇を舌でなぞり、ベッドに沈めた身体をゆっくりと揺すり上げ始めた。
最初は苦痛に歪んでいた顔は、アキラがヒカルの感じる場所をつきとめて集中的に攻め立て始めると、頬に紅が差したように
染まって何とも色っぽい表情に変化していく。
ヒカルはアキラを受け入れるのは確かに初めてであっても、アキラには何故かどうすればいいのか分かってしまう。
初めてでありながら、自分達は初めてでないのかもしれない。けれど、そんな事はどうでもいいことだった。
愛しい恋人とこうして一緒に居られるのだから。
赤く色付いた唇からは嬌声が零れ、白い肌が桜色に上気する。
深い場所を突き上げ、反応を返せば容赦なく暴いていく。
互いの動きに無意識に身体を合わせながら、二人はより高い場所へと同時に昇りつめていった。
翌日起きた時は、正午をすっかり過ぎた時間だった。
アキラはヒカルを明け方まで離すことができず、途中でヒカルがもう許して欲しいと懇願しても、やめることができずにそのまま
ヒカルを貪り続けた。
初めて肌を重ねた夜だというのに、一体何度ヒカルを抱いたのか、数えることもできないほどである。
それなのに、まだ物足りないと思ってしまうのだから困りものだ。
昨夜散々ヒカルを抱いて、思う様に身体を開いたのに、もっと欲しいと感じてしまう。本当に自分の欲望は底なしだと呆れた。
それでも充実感と充足感に、心は満たされている。
胸に頬を摺り寄せて眠るヒカルは、健やかな寝息を立てて、うっすらと口元に幸せそうな笑みを浮かべている。
ヒカルの幸せな寝顔を護る為なら、アキラはどんな事でもできる。
二度と再び、両親と会うことができなくなったとしても、きっと自分は後悔をしたりしないだろう。
ヒカルに幸せを与えることができるなら、アキラは何でも捨てる。例えそれが自分の命であったとしても、躊躇はしない。
アキラはヒカルと出会う為に、ここへきたのだから。
生まれて初めて、真に心から相手を愛する想いというものを、知った朝だった。