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△月□日(第71局〜73局)

脂くさい都議会議員に、ネチネチした秘書、後援会の爺共の接待碁なんて、正直鬱陶しいの一語に尽きる。
四面持碁にすると、あのバカ議員冷汗かいて驚いてたな。
少しはストレス解消にはなったけど、脂ぎった顔が余計に油まみれになって見苦しい。
公害としか言い様がないな、あの汚い顔ときたら。…これだから嫌なんだ、接待碁は。
相手が進藤なら、どれだけ嬉しいだろう。どんなことでもしてあげるのに。でも具体的に考えると分からない。ボクは進藤に何を望む………?見つからない答えを無理に思考しても仕方がない。そのうちおのずと分かってくるだろう。
10連勝を飾って表面上は何事もないようにしているけど、最近苛々しているのが、芦原さんにもばれてしまっていた。進藤はプロ試験の予選を通り、確実にボクを追ってきている。
それに喜びを感じている棋士としてのボクが居る。近い将来に向き合う相手が来る事に期待しているボクが居る。
同時に、進藤の姿を見れないことへの苛立ちも感じている。逢いたいんだ…どうしてこんなにもと思うほどに。
進藤は今誰と打ち、誰と話し、誰と共に居るのか。何故隣に居るのがボクでないんだろう。
……進藤のことを想うと胸が焦がれる、張り裂けそうに痛くなる。考えまいとすればするほど存在が大きくなる。
分からない答えが余りにもたくさんあって、頭がおかしくなりそうだ。だから余計に苛つくのかな?
でもこれだけはボクにとっては確かな答えだ。碁盤を挟まなくてもいい、ただボクは進藤に逢いたい。


◇月×日(73.5局/夏の風景写真1〜3)

今日は夏休みの美術の課題の為、写真を撮りに外に出た。そうしたら偶然にも進藤と逢うことができた。
逢いたいと思うことが多いのに、実際に逢うとかなり緊張する。どうやって話をしようかと色々考えて構えてしまったが、自分でも思ったよりも自然に話すことができて、何だか嬉しかった。
進藤に美術の課題をのことを話してモデルをして欲しいと頼むと、渋々ながらも引き受けてくれて、フィルムを3本使って写真を撮ったりもした。我ながら凄く可愛く綺麗に撮れていると思う。明日にでも選別して進藤に渡そう。
それにしても進藤を撮った写真に白い影や何かの光が入っているのものが、何枚かあるのがどうも不思議だ。
写すときには障害物は何も無かった筈なんだが…。まあ、別にいいといえばいいんだけど…気になるな。
明日はボクのモデルをして美術の手伝いをしてくれている進藤に、お返しとして英語の宿題を手伝うことになっていて、図書館で待ち合わせている。それから夏祭りにも一緒に行く約束をした。
何だか急にボクと進藤との距離が狭まったような感じでくすぐったい。早く明日にならないかな。


◇月△日(73.5局/夏の風景写真3〜4)

図書館で進藤の英語の課題を手伝った。進藤は素直で飲み込みが早くて教え甲斐があった。他にもできていない科目があったら手伝おうと思っていたけれど、英語だけだったのが少し残念だ。他にもあったらまた逢える口実ができたのに。
勉強の為とはいえ、間近で進藤の横顔を見ていると、やっぱり可愛くて胸がドキドキしてしまう。
進藤と一緒に居たり、進藤の事を考えたりすると、どうしてこんな風に胸が高鳴ったり痛くなったりするんだろう?
でも、それは嫌じゃない。むしろどんなに胸が苦しくても、進藤と離れたり逢えない方がもっと辛い。
今日は夜から指導碁があったので、進藤とは夏祭りの待ち合わせ場所を決めて5時頃に別れた。
別れ際が自分でも情けないぐらい苦しくて、指導碁なんて行きたくない、進藤と一緒に居られるならサボってしまいたい、とまで本気で思ってしまった。プロ棋士としてこんな事を考えちゃダメだと分かっているけど…正直な気持ちだった。
でも、できた写真を渡したら、眼の前で見られると恥ずかしいから慌てて帰ってしまって、勿体無いことをしたと思う。
キミはあの写真にどんな感想を抱くだろう?それを聞きたいけれど、やっぱり聞きたくない気もする。
次に進藤と逢うのは明々後日だ。一緒に花火大会に行けるなんて本当に運がいい。
待ち合わせはこの間進藤をモデルにして写真を撮った公園。こんなにも待ちどうしいなんて…逢いたい、キミに。


◇月□日(73.5局/夏の風景写真5〜10)

一緒に花火大会に行った進藤は凄く凄く、可愛かった。浴衣姿はまさに眼福ものだった。
あの姿を写真におさめられて、ボクは最高に幸せだ。最初は美術の課題なんかクソ食らえとも思ったが、進藤の写真を撮れる機会を与えられるきっかけになった。ありがとう先生!
浴衣を着ている進藤を自転車に乗せて走ったりできて気分が良かったけれど、坂道を登れない自分が情けなかった。道路交通法違反でも、この際どうでもいい。次はもっと体力をつけて、進藤をのせてあの坂道を登りきってやる。
進藤オススメの花火がよく見れる穴場は、小さな古びた神社だった。はぐれた時はここで待ち合わせにすることを決めておいて良かった。そうでなければ二人っきりで花火を見ることはできなかっただろう。
手を繋いで夜店を探索したり、たこ焼きを食べたりして楽しかった。進藤の手は小さく柔らかくて、触り心地がよかった。
こんなにも心躍る充実した時間を過ごしたのは初めてだ。来年も進藤と一緒に行きたい。はぐれた時間が勿体無くて情けなかったが、余計な邪魔も入らず花火は二人きりで見れたからよしとする。だが次は絶対にはぐれたりしない。
進藤はボクを待っている間碁で時間を潰していた。何故だろう…一人で棋譜並べをしているのはずなのに、その姿はとても神秘的な感じがした。まるで見えない誰かと対局しているような…そんな雰囲気が漂う一局。
何だかあの対局の盤面を見るのは許されない気がして、どんな宇宙が広がっていたのか分からなかったのが、とても残念でもあり、見なくて良かったようにも思う。自分でもどうしてそう思うのか不思議だけど。
花火を見ていた進藤はとても綺麗で、知らず知らすのうちに見惚れてしまっていた。
別れる時はこの間以上に辛くて、進藤をこのまま家に連れて帰りたいとすら思ったけど、一生懸命我慢した。
次に逢えるのはプロ試験の後になりそうだ。それまで2ヶ月…余りの長さに嫌になってくる。
ついさっき別れたばかりなのに…もう逢いたくて堪らない。本当にボクは2ヶ月も堪えられるのだろうか?


△月○日(76.5局)

伊先生から、韓国の研究生と進藤が打った棋譜を見せてもらった。
昨年の大会で打った頃の進藤からは想像もつかないような見事な打ち回しだ。
あれからたった一年ほどで、プロとも違わぬ実力を進藤は身につけたということだろうか?
そう思うと、我知らず身体が震えた。進藤がボクを着実に追ってきているという事実に、身の内から押さえようのない歓喜が湧き上がってくる。進藤の実力が知りたい。この対局から後、どれだけ成長したのか確かめたい。打ちたい…進藤と。
この事がもっと早く分かっていたら、写真のモデルをしてもらった時でも、夏祭りの時にでも、一緒に打ったのに!
ああ…なんてタイミングが悪いんだろう。なにかに邪魔をされているとしか思えないよ。
そういえば出来上がった写真をまだ渡せてない。渡す時、進藤に逢えるじゃないか…いつにしよう?
プロ試験が始まってしまっているから・・・しばらくは無理だ。進藤の集中の妨げになるようなことはしたくないし、夏祭りの帰りに、逢うのは試験後にすると進藤も言っていた。
その後ならどうだろう。進藤とは今後もモデルをしてもらえる約束ができているし、秋は季節的にもいい。
プロ試験が終わったら早速誘って撮らせて貰おう。そうすれば写真を渡す時にまた逢える。


△月×日(78局)

進藤が六連勝!いや、考えてみれば韓国の研究生の対局から一月以上経っているのだし、あれから成長した彼ならば六連勝はするかもしれない。それにしてもあの進藤が…本当に大会の頃とは別人のようだ。
今はどれだけ打てるようになっているのだろう。大会から一年と少しでプロ試験で六連勝を飾るなんて…。
彼の実力は?誰でもいい…今の彼の実力を教えてくれ。

さっき棋院から指導碁を頼みたいという電話があった。最初は断るつもりでいたが、指導碁の相手がプロ試験を受けている最中の院生だという。進藤と一緒にプロ試験に臨む院生だ。すぐさま引き受けることにした。
その院生から進藤の情報をできるだけ聞きだそう。進藤の実力が分かるかもしれない。
話さなかったら、二度と碁を打つ気にならないぐらい、完膚なきまでにありがたい指導碁をしてやる。


△月◇日(79局〜80局)

進藤の実力を知る為にも、今日は指導碁の院生の家に行った。えっと…確か名前はこち…もち…おち…だったけ?
指導碁だと聞いていたが本気の対局を望んでいたようだったし、手を緩めなかったが…正直実力は今一つだ。
この程度では、進藤がボクと対等かどうかをはかることはできない。一ヵ月半の間に何とか実力を引き上げようと思ったが、おち…えーっと、越智をモノサシにしようとしていることを感づかれてしまった。
迂闊だった…進藤のことを気にする余り、ついつい余計なことを口走ってしまったからな。
進藤の情報を少しでも得ようとして、焦って色々尋ねてしまったのもよくなかった。
しかし全く実入りが無かったわけではない。今日一敗をしたという最新情報も聞き出せたし。
だがまあ、いずれ越智はまた指導碁を願い出てくるだろう。進藤の実力がボクが思うように本物なら、必ず!
ボクの背後に近づいてくる進藤の足音が聞こえるようだ……これは多分、気のせいじゃない。


×月□日(86局)

思ったとおり、越智が指導碁を願い出てきた。全く…この前も素直にさっさと受ければいいものを。
余計な意地を張るから、三週間しか時間がないじゃないか。でもまあ、これでも多少は力は引き上げられるだろう。
越智は最初こそ生意気な態度をとっていたが、進藤と韓国の研究生洪秀英との一局を見せると、黙って指導を受ける気になった。進藤を侮っているようだが、これが進藤の実力の片鱗だとすれば、越智の力ではまだ足りないといえる。
本当は進藤の対局を見せるのは嫌だったが、これも越智のやる気を引き出すためだ。仕方ない。
越智には役に立ってもらわねば、進藤の実力がはかれないからな。
困ったことに、越智と進藤の話していると、無性に逢いたくなる。あれからもうずっと逢えていない。
プロ試験の最中は逢うまいと思っているのに、我慢ができなくなりそうだ。仕方がないから写真を眺めておこう…。