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□月×日(104.5局/雪の華1〜2)

指導碁と棋院の帰りに、進藤と逢った。昨日の電話の時はとても緊張したが、会ってみるとやっぱり心が満たされる。逢いたいと心底願うと逢える…これはきっと宿命なんだ。
今日は囲碁イベントに進藤は行ったそうだ。進藤も本当に碁が好きなんだな、何だか嬉しくなってくる。それにしても不思議だ。最初はとても機嫌が良かったのに、バレンタインの話になってから急に機嫌が悪くなって、とても戸惑った。
でも進藤は、怒ってても凄く可愛いんだけどね。
ぷっくり膨れた頬はほんのりと赤みがさして、尖らせた唇も少し色づいて色っぽさも醸し出して…。
ついつい触りたくなって……キ………。い、いけない!またおかしなことを書きそうになってしまった!
最近どうもこういうパターンが多いな。自分を律して気をつけなければ。
と、とにかく、すぐに進藤の機嫌が直ったから良かったものの、機嫌が悪いままだったら、さすがにまずかったな。今度から進藤を怒らせても何とか後で機嫌をとれるように精進しよう。その為には何度も進藤と逢わないとね。
それにしても進藤は可愛い…少し眼を伏せた横顔がキレイだった。
キミの魅力はどんどん増してきてボクを虜にする…って落ち着けボク!ああ、情けない。最近やけに、一人ボケ一人ツッコミが板についてきているよ!関西人か!?ボクは!ってまたしてるし!
しかし…今日は本当にいい日だった…。進藤と二人きりで逢えただけでなく、まさかあんなことがあるなんて…。
まさか、進藤がボクの膝の上に座ってくるだなんて、思いもしなかったよ。ネクタイを掴まれて笑顔が間近に迫った時は胸がときめいて、もうちょっとでキスしてしまいそうにな……なな、な、なってない!なんてなんかない!
はあ……それにして本当に幸せだった。進藤って小さくて軽いんだな。膝の上にのっていても少しも重いと思わなかったよ。
膝に当たる脹脛に、太股から伝わってくる柔らかさときたら!実に素晴らしい!!!
あんなにもいいものがこの世にあるだなんて……!あの感動は言葉にできないよ!!
髪からは甘くていい匂いはするし、腕の中にすっぽり入って…。コートごと抱き締めた身体が凄く温かくて心地よかった。もっともっとああしていられたら良かったのに。離れる時は名残惜しくて残念だったな…。一日中だって抱き締めていたいよ。
進藤を膝に載せたあの感触を思い出すだけで心が癒される。進藤はボクの究極の癒しにもなるな。
また次に会う時にも進藤が載ってきてくれたらいいのに。…毎日ああして抱き締められたら幸せだろうな。
本当は新初段シリーズのこととかも聞きたかったけど、進藤と一緒に居ただけでどうでもよくなってしまった。
今度はいつ逢えるだろう?キミと一緒に過ごす時間はどれだけ長くても短く感じられるよ。
ボクはキミが…キミのことが………ってうわぁ!ダメだ!気を確かにしなければ!進藤は男だ!男!
でも…でも…この胸の痛みや焦がれる気持ちは……。いや、考えるな!寝よう!寝てしまおう!

寝たらとんでもない夢をみてしまった…。
ボクは夢の中で進藤と…その…あの………あんな事とか…こんな事とか…そんな事とか……男の進藤と!
目が覚めると、自分でもかなり動揺してしまって、頭を切り替えるのに物凄く苦労してしまった。しかもその後眠れないし!
一体ボクはどうしてしまったんだ!昼間に進藤の身体の感触を、直接感じてしまったから…?でも…だからって…。
何故なんだ!?ボクはホ○じゃないしゲ○でもない。それなのに進藤のあんな夢を見るだなんて……。
真正の変態になってしまったんじゃ…?ダメだ…たかだか夢じゃないか。気にしてちゃ。夢見が悪いなんてよくあることだ。
でも夢は深層心理の願望の表れともいうんだよね…。ボクは…ボクは…進藤のことを…!?


○月◇日(105局)

今日は進藤の新入段免状授与式だった。ボクも連勝賞と勝率第一位賞の受賞があるので棋院に出向いた。
進藤の初対局の相手はボク。これも宿命なんだろうか?進藤と対局できると思うと、知らず気合が入って、折角逢えたのに、まともに顔をみることはおろか、眼すら合わせずに擦れ違うだけで、話もしなかった。
進藤とのプロ第一戦の対局にのぞむ気構えは充分整っている。
キミの実力をボク自身で確かめられる。ボクはこの時をずっとずっと待っていたんだ。
幻のようなキミ自身を、ボクは本当に見つけられるだろうか?答えは全て、キミとの対局できっと明かされる。
あの強さと弱さ…。今でもボクはキミとの初めての対局と二回目の対局に感じた奇妙な印象を拭い去ることができない。
特にあの三将戦…11の8からおかしくなったあの戦いは、何よりも一番強くボクの中に残っている。
囲碁部の三将戦での戦い以来の、キミとの直接対決。いや、もしかしたら……。ボクの不可解な気持ちの答えも、きっとそう遠くなく分かるのだろう。棋士として初めてキミと向かい合える日まで、もう少しだ。

はあ…しかし、進藤のスーツ姿は可愛いらしかったな。全然似合ってなくて、七五三みたいなところが何とも…。
あのまま家に連れて帰って、一人愛でたい衝動にかられたよ。
この晴れの日の進藤をしっかり写真に収められなかったのが悔しい!
一応隠し撮りだけはしたんだが…角度がどれもイマイチだな。
壇上に上がる暇があったら、変装してカメラマンのフリでもして、進藤の写真を正面から堂々とたっぷり撮りたかったよ。
本当は自分で撮りたかったが…仕方ない、何人かのカメラマンから進藤の写真を譲って貰うことにしよう。
笑顔で頼めば皆いつも快くくれるからな。


△月×日(106局/若葉の迷宮2〜3)

お父さんが朝に突然倒れて病院に付き添った。一時はどうなることかと思ったが、症状が軽くてホッとしている。
病院にはしばらく入院しなければならないようだが、容態も安定しているし、命にも別状ないようで良かった。
お父さんは忙し過ぎるから、この機会にゆっくりするのも悪くないだろう。
棋士として十段戦は確かに惜しいと思う。気持ちも分かる。でも息子としては、無理をして行くよりも身体を労わって欲しい。
お母さんは本当に泣きそうになっていたし、ボクも心配で堪らなかった。勝ち続ければ対局も増えて忙しくなくのも分かるけど、身体のことも考えてスケジュールを組んで貰いたいと思うのは我侭だろうか。

今日は進藤との大手合の筈だったけど、結局行けなかったな。
でも、ボクとしては今は彼に逢いたくない。いや、進藤にはとても逢いたい、それは確かだ。
ただボクは……そう、碁打として進藤と相対するのが怖い。進藤の碁を畏れているわけではなくて、あの囲碁部の三将戦の時のような想いをまたするのではないかと、それを考えるのが怖いんだ。
また彼を見失うのは嫌だ。今度こそちゃんと掴まえて傍に居たい。
進藤の実力を知りたい。彼の真の力を目の当たりにして自分自身で確かめたい。それは本音だ。
同時に、確かめるのが怖い。ボクが想像した通り、いやそれ以上の実力でなかったら?
進藤が気になる気持ちにも、不可解な想いにも影響は出なかったとしても、碁打としてはひどく冷めるだろう。
ボクにとって碁と進藤は切っても切り離せないほど複雑に絡みあい、むしろ同化していると言っても過言ではない。
桜のように綺麗なキミ。猫のように無邪気で我侭で、虎のように理不尽な一面も見せる。
掴みどころがない風に舞う花びらのようでいて、枝葉を伸ばして大地に根を下ろし、力強いところもある。
たまに会うだけでも、電話越しに話しても、様々な発見に驚いて、胸が高鳴ったことなんて数えきれない。
でもだからこそ、ボクはキミを知りたい。もっと知りたい。キミの全てを手に入れたいとすら思ってしまう。
自分の強欲さにはほとほと参るけれど、キミが気になる気持ちだけは止めようがないんだ。


△月○日(110.5局/若葉の迷宮4)

散歩にいつもの公園に行くと進藤と偶然会った。別に待ち伏せをしていたわけじゃない…って誰に言い訳してるんだ、ボクは。
そんな事はどうでもいい。とにかく進藤は相変わらず…というよりも、益々可愛く綺麗になっていてドキドキした。
会うたびに進藤は綺麗になっていく。ボクの欲目ではなく、本当に。紛れもない事実として。
四月四日の対局のことをちゃんと謝れてよかった。新入段免状授与式の席でのことが気になっていたけれど、進藤は普段と変わらない様子でいてくれて、心底安堵した。ボクと進藤の仲はその程度のことで壊れたりはしないが、少し不安だったし。
一つだけ残念なのは、今日は進藤を膝の上に載せられなかったことだ!太股に当たるあの柔らかな感触、心地よい体温、髪から漂う甘い香り…それらを味わえなかったのは残念でならない。
しかし変わりといってはなんだが、今日の進藤はボクにとっては久しぶりの制服姿だった。
スーツ姿もかなり捨てがたいが、制服も凄くいいよね…うん。
改めて考えてみると、ボクは進藤の学生服の姿はそんなに見ていなかったんだ。
悔しい……何故カメラを持っていなかったんだっ!ボクは!大馬鹿者じゃないか!
進藤の制服姿をたっぷりと写真に収めるチャンスだったというのにっ!
中学卒業まで後一年もない。今のうちに制服姿もしっかりと撮っておかなければ。
夏服も冬服も、両方とも必要だな。できれば記念に制服ごと進藤も欲しいところだが、そんなわけにはいかないし。
取り敢えず写真だけは撮っておかないといけないな。次に会う時は制服姿の進藤を撮ることにしよう。


△月□日(111局〜116局/若葉の迷宮5)

今日は若手棋士で集まる研究会だった。そこでボクは、答えにもならない一つの答えに行き着いた。
saiとお父さんのネット碁によって。
それを見たのはほんの偶然だった。研究会に行くまでは、そんな事は全く考えもしなかった。
電車の中で、次に進藤と対戦できる機会は若獅子戦になりそうだと思いながら、それまでに棋譜を見れると思い当たると闘志がわいてきて、いつになるかも分からない対局が待ち遠しいとすら感じていた。
つい10日ほど前、お父さんが倒れた日にはどこかで進藤との対戦を避けたいとすら考えていたのに、あの時は不思議と自然に進藤との対戦が待ち遠しくて仕方なかった。彼の正体と実力がその時はっきりすると分かったから。
だから、取り立てておかしいとも思わなかった。お母さんがお父さんとボクは碁ばっかりだって言うのもいつものことだし。
お父さんがもうすぐ退院すると聞いて少し安心しつつも、変に熱心にネット碁を打つのを奇妙に思ったくらいで。
まさか、saiとお父さんが対局するとは、思いつきもしなかったんだ。
研究会で休憩しているところで、お父さんがネット碁を打っている話題になり、たまたま見たあの対局……。
名前を見てまさかと思ったが、すぐに分かった。あの練達な打ち筋は間違いなく、あのsaiだと。
『誰にも邪魔されずにネット碁を打ちたい』という言葉から推察できるのは、この対局は今日たまたま組まれたものじゃないということ。お父さんは前もってsaiと対局の約束をしていたんだ。
一昨年の夏ボクと打ち、それを最後にネットから姿を消したsaiと。
一体どうやって、お父さんはsaiと対局の約束をしたのだろう?病院から外出した、十段戦第四局の時?或いはお見舞いに来たたくさんの人達…。その中にsaiが居た?市河さんが、進藤がお見舞いに来たと話していた……では進藤が?
いや、違う。進藤じゃない。saiの強さは百戦錬磨の強さだ。長い歳月で培われた知識と何千局と修羅場を潜り抜けた練達さが見え隠れしている。若々しさもあるが、既に碁は完成され、確立されて揺るぎようがない。
例えプロでもボクと同年代ではないのは確実だ。あの碁には遥かな時の流れすらも感じることがある。
どう足掻いても、ボクと同じ年齢でそのレベルに達するのは現実的に不可能だ。
何よりも決定的なのは、棋風が進藤とは明らかに違う。saiと進藤とでは、どこから見ても別人のものにしかならない。
洪秀英と対局した進藤の棋譜にしろ、去年の若獅子戦にしろ、saiと進藤とは異なる。
それなのに、何故?
一昨年の夏にあったボクとの対局、そしてお父さんとsaiの対局……進藤じゃないのに昔の進藤と重なる?
昔の――出会った頃の――。
そう、saiは初めて進藤と出会った時、二度目の対局、あの頃の進藤と重なるんだ。
出会った頃の進藤、それがsaiなんだ。拙い手で打っていた、当時の進藤が。
こんなの、なんの答えにもなっていないけれど。それでも一つの答えではあるに違いない。
お父さんが負けたのは残念だけど、ボクにとってこの一局はきっと一生忘れられないものになるだろう。
恐らくは、進藤にとっても――進藤の謎は、益々深く不可解になっていくばかりだ。