些か乱暴に閉められた抗議をするように大きな音を立てて扉が閉じると同時に、ピッという電子音が広いホールにこだました。
その音の正体は玄関に仕掛けられたストップウォッチが止まった時のものである。一体何のために備えていたのかは不明だが、時間を確認すべく奥から四人
の男女が現れた点からして、理由があるのだろう。ストップウォッチの数字を覗き込んだ四人は、一様に悲喜こもごもの表情をしている。
三人は喜色満面、残る一人は不貞腐れ、苦虫を噛み潰したような渋い顔をしていた。どうやら、この時計の結果如何で何かがあるらしい。
それもそのはず、本日の買出し当番はこの賭けの結果如何で決まることになっているのだ。今やすっかり日常的なものになっている。
彼らはアキラをダシに賭けをしており、その賭けの対象は『起きてから登校までにかかる時間』である。
『アキラが誘惑に負けるか否か』が当初の対象であったが、余りにも粘り強く誘惑に負けないこともあり、賭ける意味がなくなった。
そこで彼らは、アキラが誘惑者から逃れるまでの時間を、賭けの対象とすることにした。ようするに、朝起きてから登校するまでの時間の長さによって、彼らの
勝ち負けは決まってくる。今でも大穴狙いで『誘惑に負ける』という選択も有り得るのだが、アキラが学校に行けば自動的に負け決定となってしまうため、勝負師
として余程の自信がなければ勝負にでにくい。
相当な物好きでなければ、無難な時間の結果を選ぶだろう。
取り敢えず玄関の扉を出たところで本日の到達タイムが計測され、アキラが出て行くと同時に彼らはストップウォッチを眺めるのが常だ。
本日は一時間三十二分五秒。この数字を全員の考えた予想時刻を書き連ねた紙と見比べ、最も離れた時間を予測した者が罰ゲームになる。
その罰ゲームが、買出し当番というわけだ。四人は二人が少年、二人が少女だった。
「一番近いのは明日美ちゃんね」
紙を眺めて話し出したのは、その中でも一番年下のように見える、ふんわりとした愛らしい容姿をした美少女。名を藤崎あかりという。
その隣で腕を組み、満足げに頷いている少し気の強そうな大人びた少女の名は、奈瀬明日美。あかりとは雰囲気が異なる美少女である。
「次は社君」
「おっしゃ!オレのヨミも捨てたもんやないな」
少年達は二人とも背が高く、白っぽい髪をした目つきの鋭い少年は社清春という。
顔つきこそ精悍でどことなく不良っぽいイメージがあるが、関西弁を喋って笑うと妙に愛嬌があった。
「ブービー賞はあかりちゃんで、ドベは永夏ね。はい、買出しメモ」
悪びれた風もなく奈瀬にメモを渡された人物は、少年というよりも、青年くらいに見える美貌を持つ男だった。
顔立ちの良さと背の高さ、赤い髪もあってモデルのような派手な印象を持つ彼は、アキラと同じ制服を着た姿で不満そうにそっぽを向く。
だがあかりにじっと見詰められ、ひどく不服そうにしながらも渡されたメモを制服のポケットに突っ込むと、不承不承頷いた。
高永夏という名の彼は、外見こそ一番年上に見えるものの、実はこの四人の中では末っ子という扱いだった。反対に幼げに見える美少女のあかりが、彼らの
間では一番年上の姉という立場だ。身分的な上下関係があるわけではないのだが、やはりある程度兄弟間の力関係の影響はあるらしい。
それぞれに姓が違うだけでなく、国籍すらも違うように見える彼らだが、まぎれもなく兄弟と呼べる間柄なのである。
彼らのことを知る者は、誰もが『四天王』と呼ぶ。
四天王とは地火水風の四台元素の力を持つ者を差した、ある組織がつけているコードネームだ。彼ら自身に与えられた、一つ一つの力から四天王という名は
生まれ、いつしか定着していった。
彼ら四天王は、一般人が知らない人外の力を持つ存在である。一族と呼ばれる人間の命を糧として生きる下層の者を、彼らの敬愛する創造主に近づけず、ま
た彼の補佐とパートナーの護衛をも兼ねる側近中の側近だった。
人類の天敵ともいうべき『一族』は、国家の上層部や、一族という敵と戦う秘密結社といったごく一部の者にしか知られていない。
超常的な力を持ち、人間の生命エネルギーを好んで年間数十万人の命を奪う一族の者達は、人間にとっては脅威でしかない。
末端から頂点に至る一部の者まで、絶対的なピラミッド構造が作られているのが一族の特徴である。虫が光に吸い寄せられて近づきたがる傾向にあるのと同
じく、一族もまた光り輝く創造主の力に惹かれる。
そんな彼らを疎ましく感じる創造主に近付けないようにするために、力を奮って排除することも四天王の役割の一つだ。
一族と彼ら四天王とは根本から全く違った存在であるから、それは当然の行為であり、当り前の特権でもあった。
秘密結社のコードネームにおいて創造主は『クラウン』と呼ばれる。
尤も、秘密結社にとっては人間の想像の範疇を超えた強大な力を持つ『クラウン』もまた脅威の対象である。
過去においては多くの者が彼に挑んだが、悉く敗れ去っていった。
現在ではその強大な力に立ち向かおうとはせずに静観の立場を取り、近づく者は滅多にいない。
『クラウン』は王位、王冠などを現すことから一族の長を示してついた名だが、勝手に慕われて鬱陶しがっているのは創造主自身である。
世界の王である創造主は自然界を自由自在に操れ、地震も、台風も、火山の噴火も、津波も、彼にとっては思うがままだ。
四天王にはその能力の一部がコピーされている。
最初に創られたあかりには水の力、二番目に作られた奈瀬には土の力、三番目の社には火の力、最後に創られた永夏には風の力を与えた。
四人がそれぞれ一人の者によって創り出されたのなら、確かに彼らは兄弟とも言えるのかもしれない。
だが見た目だけでは、彼らが人外の存在だとは俄かには信じがたい。くだらない賭けに興じている姿を見るだけなら、十代の男女が集まって遊んでいるのと
変わらない。それぞれに個性があり、自分の意思と判断をもち、ただ命令を遂行するだけの人形ではないのだ。
創造主に着いてきた彼らにとって日本の生活は存外退屈なもので、こんなくだらない賭けでもしなければほんの少しの張りもない。
アキラの護衛に着くのは永夏だけで、他の三人は基本的には自宅待機、やることといえば買い出しや家と一族の掃除くらいのものだ。
創造主の気配を感じ取って、彼らはこの周辺に近づいてくることがままある。そんな時は排除するのも仕事の一つだ。
基本的に近づいてくる一族は力が弱く、本能のままに吸い寄せられてくる場合が殆どで、余りあることではない。
力や知識が身についているものになればなるほど、下手に創造主に近づこうとしなくなる。ある一定の距離をおき、必要な時に近づいて媚を売って寵愛を受
けようとするのが殆どだ。中には、創造主に存在を認められていつでも近づくことを許されている者もいる。一族の中でもほんの一握りであるけれど。
完全にアキラが創造主のパートナーとなるまでは、厳重に彼の警護を行って毎日が充実していた。しかし創造主のモノとなってしまってからは、護衛は一人
だけに減らされている。アキラに危険が及ぶのはむしろこれからだというのに、何故創造主が彼の護衛に重点をおかないのか分からない。
創造主の考えは深く、力の一部を受け継いでいる彼らとて想像の及ぶものではなかった。彼が必要ないと言えばそれは絶対なのである。
いかに四天王といえども覆すのは不可能だ。世界の王に逆らうなど、まさに創世の神に叛旗を翻すと同じなのだから。
いつものように朝から疲れる攻防だったと慨嘆しながら、アキラは今日も何とか登校に成功し、安堵の息を吐いた。家に帰ったらご機嫌とりに大変だろうが、
一応学生として学校には行かなければならない。
行かなくて済むのなら、夏休み中のように好きなだけ構って、いくらでも相手をするのだが、アキラには学校というものがある。今は両親が海外に赴いている
ため離れて別々に暮らしているものの、親をちゃんと納得させて理解を得るには、最低でも高校くらいは卒業しなければまずい。
いくら両親がヒカルのことを気に入っていて、敢えて何も言わずにいてくれるとはいっても、今後も一緒に暮らす条件として高校卒業くらいは必要だとアキラ
にもわかっている。アキラはあくまでも未成年で、親に学費などを出して貰っているただの子供に過ぎない。
両親の言葉はなくても、何でも好き勝手にしていいと自分勝手に考えるほど、愚かな少年ではなかった。
因みに『ヒカル』とは、アキラの大切な愛しい恋人の名前である。
毎日のように彼を誘惑し、傍に留めるためにあの手この手を使ってアキラの忍耐力を試す、天使の外見をした小悪魔のような恋人だ。
恋人への印象だけで、アキラがどれだけ『ヒカル』に夢中になっているのか、実に分かりやすい。
学校までの道すがら、屋敷から門までの距離を全速力で走ったお陰で乱れた息を整え、きっちりとした制服の首元を少し寛げて冷たい空気を送り込む。
これだけでも随分と楽になった。
アキラは現在私立海王学園の高等部に在籍する二年生だ。
父は海外にも名が轟いている囲碁の棋士、塔矢行洋。母の明子は良妻賢母の鑑とも言えるような、内助の功を立てる女性である。
行洋は現在海外へ赴いて棋士として活躍し、母もそれに着いていっているため、本来ならアキラは自宅で一人暮らしを余儀なくされているはずだった。
だがしかし、さる人物の厚意により、学校により近い住まいでの暮らしが確保されている。最近治安が不安定になってきたこともあり、両親に自宅からこの家
に移り住むことの許可を求めるのもさして難しくはなく、むしろ安心できると、海外へも気軽に行けたようだった。
家から学校までだいたい徒歩で約四十分の位置なのだが、ただこの四十分の時間は、寝泊りをする家から門までの距離が大半を占めている。それだけ敷
地が広いという現われだ。実際のところ、アキラの通学専用通用門を出て校門までの距離は、徒歩で十分あれば充分に着く距離であった。
近いといえば近いが、屋敷と庭が広過ぎるお陰で遠く感じられても、アキラには罪はない。昨日までは自転車で屋敷から門まで移動するようにして時間短
縮に努めていたものの、虎が自転車を腹立ち紛れに壊してくれたお陰で、今日のアキラは走らねばならなかった。
高い自転車も、虎の一撃でお釈迦になればただの鉄屑である。
しかしそれでもアキラは虎に甘い。自転車の残骸を見ても虎を怒るどころか、『寂しい想いをさせてごめん』と反対に謝ったほどだ。
そのお陰で虎は溜飲を下げたらしく、本日の夕方付で、めでたくも新しい自転車が屋敷に到着する予定になっていた。
虎が自転車を手に入れるというのもおかしな話といえるが、アキラの大事な愛しい虎はただの虎ではないのだから。
アキラが居候のような形で住んでいる家は、単に家というよりも屋敷というべき大邸宅だった。純和風な自宅が可愛く見えてしまうくらいに、とにかく広くて大
きい。屋敷の裏庭には山が一つ、そして表の庭はヨーロッパ風の庭園が広がっている。つまり、アキラはいつもその庭園を通るだけで約三十分の時間ロスを
余儀なくされているのだ。だが、この屋敷の主にとっては、裏庭を含めたこの庭園すらも狭いと当初文句を言っていた。
確かに分からないでもない。彼が元々住んでいた場所では、屋敷の規模こそ同程度に近くても、庭の広さにおいては、数百倍以上の規模を誇るとてつもな
いものだったのだから。どこかの国の広大な自然保護区と同じかそれ以上の面積である。
屋敷の主人が自由に羽根を伸ばして遊ぶ土地としては、最低でもそれくらいの広さが欲しかったそうなのだが、日本で、しかも首都圏ではこの屋敷の庭が
限界だったらしい。狭い日本では無理からぬこととはいえ、それでも一般庶民の感覚では広すぎるのだが。
居候といっても、アキラの身分は肩身が狭いわけではない。彼は愛しい恋人と一緒に住んでいるので、殆ど居候ではなく、同棲と表現しても何の問題もない
だろう。たかだか十六歳の少年が既に同棲しているということのほうが、ある意味問題といえる。
その点についてはアキラ自身も眼を瞑っている。問題であったとしても、愛しい人と一緒に暮らせる幸せを彼は選んだからだ。
それで学業を疎かにするわけでもなく、これまで以上に勉学に励み、毎日の生活も充実している。恋人の日々の誘惑は正直頭が痛いが、これも愛情表現の
一つとして受け入れれば、苦でもなんでもない。
アキラが向かっている海王学園は中高一貫教育の名門私立学校で、卒業生の殆どが東大、早稲田、慶応といった大学へ進学する進学校としても有名である。
文武両道を校風とする伝統から、スポーツも盛んで全国大会やインターハイなどに出場している選手も数多く居る。
その中でもアキラの学業の成績は学年でもトップクラスに位置する。
スポーツにおいても、幾つかの部から誘いがくるだけの実力もあり、海王高校の伝統に当て嵌まる生徒の一人といえよう。
ふわりと風がアキラの艶やかな髪を靡かせ、僅かに開かせた制服から白い首筋を露わにすると、艶やかな印が隙間から僅かに覗いた。
「おい、ついてるぞ」
襟元に風を送り込みながら歩いていたアキラは、突然背後からかけられた声に振り向き、僅かに瞳を見開く。
「…永夏」
いつ家を出たのか分からないが、すぐ後ろを歩いていた永夏が横に来てアキラの歩調に合わせながら、首筋を指差す仕草をする。
はたと手を首に当て、それが何か思い当たったのか、頬を赤く染めて寛げていた襟を元通りきっちりと閉めた。いつのまにつけられたのか分からないが、昨夜
ヒカルがアキラに所有印を残したらしい。
「今日、体育は?」
「ないよ」
アキラと同じ海王高校の制服に身を包んだ永夏の問いに、溜息を吐きながら端的に答える。横をちらりと見上げると、すらりと背の高い美貌の赤毛の青年が
さも当り前のように並んで歩いていた。永夏はアキラよりも一歳年上という設定だが、実際の年齢は本人にも不明だという。
彼は普通の人間ではなく自然界の力を持つ、四天王の一角を担う者だから当然ではあるかもしれない。永夏はその中でも風の力を操り、四人の四天王にお
いては末っ子に位置している。風の力ゆえか少し気紛れで風来坊なのだが、基本的に永夏は自分の創造主とパートナーには素直な一面もあった。
彼ら四天王は頂点に君臨する者の補助と護衛が主な役割で、人間では太刀打ちできない強力な力を持っている。だが、アキラの隣を歩いている永夏は見た
目こそ派手な美貌を持っていて目立つものの、どう見ても普通の人間と変わりない。同じ制服を着ていても、学生に見えないほど大人っぽい外見というだけで。
永夏がアキラと同学年に在籍しているとは、誰も思わないだろう。
本来ならば一歳年上となっているのに、アキラと同学年というのも奇妙な点だった。通常ならば一つ上の学年になるはずなのに。
その理由を『本来は一歳年上だが留学生で日本語にも不安があるので学年を一つ下げている』と説明している。勿論それは表向きだ。
永夏の役目はアキラの護衛。学年が違うと校舎が変わるだけでなく、行動範囲もずれてくるので、同じ学年に在籍しているのだ。アキラは彼ら四天王が敬愛
する創造主の大切な恋人である。また、その魂の欠片が四天王を作り出した時のベースにもなっているため、アキラを護るのも彼らの役割の一つとなっている。
彼らの力の元となっている創造主の力とアキラの魂の欠片が合わさって四天王は創られた。彼らにとって二人はある意味父とも母とも言える存在なのかもし
れない。例え魂の欠片程度にしろ何らかの繋がりがあるか、ほんの少し話をしただけで押し黙ったまま歩いていても、並んでいる二人の姿はさして違和感は
なかった。永夏とアキラは仲が悪いわけではないものの、話す話題がなければそれっきり言葉を交わすこともない。
だからといって沈黙は気まずくもなく、自然と受け入れることができた。
何を話すでもなく歩いていた彼らだったが、校門に並んで入った時に、永夏がふと思い出したように口を開いた。
「あいつの入学が決まったぜ。同じクラスになるから頑張れよ」
永夏が何に対して頑張れと言っているのか、アキラにはさっぱり分からず首を傾げた。そんなアキラを見下ろして小さく笑うと、彼は片手を軽く上げてさっさと
校内に入っていく。護衛役を仰せつかっている割に、永夏は自分の傍に居ることは滅多になかった。尤も、アキラとしてはその方が助かるが。
それに、彼の力なら一瞬でアキラの元に行くことなど造作もなく、危害を加える輩を蹴散らすことも大した問題でもない。
彼らの力に唯一対抗できる力を持つのは、彼らの創造主である者のみ。そして四天王は創造主に何があっても叛旗を翻さない。
それは決定事項であり、絶対的な不文律でもあった。
主の居なくなった部屋で不貞腐れていた進藤ヒカルは、伸びやかな肢体を隠す素振りも見せずに伸びをして、白いシーツのような布を手早く身体に巻きつけ
ると、お腹を押さえてふと呟いた。
「腹へったなー…」
金色の前髪が表情を隠しているが、声の調子は不機嫌そのものだ。アキラが学校に行ったのが不満なのと、空腹で機嫌が悪いらしい。
彼はむっつりとした表情のまま顔を上げると、徐に口を開く。
「社!」
ヒカルが何もない空間に向かって呼びかけるや否や、彼の眼の前には玄関先で賭けに興じていたはずの社が忽然と現れた。
これだけでも、彼がただの人間ではない証拠の一つになるだろう。
片膝をついて頭を垂れた姿勢で控える社には、先ほどまで飄々と他の四天王と喋っていた名残はない。
彼に呼び出される際には、当然の敬意を払うのが四天王の誇りであり暗黙の了解事項なのだ。
「メシーッ!腹へった!」
だがヒカルは社を一瞥することもなく、用件だけを傲然と告げる。
たったこれだけのやりとりで、社はいかに少年の機嫌が地を這っているのかを理解した。これは相当にお冠らしい。
「へい、合点!」
ぴしりと直立不動の姿勢で敬礼すると同時に社は部屋から姿を消し、次の瞬間には台所で料理を始めている。
そんな彼の傍には助手をするためか、あかりと奈瀬もいつのまにか来ていた。
「女王様はご機嫌斜めね」
「ホンマに触らぬ神に祟りなしやで。塔矢に戻ってきて貰いたいわ」
奈瀬にしみじみと頷きつつも、社の手は止まらない。とにかく一刻も早く食事を与えて、機嫌をとろうという作戦のようだ。
台所に入ってからほんの数分で手のこんだ納豆料理を作った社は、それをあかりに運んで貰い、次の作業にとりかかった。
「お待たせ、ヒカル」
「ん」
あかりがテーブルに料理を置くのに鷹揚に頷く姿は、どことなく王族が持つような傲慢さを彷彿させると同時に、他者に傅かれることに慣れた余裕も漂っている。
彼にとっては、他人が自分に対して尽くし、頭を垂れて平伏するのは当然のことだと窺わせられる。
彼のように高飛車な態度は高慢で鼻持ちならないように映るものだが、何故かヒカルにはそれがしっくりと似合っていた。
むしろ、そこに居るだけで彼に対して礼を尽くして仕えたいという気持ちにさせる、そんな気品とも風格ともいうべきものがある。
「塔矢の奴……またオレのこと放って行きやがって」
「学校があるんだから仕方ないよ。ヒカルももうすぐ転入できるじゃない。もうちょっと我慢して」
「明日も行くの邪魔してやる」
食事をするヒカルの傍で、あかりが宥めながら給仕をするのもいつもの朝の風景である。そしてそんな彼女の横で、新たな決意をする少年を眺めて、現在学校
で授業を受けている少年に深く、深〜く同情するのも、彼ら四天王にとっては毎日の日課になっていた。
尤も、この進藤ヒカルという少年が学校生活をすることになれば、もっともっと塔矢アキラ少年には苦労が降りかかると、四天王である彼らは既に気づいていた。
けれど、誰もアキラに忠告はしていない。彼らの創造主であり、世界の王である進藤ヒカルに、逆らえるものはどこにも居ない。
居てもそれはただ一人、塔矢アキラのみだ。
しかしその彼が一番ヒカルに甘いのだから、結局は誰にもヒカルを止めることなど無理な話なのである。







