学園祭当日二日目、朝からアキラは憂鬱だった。今日もチャイナ服を着て客引をせねばならないからである。
ヒカルは意外とこの仕事が気にいったようで、朝からやる気満々だ。昨日登校する時も、初めての学園祭に好奇心一杯で上機嫌だった。
授業中はあんなにもつまらなそうなのに、こういったイベント関係は結構楽しくて好きらしい。
昨日も校門で店が開くまでビラ配りをした後は、校内に戻って喫茶店風に内装を変えた教室の前で愛想笑いを浮かべながらの客引だ。
時には中に入って、各テーブルを練り歩いて笑顔を浮かべながら、お茶を淹れるサービスまでもさせられた。まるで自分がホストになったような気分にすらなる。
『こんな事をするなんて聞いてない。詐欺だ!訴えるよ、そして勝つよ!』と言ったところで、津川と中村はどこ吹く風で聞きやしない。
それにしても、二人の商売上手な計画性と手際のよさには舌を巻く。
普段使っている机を二つくっつけて中国風のビニール製の布をかけ、衝立や種類の違う布を壁や黒板の前に配置することで、教室の特有の野暮ったさは随分なくなり、
即席中華喫茶らしくみえた。料理についても、業務用スーパーでシュウマイや餃子、春巻などの基本的な点心の材料を格安で買い込んで、デザートにマンゴープリンも
購入し、女心を掴むネタを確保することも忘れていない。
家庭科部に所属するクラスメイトを筆頭に料理をして、前日にかなりの数を作って冷凍保存もしている。
前日に相当大量に作ったはずの点心とデザートは、一日目の終了までに完売してしまい、途中からは作りながらの作業となって、全員でまさに眼が回るような忙しさを
経験した。中華料理店の昼時はこんな忙しさなのかもしれない。貴重な経験だ。
だがしかし、商売人根性が半端でない二人には予測の範囲内であったらしい。監視役に家庭科部の一人と特別講師、手の空いた者達などで、更に今日の分も作っており、
万全の体制を敷いている。マンゴープリンは既製品だが、他の杏仁豆腐などについては、家庭科部と料理好きなクラスメイトの手での手作りである。
素人とは言っても、特別講師を呼んで中華料理を習いながら作ったこともあって味も不味くなかったからか、より一層好評だったらしい。
ちなみに特別講師は海王高校を卒業したOBで、有名な中華レストランのオーナーシェフである。中村の伝手での紹介であったこともあり、ノーギャラのボランティアだ。
さすがに隣の教室を厨房としているから、料理をするにしても作れるものは限界がある。焼き物は一切なしで、蒸しものとスープなどがメイン、ラーメンも作らない。教室で
火の扱いは危険なので電磁調理器しか使えないのだから、これくらいが妥当な線だろう。
揚げ春巻は前日に家庭科室で揚げておき、厨房用の教室に持ち込んだオーブンレンジでチンするだけと、お手軽になっている。スープについても仕込みは前日で、本番は
餃子を入れて温めて出すのみだった。
学園祭であるだけに作れる品は少なく、点心メニューは五品、デザートメニューも二品が限界。飲物もウーロン茶のアイスしかなく、ウーロン茶は当然ペットボトルである。
ジャスミン茶はサービス商品なので無料であるだけでなく、ペットボトルでなく沸かして淹れているが、時間がないのでホットだ。
このジャスミン茶の給仕係は、いつのまにかアキラとヒカルの役割になっている。その方が客の入りが多いのである。
効率化が図れるところは図り、手を抜かずにせねばならないところは、素人といえども行う。
その辺りのさじ加減は高校生で判断するのは難しい。しかし、中村と津川はそれらの配分を上手く考え、クラスメイトに的確な指示を与えつつ、適材適所に割り振って個人
個人の力を引き出していく。彼らがこれまでに様々な催しで勝利を収めてきたのは、頂点に立つ経営者が持つような的確な判断とリーダーシップによるものも大きい。
初日だけで材料費や、その他諸々にかかった諸費用を大きく上回る黒字を出し、津川も中村もすっかりご機嫌だった。
明日も稼ぐぞ!と高校生にあるまじき決意を胸に帰る二人を、驚きと呆れの入り混じった眼でアキラが見送ったのは昨日のことだ。
学園祭二日目の今日も忙しく、既に厨房と更衣室を兼ねた教室は始まる前であるにも関わらず、戦場のような趣になっている。
制服からチャイナ服に着替えるべく、アキラはヒカルを伴って男子用に設けられた、カーテンで仕切っているだけの更衣室に入った。
そこでは諸悪の根源の二人組が丁度着替えの最中であった。
「おっはよう!お二人さん」
今日も元気だメシがうまい、売り時払い時稼ぎ時、と意味不明な鼻歌を交えて着替えながら、学級委員達は上機嫌で声をかける。
「おはよう。津川、中村」
「おはよー」
挨拶を返すと、アキラは先日のハロウィンパーティーで着たチャイナ服に袖を通す。昨日も二人はこれを殆ど一日中着たのだが、あかりが綺麗に洗ってプレスしてくれている
ので、汚れもない。本当はこの服ではなく、津川と中村の用意したクラスメイト全員がお揃い着る色違いのチャイナ服の予定だったが、ヒカルがこれでなきゃイヤと頑強に言い
張ったため、二人だけ衣装が違うのだ。
このチャイナ服を持ち出してきたヒカルを見た時、恋人にも裏切られたショックで、アキラは眼の前が真っ暗になった気がした。
彼の言い分では恋人を着飾って愛でるのは当然の権利であるらしい。
初日は着替えてから写真部のクラスメイトに撮影もされたのだが、アレは一体何のためだったのか、未だによく分からない。
アキラは手早く着替え後わると、もたもたしているヒカルを手伝って着替えさせてやり、連れ立って更衣室を出た。
そこでまず最初に目に入ったものは、記念グッズ販売コーナーとお持ち帰りカウンターであった。
昨日まではそんなコーナーはここには設けられていなかった。
お持ち帰りについては昨日することに急遽決定したので頷けるが、記念グッズは一体なんなのだろう?ひどく嫌な予感がした。しかし取り敢えず近づいて見てみると……。
「な―――っ!」
絶句した。声も出せずに茫然と立ち尽くす。
(何故こんなモノが?いつ作ったんだ?)
疑問符の山で頭を埋もれさせて、その場で硬直しているアキラの横では、ヒカルが物珍しそうに展示品の数々を覗き込んでいた。
そこには『看板美少年写真一枚五十円』と『ラミネートカード一枚五十円』と書かれた紙が貼られ、その下に『十枚セットだと一枚分お得な四百五十円!』と貼り紙もちゃっか
りしてある。所狭しと二人の写真が並べてあり、どれも、昨日の朝に衝立の前で撮った写真ばかりだった。
二人でくっついているツーショットもあれば、単独で笑顔を振りまいている写真もある。どれもかなり魅力的である。
チャイナ服を着たヒカルとアキラの全身写真、笑顔のアップ、二人で並んで写っている写真の中には、見詰め合って微笑みあうだけのものから、女心(萌え心)をくすぐる品々
が揃っていた。一本のポッキーを二人で食べる写真を売る意味がどこにあるのか、アキラとしては理由を聞きたい。
きっと『全種類買います!』と男前に仰るお姉さんも多数居るに違いない。女心を掴む津川と中村には相当な商才がありそうだ。
「塔矢とオレの写真が一杯あるな~。こんなのどうやって作るんだ?」
ラミネートカードをしげしげ眺めてヒカルは面白そうに尋ねてくる。こんな時でもアキラの天使の笑顔は愛らしく、無邪気で天然だった。
(可愛い…癒されるなぁ……って現実逃避している場合じゃない!)
ヒカルの綺麗な笑顔に見惚れてちょっと別の世界に行きかかっていた自分を呼び戻し、アキラは般若の形相で主犯を睨みつけた。
今のアキラの顔を写真に撮ろうとしたら、きっとカメラはメデューサに睨まれたように石化していたことだろう。
ところが津川と中村はまるで平気だった。鏡を持っていたわけではなく、単なる慣れである。小学生の頃から、あれこれと巻き込むたびにアキラに睨みつけられてきたので、
いい加減免疫もできていた。この程度で石化していたら、アキラと友人付き合いなんてできない。
(美人度が上がるにつれて、年々迫力も増してくるな~)
他人事のように、二人はアキラの顔を見ながらそんな感慨を抱く余裕すらある。アキラと共に成長してきた幼馴染ならではの特権だ。
「津川!中村!これは何だっ!」
ヒカルのラミネートカードと、ラミネート加工されたツーショット写真を持って迫ってくるアキラに、あっさりと中村と津川は答える。
「アイコラ」
「写真」
「そんな事は分かっている!何故こんなモノがあるんだ!?」
ヒステリー気味に喚く相手は適当にいなせばいいが、静かな低い声で凄むアキラは相当な迫力だ。だが二人は平然としたものである。
「そりゃあ…昨日撮ったから」
「最初にね」
「だから!どうして!?何で?」
小学生の子供のように単語で訊く様子からして、冷静に見えて結構ヒートアップしているらしい。納得がいかないと言外に告げて睨んでくるアキラを眺め、二人はふるふると
呆れたように頭を振った。これだから融通のきかない精神的視野狭窄男は困る。ちょっと考えれば分かりそうなことなのに。
「儲かるからに決まってんだろ」
「アイコラ技術は日々進化し、発達してるんだよ、塔矢君」
「写真でこれだけ作れれば十分売れるしな」
「ちゃんとおまえらの分もあるから」
全く悪びれない津川と中村は、これまた尤もらしく言いきった。
「いや…だからって、何でボクと進藤の写真なんだ?」
「売れるからだろ?」
さらりと端的にヒカルは言うと、確認するように二人を見やる。アキラもつられて見ると、大きく中村も津川も頷いていた。
まさにその通り、アキラとヒカルの写真は絶対に売れるのだ。うら若いお姉さんから微妙な年頃のお姉さん、果ては男だって買い求める。
売れると分かっているなら売らねばならない。――当然である。
厭味でもいいから、キミ達は立派な経営者になれるとアキラは言ってやりたいが、今の時点でこれでは将来は本当になっていそうで迂闊に言うのも業腹だ。
ジレンマとしか言いようがない。
「あのな、塔矢。『元手は少なく儲けは多く』これは商売の鉄則だぜ」
二人は揃って自信に満ちた顔できっぱり言うと、文句あるかとばかりに胸を張ってみせる。罪悪感はこれっぽっちもないらしかった。
アキラには、二人の背後に真っ黒な悪魔の尻尾が見えた気がした。その尻尾にはきっと、商売繁盛と書いてあるに違いない。
(この悪魔達に魂の救済を……!)
やれるものならやってやりたいと、本気で思ったアキラだった。
午前中のビラ配りの後は、教室に戻ってジャスミン茶を給仕して回るのがアキラとヒカルの仕事になっている。
にっこり笑って「いらっしゃいませ」と言うのにもヒカルもすっかり慣れ、この笑顔にふらふらと喫茶に入る客も後を立たなかった。
二人でジャスミン茶の給仕にいくと店内は黄色い嬌声で一杯になる。
「きゃー!ヒカル君!アキラ君!」
この程度の歓声は、もはや聞きなれてしまうようなレベルで、まるでアイドルを相手にしているような興奮が教室を包んだ。
チャイナ服の女子も男子も、すっかり達観の心境になってしまう。
(大人ってちょっと怖い…)
そんな風に感じるイタイケな高校生もいたに違いない。実際アキラとヒカルは、点心喫茶のアイドルのようなものだった。
一人ずつテーブルを回ってお茶を勧めると、写真を撮らせて欲しいとか、握手して下さいと、見知らぬ女性からの依頼が殺到したのは言わずもがな。ちょっとした混乱もあり、
そうなると津川と中村がマネージャーよろしくしゃしゃり出てくるのもいつもの構図だった。
アイコラの売れ行きは絶好調で、点心喫茶も大盛況。二人のヨミは完璧であった。売り上げも想像以上に伸びて予算も左団扇である。
最終的には二日目も点心は完売、アイコラも当然の如く完売した。
学園祭だけのこととはいえ、慣れないことしたお陰で、かなり疲れたのが本音だった。アイドルのように祭り上げられるのも今日で終りかと思うと、アキラはほっとしている。
津川と中村に本気で芸能界デビューをさせられそうで、ちょっとばかり警戒を抱かないわけでもないが、いくら彼らでもそこまではしないと思う……というか思いたい。
明日は学園祭の片づけをして、今日はこれでお開きになる。
明後日は振替休日で休みだった。休みの日はゆっくりできると、年寄り臭く考えてしまうのも、疲れがあるからだろう。
厨房の後片付けだけはしておかねばならないので、てんやわんやで騒いでいるところで着替えるわけにもいかない。
隣の教室の更衣室は既に意味を成さないものになっていた。アキラは着替えと荷物だけを持って、ヒカルを連れて教室を出た。
ヒカルは給仕の仕事の合間にもおやつ代わりに点心の失敗作をたくさん貰って、すっかりご満悦である。
終わってからも失敗分は全て平らげた。失敗といえども十分食べられるものばかりで、少し物足りなかったものの腹の足しにはなった。
空いていそうな教室を探しながら廊下を歩いていくが、どこも後片付けの準備を始めていて着替えられそうにない。
二年生の教室を全て回り、一年生の教室にも行ったがとてもではないが、皆騒がしく片付けていて落ち着いて着替えられそうになかった。
いくらなんでもこの格好で家に帰るわけにはいかない。せめてできればどこかに着替えなければ、服も汚してしまう。
空いた教室を探して歩き続け、とうとう保健室の前まで辿り着き、二人で試しに中を覗いてみると無人だった。
緒方は今日休みなのか、或いはたまたま外へ出ているのか、どちらにしろ居ないのなら使わせて貰うのに丁度いい。
念の為入口に鍵をかけて、着替えを置いてベッドに座る。無事に終わった安堵感に大きく伸びをして、寝転がった。
ヒカルも伸びをしてアキラの隣に横になり、身体を摺り寄せてくる。首元に頭を押し付けてくる金色の前髪を撫で、肩を引き寄せた。
このまま眠ってしまいたくなるほど、身体から疲労感が吹き出してくる。起きようと思うのに、起き上がりたくない。
次 第に重くなってくる瞼と、眠りの誘惑は耐え難いほどだった。
自分で感じていた以上に、慣れないことをして疲れが溜まっていたらしい。寝なれた自分のベッドでもないのに、眠くて堪らない。
「塔矢、着替えないの?」
尋ねてくるヒカルに、アキラはうっすらと微笑んで髪を撫でる。
「ごめんね、進藤…すぐ起きるから……」
そう言いながらも、アキラは起きる気配がない。このまま保健室のベッドでぐっすり眠り込んでしまいそうだ。
ヒカルにしてみれば、真っ白シーツに美しい黒髪を散らして寝転がって、どことなく眠そうにうっとりとした笑顔をアキラに向けられると、堪らない。本人は気づいてないだろうが
壮絶な色香だ。余りに綺麗な彼が欲しくて、欲しくて我慢がきかなくなる。
幸いにもここは保健室で、ベッドもある。ヒカルはアキラを、我慢する必要なんてどこにもない。彼と抱き合うのに場所など元からどうでもいいのだ。
今にも瞼を閉じて眠ってしまいそうなアキラに、ヒカルはそっと唇を落とす。これだけではアキラの反応は鈍く、更に大胆に行動した。
アキラに伸し掛かり、今度は貪るような口付けを行った。すぐにアキラは情熱的に応えてきた。互いに歯列をわり、舌を絡ませあい、ゆっくりと高めあっていく。
淫猥な水音を立てて唇を離すと、ぱっちりと眼を開いたアキラを見下ろし、ヒカルは赤く濡れた唇を舌で舐めながら誘いかける。
「なぁ……しよ?アキラ」
先ほどの口付けで、彼の欲望にも火がついたのだろう。アキラは逡巡しなかった。ヒカルの身体を抱き寄せ、答える変わりに唇を重ね、チャイナ服に手をかけてくる。
角度を変えて口付けを何度も交わしながら、アキラは器用に体勢を入れ替えてヒカルを組み敷くと、肌蹴た衣服を広げて手を差し入れた。
白い滑らかな肌は、いつ触れても吸い付くようにアキラに馴染む。
美しい虎の図柄の衣装はヒカルに似合っていて正直勿体無いが、それでも彼自身の美しさにはどんな衣服も宝石も叶わない。
瞳も、肌も、何もかもがアキラには穢れなく綺麗な存在に見える。露わになった白い肌に口付け落としながら、美しい服に手をかける。
アキラがヒカルの服を取り払うと同時に、ヒカルもまた、アキラの着込んでいた竜の絵柄を描いたチャイナ服を床に落とした。
上半身をさらけ出した二人は、より一層肌を密着させるように、見詰め合ったまま互いを引き寄せる。
耳朶に口付け、首筋を舌先で触れ、幾つもの花弁を散らしながら、ゆっくりと真珠のように美しい肌を唇で味わっていく。
「あ…ぅ…ん」
感じやすいヒカルは、これだけの愛撫だけでも吐息を零し、目元をほんのりと赤く染め上げ、瞳も潤ませ始めた。
鎖骨の窪みを吸い上げて所有印を刻むと、身体がピクリと震える。赤い突起を唇で挟んで舌で舐めれば、足が大きく跳ねた。
「やぁ…あ!」
指先で胸元を撫でると、快楽を散らそうとするように頭を振る。金色の前髪が揺れて輝き、黒髪がシーツを叩いて微かな音を立ててアキラの耳を楽しませてくれる。
いつもヒカルの反応は素直で正直で可愛らしい。
「は……ふ…あん」
蕩けそうな甘い吐息を零しながら、背中を僅かに反らした。アキラに強請るように胸を突き上げようとする身体の反応が気恥ずかしくて堪らない。けれど身体の正直さはヒカル
の本心でもある。アキラにもっと触れて欲しい。アキラとずっと抱き合っていたい。アキラを自分だけのものにしていたい。アキラと二人だけでいたい。
アキラの愛に永遠に溺れていたい。
欲望は尽きることなく、いくらでも溢れ出してくる。アキラのこととなると、底なしのように求める気持ちで一杯になるのだ。
果てのない永遠の時の流れのように。
「あ、あ…ぅん!」
突起を摘まれ、指先で押し潰すように捏ねられ、同時に舌で舐められる。軽く歯を立てられ、背筋にぞくりとする快楽が走りぬけた。
大きく身体が跳ね、下腹も彼を求めて熱さを増して滾る。身体の中に、熱いマグマの溜りができているように錯覚する。
丹念に舌で愛撫を施され、円を描くようになぞられるともどかしさと快感に、無意識に先をねだって腰が揺れた。
もっと強い快楽を知っているヒカルには、これだけの刺激では物足りない。知らず知らずのうちに膝をすり合わせ、甘い喘ぎを零す。
肌の温度が上昇するに従って、アキラの手がゆっくりと下肢へとおりてゆき、既に勃ち上がり始めているヒカル自身をそろりと撫でた。
「やぁ!あ…はあ…」
背筋にぞくりと走った快感に、身体から汗が噴き出す。そこをアキラに握りこまれただけで、腰が蕩けてしまいそうだった。
アキラはヒカルの快感を引き出すのが上手い。肌を重ねるごとに研究を重ね、より深い快楽を与えてくる。
ヒカルはアキラ以外に肌を許すつもりは毛頭なく、彼以上に自分と相性が合う存在はないと言い切れるほどだった。
それほどまでに、ヒカルはいつもアキラに溺れさせられる。余りに夢中で、彼と肌を重ねない生活など、考える気もなかった。
熱い口腔に含まれると、彼の綺麗な唇に愛されていることを想像してしまい、より一層熱くなる。舌先で括れを舐められ、先端をくすぐられる動きに、身も世もなく嬌声を上げ
させられた。とろとろと零れる先走りの液を掬い取り、既に濡れ始めている部分へと指が這わされる。解すように触れられるだけで、はしたなく腰が揺れた。
もっと深い快楽が欲しいと、身体が訴える。
「あ…ん、も…く…して」
アキラが欲しくて堪らないのに、彼はいつもこの行為の時は慎重だ。本人にそんなつもりはないのかもしれないが、ひどく焦らされる。
「少し待って…進藤…慣らさないと辛いから」
宥めるように口付けられるけれど、身体の熱さはいや増すばかりだ。
アキラもまた、ヒカルが欲しくて堪らず、いつもギリギリな状態である。しかし、彼に苦痛を与えたくないという気持ちの方が増すのだ。
辛そうに歪めた顔をさせるくらいなら、快楽で眉を寄せている、色っぽい顔を見る方がずっといい。赤い唇を舌で濡らしながら、吐息を零している姿も魅力的だ。
しっとりと汗をかいて、光を弾く上気させた白い肌も美しい。どの姿のヒカルも、アキラを魅惑的に誘って虜にする。
「やだ…と、や。…早くぅ…」
もう一度強請ると、アキラが伸し掛かってくる。それでもなお解されてもどかしさに頭を左右に振ると、もうちょっと我慢してと、耳元に囁かれた。
耳朶に乱れた吐息混じりに囁かれただけで、背筋がぞくりとする。掠れた甘い声は、腰にくるほどに色香に満ちてヒカルを誘った。
アキラはヒカルを誘うのも上手い。自分ではそう自覚してはいないのだろうが、湯上りにパジャマの前をはだけたまま髪を拭いている姿など、実に男らしい色気がある。
だからそんな夜は、大抵ヒカルは彼を甘く誘惑した。学校に行く前以外なら、閨の誘いにアキラがのらないことなどない。
彼はいつだってヒカルに飢えている。ヒカルもアキラに飢えている。
共に求め合っているのだから、当然夜の行為も長く、どちらかに半ば本気で降参が入るまで互いに離すことはない。大抵はヒカルの方が先にダウンしてしまうが、ほんの
たまにアキラもある。しかし、彼が降参したところで更に誘惑して堕としていくのも、ヒカルには密かな楽しみでもあった。
アキラの指で、彼を受け入れる場所をゆるゆると解される。
「ひぁっ!やー…ぁん!」
とろとろと蜜を零す自分の先走りをそこへ塗りこみ、更に奥へと指を突き立てられ、思わず高い声を上げてしまった。
じわじわと内部を広げるように、指の数を増やしながらも、ヒカル自身への愛撫もアキラは怠らない。
舌先で先端部分を突かれたかと思うと、ねじ込むように擽られる。双方からくる快楽に、身も世もなく泣かされた。
けれどこれだけでは終りではない。アキラはヒカルをもっと深い官能の海へと突き落とす。情け容赦なく、彼だけの虜になるように。
もう何度目になるのか、頂点を極めたかと錯覚しそうな強い波を感じさせられているのに、完全には到達することは許されない。
ヒカルは無自覚な涙を流しながら、ただアキラを求め続けた。
ゆっくりと自分を受け入れる場所を解していた指を引き抜こうとすると、名残惜しむように絡み付いてくる。
たったそれだけで一つになった時の快楽を思い出して我慢がきかなくなりそうだが、理性を総動員して押さえ込んだ。
見下ろしたヒカルは白い肌が上気し、快感に四肢を弛緩させ、赤く色づいた唇からは吐息を零して、濡れた瞳でアキラを見上げてくる。
甘い唇を味わいながら、ヒカルの足を広げた。
熱くて硬い物が押し当てられた感覚に甘い吐息を零して、ヒカルは汗ばんだアキラの背に腕を回し、うっとりとした笑みを浮かべる。
ようやっと、彼と一つになれるときがきたのだ。
身体に負担をかけないように、ゆるゆるとそれが進入してくるのに合わせてゆっくりと息を吐き出し、汗に濡れた頬に手を当てた。
「…はあ……」
全てを収めてしまうと、アキラが何とも色っぽい声で息をつく。
それだけでも、ヒカルは身体が高められた。自分が彼を受け入れることで、アキラにも悦楽を与えるのだと思うと、堪らない喜びだ。
もっと、もっと、アキラを自分の虜にして、夢中にさせたくなる。最初は様子をみるように、優しくゆったりと抜き差しされる。
全体を擦られながらも快楽を引き出す部分にも必ず触れて、刺激を与えてヒカルの身体を確実にアキラは高めた。
そしてアキラに応えて、ヒカルもまた彼を包み込んで高めてくる。だんだんと動きが激しさを増して、互いに互いを翻弄しだす。
「あっ!あん…あぁ!…くぅ…ん」
内部でアキラが動く度にはしたなく声が零れ、腰が揺れた。汗で濡れた背中にしがみつき、わけもわからず首を振る。
一つに繋がっているその部分からどろどろ溶かされてしまうような錯覚を覚えるほどの、強い悦楽に頭が真っ白になる。
虎が竜に食われるのか、竜が虎に喰らわれるのか、どちらがどうともつかない、酩酊感と官能に身体がどうにかなってしまいそうだ。
溶け合って、一つになる至福に全てが満たされる。
アキラが深い口付けを与えると同時に、口腔内でヒカルの一際高い嬌声もまた吸い込まれていった。頂点を極めた感覚に、身体が瘧のように何度も震え、アキラの胸
に必死に取り縋る。緩く口唇を重ね合わせたまま呼吸を整え、満足げな微笑みを互いに浮かべ合うと、アキラとヒカルは再び享楽の行為に没頭し始めた。







