崑崙山脈一週旅行T崑崙山脈一週旅行T崑崙山脈一週旅行T崑崙山脈一週旅行T崑崙山脈一週旅行T   崑崙山脈一週旅行V崑崙山脈一週旅行V崑崙山脈一週旅行V崑崙山脈一週旅行V崑崙山脈一週旅行V
 旅行戦までとうとう10日をきったある昼下がり、紫陽洞には玉鼎と太乙が訪れていた。 
「太公望は今回も面倒がって参加しないんだってさぁ。普賢が残念がってたよ。君んとこはその点スゴイよね〜。あ!そういえば道徳、この間
 
一緒に作った装置はちゃんとつけられたかい?」
 
 世間話のついでに尋ねてくる同僚に、道徳は何食わぬ顔で頷いてみせる。太乙に激辛饅頭を届けておいて、よく平気で友人と顔を合わせら
 
れるものだ。驚くべき面の皮の厚さである。太乙はというと道徳の魂胆に逸早く気がつき、密かに饅頭を捨ててガセネタを流しておきながら、笑
 
顔で話しかけるところなど似たり寄ったりだ。仙人界ではこういった狸の化かしあいめいたことを互いにすることが多っかたりするらしい。
 
「付けられたけど、問題は取り付けた戦闘服だよ。天化に全然似合わないし、デザインもちょっと……。怪我をさせない為にも、できるなら全身を
 
保護できるような服にしたいんだが、中々いいのを思いつかないんだ。これはイマイチだろうねぇ…どう思う?玉鼎」
 
「そうだな。こんな宇宙服みたいなものはものはさすがに変じゃないか?子供ならもっと可愛い服がいいだろう」
 
 玉鼎は元気に走り回る天化を眺めながら、道徳に渡された服を広げて交互に視線を移した。そんな玉鼎を見て道徳はやっぱりと小さく呟い
 
て、頬杖をつき嘆息する。子供に似合って可愛く、尚且つ動きやすい戦闘服の作り方などそうそうどこにでも転がっている訳ではない。
 
 もう一度大きく嘆息する道徳のことなど気にも留めず、太乙は服を広げての面白そうに尋ねてくる。
 
「――にしてもこれ、君が作ったんだろう?針の嗜みがあるのは知ってたけど、ホント上手だよね。これじゃ女性が寄り付かない訳だ」
 
「装置は殆ど君が作ったし、私は服に付けただけ。もてる、もてないは針の嗜みに関係ないだろう?」
 
 太乙ンの入れた横槍に、道徳はげんなりした調子で言い返す。これでは進む話も進まないではないか。
 
「いや、以外にあるかも知れないな。女は自分よりも男の方が家事労働が巧いと近づき難いらしいからねぇ。道徳は料理も上手だし、女性が
 
少々敬遠したがる気持ちも分かるな」
 
「玉鼎まで何言ってるんだか。私は確かに針も料理もそこそこできるけど、女性の足元にも及ばないよ」
 
 諌めてくれるであろうと思っていた玉鼎までもが賛同し、道徳は更にげんなりする。天化の服について何か知恵を借りようとしたのに、話は
 
まるで違う方向に向いつつある。幼い楊ゼンを育てたことのある玉鼎なら、良い助言を得られるのではないかと思ったのだが、うまくいかない。
 
しかも、申し合わせたように太乙までやって来て、道徳は神にも見放された気分だった。
 
「ハッハッハ、君より料理上手な女性はいないって。いたら是非、お嫁さんに欲しいぐらいだよ。ね?玉鼎」
 
「あ…ああ、そうだな……」
 
 手をひらひらさせて笑う太乙に、玉鼎はどことなく力ない仕草で頷いた。実は、玉鼎は太乙に仄かな想いを抱いているのだが、生来の生真
 
面目で実直な性格が災いして、言い出せずにいるのだった。太乙は太乙で人のことには首を突っ込みたがるくせに、自分の恋愛に関しては
 
ボケボケで、相手の気持ちにはとんと気付かないという困った一面を持っている。
 
 お陰様でこの二人は出会って随分になるのに、未だに『お友達』からまるで進展がないのだ。
 
「師父をおよめさんにするのは俺っちさ。だれにもあげねぇさ!」
 
 突然響いた声に彼らは一瞬唖然とし、声のした方へと眼を巡らせると、三人が無駄話をしている卓にひょっこりと顔を出して風船のように頬
 
をぷっと膨らませている天化がいた。一同は面食らったものの、子供の可愛い焼餅に堪えられない愛らしさを感じて微笑んだ。天化が一体
 
何を聞 いてそう思ったのかは分からないが、この少年は何をしても憎めない可愛さがある。

「はいはい。じゃあ、お前が大人になったらもらって貰えるよう、花嫁修行に勤しむよ」

 可笑しそうに笑いながら道徳は天化を膝の上に乗せて、優しく頭を撫でた。太乙と玉鼎も微笑し、子供特有の柔らかい頬を突いて冗談めか

した口調で話しかける。

「いき遅れなのにもらってやるなんて、天化君は優しいな〜」
 
「たくさん修行して、こき使ってやりなさい。逃げないようにしっかり捕まえておくんだよ?」
 
「俺っちイイ男になるもん!スッゲーカッコよくなるさ。師父絶対惚れるに決まってるかんね。無理しなくても大丈夫さ」
 
 大きく出て胸を反らす天化の様子に、全員が吹き出したいのを必死に堪えていた。男同士では結婚できないというのに、この少年はそれを
 
全く意識していない。その上道徳を嫁にするなどと豪語しているのだ。7歳の子供にとっては、性別の違いはさして気に留めるものではないの
 
だと分かっていても、矛盾点を考えるだけでも3人にとっては笑える発言だ。
 
 それに、太乙と玉鼎のみたところ、嫁は道徳よりも天化の方が相応しい。道徳はどう見ても男に組み敷かれるタイプではないし、何よりも彼
 
は御釜と男色が大の苦手なのだ。かといって差別する訳ではないが、余りお近づきにはなりたくないらしい。男色は周囲が周囲だけにすっか
 
り免疫ができたものの、御釜に関しては、苦手以上に忌み嫌っていると評する方が適切だ。
 
 気配を感じただけで身体中に寒イボが立ち、傍に寄られると術や宝貝で攻撃するほどである。
 
 天化を除く3人は、結局我慢できずにげらげら笑いながら目尻に溜まった涙を拭いた。天化の大ボケ発言を利用して、道徳は話を戻す。
 
「くっくっく…と…とにかく…天化の戦闘服をどうしようかな……」
 
 怪訝な顔をする天化の髪を梳いて道徳がお茶菓子を持たせてやると、少年は疑問も忘れてにこにこしながら菓子を頬張った。その姿を眼
 
を細めて見ていた太乙は、不意に手をぽんと打ち、道徳と玉鼎の顔を交互に眺めて勢い込んで言った。
 
「そうだ!きぐるみなんてどうだい?」
 
「ああ、いいんじゃないか?きぐるみのコンバットスーツは…。さすがは太乙だ」
 
「きぐるみか……。全身の保護もできるし、可愛くていいな。太乙にしては名案じゃないか」
 
 玉鼎に誉められてふんぞり返った途端に、道徳にけなされて、太乙は恨みがましげに道徳を睨みつけた。
 
 同僚の視線に道徳は反省の色など全くない様子で、君の案を採用させて貰うよ、と笑顔で頷いたのだった。
 

 そしてとうとう『崑崙山脈一周旅行』は開催当日を迎えた。この日、早目に道徳と天化はゴールとスタート地点を兼ねる玉虚宮に着いた。
 
 かなり早く来たにも関わらず、玉虚宮は人々でごった返しており、熱気と活気に満ちていた。
 
 道徳は12仙専用スタートベースと歩を進め、その道すがら天化に簡単なルール説明を行った。昨夜ちゃんと話しておいたものの、一応
 
出発前にもう一度聞かせておいた方がいいと判断したのである。
 
 彼の説明を要約するとこうなる。
 
 参加者には全て所属洞府の紋章が渡されることがまず前提になる。この旅行戦はその紋章を少しでも多く集め、自分の紋章と獲得した
 
紋章を死守し、尚且つ一刻でも早くゴールすることが勝利への条件となるのだ。紋章は常に見える位置に付けねばならないが、奪った紋
 
章は隠しても構わない。同じ洞府の場合は味方として扱う為攻撃対象にはならず、共に戦うことも許される。
 
 紋章を奪う為ならどんな方法を使っても構わず、先に協定を結んだり、同盟を作ってもいい。よって、徒党を組んで攻撃することも可能
 
で、罠も認められる。宝貝、術は無制限に使用できるが、殺傷は御法度である。
 
 ただし、崑崙12仙に限っては同盟は許されない。しかし戦闘に参加しない同行者としてなら許され、弟子においては共闘も認められる。
 
 その代わり12仙にはハンデとして、使用宝貝は1つのみ、上級以上の高度な術の使用は不可、中級術は3回以下なら使用可能、初級・
 
下級術の使用は無制限と定められている。
 
 12仙にとって唯一の利点は、同盟こそ結んではならないものの、12仙同士で互いに攻撃しあってはならないという規定がある点だ。
 
 確かに下手をすれば、1つの山を消滅させるような戦いを繰り広げる可能性があるだけに、この取り決めは的を射ているだろう。
 
 このサバイバルゲームは今までの巧夫と宝貝の威力を試す絶好の機会ということもあり、皆かなり真剣だ。多少命懸けな面もあるが。
 
 道徳の説明が終わる頃、2人は12仙専用ベースに到着した。本来なら天化は道士ベースに行かねばならないが、まだ幼いこともあっ
 
て、道徳と同行することを許された。元始天尊は天化の『お願い』には滅法弱かったりするのである。
 
 余談であるが、2人がベースに着くまでの間に前を通られた者達は必ずと言っていいほど、2人が通り過ぎた直後に不幸な目に遭遇し
 
ていた。理由は定かではない。
 
 道徳が来た頃には、全員が既に準備万端整っているじょうたいであった。
 
「道徳遅いぞ。もう皆集まっているというのに…」
 
「あれ〜天化君は?一緒じゃないの?」
 
 姿を認めた玉鼎が小言を言い出すのを遮り、太乙がすかさず間に入って話題を変える。それに同調して、他の12仙も彼らの周囲に集
 
まり始めた。そうそうたるメンバーである。毒舌家のさる霊獣なら、奇人変人大集合と評するだろう。
 
「なぁなぁ道徳。この背中にへばりついてる真っ黒なヤツは何なんだ?」
 
 慈航道人が道徳の背中にくっついている、漆黒の物体に触れながら、好奇心旺盛に尋ねてくる。手触りは暖かくふかふかしていて、実
 
に気持ちいい。ふわふわもこもこした毛皮は、最高の感触だった。
 
「きやすくさわんねぇでくんない?俺っちものじゃないさね」
 
「のあー!喋った〜!?」
 
 ピクリともしなかった毛玉がもぞもぞと動き、声を出したので、一同は驚愕の余り半歩余り飛びすさる。
 
 降りるスペースが都合よくできたので、黒い物体は背中からぴょんと飛び降りて彼らを見上げた。