X  ネズミの国

 秋の空は高く澄み、川に流されたような千切れた雲がふわふわと浮かんでいる。日光の降り注ぐ正面からは賑やかな笑い声が聞こえ、この地に訪れる人々の
目的を思い起こさせるようだ。
 十一月とは思えないほど空気は暖かく、ぽかぽかとしている。厚手のコートなど邪魔になるほどの陽気だった。
 そんな朝の風景の中、人々の出入りが激しい駅の改札口から少し離れた場所で二人の青年が人待ち顔で立っていた。
「遅っせーなぁ、進藤の奴」
 腕を組んで待ちくたびれた様子でいる和谷義高の言葉に、隣でのんびりと佇んでいる伊角慎一郎は宥めるように声をかけた。
「まあ……そう言うなって、和谷。社と合流してから来るから、少し遅くなるのも仕方ないさ」
 ヒカルの遅刻はいつものことなので、伊角はさして気にしない。
 二人は院生時代からヒカルと友人付き合いをしていることもあり、弟分が少しばかり時間にルーズなのは既に承知の上だ。
 だが、和谷は今回ばかりはパークのアトラクションが楽しみで早く乗りたいこともあり、ヒカルの遅刻がどうも気になるらしい。
 十一月の初旬という時期は、暖冬の影響もあって余り寒くもない。
 こうして待っていても、真冬のように凍えるような寒さは感じず、爽やかな秋の風が心地よく思えるほど穏やかな気候だ。
 今日、伊角と和谷はヒカルの誘いでテーマパークに遊びに来ている。
 駅の傍で所在無く立っているのも、ヒカルとの待ち合わせの場所がここになっているからに他ならない。
 休日ですら、碁の勉強や研究会の手合いなどで普段は何かと忙しいが、今日と明日は言わば息抜きである。
 明後日には囲碁のイベントがあるので、当日はホテルから直行で棋院に向かわねばならないものの、二日間はたっぷり遊ぶつもりだ。
 ヒカルとアキラと社は、彼らがイベントで働いている間、社に付き合って東京観光をするらしいのだが。
 今回こうして来ているのには、ちょっとした経緯がある。
 ヒカルからの誘いで来ているのは勿論なのだが、こうして来られるまでに、仲間内でアレコレと騒いだりもしたものだから。
 何故そんな騒ぎが起こったかというと、ヒカルが和谷の研究会で、他の仲間が居る前で伊角と和谷を誘ったのがまず原因だった。
 タダでパークに入れて近くのオフィシャルホテルに宿泊もできることもあり、仲間が聞きつけて行きたがったのである。
 ヒカルが誘ったのは伊角と和谷ではあったが、他の耳がある場所で言ったのが非常に拙かったようで、遊びたい盛りのメンバーが「ずるい!」と言って不服を申
し立てたというわけだ。しかも間の悪いことに、その日の研究会は人数が多かった。
 研究会の参加者全員が行きたいと言い出したお陰で、最初は随分紛糾し、収拾がつかなくて和谷も困り果てたくらいである。
 何せ仲間内でも行ける人数はたったの二人なのだ。
 チケットを持っているアキラとヒカルは、当然参加することになるので、残る枠は三人。大阪から社もやってきて一緒に行くのは決定しており、枠は更に減って
二人となる。元から誘われていた伊角と和谷以外に、行きたいと申し出たのが、奈瀬、越智、本田、門脇、冴木、小宮、岡、庄司だ。
 伊角と和谷も入れれば、候補は全部で十人になってしまう。五分の一の確率で行けるが、残る八人は行けないに決まっている。
 だが、実際に蓋を開けてみると二人の枠はあっさりと決定した。
 最初は参加に乗り気だった院生達も、北斗杯三人組が揃うと聞いていきなり二人が減り、更に小宮も彼女とのデートがあるのでそちらを優先するため脱落せざる
を得なかった。ここで三人が減ったお陰で、選定は多少楽になったものの、最初は全員が行きたがり、誰が行くかという選別方法を決めるだけでも収拾がつかず、
和谷の部屋に苦情が来るほど大騒ぎだった。
 取り敢えず北斗杯三人組の日程に合わせなければならないという話が持ち上がった途端に、岡と庄司は慌てて辞退を申し出てきた。
 小宮も携帯にメールが入った時点で脱落が濃厚となったが、最後まで諦めきれずに参加したがっていた。
 強烈な個性を持つ北斗杯トリオと一緒でも、タダで行ける二日間のパスポートとホテル宿泊は、それだけ大きな魅力だったのだろう。
 本田と冴木は当初、十一月初旬の日程は空いていたこともあって、行く気満々だったものの、パークに行く予定日に棋院のイベントが入ってしまい、泣く泣く不参加
と相成った。奈瀬も院生研修があるためにパーク行きを止めざるを得なくなった。
 数日後には十人のうち六人が減ったお陰で確率は二分の一とかなりマシになったが、それでも二人はふるい落とさねばならない。
 囲碁対決では後味も悪く不公平感は拭えないため選定方法としては却下され、公平な阿弥陀くじになったのだが……。
 いざ決める段になって、越智は家の用事が出来たので不参加を申し出て、門脇も癖のある三人を引率するのは疲れるから止めると言い出し、結局伊角と和谷に
自動的に決まったのだった。それならば最初から、行きたいなどと言い出さなければいいのに、非常に理不尽だと思わざるを得ない。
 始めは和谷の部屋に苦情が来るほど大騒ぎしたのに、あっさり決まってしまい、何となくだが肩透かしを食らった気分だった。
 大体からして、元々は和谷と伊角が行く予定だったのだから。だが、伊角としては辞退した門脇の気持ちも何となく分かる。
 彼らの引率がどれだけ面倒で大変かは、USJの時に一緒に行動をしていたお陰で、大方想像がつくというものだ。
 きっと大きな小学生の引率をしているかのように苦労が多いだろう。
 伊角の場合は、まだ和谷が一緒に居てくれたお陰で何とかなったが、彼ら三人と自分一人では冷静に考えると厳しいものがある。
 和谷はヒカルと一緒に騒いだりもするが相手もしてくれるし、彼らの丁度いい緩衝材になってくれるお陰で、揉めることもない。
 だがあの三人を相手に伊角自身が一人で引率をするとなると、考えるだけで頭が痛くなってきそうだ。
 彼らは揃いも揃って個性派揃いで、しかもマイペースな性格の持主ばかりが集まっているのである。
 ヒカルは我侭勝手で傍若無人なオレ様女王様だし、アキラは傲慢不遜でヒカルしか見えない視野狭窄王子様だし、まともそうな社ですら、関西人根性丸出しの
ツッコミとボケをかます天然一人漫才師だ。三人の意見を纏めて納得させるだけでも疲れるに違いない。
 しかもヒカルとアキラは互いのことしか見ていない。
 こんな三人組を相手にしていながら、よく倉田は平然と北斗杯で団長を勤めたものだと、感心も一入だ。
 伊角にとっては、彼ら三人だけを相手にするのは確かに大変だが、和谷が一緒だと事情は大きく異なってくる。
 人数が増えると余計に大変になると思われそうだが、実はそうでもない。和谷は意見を一致し易い仲間であるだけでなく、彼らより一つ年上で、ヒカルの兄貴分
的要素もあるので反対に纏めやすくなるのだ。いざ決まってみると、結果的には九月頃に行ったUSJのメンバー構成と変わらなかったのには苦笑した。
 あれから二ヶ月ほどで今度はランドとシーに行くことになろうとは、伊角も思わなかったものだ。
 今回のように前以って決めていたわけではなく、USJは偶然鉢合わせた為五人で回ったのだが、変り種のメンバーで楽しかった。
 きっと今回もわいわいと騒ぎながら、十分楽しめるだろう。
 北斗杯三人組との待ち合わせも、ランドとシーの最寄り駅を出た改札付近にすぐ決まった。ここは改札が一つしかないので、待ち合わせるにしても、人の邪魔
にならない場所にさえ居れば問題ない。
 最近の棋戦のことなど、とりとめもない話をしながら待っていると、ひょろりと背の高い少年と特徴のある髪型の少年が二人、改札の奥に姿を見せた。
 アキラも一緒だというのに十五分の遅刻は珍しい。
 人込みに紛れていたにも関わらず、彼らはすぐ見つけられた。
 これも一つの才能なのか、ヒカルとアキラは目立つ風貌をしているだけでなく、存在自体が異彩を放っていて眼が自然と向く。
 彼らに社も加わると、更によく目立つのだ。
 二人よりも頭一つ近く背の高い社は一種の目印のようになるのか、更に彼らに注目が集まる効果をもたらすのである。
 そこに居るだけで、例え人込みでもすぐに三人を見つけられるのだ。伊角と和谷も、すぐに見つけて合図を送ることができた。
「どうもお待っとうさん」
「すみません、遅れました」
「ごめーん、二人とも」
 謝りながら人波を縫うようにして改札から出た彼らを、伊角は苦笑しつつ出迎える。社と会うのも約二ヶ月ぶりだった。
 やはり、こうして見ると彼らはまだ子供らしさが残っている。
「予定よりも遅かったな、三人とも」
「遅ぇぞー!おまえら」
 文句を言いながらも笑顔を見せる和谷に、ヒカルは愛らしい唇を尖らせ、不本意そうに遅刻の釈明をする。
「だってさぁ……社が味つき卵買うって聞かないんだもん。それを買いに行ってたら時間くっちゃって、電車に乗り遅れたんだぜ」
「はあ?味つき卵?」
「何でまた卵なんだよ?」
 伊角と和谷は思わず顔を見合わせて首を傾げた。
「コレやんかコレ!オレ、東京来たらコレ必ず買うねん。結構ウマイし好きなんや。高いけどええおやつになるしな」
 嬉しそうに破顔した社が見せたものは、ネットに入った何の変哲もないゆで卵である。因みにネットの中には二つの卵が鎮座していた。
 二つで百四十円という値段は、確かにスーパーの特価一パック百円と比べれば高い。とはいえ、遅刻してまで買うものだろうか?
 いくら高くても、卵は卵なのである。この卵のために十五分待たされたのかと思うと、複雑な気分だ
 四人のゆで卵を見詰める不審げな目付きに、社はいたく気分を害したらしい。ネットの卵を持ったまま不満そうに眼を細める。
「そないにコレのうまさを疑うんやったら、後で食わしたるわ!三つこうたし、勿体無いけど味見さしたるで」
(いや、卵のことでそんなに偉そうに語られても……)
(たかだかゆで卵くらいでムキになるなよなー。板東英二かよ)
(三つも買ったということは全部で六つ……それを全て一人で食べるつもりだったのか?コレステロールが溜まるぞ)
(そんなにおいしいのかなぁ?味つき卵)
 尊大な態度で胸を張って言い切る社を見やり、伊角、和谷、アキラ、ヒカルの四人は、四者四様に思うところがあったが敢えて口には出さずにおいた。
 ――賢明な判断である。関西人は食べ物に拘ると、何かとうるさいものなのだ。
「あー…じゃあ、社の卵はおやつに食べるとして、取り敢えず中に入るか?けどこの荷物をどうにかしないとマズイよな」
 僅かに瞳を泳がせてはいたが、年長者らしく話題を上手にすり替えた伊角に、アキラもすぐ同調する。
「そうですね、先にホテルに荷物を送りましょうか。チェックインも同時にできるそうですから」
 五人で連れ立って駅の傍のウェルカムセンターに入り、一階に降りた。するとそこにはオフィシャルホテルのチェックインカウンターが並び、カウンターの前は
テープを使ってホテルごとに仕切られている。
チェックインを済ませた客達とすれ違いに中に入った彼らは、テープ毎に分かれてチェックインを待つ人々の行列に些か驚いた。想像以上の人の多さに今から
圧倒されてしまいそうだったが、幸いにも五人が泊まる予定のホテルは、丁度列が短くなっている。恐らく、先程擦れ違った数人がチェックインを済ませたところ
だったのだろう。タイミングが良かったこのチャンスをいかさなければ、いきなり長い列に並ぶことになるかもしれない。
「すみません、こちらをお願いします」
 素早く手荷物と宿泊用の鞄を分けると、アキラは係員の男性を呼んで全員の荷物を預ける。
 荷物を預けて列に並ぶとほぼ同時に、閉められていたもう一つのカウンターが開けられ、先ほどの男性係員がアキラを呼んだ。
「お待ちのお客様、こちらへどうぞ」
「五名で予約している、塔矢ですが……」
「五名様でご予約頂いている塔矢様ですね?かしこまりました、少々お待ち下さいませ……」
 アキラがカウンターでチェックインを済ませている後姿を眺めながら、彼らはどことなく手持ち無沙汰な様子で話に興じていた。
「それにしても、塔矢ってこういうことにも慣れて堂に入っているな」
「ああ…棋戦で遠出するやろしなぁ」
「しょっちゅうホテルに泊まってるからじゃねぇの?」
 感心したような口調で話す伊角に社は同意して頷くが、和谷はどことなく面白くなさそうな表情で素っ気無く答える。彼からすると、チェックインも平然と済ませる
アキラは、どこかすかしたいけ好かない奴という意識があるらしい。塔矢門下に対するライバル意識は、こんなところでも発揮されてしまうようだ。
 そんな彼らの会話に、ヒカルが顔を真っ赤にして口を挟んだ。
「オレ達、何回もホテルなんて行ってねぇよ!」
 慌てて喋ってから、はっとしたように口唇を押さえたが、既に時は遅い。彼らの耳にはしっかり、ばっちりと聞こえてしまった。
 余計なことまで言ってしまう癖は、早く直すべき注意点である。頬だけでなく首筋もほんのりと桜色に染めて、羞恥で益々赤くなっている様子からして、ヒカルは
かなり焦っているらしい。見方を変えると何とも色っぽいヒカルの姿だが、彼の反応から何を意味しているのか理解した伊角、和谷、社の常識人三人は、思いがけ
ない爆弾発言に文字通り絶句した。
「………………っ!」
(モノスゴイコトヲキイテシマッタ…!)
(ガキの分際でどこ行ってんだ!おまえらはぁっ!!)
(そっちのホテルやあらへんわい!)
 ヒカルの問題発言に、伊角は遠い眼差しを虚空に向けて茫然とし、残る社と和谷は内心でズビシッと裏手ツッコミを入れる。
 今のヒカルの台詞は聞かなかったことにしよう、と三人は暗黙の協定を結んだ。だがしかし、当の金髪少年は更に何とか弁明しているつもりなのか、余計なことを
あれこれ言い出していた――薮蛇である。
「オレと塔矢は一回しかホテルなんて行ってないもん。また行ってもいいけど、オレはあいつの部屋の方が落ち着くっていうか……その…。あ!?ホテルって…北斗
杯のホテルであってラブホじゃなくて…」
 聞こえてくる内容からして、北斗杯で泊まったホテルではなく、別のホテルであることは明白だが、三人はとにかく無視を続行する。
 恥ずかしそうにごにょごにょと墓穴を掘りまくる弁解を重ねる、黄色いひよこ頭の少年の言葉をさくっとスルーすることにした。
 とにかく後腐れがないように無視するに限る。
(あー聞こえへん、聞こえへん。聞こえてへん)
(オレは石像だ、だから何も聞いてない。ミザルイワザルキカザル)
(また行く気かよ!ってかそれ以前の問題だ!もう聞きたくねぇ!)
 社も、伊角も、和谷も、ヒカルの語る内容について、聞くまいと必死に耳に蓋をする。
 台詞の意味を理解してしまうと、自身の心の平安がブラックホールに吸い込まれてしまいそうである。
 アンドロメダ星雲よりも遥か彼方に、おかっぱ星人に平安や平和という二文字を持ち去られてしまいそうで、物凄くいやな感じだ。
 今ほど早くアキラが戻ってくればいいのにと思ったことはなかった。彼が居れば少なくともヒカルはこれ以上アレコレ喋るまい。
 二人揃ってラブラブオーラを振り撒かれるのも迷惑だが、これもいい加減こちらにとって迷惑であるのは間違いない。
 単独でも複数でも、最凶最悪なバカップルぶりを発揮しないでもらいたいものだ。
「すみません、お待たせしました。……あの?どうかしましたか?」
 三人の同行者のいたたまれない空気に気付かずに戻ってきたアキラは、彼らの様子に首を傾げて尋ねた。
 何故だかヒカルは気恥ずかしげに妙に照れているし、残る三人は地獄でも垣間見たようにげっそりとやつれた顔になっている。
 自分が離れたほんの数分の間に一体何が起こったのか、さっぱり飲み込めないし全くもって理解不能だ。
 三人ともすっかり面変わりしてしまっている。
「ああ…いや、何でもないんだ……ハハハ…ハハ…」
 力なく笑う伊角の隣で、ぐったりと疲れた声で尋ねる社。
「それよかチェックインできたんかぁ……?」
 日頃は元気な和谷ですら、力なく手を差し出してくる。
「ツーデイパスくれーぃ…」
 つい先ほどまでの元気そうな姿とは一転して、生気を吸い取られてしまった幽鬼のようだが、彼らは妙に迫力がある。
 そんな三人の姿に半ば圧倒されつつ、アキラは素直に頷いた。
「あ……はい。これがツーデイパスポートです。一枚で二日間行けるそうですので、なくさないで下さいね」
 アキラが彼らにパスを渡した瞬間、一瞬で血色が復活する。
「へぇぇ〜!これがネズミーランドとシーのパスか」
「ここに来るのは久しぶりだなぁ」
「アトラクション、乗りまくんでぇ!」
 アキラからチケットを渡された途端、彼らの生気は一気に戻った。さすがに若いだけあって見事な回復力である。
「はい、進藤。これがキミの分」
「オレが持ってなきゃいけないの?なくしそうだから塔矢持ってよ」
「中に入ったら預かるよ。ゲートに入るまでは自分で持ってて?」
「はーい」
 桜色の唇を少し尖らせて拗ね気味な幼い顔で頷くヒカルを宥めるように、アキラはそっと頬に手を添えた。
 甘えた声でワガママを言う女王様なヒカルと、それに応えてキラキラとした王子様オーラを発揮して蕩けるような笑顔で宥めるアキラの二人の姿は、傍から見て
いるだけでも眩しい。一緒に居る三人にしてみると、どれだけ他人のフリをしたいことか。
(こんなとこで無自覚にいちゃつくなぁぁぁっ!)
(ヘイヘイ、相変わらずラブラブなこって…)
(頼むから時と場所を選んでそういう空気は出してくれ)
 和谷、社、伊角の心の声など知ったことではないヒカルとアキラは、周囲にラブラブバリアを張り巡らしている。
 いい加減慣れてきたとはいえ、傍に居ると疲れるのでやめて欲しい。
「じゃあ、そろそろ行こうか、進藤」
「うん!あれ?何ボーっとしてんだよ!早く行こうぜ」
 アキラに嬉しそうに頷いたヒカルは、完全な冷凍マグロか、メデューサに睨まれた蛙のように、固まって石化している三人の友人を無情にも急き立てた。
 天然オレ様体質の女王様はいつでも容赦がない。
「早くしないとファストパスも取れなくなっちまうだろー」
 アキラによってさりげなくエスコートされて連れて行かれるヒカルは後ろを振り返って、更に言い募ってくる。
(誰のせいでこないになったと思っとんねん!)
(あー!やっぱりこいつらと来るんじゃなかった!)
(もう…何も言うまい……)
 三人の慨嘆と諦観は、傍若無人女王様と倣岸不遜王子様には届くことはなかった。彼らは超能力者ではなく、女王様と王子様なのだから。
 常識人三人組は今後のことを思うと暗澹たる思いであったが、敢えて考えないことにして、夢の国のゲートを潜った。


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