小さく開いた扉の隙間に届いた光から、ヒカルの金色の前髪が仄かな明かりに煌めいている。
 アキラはそれを見た瞬間、スプリングが軋む間もない勢いで身を起こし、待ちきれないように数歩の距離を小走りで詰めた。勢いよく開けた扉の先には、バスローブ姿の
ヒカルが廊下に所在無げに立っていた。先刻の威勢のよさはどこへいったのか、不安そうにもじもじしながら上目遣いにアキラを見上げてくる。
 シャワーを浴びた身体からは石鹸の匂いに混じって、ヒカルの甘い香りが立ち上り、項がほんのりと上気している様は実に色っぽい。
 アキラは我知らず生唾を飲み込んだ。
 ヒカルがシャワーをもう一度浴びに行った意味、そして戻ってきた理由、そんな事は尋ねるまでもなく分かる答えである。聞くだけ野暮というものだ。
 ヒカルの太陽のように輝く美しい瞳の中に、強い決意を見て取り、アキラも覚悟を決めた。
 ヒカルの全てを手に入れ、自分もまた彼に全てを与えることを。
 細い腰に腕を回して部屋に招き入れると、ヒカルは無言のまま、アキラに身体を寄せてくる。
 部屋の照明を落としてしまうと、ベッドサイドのランプだけが仄かに明かりを灯して道筋を示しているようだった。
 震えそうになる腕を叱咤しながら、アキラはヒカルの肩を引き寄せてベッドに座らせる。
 緊張に身体を強張らせ、ヒカルは石のように固まっていた。アキラも緊張してどうにかなりそうであったが、ゆっくりと深呼吸をして、自分を落ち着かせようと努力する。
 柔らかく頬を包み込むヒカルが瞳を閉じ、それを了承ととって口付けた。
 自分の心臓の音がやけにうるさい。新しい血流を生み出す心音が、耳に響いて波のようにこだましている。
 口付けを交わすだけで一杯一杯だった。ちゃんとできているのかどうかなんて分からない。ただ心が赴くままに、舌を絡め、唇を重ね、吐息をついで、互いを貪り合う。
 ヒカルの手がパジャマ越しに腕を弱々しく掴んでいた。まるで縋るように握り締めているのに、殆ど触れているだけの力しかない。
 唇の角度が変わる度に指先がピクリと震え、生地を擦る。アキラは腕を伸ばしてヒカルのバスローブの紐を解いた。
 紐の結び方はとても緩くて、まともに動かなくなったアキラの不器用な指先でも簡単に解けた程である。それだけ、これを結んだヒカルが緊張して精一杯だったのだと
伝わってきた。床に紐を落としながら、腰に手を添えてゆっくりとベッドに倒れこむ。シーツに金色の髪と黒い髪がぱらりと散った。
 白いローブが夜目にも鮮やかで、アキラは緊張と期待に喉を鳴らしながら襟元を掴む。だが指先が震えて、何度も失敗した。
 やっとの思いで襟を掴んで広げると、細くしなやかな肢体に眼を奪われる。
 頬を赤く染めて、気恥ずかしげに顔を逸らしたヒカルの艶やかさは、言葉にならないほどに綺麗だった。
 穢れのない美しさと神聖さがあり、アキラは至高の宝に触れようとするように、慎重に肌を合わせていった。
 金色の前髪が仄かなランプの光に反射して輝いている。
 白いシーツの波間に黒い髪が広がって、鮮やかな対比を作り出しながらも見事に調和していた。
 首元にかかった半月型のペンダントがきらりと光って存在を主張している。アキラをヒカルに繋いだ小さな架け橋だ。
 ほっそりとした首筋から、なだらかな肩の線。細い身体は華奢な印象の中に、猫科の猛獣の持つしなやかさがある。
 白磁のように肌理細やかな肌は柔らかく、指先にしっとりと馴染んだ。唇を寄せる度に小さく反応する、敏感さが愛らしい。
 しみ一つない綺麗な肌は、降ったばかりの新雪を思わせる。吸い上げるとすぐにアキラの所有の証を鮮やかに残した。
 もっともっと触れたい。ヒカルの身体の全て、余すところなく触れてアキラだけのものにしてしまいたい。
 アキラは着込んでいた衣服を逸る気持ちを抑えながら手早く脱ぎ捨てると、ヒカルの頬に手を添えて唇を重ねる。
 少し慣れたのか、ヒカルは程なくアキラに応えてきた。
 頬に触れるアキラの掌が、ヒカルにその熱を与えてきているように、どんどん身体が熱もってくる。触れている部分がじんわりとした熱さを伝えてきた。
 力の入らない腕を動かして、アキラの背に添える。その背中もとても温かくて、触れる指先から彼の身体に流れる熱い血潮を直に伝えてきているようだった。
 触れ合う素肌が心地よくて、落とされる口付けがとても甘い。アキラの身体が少し動く度に、ベッドの軋む音が聞こえる。
 優しく撫でる指から、直接的にアキラの想いが流れ込んでくるみたいで、それが何だかとても嬉しい。
 高鳴る心音が心の高まりを伝えてきている。でも、アキラの柔らかな接吻が、ヒカルの身体から余計な緊張を取り除いてくれた。
 確かにまだ緊張はしている。それにとても恥ずかしい。どこかに隠れられるなら隠れてしまいたい。
 けれど、変に意識をして身体が強張ったりはしていない。自然にアキラの行おうとする行為を、受け入れられる。
 アキラが身体を離して衣服を取り去ると、どきりとした。
 こんなにも綺麗な身体をした人を、ヒカルは知らない。同じ男なのに、同性なのに、その美しさに声を無くしてしまう。
 ぬけるように白い滑らかな肌には、しみはおろかほくろ一つ見当たらない。身体全体は細身なのに、適度に筋肉がついてしなやかだ。
 まるで野生の獣のように均整がとれて無駄がない。
 漆黒の髪が肌の白さとは相反して、相乗効果でより綺麗に見える。
 首筋にかかる艶やかな髪は、絹糸のように細いが一本一本の存在を主張していた。頬に手を添えると、さらりとした髪に撫でられてくすぐったい。
 銀色のペンダントトップがヒカルの眼の前で揺れる。彼と初めて出会った時に、別れてしまったもう一つに片割れだ。
 アキラも大切にしていたのだと、これを見ればすぐに分かる。
 ヒカルと彼を繋いでくれた、不思議な銀色の物質だ。
 アキラの唇が首筋に触れる。その度に身体がぴくりと反応し、微かな痛みを感じた後は、必ず熱が伝播するように広がった。
「あ……ん!」
 耳朶を熱い舌で舐め上げられ、軽く噛まれた瞬間、背筋が粟立つような、何とも言いようのない堪らない感覚が駆け巡る。
 吐息が乱れ、熱の上昇を伝えるように汗が浮き上がった。
 アキラはヒカルの肌を心ゆくまで味わいながら、徐々に下肢へと愛撫をずらしていく。ヒカルの肌の甘さを堪能すればするほど、どんどん深みにはまっていくのは決し
て気のせいではない。敏感なヒカルの身体は、アキラのまだまだ拙い手管にも、過敏と言えるほどに反応した。
 肌を辿っていくだけで、ヒカルは甘い吐息を零し、桜色に染めて全身で感じていることを知らせている。
 だが、ヒカルは単に感じやすいというだけではない。触れているのがアキラだからこそ、彼と接し肌を重ねているからこそ、五感が鋭く研ぎ澄まされ敏感に反応するのだ。
 相手がアキラでなければ、ヒカルは少しも感じない。
 アキラの指がヒカルの下肢に絡まり、自身をやんわりと刺激する。
「やぁ……あ…ぅ」
 自分でもそんな意図を持って触れたことなどない。未知の体験ともいえるべき快感に、ヒカルはすぐに追い詰められる。
「ん…ダメ……塔、矢」
 そこが堪らないほど熱くなり、刺激にどんどん血流が一箇所に集まってきた。開放を求める身体に、この先に何があるのかなど奥手なヒカルであっても察せずにはいら
れなかった。しかし身体が欲しがる終着点は与えられず、反対に今度は別種の快楽がヒカルの理性を押し流そうとする。
「ひぁ!……や…ん」
 生暖かく柔らかい何かに包まれ、我知らず甘い声が零れる。背中が大きく仰け反り、白い脛がびくびくと痙攣した。過敏な先端に軽く歯を立てられた刹那、熱が弾ける。
「…あぅっ…!」
 ぶるりと身体が震えて快感に頭が真っ白になると同時に、アキラの喉が何かを嚥下する音が聞こえた。太股の内側を、生暖かい何かが滑り落ちていく。それが自分の
吐き出したものだと理解するのに、随分と時間がかかった。
 あんなものを飲み込んで、アキラは平気なのだろうかと、漠然と思う。ヒカルの吐き出した体液を、何故彼は飲んだのだろう。
 ヒカルは何が何だか分からず、ぼんやりと天井を見上げていたが、アキラがヒカル自身を愛撫してそれを飲んだのだと考えが及んだ途端、どうしようもない羞恥にから
れた。逃げ出したくて堪らなくなってどうにかしたいのに、身体に全く力が入らない。
 指一本動かすことすら億劫で、アキラが次に何を望んでいるのかも想像の範疇を超えてしまっている。
 恥ずかしくて穴があったら入って隠れたいと思うけれど、ヒカルの正直な身体はとても気持ちよかったと、快感を伝えてきている。
 困ったことにこの先を期待したがっているのが、自分でも分かってしまう。だが実際問題、アキラはこれから何をするのだろう。
 ヒカルは自分の知識不足が今ほどもどかしいと思ったことはなかった。分かれば、アキラを少しはサポートしてやれるのに。
 自分もアキラがしたように彼に同じ行為をすればいいのだろうか。でもこれだけでは何だか物足りない気がした。アキラともっと深く繋がって、互いを分かち合える行為が
あるとヒカルは本能で理解していた。知識はなくても、心がそれを求めている。
 しかし、こればかりはヒカルは先を知らなくて良かったといえるだろう。下手に知っていれば、どんな者でも行為に尻込みするに違いない。それは誰であろうと同じことだ。
 アキラは指先で口元を拭うと、虚脱したように四肢を横たえているヒカルを見下ろした。口内には微かな苦味が残っていたが、それもヒカルのものだと思えば不思議と甘い。
 ただ、この先の行為のことを考えるとさすがに躊躇してしまう。アキラとて男だから、ヒカルと一つになりたいのは山々だ。
 けれどその為には少しでもヒカルの負担を軽くする必要がある。
 女性のようにヒカルは快楽で自ら濡れる器官を持っていない。そもそも、同性の男を受け入れるようには身体はできていないのだ。
 それを無理に押し通そうとするのだから、当然負担は大きい。ではどうすれば痛みや身体の衝撃を和らげられるのか?
 アキラはヒカルの身体の高まりを維持させるように唇を寄せながら考える。されるがままになっているヒカルだが、心のどこかでは物足りなさを感じているらしく、アキラの
様子を窺っている。男であれ女であれ、性交渉を行う時は、根源的な種の保存の本能に突き動かされる点は変わらない。
 ヒカルとて同じで、こういった行為自体についての知識は不足していても、身体の持つ本能は終わりではないのだと理解している。
 アキラもまたそれを知っているし、何よりも強く望むことだった。そうなってくると、なおのことここで止めると不自然だ。
 ヒカルは不審を抱くだろうし、何よりもアキラの愛情に不安を覚えて、これまで以上に距離をとってくる。そうなるとアキラも辛いし、ヒカルを悲しませることにもなってしまう。
 ならば最後までした方がいいのかもしれない。止めるとするなら、この先の行為について説明し、事情を話せば分かってくれる――わけがない。
 ヒカルは話しても続きをしたがるだろう。一度こうと決めたら梃子でも意志を曲げないところは、意外と自分と似通っていて扱いに困ることが多々あるのだ。
 やはり、何とかしてこの先に進むべきなのだろうか。ヒカルの負担を減らせるもの、女性のように潤滑作用のある何かがあれば、それだけで随分と違うはずだ。
 あれこれと頭を巡らせながらヒカルに口付け、何気なくシーツに置いた手に固い何かが当たる。アキラは口唇を触れ合わせたままちらりと視線を向け、それに気付いた。
 指先には香油瓶が触れている。先程ヒカルに渡そうと思って、彼が香水を使わないと知って興味をなくして放っておいたものだった。
(そういえば…この香油はマッサージにも使えるって……)
 天啓のように浮かんだ妙案に、アキラは迷いに迷っていた自分に踏ん切りをつける。ゆっくりと唇を離して、自分の指に香油を少し垂らした。
 すると、微かに甘いふんわりとした香りが室内に漂う。ヒカルはアキラをきょとんとした顔で見上げ、瞳を瞬かせた。ヒカルの奥まった秘所にも香油を垂らすと、彼は驚いた
ように身体をびくつかせる。瞳に怯えの色が宿り、腰が逃げようとずり上がりかけたが、アキラはそれをやんわりと押さえ込んだ。
「……ダメだよ、進藤。男同士の時はここで繋がるんだから」
「え………?」
 ヒカルは驚愕の余り、声を無くしてしまう。アキラに垂らされた香油のぬめりとひんやりとした感触のあるこの部分が彼を受け入れるのだと、頭は中々理解しない。
 ヒカルにとってそこはただの排泄器官であって、誰かを受け入れるなど考えも及ばないことだった。
 だがそれだけに、ひどく恐ろしい。熱くなったアキラ自身も眼に入ると、更に恐怖が増した。あんな大きなものが自分の中に入ってくるなど、できるはずがない。
「やだっ…怖い」
 アキラの言いたいことは分かったが、それでも怖い。
 ヒカルも男だ。アキラの望みも何となく分かるし、彼を受け入れたいと思うけれど、男だからこそ簡単には納得できないのだ。涙目でアキラを見上げたが、彼はヒカルの言葉
を聞き入れるつもりはないようだった。元々のアキラの性格からして、ここで引くはずもない。彼の打つ碁の棋風と同じように。
「進藤…辛くならないようにできるだけ慣らすから……」
 耳元に囁く声はとても優しい。けれど手を止めるつもりはないと暗に告げて、アキラは奥に指先を這わせた。
「…あっ!」
 ヒカルの身体が大きく跳ね、アキラの指を含んで蠢く。
 異物感に涙が零れた。幸いなことに、香油のお陰で痛みはなかったものの、それでも内部に入ってきた指には違和感がある。
 ゆるゆると指が抜き差しされる度に、濡れたような音が響く。
 ヒカルは眉を顰めて、初めて感じる感覚に耐える。アキラと繋がるのにこんな場所を使うなんて嫌だったが、冷静に考えれば同じ男の場合は他に受け入れられそうな器官
などないのだ。口でするにしても、ヒカルですら何かが足りないと思った程なのだから、アキラだって物足りないと感じるに違いない。
 アキラを満足させてやる為にも、ヒカル自身が彼との一体感を味わう為にも、ならばこうするのが一番良い方法なのだ。
 最初に感じた異物による不快感はしばらくすると消えた。変わりに、おかしな感覚がヒカルの内部から浮き上がってくる。
「…う…ふぅ…」
 少しずつ中から身体が熱くなってきた。一度は欲望を放ったはずの自分自身にも、だんだん熱が集まってくる。
「あっ……ぁ…ん…」
 ヒカルの吐息に甘さが混じる。少しずつ頬に赤みが差し、首筋に残した所有印にも鮮やかな彩が加えられてきた。
 アキラはヒカルの様子を観察しながら、慎重に指を増やす。ヒカルはその事に気付かずに、足先で時折もどかしげにシーツを蹴って、甘い声を零した。
 ヒカルの艶やかな姿を見るにつけ、アキラには確信が増す。アキラが考えた以上にヒカルは快楽を拾いやすい身体なのだ。
 女性のように敏感な肌であるに違いない。香油を潤滑剤代わりに使っているとはいえ、あっさりとアキラに対して無防備に身体を開いてしまっている。だがただ敏感なだけ
ではこうはいかない。心が伴わなければ感じることはできないだろう。それだけヒカルが自分に心を許し、求めてくれている表れだ。
 アキラにしてみると、初めてでこうまで感じてくれて嬉しくて堪らない。喜びは身体の反応に直結して、抑えるのに一苦労だが。
「…く…や、ぁ……」
 首筋や胸元の愛撫も欠かさずに同時に攻め立てると、頭を何度も左右に振った。金色の前髪が揺れ、背中を僅かに反らせる。
 今もヒカルは眉根を寄せている。しかし最初苦しそうだった表情とは打って変わって、随分と艶かしい。指を増やすとヒカルは更に甘い声を上げて身をくねらせた。
「あんっ!あ……」
 マッサージをするように丹念に解しながら、アキラはどうするべきか、今更のように考える。
 本心としてはこのままヒカルと一つになりたいところだが、果たして大丈夫なのだろうか?
 ヒカルへの負担を考えると、アキラを受け入れるのはやはり早急過ぎるような気がした。
 膝を立てて大きく足を広げた体勢は、男にとっては屈辱的ともいえる姿だろう。だがヒカルは無意識にアキラを受け入れやすいように、その姿勢をとってくれている。
 アキラはヒカルに口付けながら、奥まった箇所まで指を差し入れ、香油をたっぷりと塗りこんだ。迷いは中々断ち切れず、心に伸しかかっている。
「ふぅ……うん…」
 自分でも甘いと思う声が耳を打つ。アキラの手から生み出される熱が堪らないほど身体を熱くした。
 優しく触れてくる指が、唇が、アキラの想いを伝えてきてくれる。アキラの手はヒカルの中の奥まで入り込み、蠢いていた。
 時折、指先が掠めるように触れる箇所は、攻められると身体が否応もなく激しく震えた。血流が自身に溜まり、雫が零れ落ちる。
 そんな小さな刺激にすら汗が噴き出し、熱くなる要素を手伝って、ヒカルは身をくねらせた。
 最初は異物感しかなかったのに今は快感がわいている。それなのにひどく物足りない。アキラの指が触れる場所では違和感があった。
 もっと、もっと、深く強くアキラが欲しい。こんなにも好きだと想う人は、きっと二度と現れない。
 アキラと早く一つになりたい。彼を受け入れて、ちゃんとアキラだけのものになって、アキラを自分のものにしたい。
 これだけでは嫌だった。ちゃんとした形でアキラが欲しい。ヒカルはそれを伝えるように、口付けてきたアキラを見詰めた。
「…塔矢……」
「うん?何……?」
 アキラは小首を傾げるようにして、ヒカルの額に張り付いた髪を優しく梳きながら尋ねてくる。
「も…平、気…」
 微笑みを浮かべて告げられた言葉に、アキラは嬉しさと同時に無理をさせたのではないかと、不安を感じずにいられなかった。
 だがそれを見越したようにヒカルに頭を軽く小突かれ、悪戯っぽい瞳と眼が合った。
「バカ…オレがいいって言ってんだから、遠慮すんな…」
 うっすらと浮かべた微笑に、胸をつかれる。清廉で美しく、穢れのない綺麗な笑顔。アキラだけを瞳に映した純粋な笑みだった。
 ヒカルの想いが痛いほど伝わってきた。自分を求め、受け入れようとしてくれている、何ものにも変えられない心を。
 アキラはそれに応え、頷く代わりにヒカルの唇を啄ばんだ。指をゆっくりと引き抜くと、甘い吐息がヒカルの唇から零れる。
 驚かさないように、少しでも異物感を感じないように、痛みを与えないように、優しく労わりながら自身を埋め込んでいった。
 やっと全てを入れた時には、ヒカルもアキラも、全速力で走った後のように息も絶え絶えになっていた。
 苦しげに眉を寄せる度に動きを止め、ヒカルが慣れた頃合を見計らっては身を進めるという、アキラにとっては忍耐を強いられたゆっくりとした挿入だったが、ヒカルのこと
を思えば苦ではなかった。ヒカルはアキラの何倍も辛い。同性である男に組み敷かれ、身体を開いて受け入れているのだ。苦しくない筈がないだろう。
 だがそんなアキラの想いとは裏腹に、ヒカルの心は喜びで満たされていた。アキラと一つになった嬉しさに感動すら覚えた。
 瞳から涙が零れて頬を伝う。自然と湧き上がってきた大きな喜びから溢れた、美しい涙だった。
 アキラの唇が労わるようにヒカルの涙を拭い、瞳が合うと、促すように背中に回した腕で彼を引き寄せる。
「…少し…動くよ」
 ヒカルの無言の了承に、アキラは声をかけて揺すり始めた。
「は…ふぁ……」
 耳元でヒカルが甘い吐息をつく。入れた当初は苦しそうだったが、今では甘い声を零すようになってきた。
 一番深いところを貫く度に、ヒカルの声に甘さが加わる。感じる部分を攻めると、身体が震えて足が絡んできた。
「あっ!あんっ…んぅ」
 穏やかな動きは、ヒカルへの負担を軽減するためなのだろうが、だんだんそれでは物足りなくなってくる。もっと彼が欲しかった。
 アキラの腰に足を絡めると、まるでヒカルの想いを汲みとったように動きに力強さが増す。奥まった箇所にぴたりと収まると、物凄い快楽が身体中を走りぬけた。
「ひぁぁ…っ!」
 アキラはヒカルの鋭い反応を逃さず、その部分を徹底的に攻め立て始める。腰を進める度に背中に回された指がビクリと震えた。
「あ…ぅや…塔矢、塔…矢ぁ」
「進藤…アキラって呼んで」
 せめてこんな時は苗字ではなく、名前でヒカルに呼んで欲しい。唯一つ、アキラという存在をヒカルに求められたい。
 与えられる快感を追うのに必死になっている今のヒカルが聞いているとは思えないが、アキラはそっとヒカルの耳元に囁いた。
「……ん…アキラ…アキラ!」
 まるでアキラの真摯な想いに応えたように、無意識に彼を呼ぶ声が室内に密やかにこだます。
 無心に自分を呼ぶヒカルが愛しくて堪らない。溢れる想いを留める術など、どこにもなかった。ただ、ただ、愛しい。
「ヒカル…愛してる。キミだけが好きだ」
 幼子のようにヒカルは何度も頷き、アキラを求める。頼るものがないように必死にアキラに縋った。
 ほっそりとした脹脛は汗ばんで空を掻き、桜色の爪先が薄明かりに照らされる。
 快楽の涙を零す頬に唇を寄せ、何度も口付けを交わしながら、アキラは一際強く腰を打ち付ける。その瞬間、ヒカルの唇から甲高い嬌声が室内に響き、アキラも
小さく呻いて欲望の証を注いでいた。一頻り荒い息を吐いて互いに抱き合い、事後の余韻に浸る。
 ヒカルの髪を梳いてやりながら、首筋や口元に羽根のような軽いキスを幾つも落とし、充足感にうっとりと溜息を零した。
 こんな風に満たされた時間を過ごせるのが、本当に幸せだった。
「なあ…塔矢。オレ…ヘンじゃなかった…?」
 終わってから自分の反応に不安になってきたのか、恐る恐る尋ねてくるヒカルに、アキラは心底嬉しそうな笑みを浮かべる。
「凄く可愛かったよ。……もう一回したいくらい」
「……バカ…」
 それにヒカルは目元を赤く染めてアキラの頭を軽くはたいたものの、了承の意を伝えるように唇を寄せてきた。アキラはヒカルの唇を啄ばむと、再び指で愛しい少年
の身体をまさぐり始める。やがて壁には睦み合って揺らめく影が浮かび上がり、空気は甘い嬌声に染められていった。



                                                                         o sole mioUo sole mioUo sole mioUo sole mioUo sole mioU   o sole mio Wo sole mio Wo sole mio Wo sole mio Wo sole mio W