囲碁戦隊棋士レンジャー第二話U囲碁戦隊棋士レンジャー第二話U囲碁戦隊棋士レンジャー第二話U囲碁戦隊棋士レンジャー第二話U囲碁戦隊棋士レンジャー第二話U   囲碁戦隊棋士レンジャー第二話W囲碁戦隊棋士レンジャー第二話W囲碁戦隊棋士レンジャー第二話W囲碁戦隊棋士レンジャー第二話W囲碁戦隊棋士レンジャー第二話W
 仲良く手を繋いで戻ってきたヒカルとアキラの姿に、レンジャー部隊の面々は敢えて見ないふりを貫いた。 
 ツッコミなんて入れられないし、入れたくもありはしない。元から見えなかったことにすれば、心の平安は保たれるのだ。
 
しかし見ないフリを貫いた直後に、ヒカルが慌ててアキラの手を離して焦っている姿を目撃してしまう。
 
(気付くの遅すぎやっちゅーねんっ!!)
 
(握られた時に分かれよ!この真正バカが!)
 
 社と越智は、声にこそださねど、心の底からそうツッコミをいれずにはいられなかった。
 
 勿論隊員の殆どが、同じ思いであったことはいうまでもあるまい。
 
「よし、全員席に着いたな。では久々にフルメンバーの会合とするか」
 
「…はーい…」
 
 緒方副司令(笑)が満足気に高そうな革張りの椅子でふんぞり返って言うと、他のメンバーは元気なく返事をする。
 
「さて本日の議題だが……」
 
(うわ〜なんか凄く嫌な予感〜)
 
 シックスセンスは今日も冴えているようだ。彼らは議題と聞いた瞬間、背筋に悪寒が走るのを感じて冷汗を流す。
 
囲碁戦隊棋士レンジャー専用戦闘コスチューム、決めポーズ、主題歌、緊急用呼び出しメカについてだ」 
 一瞬にして日本司令部会議室は、氷河期のマンモスも真っ青な氷点下の世界に急降下した。
 
 ブリザードが吹き荒れ、上空ではオーロラが舞いそうなほど、さむ〜い空気が流れている。
 
 緒方十段・碁聖…ヒカルやアキラとは別の意味で爆弾を落とす男である。
 
「あ、あの…コスチューム?決めポーズに主題歌って……」
 
 頼むからこれ以上の恥の上塗りだけは勘弁して頂きたい。道行く人にまで後ろ指を指されたくない。専用コスチュームに
 
主題歌、決めポーズなんてものができた日には、もう二度と日の当たる場所には出られないのだ。
 
 可哀相なほど顔色を青ざめさせて挙手した伊角に、緒方は無情にも頷く。
 
「うむ、コスチュームの試作品はできているが主題歌はまだ作るかどうかも分からない。ポーズはこれからだな。それでこ
 
れがコスチュームだ。呼び出しメカは既に完成しているから、後でお前らに配ってやる」
 
 人の話を聞いているのかいないのか、どちらにしろ緒方は平隊員の苦悩など完全無視で話を進める。
 
 ごそごそと取り出したコスチュームの試作品は何故か黄色で、それを緒方は彼らの眼の前で広げてみせた。
 
 半袖のセーラースタイルが上着で、下は半ズボンという可愛らしいコスチュームの上に、靴は小さなポンポン飾りのつい
 
た短めのブーツである。これを見せられた瞬間、一人を除いた全員が机に突っ伏しそうになる。一番若くても14歳の男が、
 
何でピチピチの半ズボンを穿かねばならないのだ。それに上着が何気に短いのも気になる。きっと着たら臍だしルックだ。
 
しかも、半ズボンの後には、猫の尻尾と兎の尻尾までついている。一体どんなコスプレをやれというのだ。
 
 この中でまともそうに見えるものがあるとするなら、肘近くまで覆うほど長い手袋だけである。
 
 どうせ、猫の手だとか兎の手では碁石が持てないから、デザインがこうなっただけだろうが。
 
「ついでにオプションとして猫耳と兎耳なんてものもある」
 
 緒方はふさふさの猫の耳と長めの兎の耳を模したカチューシャも披露する。マニアが見たら、さぞや喜ぶに違いない。
 
(なんて素晴らしいコスチュームなんだ。進藤の生足臍だしだけで敵を悩殺できるよ!早くキミが着る姿が見たい!)
 
 約一名は既にすっかり乗り気なようである。敵よりも先に自分が悩殺される可能性は考慮してないところが間抜けだ。
 
「おい進藤、これはお前の色だからな。試着してみろ」
 
「ええ〜!?やだよオレ!」
 
 ヒカルは普段だと脛が出るような短いズボンを穿くこともあるが、こんな短パンはもう卒業して穿かないし、それにアキラの
 
前では穿いたら自分が危険だということを身をもって体験しているので、できれば遠慮したい。
 
「着てみたらどうだ?進藤。キミにきっとよく似合うと思うんだが……」
 
(こいつ……スケベ心満載な顔しやがって!下心が見え見えなんだよ、ムッツリスケベ野郎!みてやがれ〜!!)
 
 アキラが嬉しそうにうきうきとしている姿を横目で眺め、ヒカルは何とかこの服から逃れる算段を必死に頭を巡らせる。
 
 冗談抜きでこんなコスチュームを着るのは嫌である。恥ずかしいだけでなく、男としてこんな格好をするのは情けない。しか
 
も自分のすぐ横には羊の皮を被った狼ならぬ、上品そうな顔をして実はとんでもなく体力のある塔矢アキラが控えている。
 
 これで着てしまったりなんかしたら、アキラの家で検討そっちのけでアレに一晩中つき合わされかねない。家に行かないよう
 
に逃げればいいのだろうが、最近は本気で走って逃げてもアキラに捕まってしまう回数が増えていて、逃げ切れる自信もイマ
 
イチだ。例え首尾よく逃げ遂せたとしても、アキラはず〜っと根に持って事あるごとに文句を言うに決まっている。
 
 それもいい加減鬱陶しい。
 
 少しの間考え込んで、ヒカルは衣装から逃れる方策を思いついた。かなり不気味な方法だが仕方ない。
 
「じゃあさ、オレが着たら、これってお前も勿論着るんだよな?」
 
「……は?…いや……これはキミが着るからいいんじゃないか」
 
 予想外に素早かったヒカルの反撃に、アキラは一瞬瞳を泳がせたが、すぐに切り替えす。ヒカルが嫌がって着たがらないこ
 
となんて百も承知だ。大人しく黙っていては、折角のオイシイチャンスを潰してしまう。
 
「何でだよ?戦隊専用コスチュームなら、塔矢司令や総司令も緒方副司令も着るんじゃなきゃ変だろ?だって戦隊のコスチュ
 
ームなんだからさ、全員で着なきゃ意味ないじゃん」
 
(このコスチュームを全員で……?)
 
 恐ろしくて想像したくない。緒方と塔矢行洋に芦原と冴木、伊角、本田、門脇のアダルト組なんて、かなり怖いものがある。和
 
谷、ヒカル、越智の三人組はまだマシではあるかもしれないが、社とアキラのこの姿は見たくない。
 
 明子夫人のこのコスチューム姿は全然思いつきもしなかった。
 
「緒方副司令も着るんでしょ?生足臍だしセーラー服の変態コスチューム」
 
 さすがはヒカル、本心のままに変態コスとまで言ってのけるとは、さすがは未来の本因坊。強心臓である。
 
 実際、紛れもなければ疑いようもなく、こんなコスチュームを着た男は全員変態扱いまっしぐらなのは確かだが。
 
「ってことは、塔矢先生もだし、門脇さんや本田さん、芦原さんに冴木さんもだよな。もち塔矢と社も着るだろ?伊角さんも和谷
 
も越智も、全員で臍だしてセーラー服着て、半ズボン穿いて脛だして、ブーツも履いて、決めポーズすりゃ恥ずかしくもないだ
 
ろうさ。皆で恥をかけば怖くないもんな?」
 
 ヒカルの言葉のままに、自分達の姿や緒方、芦原、冴木、塔矢司令の生足臍だしセーラー服コスチュームを思い浮かべてし
 
まう。例え腹は出ていなくても男の臍出し…しかも上はセーラースタイル、ピチピチ短パンに膝小僧と脛が丸見え。
 
 もしも脛毛なんて生えていた日にゃ、目も当てられない。短パンから覗くもじゃもじゃの足なんて誰が見たいものか。
 
 しかも頭の上には、可愛い猫耳や兎耳のカチューシャなんかが着いているのだ。似合わないこと著しい。
 
 こんなコスチュームを着るのが、うら若い美少年や美少女ならともかく、いい年こいたおっさん連中が着るなんて、不気味さも
 
滑稽さをも通り越して奇々怪々である。頭の中で変換された、色んな意味で恐怖映画も真っ青なグロテスクな想像に、その場
 
に居た全員の顔色が徐々に土気色に変わっていく。
 
「うぅ……っ!」
 
 アキラは思わず口元を押さえると、額には脂汗を浮かべて苦悶の表情を浮かべた。
 
「おえっ!うぷ!」
 
 そして彼の斜め前の席に居た和谷は、即座にトイレに向かって駆けて行く。
 
「き…気持ち悪過ぎる…」
 
 そんな和谷の介抱に向かうことすらできず、伊角はその場で貧血を起こしかけて椅子の背に身体を預けてぐったりした。
 
「あかん…吐きそうや…」
 
 社はエチケット袋を取り出し、ふらふらとした足取りで席を立って洗面所に入る。
 
「こ、怖いよぅ〜!」
 
 どんな想像をしたのか、本田は恐怖の余り大粒の涙を流して泣きはじめ、ハンカチで顔を覆った。
 
「助けて…パパ、ママ、おじいちゃん……ボクもう帰りたい」
 
 越智は堪らず両親、祖父に助けを求め、衝撃が強すぎたのか幼児退行したように幼い口調で本音を呟く。
 
「南無阿弥陀仏…南無妙法蓮華経…般若心経、悪霊退散、エロイムエッサイム我は求め伝えたり〜」
 
 門脇に至っては、どこをどう勘違いしているのか、ぶるぶる震えながら念仏やら色々ご加護がありそうな単語を唱えている有
 
様だ。かなりおかしな言葉も含まれているが、気にしては可哀相である。
 
 きっと幽霊や妖怪や怪物も裸足で逃げ出すような恐ろしい姿を思い浮かべてしまったに違いない。緒方や塔矢行洋から連想
 
して、桑原本因坊の生足臍だしセーラー服姿でも考えたのだろうか。
 
「おい、お前らここで吐くなよ。吐くにも順番にトイレだぞ」
 
 緒方ですら相当なダメージを食らったようで、余りの気色悪さに顔面蒼白になっている。
 
「じゃあオレこれから代表して着るから、緒方先生も後で着てみせてよ」
 
(やめてくれ進藤!キミの愛らしい姿は大歓迎だが、緒方先生の姿なんて見たくないー!!)
 
 とんでもない追い討ちをかけてくるヒカルは、明子夫人に負けずとも劣らない鬼っぷりである。しかしこうでもしないと、あんな
 
服を着せられた上に恥ずかしい決めポーズもしなければならなくなるのだ。ここは絶対に譲れない、男の意地である。
 
「わ……分かった…進藤。コスチュームも決めーポーズも考え直すから!それでいいよな?」
 
「無しにしてくんなきゃやだ」
 
「……分かった…決めポーズは無しにしよう。コスチュームは格好いい軍服スタイルに変更でどうだ?」
 
「セーラーだって海兵隊の制服だってオレ知ってるぜ」
 
「くっ……!」
 
 ヒカルの冷ややかな視線に晒され、緒方は言葉を詰まらせる。後で、これも軍服だからと言ってヒカルに着させて、アキラを
 
色々とからかう目論見が、見事に外されてしまった。
 
(こいつめ〜!何も知らんくせに、ヘンなところでおかしな知識を持ってやがる!)
 
「くそう!分かった!コスチュームは私服でいい!」
 
 この台詞に棋士レンジャーの平隊員達全員が、ヒカルを神様のように崇める視線を送る。
 
 これぞ平が幹部に勝利した瞬間だった。
 
「ホント?さすがは緒方副司令」
 
 とうとう緒方ですら根を上げて妥協したことに、ヒカルはにこりと嬉しそうに頷く。こういう姿はとっても可愛い。しかしヒカルは
 
男の子らしく自分がこうと決めた時は頑として譲らず、その為には手段も選ばないところがある侮れない相手なのだ。
 
 それを緒方は勿論、その場に居た全員が肝に銘じたのであった。