バイクをしばらく進めて小さな村に辿り着き、日本軍とドイツ軍の動向について尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。
緒方達がこの村で水の補給に立ち寄り、出立したのは丸一日前だという。殆ど通過するような短い滞在だったが、見慣れない東洋人の集団と欧州
系人種の混合部隊は否応なく人目を引いたのだろう。村人の印象には強く残っていた。
港を出発したのは二日前の夜中だったということだから、この村に着いた時点で軍部の足取りが遅れた状態になっている。通常なら明け方に緒方
達は村に到着していてもおかしくない。それなのに着いたのは昼頃だったという。
予想した以上に距離をつめ、出遅れていないのは、ヒカルとアキラが来るのを見越して、緒方と倉田が日程を遅らせたからかもしれない。
バイクで走り続けて約半日ほどで、二人は第一の目印となる場所に辿り着いた。
「墓地の拓本のラテン語を翻訳すると『赤い入江の奥から銀の砂漠を東へ進み、鬱金の谷を南に抜け、緑の森を西へと入り、偉大なる青き星に二つ
の月を示せ』になる。『赤い入江』は紅海を指していて、『奥』は文字通り湾を表しているんだろう」
アキラは約八百年前に描かれた地図の写しと現在の地図を比較検討しながら、太陽の光に反射して銀色に輝く広大な土地を見下ろす。
「つまりここが『銀の砂漠』か。湖が涸れる前は塩湖だな…塩の跡が砂漠みてぇだ。上手い表現しやがる」
ヘルメットを脱いで軽く頭を振り、ヒカルは同意を示すように頷いて、笑みを浮かべて感心していた。
「同感だな。それうよりも進藤、ラテン語とヘブライ語くらいは勉強したらどうだ?いくらあてにできなくても、毎回これでは情けないよ。面倒な翻訳作
業はいつもボクに押し付けるんだから」
「あ?どういう意味だ?そりゃ。勉強なんて面倒臭くてやってられねぇんだよ」
あてにできない、とはっきり言われて腹が立ったのだろう。ヒカルの眼が見る間に険しくなり、喧嘩腰で睨みつけてきた。
だがアキラは平然としたもので、冷静な表情を崩さないまま肩を竦めてさらりと答えた。
「魔鏡の文字はヘブライ語、拓本の文字はラテン語、キミは両方苦手だものね」
「う…うぐ……いいじゃねぇかよ、それくらい」
さすがに分が悪いと思ったのか、ヒカルはアキラから視線を逸らす。
「何度教えても覚えないんじゃ、仕方ないけど」
わざとらしく溜息を吐いたアキラの口調はかなり嫌味ったらしい。かといって、ヒカルには殆ど反論する余地はなかった。今回翻訳作業など、まるで
役に立っていなかった自覚があるだけに、言い返せない。
「うるせぇよ」
すっかり拗ねて頬を膨らませると、ヒカルはそっぽを向いて悪態をついた。これでもヒカルなりに覚えようと頑張ったのである。だがどうしても性に
合わなかった。アキラのように言語学方面について強くないし、人間には向き不向きというものがあるのだ。
アキラはくすくすと笑って、ヒカルの前髪を掬って宥めるように口付けてくる。からかわれたのだと分かって悔しかったが、軽い触れるだけのキスで
すっかり機嫌が直ってしまうあたり、自分は安上がりだ。
「さあ、そろそろ行こうか」
促されて再びヘルメットを被り、二人は翻訳した言葉通りにバイクを東に走らせる。時折他愛のないことを言い合ったりしながら。
塩湖の跡は砂漠という表現通りに広い。夕刻が迫りつつある中で、銀色に輝く塩がところどころで真っ赤染まって輝き、まるでルビーの波ができて
いるように見える。アキラよりも先行してバイクを走らせていたヒカルが、不意に何かに気付いたようにバイクを停めた。
「塔矢!タイヤの跡があるぜ!」
「本当だ。まだ新しい…それに数も多いな。この様子だと進む方向は間違っていなかったようだ」
二人は降りて車の轍を調べる。少しずつ落ち始めた太陽によって作り出されたグラデーションが、塩湖に残された轍を鮮明に浮かび上がらせたよ
うだった。彼らは轍が進む方向に顔を向け、涸れた塩湖より遠くに霞む風景に眼を凝らす。
「――ってことは、次は『鬱金の谷』か」
「ああ、でも地図でみても谷はこの付近にないんだよ。谷なんてそうそう無くなるわけもないし、おかしいな」
いくら魔鏡を残した人物が八百年以上前に生きた人物であっても、地形の変化にも限度がある。渓谷がその期間の間に跡形も無く消滅するなど、
まず有り得ない。火山の噴火や土砂災害などで埋まってしまったとしても、文献などに残る。ましてや、この付近には火山などないのだ。
「谷じゃなくて別のもんじゃねぇの?例えばオアシスに黄色い花畑があったりとかさ」
「……なるほど、オアシスか……」
小さく呟いて顎に指を添えると、アキラは地図を確認した。丁度、塩湖から少し進んだ東にオアシスがある。
オアシスならば人々が営み、交易に必要な特産品として何かを作っていてもおかしくない。例えば植物を育て、それの実や花の色が黄色であった可
能性は大いにある。或いは布などの染色技術や陶器といった加工品であったかもしれない。何れにせよ、八百年前にこの地を訪れた人物がその光景
を見て『鬱金の谷』と表現したと推測してもよさそうだ。ヒカルの考えはあながち的外れとはいえない。
「オアシスなら確かに塩湖の跡から東にあるな。そこから南には緑地帯が広がっていたようだ」
「んじゃ、アタリか」
「多分ね」
アキラは微笑んで頷いた。確かにヒカルは翻訳などにおいてはアキラに任せっきりになるが、大きな助けとなる意外な発想力をみせる。理論的に物
事を考えていくアキラと違って奇想天外な思い付きをするヒカルだが、それがアキラに様々な刺激を与えて答えを導くきっかけにもなる。やはり人間
には適材適所というものがあるらしい。塩の湖の跡をバイクを走らせ、地図を頼りに一番近いオアシスを二人は目指した。
日が沈む寸前に着いたオアシスは既に涸れ果て、昔の名残を全く留めていなかった。枯れた草すらなく、廃墟と化した遺跡が辛うじて残っているだ
けだ。民家の跡と思しき場所でごく最近野営した痕跡を見つけ、二人は確信を強める。緒方と倉田も同じ答えに辿り着いたのだ。
既に日も落ちてしまっているのでここで一晩明かすことにして、ヒカルとアキラは屋根のある建物に入った。
夜が更けて気温が下がる中、互いを暖めるように毛布に包まり、二人は身を寄せあう。小さな焚火をおこして暖をとりながら寝転がっていると、自然
に話題はいダリアの地下墓地で手に入れた拓本のことになった。
「『緑の森』までは何とかなりそうだからいいけど、『偉大なる青き星』って何だろ?そこに『二つの月』――割った魔鏡を使うってことかな?……コラ!
今夜はしねぇって!」
ぶつぶつと独り言を呟いていたヒカルは、肌に触れようとするアキラの手の甲を抓り、胸元に埋まる黒い髪をぐいぐい引っ張って怒鳴りつける。
同じ毛布に入ったりすると、すぐこれだ。油断も隙もあったものではない。
船で過ごした二日のうち一日はラテン語の翻訳作業に加え、古地図と現代地図との比較照合を行っての港の位置確認。二日目はこの付近にある
砂漠越えの準備や物資と食料の補給で終わり、ラテン語の翻訳はできても、魔鏡に映ったヘブライ語の暗号めいた暗喩の解読まで至らなかったの
が現状だ。いくら翻訳したのがアキラだからといって、ヒカルとしては、こんな時に悠長に褒美をやる気はない。
「………ケチ…」
赤く腫れた手の甲を恨めしげに眺め、拗ねたように呟く男をぎろりと睨んだ。
「余計な体力使ってる場合か!バカ塔矢!おい、おまえはどう考えてんだよ」
「その二つの点についても行ってみないと分からないな。緒方さん達は試しているだろうけど」
「あー…それもそうか。じゃあ、魔鏡の写しのヘブライ語について検討しようぜ」
アキラは渋々頷いて、鞄の奥から魔鏡から反射した影を写した紙を取り出し、ランプの下に広げた。これらの貴重な資料は、いざという時奪われな
いように、鞄の隠しポケットの中にしまっておいたのだ。アキラはこの点は非常に抜け目がない。
「倉田さんの資料によると、イタリアの地下墓地に埋葬されていたはずの人物は、二百年以上生きたとある。それにこれまでに残されたヒントや、魔鏡
に残した言葉からして、中々にひねくれた人物のようだよ」
「また何かなぞなぞみたいなの?」
首を傾げながら大きな瞳を見開いて訊ねてくるヒカルは、好奇心一杯で身を乗り出してくる。子供っぽい愛らしさに手を伸ばしたくなるのを堪えなが
ら、何とも言い難い複雑な表情で翻訳した言葉を告げた。
「これを訳すと『まず神に敬意を表せ。そして勇気を奮い神の谷に身を投じる強き愛を示せ』になるんだ」
「何それ?死ねってことかよ?」
「さあ………」
自分にも意味がさっぱり分からないのだ。ヒカルに質問されても答えようがない。ただ分かるのは、これを残した人物は『神』という表現を用いている
が、実際は無宗教で無神論者であるということだった。教会にヒントとなる痕跡を残したのは、当時の教会が彼にとって利用しやすい存在だったから
だろう。むしろ、残されたものからは宗教や教会、権力に対する憎悪のようなものすら感じた。
様々な場面で使われる印は、宗教的な意味合いとはかけ離れた特殊な文様が使われているのが、何よりの証拠だ。その印を使いながら、『神』と
表現するのは明らかな皮肉であろう。ヒカルはランプの仄かな明かりに照らされた紙を見つめ、考え込む。
食い入るように魔鏡の影を写した紙を眺めていたが、不意に違和感を覚えて眼を細めた。ヒカルには何が書かれているのかさっぱり理解できないヘ
ブライ語の羅列であるのに、どういうわけか奇妙に感じずにいられない。それが何か分からぬまま何度も首を傾げ、不意に違和感の原因に気付いた。
これまでの敬意でアキラに見せる機会がなかった、佐為の形見の手帳を取り出し、魔鏡の文様を写した頁を開く。
「塔矢、これ見て」
アキラに声をかけると横合いから彼も覗き込み、ヒカルの育ての親が遺した貴重な手掛かりに、大きく瞳を瞠る。
「進藤……これは…」
「おまえの写した字と………違う……よな?」
明かりの下にある二つの魔鏡の相違点に気付き、二人は息を呑んで顔を見合わせた。
際が描いたものは半月状になっていた。これが描かれた当時は、ヒカルとアキラが別行動をしていた頃なのだから、当然魔鏡は半分しかなく、分か
れた状態である。それを裏付けるように字が途中で半分に切れ、文章も繋がらない。
何よりも、書かれた文字の内容がアキラが写した満月状のものと大きく異なった。
「そういえば……!」
アキラは毛布から抜け出し、トランクの奥底から一枚の紙を引っ張り出す。
「これはボクの父が描いたものなんだ。以前渡されてから、妙に気になって持っておいたんだが……」
それに書かれた文字と際の手帳の切れた文字を付けてみると、ぴったりと合わさる。
「なあ、なあ!何て書いてあるんだ?」
「ちょっと待って……」
興奮を隠し切れない様子で、子供のように頬を紅潮させて促すヒカルを柔らかく制止し、繋げた文字を追う。
「えっと……訳すと『即ち祈りを捧げよ。次に己が力を示すがいい。さすれば、一度は神の長き愛を受け、二度は永遠に神の愛を得られるだろう』だ」
「つまり……続きかよ」
「ああ、そうなるな」
アキラは頷きながらも、嫌な予感に背筋が寒くなった。できれば、外れて欲しいと願いたくなるほど嫌な予感がする。
二人が見つけた文様は太陽の下で反射したものだが、アキラの父と佐為が見つけたこの文字は、一体どういう条件下で起きたのだろう?残りのこ
の部分は非常に重要な内容である。それだけに、もしも非常に特殊な状況でのみ映し出されるのだとしたら――。
「進藤、他に何か手帳に書かれていないか?この文字が出る条件のようなものだ」
緊迫感を宿したアキラの声に、慌ててヒカルは頁を捲って調べるが、それらしいことは一切書かれていない。
「ねぇよ。どうかしたのか?」
何も答えず…というよりも答える余裕もなく、アキラは父が残した紙を隅々まで詳しく調べ始める。表面に何も書かれていないことを確認すると、裏
返して調べる。程なくして見つけたものに、小さく呻いた。
「まずい………危険だ…」
「な…何が…?」
僅かに顔色を変えて問いかけてきたヒカルに、アキラは能面のように強張った顔で告げた。
「緒方さんと、倉田さんの命が危ない」
時を同じくして、アキラの言葉通り危急存亡の危機が、倉田と緒方に迫ろうとしていた。
ヒカルとアキラより一日早めに到着した彼らは、立ち枯れた森を抜けた先に洞窟から作られた神殿を見つけ、まだ明るい昼間から探索することが
できた。入口にはレリーフで装飾された二本の柱があり、そこから内部に入れるようになっている。
外観は一見すると辺境の神殿遺跡で、独自の文化を感じさせるがと取り立てて不審な点は見つからない。
尤も、それは何も知らずにいればの話だ。倉田と緒方のように、聖杯の謎に関する情報を手に入れた者には、この遺跡はとてつもなく貴重で興味
深い存在である。周囲に軍人がいて監視していることも忘れて、二人は早速足を踏み入れて遺跡の中をくまなく調べまわった。
内部は非常に単純で、円形のドーム構造になっており、入口から奥まで決して広いわけではない。
幾つかの石像が遺跡を護るように壁際に並び、一番奥には台座の上に巨大な石像が立っていた。像の前には石造りの祭壇らしきものがある。
遺跡は入口も一つだけで他に出口らしきものもない。床には何らかの文様が描かれ、部屋の中央には青い染料で記された星が描かれていた。
非常に簡単な構造で、単純明快過ぎて拍子抜けするほどだった。
壁に並ぶ像の奥には小さな横穴が伸びており、そこには黄金の小箱が収められ、中には色とりどりの宝石や金銀細工の装飾品などがぎっしりと
詰まっていた。石像は黄金の首飾りや鎧などで煌びやかに着飾っており、殺風景な洞窟の遺跡だというのにそこだけは華やかな印象だった。
余りにも無造作に置かれているので本物なのかどうか怪しく見えてしまうが、二人が見た限り全て本物である。
この遺跡にあるという聖杯は、ある意味黄金や宝石などが屑同然にしか思えなくなるような価値ある存在だ。しかし、人間の欲望とは果てのないも
ので、兵士達は先を争って黄金を石像から引き剥がし、横穴から黄金の箱を取り出して、次々に外に運び出している。
二人が内部を探索している間に、石像は引き倒されて黄金を剥ぎ取られ、略奪者に奪われて何一つ残されていなかった。
止めたところで無駄だと分かっているが、見事な作りの石像が破壊され、美しく装飾された神殿内部が荒らされるのは見るに耐えない。正直、倉
田も緒方も今回の仕事はうんざりさせられていた。
軍人に背中を銃で突かれて脅されながら翻訳し、危険な場所には率先して連れて行かれる。ろくな仕事でない。
しかも、今の状況はその中でも最も最悪な事態に陥っていた。到着してから、手に入れた魔鏡を青い染料で床に描かれた星にはめ込んだまでは
まだ良かったのだ。翻訳通り、星には半月型の穴があり、そこに魔鏡をはめ込めばいいとすぐに分かった。ラテン語で書かれた棺の文章通りの行動
をすると、祭壇が変形して奥にある石像に向かう階段へと変化する。続いて石像が二つに分かれて新たな洞穴が現れ、次の道筋を指し示していた。
石段はほんの十段ほどで短いが、その先にある洞窟は仄かな光をさしているが、奥が見えないほど長く続いている。
ここまでは概ね順調だったのだが、次が良くなかった。今現在の危機的状況は、そこから端を発しているのである。
「書かれた言葉からして、何かの罠があるとは分かってたけど……予想外の展開ですね、緒方先生」
「罠というのは聞こえが悪いだろう。神が与える試練と表現すべきだぞ、倉田君」
「おかしいよな〜。訳は完璧だったはずなのに」
「オレも間違えた記憶はないさ。恐らく、何か見落としがあるんだろう」
「やれやれ。絶体絶命のピンチには、救いの女神が降臨してくれるもんだけどな」
「さて………破滅的な破壊をもたらす人災コンビなら、来るかもしれんがな」
ふてぶてしい倉田の台詞を受けて、緒方も煙草を吸いながら茶化すように答える。だが、状況は二人の軽い話しぶり通りではなかった。
銃をつきつけられ、いつ命を奪われてもおかしくない窮地に立たされているのだ。
その原因が、緒方が語るところの試練である。二人の訳したヘブライ語は解釈も内容も殆ど同じだった。
彼らとて命は惜しい。嘘を教えず素直に訳したのだから、普通なら聖杯は手に入るはずだ。
ところが、最初の罠を掻い潜って試練を乗り越えても、次から先に進めない。
階段を上って少し先に進むと、罠が発動する。それが最初の試練だ。これは神への敬意として頭を下げれば、反射神経の良い者なら難なく回避で
きる。そこを抜けて奥に向かって歩くと、深い谷に突き当たる。当然ながら橋はない。
『勇気を奮い神の谷に身を投じる強き愛を示せ』という、訳の通りにするならば、その谷に身を投げることになる。結果、生きて戻った者は一人とし
ていなかった。言葉通りに身を投げれば、奈落の谷底へ落ちて死ぬことになるのである。
行き詰った軍人達が、彼らの解釈がおかしいと考え、わざと嘘の答えを教えたと思ったとしても当たり前である。実際に犠牲者が出ているとなると、
尚更だ。どれだけ緒方と倉田に身に覚えがなくとも、明日中に確固たる答えを出さなければ、彼らは殺される運命にある。
「倉田さんと緒方先生の命が危ないって……?」
月明かりにだけでなく顔色を青褪めさせたヒカルの問いに、アキラは顎に指を添えて考えを纏めながら、重々しく答えた。
「理由は続きの言葉だ。『勇気を奮い神の谷に身を投じる強き愛を示せ』。これの後に続く文章が分からなければ、誰でも身を投げるだろう?そこが
深い穴だったり、文字通り谷だったりしたら?最初の試練の回避方法が正確なら尚更だ。魔鏡に投影された言葉自体が既に試練の一つであり、答
えであり、罠でもあるんだよ」
「神への敬意……頭を下げることか。これが罠から逃れる答えなら、続きを知らなきゃ次の試練も信じるよな……」
「そうだ。それで被害が出たなら、まず最初に疑われるのはあの二人だ。本当のことを教えるからこそ、嘘を教えたと勘違いされるね、ほぼ確実に」
「……けどさ、緒方先生もあの魔鏡を手にいてれいたし、続きに気付いたかもしれねぇじゃん」
二人の危機を少しでも楽観的な状況にしたいのか、ヒカルが反論する。だが弱々しい反論に、アキラは確信を持って首を左右に振った。
「それは無理だよ、進藤。あの二人は絶対に答えを見つけられない。確実に有り得ない話だ」
きっぱりとアキラは言い切ると、ヒカルに紙の裏側に走り書きされた言葉を見せる。
「満月の光に反射した時にのみ、この現象は起きる……って…」
ヒカルの顔色は今や完全に紙のように白くなっていた。何故なら、二人の持っていた魔鏡が奪われた時は、既に十六夜を過ぎていたからである。
つまり、一ヶ月近く待たねば、緒方と倉田は答えを得られないことを表していた。
「どうしよう……塔矢」
「とにかく明け方には出発しよう。――それにしても不思議なものだね。常に身につけているボク達の知り得なかった現象を、お父さんや佐為さんは
気づいていただなんて」
「……いつも持っていたから、余計に分からなかったのかもな」
「…そうだね。さあ、そろそろ寝よう。明日も早いし」
軍関係者も、不確かな情報で無下に犠牲者を出すよりも、考える間を与えてより確実な情報を求めるだろう。
夜の間は彼らも行動を起こさない筈だ。続きの言葉の意味も分からなかったが、今は一刻も早く緒方達に追いつくことが先決だった。
知り合いの命をむざむざ見捨てるわけにはいかない。土地勘があれば、夜でも迷うことなく前に進めるだろうが、そうもいかなかった。ここで慌て
て出発して方向が狂えば、余計な時間を取りかねない。落ち着いて先へ進むこと。それが一番の早道であるのだ。








